「王子様、どうでした？」

城へ戻ると、オリエットが待っていた。

心配していたのだろう・・・姿を見ると、駆け寄ってきた。

辺りは既に暗くなっている。

「それでは、私は兵の訓練状況を確認して参ります」

「あ、アイサム様・・・」

オリエットが深く、お辞儀をする。

アイサムも礼をして、離れていく。

「父上への報告が終わったら、話すよ」

馬から降り、手綱を従者に渡し、そう、オリエットに告げる。

「ええ・・・お部屋で、待っていますから」




「・・・と云う経緯で、１週間後に、パーシフォリアを訪問することになりました」

国王に状況を報告する。

「うむ・・・やけに、急ぐな・・・」

「は？」

「いや、今度は、近衛兵を連れて行け。ロザンネイの王子として

恥ずかしくないようにな」

「は、はい」

身軽に・・・と思ったが、そうもいかなくなった。



部屋へ戻ると、オリエットが、期待に目を輝かせていた。

「どんな方でした？」

「今日は、パーシフォリアの国王と話しただけだ・・・逢うのは、来週だ」

「え〜〜、そうなんですか・・・」

オリエットが、残念そうな声を上げる。

まったく・・・

「・・・肖像画を、貰ってきたんだが・・・」

「えっ、ホントですか？見せてください」

声の調子が変わる・・・ホントにわかりやすいやつだ。

「ほら、これだ」

絵を手渡すと、嬉々として包みを開き始めた。

包みを開いて、肖像画を手にしたオリエットは・・・困ったような顔をした。

「こんな・・・方なんですか・・・髪は金髪で・・・瞳は大きくて、緑・・・なんですね」

「ああ」

「う、う〜ん・・・」

うなり声を上げたまま、黙ってしまった。

「来週、逢うことになっているんだが、何がいい・・・ん、どうした？オリエ」

「本当にこの方と結婚なさるのですか・・・」

半分涙ぐんでいる。

え？

「あ・・・それは、抽象画だ・・・今、そんなのが流行っているらしいんだ」

「じゃあ、この絵にそっくりという訳ではないのですね・・・良かったぁ」

何を考えているんだ・・・オリエットは。

「海の向こうには、一つ目の怪物がいると聞きました。だから、てっきり・・・」

「・・・」

「安心したら、お腹が空きました。食堂へ、行きましょう」

完全にオリエットのペースだった。




兵の訓練を覗きに行く。

「アイサム」

声をかけると、こちらに気づいたようだ。

アイサムが一礼する。

兵達が一斉に姿勢を正す。

「ちょっと、話をしても構わないか？」

「はい・・・しばらく、休憩だ」

アイサムが兵に指示を出す。

「訓練状況は聞くまでもなさそうだな？」

「王子が望んでおいでのレベルには、まだまだです」

「あれか・・・機動力のあるってやつ？」

「そうです」

１日で２００キロ以上移動しても、そのまま戦闘が出来る集団・・・だったかな？

そのような事を言った様な気がする。

「どの程度なんだ？」

「今は・・・移動と逃げ廻る事までは可能です」

真面目にアイサムが答える。

思わず吹き出しそうになった。

「冗談ではありません」

「あ、う、うん・・・」

しかし、逃げ廻る？・・・かなりのレベルまできているということか・・・。

「うん・・・全員で何名だったか・・・」

「私を含め１８５名です」

つい、１８５名が逃げ廻っている様を想像してしまう。

ククッ・・・

「王子？」

「す、すまん。訓練を続けてくれ・・・」

早々に退散する事に決めた・・・。

それにしても・・・アイサムは、よくやってくれる・・・。




部屋に戻ると、オリエットが待っていた。

ちょうどいい、相談したい事もあるし。

銀の甲冑？

国王から送られてきたものだとか・・・

これを着用して行けという事か。

「みんなと同じ黒いやつで良いのになあ・・・」

「国王様の心使いをそんな風に言うのですか？」

「そんなつもりではないけど・・・」

「王子様には、良く似合うと思いますけど・・・」

「目立ち過ぎないか？」

「派手な事が好きな王子様には、ぴったりだと思いますけど・・・」

「・・・」

「着けて見せてください」

「気乗りしないなあ・・・」

「いいから、いいから・・・」

既に、オリエットのペースに、はめられているようだ。渋々、着用することになる。

最初から、分かっていた事だが。

「へえ・・・馬子にも衣裳・・・ですね」

「オ、オリエット・・・」

「これなら、パーシフォリアの王女様も一目で、王子と分かりますね」

「・・・どうして、こんなに口が悪くなったんだか・・・」

「それは、王子様のせいです」

「そんなことはないだろう」

「いいえ、私の教育係りが、王子様だったからです」

まあ、確かに・・・王妃、つまり、母上がオリエットに教育係りをつけるといった時、

それを断ったのは、私自身だが・・・。

「それは・・・他の女達の様に人形みたいにはしたくなかっただけだ・・・」

「それって・・・王子様の前だからではありませんか？」

「はあ？」

訳の解らない答えが返ってくる。

「もういいです」

「もういいって・・・」

「女心の分からない王子様にはいくら話しても無駄ですから」

「無駄って・・・」

ひどい言われようじゃないか・・・。

「パーシフォリアの王女様には、嫌われないようにしてくださいね」

「なんなんだ・・・」

オリエットに相談したかったのは、お土産は、何が良いかという事・・・なのに・・・。





約束の日。

予定時刻通り出発する。


山間部の道を進んでも、隊列は乱れない。

さすがに見込んだだけの事はある。見込んだというのも変かも知れないが。


アイサムと初めて会った時のことだ。

国王が、学問や剣を学ぶなら同じ様な年頃の子供が居たら良いだろうと、

家臣や豪族に、子息を連れて来させた。

国王は、自分の友ぐらい自分で選ぶのが当然だろう・・・と平然としていた。

連れて来られた子達と会話をし始めた。誰も彼も模範的な会話が返ってくる。

誰を選んでも同じだな・・・と思い始めた頃、意志の強そうな瞳でこっちを

真直ぐ見ている子供がいた。

そがアイサムだったというわけだ。

二言、三言会話した私は、すっかり彼を気に入った。

それで、私は、私のひとつ年上だという彼を選んだ。

その出会いは決まっていたことのように思う。

予定外だったのは、やつが固すぎるということぐらいだ。

おかげで、助かった事もたくさんあったが・・・。


到着予定時刻よりも早く砦が見えた。

砦が見えた時、１０騎程度の騎士達が慌ててパーシフォリアの方向へ

走り去るのが見えた。

不審に思いつつも、砦の中へ入った。


「大変です。パーシフォリアの国王が・・・」

砦の中は、血の海だ。

「どういうことだ？」

このままでは、ロザンネイが、パーシフォリアの国王を騙し打ちしたように

思われてしまう？

あの者達を、捕らえねば・・・。

「追うぞ」

「はっ」

「半数は残す。残りは、私と・・・国王にも、状況の報告を」

アイサムが細かな指示を出している。

それを横目で見ながら、馬に乗り・・・走り出していた。

アイサム達が慌てる。

あの者達が、この国境の砦を出たのが１５分ほど前・・・

その間は、必死になって馬を走らせた事だろう・・・

パーシフォリア内の砦まで、１時間少々・・・これだけ離れればと、

今頃は足を緩めた頃か・・・

油断が生じているだろう。あの者達が砦に入るまでの１時間が勝負だな・・・


１０分ほどで、アイサム達が追いついて来た。

更にペースを上げる。


砦に入る少し手前で、奴等を発見する。

相手も、こちらに気づき走り出す。

砦は歓迎の準備をしていた事もあってか、門が全開になっていた。

驚く砦の兵を尻目に、全力で駆け抜ける。


「王子・・・このままでは、馬が持ちません」

アイサムが横から怒鳴る。

確かに・・・やむを得ず、速度を落とす事にする。

奴等も同じなのだろう・・・一定の距離を保ち、速度を落とした。

馬が潰れてしまったらお終いだからな・・・

「王子、深入りし過ぎなのでは・・・」

アイサムが危惧する。

「元々、ここへ来る気だったのだろう？」

「し、しかし、状況が違います」

アイサムが言うのも尤もだ。

「ここまで来れたのだ・・・戻る事も出来るさ」

昨日、国王に呼ばれて、パーシフォリアの状況は把握しているつもりだ。

・・・情報にさえ間違えがなければ・・・

「城の兵と戦闘に入っても、殺すなよ」

そうでなければ、意味がない。



やつらが城へ入った後、城門が閉じられる前に城へ着いた。

予想通り、城兵と戦闘状態になる。

徐々に、城の奥へ・・・

赤い甲冑が見えた・・・よし、あそこへ・・・。



第３話　終了


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第３話