隣を歩く晴香を見ていて思う・・・自分が晴香だった時より、何十倍も綺麗で、何百倍も
可愛いなあ・・・と。
晴香じゃないけど、振袖でなかったら、このまま家に帰したくないなあ・・・あ、誤解しないでよ。
ずっと、ふたりで居たいなあって・・・思う。
晴香は、どんな風に思っているんだろう・・・。
久しぶりの自分の家・・・
「ねえ、孝、元に戻ったこと、少し黙っていない」
「え、どうして？」
どうしてって聞かれると、ちょっと困る。
孝は、唯一、事情を知っているお母さんに、『戻れたんだよ』って話して、喜んで
もらいたいんだろうけど・・・でも・・・
「う〜ん、つまり、お母さんを、驚かせようかと・・・正月だし」
「え？・・・お正月？・・・んん、晴香がそう言うならいいけど・・・」
納得はしてないけど・・・ってとこね。孝らしい・・・。
「「ただいまあ」」
リビングに入ると、お母さんがテレビを見ていた。
お父さんは飲みすぎて、部屋でダウンしているらしい・・・裕香は、お出かけのようだ・・・
「どうだった？」
「うん。天神様と、学校の傍の水都神社へ行ってきた」
孝なら、こんな感じかな・・・話し方は・・・
「お昼、まだでしょう」
「あ、うん」
そうだった・・・とりあえず、振袖を何とかしないと・・・
「お母さん、着替えてもいいかな？」
孝なら、必ず、ことわってから着替えるはず・・・
「え？・・・もう・・・仕方ないわね。それじゃあ、年末に買った服、着てらっしゃい」
「え」
ちらりと孝の方を見る。
年末に買った服なんて知らないわよ・・・どこにあるんだろう・・・
でも、部屋へ行けばなんとかなるわよね・・・
「じゃあ、着替えてくるね」
二階へ行こうとしたら、お母さんにとめられた。
「ちょっと、待って。晴香に悪戯されてなかった・・・」
お母さんが、帯とか、着付け状態をチェックし始めた。
「私って、そんなに信用ないの？」
思わず、叫んでしまった。
「やっぱり、晴香だったね・・・元に戻れたのね」
そう言って、抱きしめられた。
・・・お母さん・・・
二言、三言しか言葉を交わしていないのに、判ったんだ・・・。
本当は、自分だといつ気がついてくれるだろうかと試すような気持ちもあって・・・
こんなに、早く・・・なんか・・・嬉しい。
あれ？待ってよ・・・もしかして、一人で着替えようとしたから、判っちゃったのかな？
孝、一人で脱げないよね・・・初めてだもの・・・
「じゃあ、着替えてらっしゃい」
「うん」
とりあえず、そう返事をし、二階へあがる。
服は、すぐに判った。
ふ〜ん、これが、孝の選んだ服か・・・以前とは・・・ちょっと、違う・・・
孝、こんな明るい色の服選ぶようになったんだ・・・
・・・私のためだった・・・のかな？
私も、孝のように可愛い子連れて歩くと・・・周囲に対して、鼻高かったし・・・
でも、同じ姿でも、孝の方が可愛かった・・・無邪気な笑顔とか・・・
子犬みたいに擦り寄ってくる来るところとか・・・孝って、不思議・・・
なぜ、一緒にいると安心出来るのかな・・・
この服、孝に似合うような気がする・・・私には、どうなのかな・・・
違う。私が考えてるのは、服の問題じゃない。
さっきまでは、元に戻れたって気持ちで一杯だったけど、一人でいると不安だ。
身体が入れ替わってた時は、孝は自分のものだった。
元に戻った今は・・・孝とのつながりが弱くなった様な気がする・・・
孝が一人で歩いていってしまうような・・・
急いで着替え、下に降りる。
？？？
「孝？・・・どうしたの？」
固まっちゃって・・・
あっ
「お母さん、孝に何かしたわね」
もう、お母さんたら・・・自分の部屋へ逃げたみたい。
「孝、大丈夫？」
そういって、孝を抱きしめる・・・って言うより、抱きついてるみたい・・・。
今までと勝手が違う・・・抱きしめる方に慣れちゃったんだろうか・・・。
「あ・・・晴香」
「孝、どうしたの？」
「お母さんに、『戻れてよかったわね』って言われて・・・・」
・・・ホントに、油断も隙も・・・
そう思った時、孝に抱きしめられた・・・ぎゅって。
「孝、苦しい」
「あ、ごめん・・・ホントに戻れたんだなあって・・・」
力を緩めながら、孝が呟く。
・・・苦しくなんかなかったよ・・・ホントは、孝に、包まれるみたいで・・・
こんな感じも・・・いい・・・・孝が近くに感じられて・・・
「晴香・・・あ、あの、これからも・・・一緒に・・・いてくれるかな・・・」
「え？」
孝を見上げると、真っ赤な顔をしていた・・・。
「晴香、これからも、付き合ってください」
持っている、ありったけの勇気を振り絞って・・・って感じが伝わってくる。
「私も・・・お願いします」
こんなこと、言ってくれるなんて思ってもいなかったから・・・とっても、嬉しい。
なんか、今日は、最良の日って気がする・・・
「晴香・・・よく似合うよ。それ・・・」
孝が嬉しそうに・・・なんか、孝ったら・・・
・・・玄関で物音がしている・・・
「ただいまあ」
あ、裕香が帰ってきたんだ
「あ、晴香ずるい」
「な、なんでよ」
いきなり、なんなのよ。
「自分だけ、着替えて・・・」
なんだ、そんなこと。
「着替えれば、いいじゃない」
「・・・脱がせて」
「な・・・もう、わかったわよ」
裕香、一人で着物脱げないんだった・・・
「わ〜い、じゃあ、先に部屋へ行ってるね」
孝がキョトンとした顔をして、こっちを見ていた。
「孝、ちょっと、待っててね」
「あ、あの、晴香・・・着付けとかも出来るの？」
「え・・・少しね。お母さんほどじゃないけど・・・あ、裕香の着るとこ見てたり、
お母さんの着るの手伝ったりしてたから・・・」
「はあ・・・晴香って、すごい・・・なんでも出来るんだ・・・」
孝の尊敬の眼差し・・・ちょっと、嬉しいかな・・・
へへへ・・・今頃分かったか・・・って、ホントは人並み・・・なんだからね。
お料理だってダメだし、絵だって・・・
「とにかく、行ってくるから、孝、待ってて」
裕香の部屋へ向かう・・・けど、お腹すいたなあ
「はあ、疲れた・・・」
「晴香、ご苦労様。お腹すいたでしょ。お餅、焼いたけど・・・あ、キッチン、勝手に
使っちゃった。いいかな？」
「ありがと・・・全然かまわないわよ」
孝ったら・・・勝手知ったるって感じね。
「はい、晴香、海苔も・・・」
さすが、孝、気が利くわね。やっぱり、男の子にしておくの、惜しいわ・・・なんてね。
裕香が入ってくる。
「ああ、いいなぁ〜・・・日高君、私にもね」
「裕香っ」
「晴香、大丈夫だよ。次、焼いてるから・・・」
「わ〜い」
もう、裕香ったら調子いいんだから・・・
「うまそうだな」
お父さんが、声を聞きつけたのか・・・顔をだす。
「あ、おと・・・じゃなかった、おじさんもどうですか？」
「あ、日高君か・・・てっきり、晴香が焼いてるのかと・・・ああ、ひとつ、頼む」
ちょっと、前だったら、そんな光景だったかも・・・でも、中身的には、同じなんだけど。
「はい。おじさん」
「ああ、ありがとう・・・お箸まで・・・すまんなあ・・・」
孝、失敗だよ。『お箸、これですか？』ぐらいは言わないと・・・
まあ、酔っ払ってるんだから・・・そこまで気づかないか・・・
「日高君、私、もう一個ね」
「は、はい」
もう、裕香ったら・・・孝は、私のなのに・・・
孝も、お餅焼きながら、おつまみ作ってるし・・・
お父さんも、また、飲み始めたし・・・
確か、私にお餅焼いてくれたのが、始まりだったよね・・・
「晴香、これ、どうかな？」
「え、うん」
・・・おいしい・・・最初は、私にってことか・・・まあ、いいんだけどね・・・
「孝ちゃん、お母さんにもね」
「は、はい」
もう、お母さんまで・・・
あれ？でも、孝ったら、いつの間にかこの家に溶け込んじゃってる・・・
孝が帰る時、『送ろうか』って言ったら、笑いながら『もう、元に戻ったんだよ』って返事が
帰ってきた・・・なんか、物足りないような・・・なにかわからないけど・・・
帰っていく孝を、ずっと、見ていた。・・・孝も、見えなくなるまで見送ってくれていたなあと
思いながら・・・。
昨日は、孝から連絡がなかった。今日だって・・・
電話するよって言っておきながら・・・二日も、電話もないし、顔を見せないし・・・
そりゃあ、久しぶりの家族との団欒なのだろうけどさ・・・
私の方は、昨日は・・・家でもお母さんがゆっくりしなさいって言ってくれて・・・
でも、今日は朝から、お手伝いとか料理とか・・・しかも、すぐ孝と比較されて・・・
ホント、今日は小言ばかり聞いていたような気がする・・・
それに、裕香ったら、ピアノ弾けってうるさいし・・・お金も払わないし。
孝って、本当に理想の女の子演じてたみたいね・・・そりゃあ、私が言ったんだけど・・・
こんなに比較されるんだったら、言わなきゃよかった・・・
・・・
お母さんの呼ぶ声がする。
「孝ちゃんから、電話よ」
「えっ、孝から」
横になっていたベッドから跳ね起きる。
夕方になって、やっと、孝からの電話・・・もう、遅いんだから・・・。
それにしても、２階にも電話が欲しいよ・・・子機もう一台つかないのかな・・・
リビングに１台、防音室に１台、お父さんの書斎に１台・・・
やっぱり、２階にもう１台・・・
そう思いながら、階段を駆け下りる。
お母さんから、受話器を受け取る。
「は〜い」
『もしもし、晴香？』
「うん、私」
『あ、あのさ、コースケが・・・そのォ・・・』
なんだ、中原君の話？ちょっと、がっかり・・・
「中原君が？何？」
『ん・・・晴香に貸した本・・・返して欲しいって・・・どこにあるかな」
え、ああ、あれ・・・まだ、返してなかったんだ・・・そっか
「ああ、あれ・・・確か、机のとこの本立てにあるはずだけど」
『え、そんな目立つとこに・・・』
「あーゆーのは、堂々と見てれば、わからないものなのよ」
『へえ、そうなの？・・・あ、あの・・・晴香も・・・見たの？』
え・・・孝、こうゆーこと鋭くなっちゃって・・・
「え、あ・・・中原君たちに聞かれたとき、話が出来るように、パラパラとね。
あ、言っとくけど、バレない為に・・・だったんだよ」
『え・・・う、うん、わかってる・・・』
あっ、失敗した・・・今のって、孝に見てもいいよって・・・言ったようなものだわ・・・
「あ、明日は？」
『うん、お邪魔してもいいかな』
「うん、待ってるね」
『じゃあ、明日』
「うん、明日ね」
・・・あ〜、だめ・・・顔が・・・顔が勝手に笑っちゃう・・・
「晴香、嬉しそうね。孝ちゃん、何だって」
「え、あ、さ、参考書をおいた場所を・・・」
「へえ、孝ちゃん、頑張ってるんだ・・・晴香も、頑張らないとね」
あっ、また、お手伝いのこと言っているんだ・・・
「あ、孝、明日、来るって」
話題を変えないと、お母さんもしつこいから・・・
「へえ、孝ちゃん、明日来るの・・・じゃあ、お菓子作りしましょうか」
「え〜、お菓子ぃ〜」
やぶへび・・・だったわ
「何？その声・・・孝ちゃんは・・・晴香が来る時、ちゃんと作ってたでしょう」
あ、う・・・その通りなんだけど・・・でも・・・
「孝ちゃん、喜ぶわよ」
「そ、そうかな・・・」
孝が喜んでくれるなら・・・
「そうよ」
「じゃあ、やってみる」
と、簡単に言ってみたが、結構めんどくさい。
孝が以前、作ってくれたなかで、簡単そうなのを選んだんだけど・・・
お母さん、あきれて、どこか行っちゃうし・・・
孝って、すごいよ・・・横で見てても、シャカシャカ作っちゃうし・・・
あれが、普段の生活のなかで出ればネエ・・・
もう、また失敗・・・どうして・・・なんで、ダメなんだろう・・・
孝の笑顔が頭に浮かぶ・・・
あきらめない・・・本をめくって・・・もう一度、読み直す・・・
え？既製品・・・既製品のパイ生地があるんじゃない
お店へ走る。
これさえあれば・・・
はは、出来た。私が本気になればこんなもんね。
掃除は・・・後片付けは、大変そうだけど・・・お母さんがするわよね。
これで、孝においしいって・・・
ん、何？・・・突然・・・裕香
「おいしそうな匂いがすると思ったら・・・ひとつ頂くね」
「あ」
もう、裕香ったら・・・孝の時もこの調子だったんだ。きっと。
「晴香、腕、落ちたわね」
「え」
「前に作ったときのほうがおいしい」
「ゆ、裕香ぁ」
「『裕香お姉ちゃん』でしょ」
思わず、握り拳を・・・握り締めてしまう。
「あれ？おかしいなあ・・・いつもなら、『次は頑張るね』って・・・」
うっ、孝なら・・・そう言っただろうなあ・・・
腕、落ちたとかいいながら、次のに手を出そうとする裕香って・・・
孝の分、確保しとかなくっちゃ・・・
「だめ、これ、孝の分なんだから・・・」
「え〜、日高君のは、また作れば・・・」
思わず、キッと睨む。そんな簡単にポンポン出来れば苦労しないわよ。
汚れたキッチンを見て、やっぱり、お母さんに怒られた。
後付けも、料理の内だって・・・。
孝だった時は・・・勉強さえしていれば、何も言われなかったし・・・
あ〜あ、男の子って、得だなあ・・・
「こんにちわ」
「あ、いらっしゃい・・・待ってたのよ。孝、先に部屋へ行ってて」
先日のように、孝をとられないようにしないと・・・
お菓子は準備してあるし、後は、お湯だけ・・・と。
精一杯の笑顔を作り、昨日作ったお菓子を、孝に出す。
孝が、おいしそうに食べてくれる。
「裕香ったら、おいしくないって言うのよ」
「え？充分おいしいけど・・・」
孝ったら、お世辞と思われたと思ったのか、慌てて後を続ける。
「私が、あ、俺が始めて作ったときは、食べられたもんじゃなかったよ。
お母さんも、部屋へ逃げちゃったし」
「え、今回・・・私も、そうなんだけど・・・」
「え、じゃあ、晴香の愛情が入ってるから、おいしかったのか・・・」
「え、ええっ」
孝ったら、さらっと、そんなことを・・・
「このォ、孝のスケベ」
「え、えーっ、そんな・・・前に、晴香が言ったんだよ。晴香が、前に・・・
あ、あの時、とっても、嬉しかったから・・・」
な、なんだ・・・私が言ったのか・・・あれ？言ったかな？・・・私って、スケベ？
まあ、いいや。お菓子の方は、おいしいって、言ってくれたし・・・
それより気になってるあのこと・・・ちょっと、顔が強張る。
「孝さあ、あの、中原君の本・・・」
「え？返してきたよ・・・」
「・・・」
「あ、見てないよ。見ないで返したよ。・・・だって、晴香だった時、
私がいるのに・・・ちょっと、嫌だなって・・・思って・・・あ、そーゆー意味じゃないよ」
慌てて、両手を振ってる。
「わかってるぅ。孝だって、男の子だから・・・別に・・・」
そうか・・・見ないで返したんだ・・・そうか・・・ちょっと、笑顔になってる
・・・自分でもわかる・・・まずい、孝にわかっちゃう・・・
「孝、何か、弾いてあげようか？」
「え、ホント」
「うん」
「じゃあ、ミニコンで弾いたやつ」
「うん、わかった」
ピアノの部屋へ移動する。
響板・・・屋根を起こそうとしたら、孝が手伝ってくれた。
椅子に座って・・・深呼吸をひとつしてから弾き始める。
孝が、低い声で呟いた。
「俺、先輩に勝てるかな？」
「え」
一瞬、音が止まってしまった。
何もなかったかのように弾き続ける。
「大丈夫よ。孝は、私のことが好きでしょ」
「うん。でも、俺、先輩のようにもてた事ないし・・・勝ってる所なんて、何もないから・・・」
孝、知らないんだ・・・影でモテてる事・・・鈍いんだ・・・
自分に自信がないっていうのが致命的なのかも・・・
孝になってみてわかったけど・・・女の子の”好き”って視線、避けるの
大変だったんだから・・・あれに気づかないって、ホント、鈍いよ。
でも、そのおかげで売れ残ってた言うか・・・ラッキーって言うか・・・
モテるって事、絶対教えてやらないんだ・・・孝には。
だって、孝は、私のものだけにしておきたいし・・・
あ、でも、これから、告ってくる子・・・いるかも・・・。
・・・・・
あれだけ、派手にデビューしたし・・・やっぱり、まずい・・・
「絶対、大丈夫。私が好きなのは、孝だけだもの」
「え・・・う、うん・・・頑張るね、晴香・・・」
孝の紅くなった顔が目に入る・・・
あっ・・・
ピアノから離れ、座っている孝の後ろから、手を廻す。
「ごめんね」
「は、晴香、どうしたの？」
孝のうろたえぶりに、思わず、笑みがこぼれてしまう・・・
「じゃあ、次、弾くね」
「う、うん」
ピアノに戻り、再び弾き始める・・・
孝といると・・・望みがどんどん叶っていくような気がする・・・
好きな人に、ピアノを聴かせてあげて・・・私って幸せだよ
・・・
このままいけば、お嫁さんになれるのかな・・・孝の・・・
そう思ったら、急に顔が熱くなった・・・ボッって感じで。
その上、弾き間違えるし・・・
「晴香？どうしたの？」
孝が心配そうにこっちを見てる。
「あはは、ちょっと、ドジっちゃった」
「大丈夫？もしかして、風邪？顔赤いし、熱あるんじゃ・・・さっきから、おかしかったし」
え゛・・・孝、それって、あんまりじゃない
孝ったら、額にまで手伸ばしてくるし・・・
「熱は無い様だけど・・・」
首を傾げてる・・・
心配してくれるのは、嬉しいけど、ホントに・・・デリカシーないよ。
でも・・・そんなとこも、好きだけど・・・
孝と、一緒にいるのは・・・楽しいし、嬉しいし・・・
でも、お母さんに、孝と比較されるのは・・・ちょっと、つらい・・・
孝って・・・理想の女の子に近いのかも・・・どうしたら・・・あんな風になれるのかな？
「孝、どうしたの？」
扉が閉まる寸前に、電車に飛び乗ってきた孝に声をかける。かなり、息が切れてる・・・
「はっ、はっ・・・な、なんか・・・切符・・・落としたとかで・・・一緒に、探してた
・・・同じ学校・・・同じ学年みたいだったけど・・・」
相変わらずだなあ、孝は。
孝を見てると、日々、日常の積み重ねって気がしてくる。
こうやって見てると、平凡なんだけど・・・不思議・・・
「あ、あのォ」
原田さんが、おずおずと、ハンカチを出してくる。
「あ、ありがとう・・・でも、持ってるから・・・」
孝が、笑顔でそう言いながら、ポケットから、ハンカチを出してる。
「ご、ごめんなさい。いつもなら、晴香さん、さっとハンカチ出すのに・・・今日は・・・
持ってくるの、忘れちゃったのかと・・・」
そうだった・・・いつもなら、孝が・・・私って、この辺ダメね・・・
孝、いつも、ハンカチ２枚持ってたっけ・・・
「あーや、晴香だって、休みボケくらいするわよ。私だって、今日、学校だっていうの
忘れてたんだから」
「え？水都さん・・・忘れてたの」
孝が、目を丸くしてる。
「そう、１日、間違えてた・・・てっきり、明日だと・・・」
「ホント、真美ちゃんたら・・・迎えに行ったら、寝てるんだもの。もう、びっくり」
「まあ、そんなことも・・・たまにはあるわよ」
「たまになら、いいんだけど・・・」
「ひ、頻繁に、あるわよ」
「家を早めに出たときは、真美ちゃんのところへ寄るんですけど・・・以前は、ふたりで、
よく走ってたんですよ。この電車にしてからは、無くなったと思ったのに・・・」
「でも、水都さんらしい・・・」
孝が呟く・・・水都さんが、赤い顔をしてる。
もう、孝ったら・・・元に戻ったんだから、注意しなさい。
女の子から言われるのと、男の子から言われるのとは、違うんだからね。
教室に入って、席に着くと水都さんが、話しかけてきた。
「晴香、あーやじゃ無いけど・・・休み中になにかあった？・・・なんか、わかんないけど・・・
いつもの晴香と、違うような気がする」
「何も、なかったわよ・・・あ、少し風邪気味なだけ・・・」
「そうなの？・・・気をつけてね。晴香が元気じゃないと、ちょっと、寂しいよォ」
風邪気味って言うのは誤魔化しだけど・・・そんなに、違うって見えるのかな・・・
女の子って、敏感なんだ・・・やっぱり、孝、苦労したんだろうな・・・
男の子なんて・・・お前、少し変だぞ・・・そうかあ？ってくらいだった・・・
孝の方を振り向くと、いつもの三人・・・孝、中原君、山田君が集まってる。
「コージ、お前、休み中、変なバイトやってたんじゃないだろうな」
「ち、違うって」
？
中原君の声は、よく通る・・・。
孝、なんか、困ったような声出してたけど・・・。
始業式が済んで・・・
「孝、生徒会の・・・新年の簡単な挨拶、顔見せだよ」
孝を誘うと、孝の顔が強張っていくのがわかる。
「大丈夫。私が一緒だから」
「う、うん」
生徒会室に行くと、すでに弥生が来ていた。
「弥生、今年も宜しく」
「木下さん、宜しくね」
「晴香と・・・日高君、こっちこそ、宜しくね」
弥生ったら、”見ただけで判る”の一件以来、孝を見ると胸を隠す。
私が悪いんだけど・・・ちょっと、孝には、気の毒なことしたかな・・・
弥生も、誰にも話してないみたいだし・・・まあ、いいか・・・
席に着くと・・・弥生ったら、Ｂ組の委員と席替わって隣の席に座ってきた。
その上、こそこそ、話しかけてくるし・・・
「晴香、今日の日高君なんか変だね」
「え？そうかな」
「なんか・・・ぼーっとしてるよ・・・風邪でもひいたのかな？」
「そんなことは、ないと思うけど・・・」
へへへ・・・弥生、孝のよいとこ知らないからね・・・ああ見えても・・・
ちゃんと、私を受け止めてくれるし、優しいし、それに・・・私のこと好きだし。
・・・そうね、追い詰められないと、実力発揮しないところはあるけど・・・
「晴香・・・変・・・一人でニヤニヤして・・・エッチ」
「な！」
「あ、会長の話始まるよ」
もう、弥生ったら・・・
簡単に挨拶って言っても、１５分ぐらい話すんだから・・・
・・・
それより、次期副会長ね。先輩、誰を指名するんだろう・・・
そりゃぁ、選挙はあるけど・・・立候補しないとね・・・
たぶん・・・Ｂ組の須藤君あたりかな・・・まさか、孝になったりして・・・
孝も、そこまで追い詰められれば・・・頑張るよね。
そうなったら、一生懸命応援するんだけどなあ・・・
はあ、やっと、終わった・・・
席を立とうとしたら、弥生が話しかけてきた。
「もしかして、日高君と進展あったの？話の間中、ニヤニヤしてたし」
「え？」
「晴香、失敗しない様にね」
え、失敗？・・・失敗って？
・・・
あ！
「弥生っ」
「あれ？おかしいな・・・本物の晴香？・・・なんか、今までと違う・・・」
「何処が違うって言うのよ」
「え・・・何処とは言えないんだけど・・・う〜ん、最近の晴香を、３つの言葉で、
表すと・・・美人、優しい、愚か・・・だったのに・・・今日は、違う・・・」
今日は、どうだって言うのよ・・・
「今日は・・・美人っていうのは同じなんだけど・・・思いやりが無い、冗談が通じない
・・・って感じかな？」
「弥生っ」
「ほ、ほら・・・ね」
弥生ってば、もう、逃げ腰・・・自分が原因なのに・・・
ふと、気づくと・・・孝も、先輩と話をしている
複雑な顔をして、孝が戻ってくる・・・
「は、晴香ぁ」
「ちょっと、孝、体育館の裏まで・・・付き合ってよ」
愚痴くらい聞いてよ・・・私の彼なんだからさ。
番外編（２） 終了
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