昨日・・・いや、もう今日だったかな?・・・あのことが、ショックで、早く目が覚めてしまった。

籐の椅子に腰掛けて考えてみることにした。

・・・

そうだ、あれは、きっと、間違いだ。体は自分のだけど・・・晴香のことを好きだから、

あーゆー事になったに違いない。なーんだ、そーゆー事だったんだ。なーんだ・・・



「あ、おはよう・・・孝」

ふすまが開いて、晴香が出てきた。

「おはよう、晴香」

「孝・・・早いんだね」

「え、まあね」

晴香、元気なさそうだけど・・・朝は、弱いんだったかな?

外は、もうかなり明るくなってきているけどな。

晴香が向かいの椅子に、ドスンって感じで腰掛けた。

・・・あ、今の・・・ちょっと、男の子ぽっくて、いいかも・・・あ、何言ってるんだろう。

お風呂から、部屋に戻った時は、晴香、もう寝てたから・・・話出来なかったんだよ。

でも、自分の寝顔って、初めて見たよ。チラッとだけどね。

結構・・・あ、こうやってすぐ脱線しちゃうからいけないんだよ。

ん〜、さりげなく話し掛けて、何で急にお風呂から出て行ったか聞いてみよう・・・。

「旅館って、こーゆー籐の椅子、大抵置いてあるよね」

「え、ああ・・・」

あれ?のって来ない・・・なんか、話しにくいな。さりげなくって、難しいな。

あれ?晴香が、じーっと、こっちを見ている。

う、な、何か、したかな。

思い起こしても・・・何も思いあたらないけど・・・やっぱり、晴香に

睨まれているような・・・早めに謝っておいた方が、いいのかも。

「ごめんなさいっ、晴香」

「え、な、何をしたの」

「え、さあ、わかんないけど・・・」

「じゃあ、なんで、謝るのよ」

「だって、晴香が、睨んでるんだもん」

「え・・・にら・・・見詰られてたとか、思わないの」

「え、見詰・・・晴香、見詰てたの?」

「え、ま、まさか」

やっぱり・・・睨んでたって事じゃないか。

がっくり。

「くっくっ・・・」

「え?」

「あははは・・・孝、や、やめてよ・・・もう・・・」

晴香、突然笑い出したけど・・・なんで?

「孝見てたら・・・私って、バカみたい」

なんだ?やっぱり、よく分からないぞ。

「晴香、どうしたの?」

晴香が、急に真面目な顔になって、再びこっちを見詰ている。

「孝、私、女の子の孝が好きになっちゃったみたい」

「はい?」

今の言葉・・・よく理解出来なかったぞ。

女の子の孝・・・今の私だよね。

今の私が好き?・・・えへっ・・・って、単純に喜んでいいのか?

いや待てよ。なっちゃったって言ったぞ。

今までは好きでなかった・・・そんな事ないよね。それは、絶対、違うと思う。思いたい。

晴香が真面目な顔で言ってるんだから・・・

この場合の私は、重要ではないのかも・・・と、すると・・・

えっ、女の子を好きになった?・・・ははは・・・まさか・・・

えっ、あっ、まさか・・・昨日・・・あ、今日か・・・の晴香の行動から言えば・・・

そういうことになるのか・・・そう考えれば、納得がいく・・・けど

相手が、自分でも構わないくらいに・・・ってこと?それって・・・

「晴香・・・変態」

「なんですって」

あ、しまった。つい、口に出てしまった・・・

「そーゆー、孝はどうなのよ」

「あ・・・わ、私は・・・相手が、晴香だから好きなのよ」

「えっ・・・あ、そーゆー考え方もありか」

晴香、考え込み始めたけど・・・

私だって、そうだと思いたいっ。本当にっ。

「なーんだ、そうか・・・そーゆー事だったんだ・・・ははは・・・」

晴香・・・・傍から見ていると、現実逃避してるように見えるよ。

って・・・な、なんか、さっきの自分を見ているようで・・・なんか嫌だ。


着替えを済ませたお母さんがふすまを開け、こっちに向かって声を掛けてきた。

「おはよう・・・あなた達、もう起きたの?」

「おはようございまーす。早くに目が覚めちゃって」

「晴香も?・・・なんか、楽しそうだったけど」

「おはよう・・・うん、ちょっとね」

「そう、隣は、まだ寝てるようね」

「そうみたいね」

隣は、夜遅くまで起きてる気配はあったけど・・・

ん?は、晴香?あれで、解決しちゃったの?

・・・まあ、いいか、晴香に悩まれると・・・大変だし。




「皆で散歩行きましょうか」

ってことで、朝食後、散歩へ出かけることになった。

旅館の中は、大体見たし・・・工事してるところも・・・散歩もいいかも。

ちょっとは、気分転換になるだろうし・・・

皆で、山の上のお寺の方へ行ってみることになった。

お母さんとお姉さん、水都さんと原田さん、晴香と私って感じで歩いていたんだけど、

水都さんが、いきなり振り向いて、話し掛けてきたんだ。

「晴香のお姉さんって、面白いのね」

「面白い?」

「うん、食事の後、トランプして、いっぱいお話したんだけど・・・」

「私達に合わせて、お話してくれたんですよ」

「うん、いつの間にか、怪談になったんだけど・・・おもしろいのよ」

「そうなんですよ」

はあ?おもしろい?怪談が?しかも春・・・それ、変じゃない・・・

「・・・」

晴香が、何かぼそっと呟いた・・・晴香、何か知ってるんだ。よし、今度、聞いてみよーっと。

「日高君、温泉に入った?」

あれ?話題が変わったぞ。・・・それにしても、お母さん達と離れてってるよ。

「え、ああ、結構雰囲気良かったな」

「独りでつまらなくなかった?・・・あ、近所の人と一緒だったのかな?」

「え、ああ、まあね・・・あ、そうだった」

あ、晴香、逃げ出したぞ。何が、そうだ、なんだろう

まあ・・・一緒に入ったなんてバレたら、大事だもんね。

こっちに飛び火しないうちに、私も逃げようかな。

え、水都さんに、腕、掴まれちゃったぞ。

「晴香は、温泉に来たのに、入らないの?」

「え、ちゃんと、入ったよ」

「え〜〜、晴香、夜中に入ったの?」

「う、うん・・・星が綺麗だったよ」

「晴香、一人でずるいなあ」

「でも・・・夜中は、混浴じゃあ・・・」

原田さんが心配そうに呟く。きっと、水都さんも夜中に入るって言いそうだと心配したんだ。

「え・・・あ、今、泊まっているのは私達だけでしょう」

「あ、そうですね」

原田さん、安心したのか、声の調子が明るい。

「ふ〜ん、じゃあ、今夜、入ってみよう」

やっぱりね。

「今日も、星が綺麗ですよね・・・きっと」

「うん、今日もいい天気だからねえ・・・きっと、普段の行いがいいからだよね」

「え・・・真美ちゃんの行いから言えば、土砂降りのはず」

「あーや、それ、ひどい」

水都さん、プリプリ怒って、先、行っちゃったぞ。

でも土砂降りになるくらいの行いって・・・突っ込まないほうがいいだろうなあ・・・

「追いかけなくても、大丈夫?」

「大丈夫です。真美ちゃん、拗ねて見せただけですから」

ふ〜ん、気心が知れてるってことか・・・

ある意味、羨ましいな・・・私と、晴香も・・・


あ、原田さん、今日も例のリボンつけてる。

・・・私だって、水都さんに貰ったリボンつけてるんだよ。

は〜っ、晴香何も言ってくれないし・・・

ん、あれれ・・・なんで、こうなったんだ

晴香に、可愛いよって言って貰うために、一生懸命着飾ってるの?

言葉使いは、晴香のように切り替えが出来ないから、仕方がないとしても・・・

なぜ、リボン・・・。

「どうかしたんですか?晴香さん」

「え、あ、別に・・・なんでも・・・」

原田さんに、そんな風に見詰られると・・・

「「あっ」」

風が・・・ちょっと、強い風が吹いて原田さんのリボンが飛ばされ、近くの木の枝に

引っ掛っちゃった。

私の方は、頭抑えたから、大丈夫だったけど・・・

ジャンプすれば、届きそうだけど・・・今は、晴香だから、身長も15センチ近く違うから・・・

前のようには行かないかもしれないけど、斜面からジャンプすれば・・・何とかなるよね。

・・・って、言うか、何とかしないと。

「晴香さん、危ないですから・・・」

「えいっ」

ボキッ・・・

あちゃぁ・・・やっちゃった。

「はは、また、枝、折っちゃった・・・でもリボンは無事だよ」

「ありがとうございます。あ、あの・・・またって言うのは、やっぱり・・・」

「あ、う・・・」

ま、まずい・・・えっと、言い訳、言い訳・・・

「ひ、日高君に・・・その辺、詳しく聞いたから・・・」

「日高君?・・・え、あれ、日高君だったんですか?男子だったとは思っていたんですけど

・・・あの時、目にゴミが入って・・・でも・・・雰囲気が、日高君と違ってるような

・・・気がつきませんでした」

泣いてると思ったのは、目にゴミが入ってたのか。

あ、それよりも・・・私だと、知らなかったってことか?

あ、違った、日高君だって、知らなかったってこと・・・男子だとは思っていたけど、

今の晴香と雰囲気が違っていたから、気がつかなかったと・・・

で、私が、口を滑らしたものだから・・・おかしいなあ・・・と・・・女子では

なかったはずだと・・・ふ〜ん、なるほど・・・ね。

それで、その男子を探してたってこと・・・かな

って、まさか、原田さん、今の話で、晴香に好意持ったりしないよね。

原田さんが、ライバルなんて・・・こ、困る。

そんなことになったら、どうしよう・・・

今の晴香なら、可愛い女の子なら、なんでもOKって事に・・・。

「どうかしたんですか?晴香さん」

「あ、う、そ、その・・・」

「はい」

「何でもないです」

「え・・・ふふふ、晴香さんも、裕香さんに似てますね」

「えっ」

似てるって・・・変ってことかな?

「に、似てないと思うけど・・・」

「そんなことないですよ」

うっ、笑顔で、否定しないでよ。・・・やっぱり、変・・・なのかな。


お寺を、ちょっと覗いた後、その辺りを見て廻ったんだけど・・・

チラチラと、晴香を見ている原田さんが目についた。

こ、これは、ヤバイぞ。

か、神様、どうぞ、心配事が現実になりませんように・・・

そうだ、晴香に、くっついていればいいんだ。


「は、晴香」

「ん?何?」

「え、あ、そ、そのォ・・・」

わ、話題・・・えっ〜と・・・

「あ、晴香、裕香お姉さんと似てるかな」

「え・・・似てるって言われて、似ないようにしてた時もあるし・・・どうかな・・・」

「へえ・・・」

「どうして?」

「あ、原田さんに、似てるって言われたから・・・」

「ふ〜ん・・・孝とは、似ている所あるかも・・・」

「えっ」

「ふふふ・・・さて、何処でしょう?」

「えっ、えっ、ど、何処って・・・か、変わってるところ?」

「は?・・・ははは・・・孝、それ、面白い」

う・・・晴香と似てる所なら、綺麗とか、しっかりしてる所とか、答えようがあるけど・・・







柱に掛かっていた古風な時計を見上げると・・・

また、危険な時間帯だ・・・よし、小説を用意して・・・と。

「は〜るかっ・・・」

やっぱり、水都さん達が誘いに来た。

「あ、今、おもし・・・」

ん?、何、その笑顔は?

水都さんと原田さんに、両腕をがしって、掴まれて・・・

「え」

「ふふふ、お風呂行くよ」

「あ、あの、ちょっと・・・」

こんなの、シナリオにない・・・

「あっ、孝」

晴香も、びっくりしている。

「晴香、助けて」

晴香に助けを求めたけど、裕香お姉さんが晴香を制止している。

「それでは、お風呂に行ってきます。日高君、お留守番宜しく」

「ゆ、裕香・・・」

「晴香の着替えは持ったからね」

いやだあ〜、これじゃあ、刑場に牽きたてられていく囚人だよォ。


「ゆ、裕香・・・お姉さん、は、白鳥が・・・」

「「「え、ホント」」」

皆が、一斉に窓の駆け寄る。

「いたら、いいね」

晴香が、ボソっと呟き、私の手を取って走り出した。


晴香っ、晴香様っ、感謝、大感謝、ホント命の恩人です・・・

走りながら、心の中で晴香に感謝の言葉を並び立てる。

走って、走って・・・着いたのは、午前中に来たお寺?

晴香も、大きく肩で息をしてる。

おっきな石の上に並んで座った。

呼吸が整ってから、晴香にお礼を言う。

「晴香の機転で、助かったよ。ありがとう、晴香」

「う、うん、私も、同じような目にあったら、嫌だなあって・・・」

同じような目?・・・たとえば・・・晴香が、コースケ達とお風呂に・・・

うっ、そ、それは・・・可哀相だ。

そうか、晴香から見たら、そんな風に見えるのか・・・なるほど。

・・・

あれ?そうすると・・・晴香が、一緒にお風呂に入っていいのは・・・

晴香と並んで、温泉に浸かっているのは・・・

やっぱり、私かな・・・えへっ・・・

お湯に浸かりながら、晴香に向かって微笑むと、晴香もにっこり

笑ってくれるんだよな・・・それから・・・

「晴香さん」

・・・って、反対側に原田さんがいたりして・・・3人並んで・・・えっ

「ここに、居たんですね」

「うわっ」

「何、驚いているんですか」

「あ、もう、見つかっちゃったのかと・・・」

「真美ちゃんが海の方を探しに、私が山の方を見に・・・」

ふた手に分かれてってことか・・・それじゃあ、すぐに見つかちゃうな。

「晴香さん、私達とお風呂入るの嫌ですか?」

うっ、いきなり、核心を・・・

「そういう訳じゃ・・・」

「では、なぜ・・・」

あ・・・なんて答えれば・・・

「白石さんは・・・夜空を見ながら、入りたかったみたいだけど・・・」

晴香、それ答えになってない・・・それなら、何度でも入ればって思っちゃう・・・

「へえ、そうなんですか・・・」

あれ?原田さんも素直に信じちゃって・・・いいのかな?

「そうですよね。別に私達と入るのが嫌って訳じゃあないですよね」

「え、まあ・・・」

「良かった・・・暗くなってきたし・・・戻りませんか」

「え、そ、そうしようか」

あれ、一瞬、変な顔しなかった、晴香?




食事が終わって・・・水都さんが、話かけてきた。

「私達の部屋で、おしゃべりしようよ。・・・あ、もちろん、日高君も一緒にだよ」

う〜ん、晴香も一緒なら・・・行ってもいいかな・・・晴香が良ければだけど・・・

お母さん達も、結構、お酒入ってるみたいだし・・・

晴香の顔を見たら、頷いたので、行くことにした。

隣の部屋に移って・・・ジュースで乾杯。

学校にいる時と同じように、おしゃべりが始まったんだけど・・・

あんなに苦手だって思っていた女の子と、楽しくおしゃべりしてることに、ふと気づいた。

これも、晴香のおかげだよね。うん。


話が、ひと段落した時、水都さんが時計を見ながら言った。

「そろそろ、お風呂行かない?」

「ちょうどいい時間ですね」

「日高君、一緒に入りたい?」

さすがの晴香も、水都さんにあってはタジタジだ。その晴香に向かって声を掛ける。

「ふたりが、お風呂行くなら、部屋へ戻ろうか?」

「うん」

晴香と一緒に立ち上がろうとした時だった。

「晴香、何処行くのよ」

いきなり、水都さんに手首を掴まれてしまった。

「えっ」

「晴香も、行くんでしょう」

「え〜〜」

「きっと、星が綺麗ですよ」

原田さんが笑顔で追い討ちを・・・

「晴香さん、一緒に入るのは嫌じゃないって、言ってくれましたよね」

うっ・・・

あ、そうか、あの時、自分で墓穴掘ったんだ・・・だから、晴香が、あんな顔を・・・。

あの時に戻りたいよ。

晴香、助けて・・・くれそうにない?

原田さんには、がっしり、腕組まれちゃてるし。

このまま、連れて行かれちゃうの?

「よし、準備OK・・・と」

「あ、水都さん」

晴香が、水都さんを呼び止めて、耳打ちしてるけど・・・

「えっ・・・冗談」

「じゃあ、後ほど」

???

晴香・・・小さく手を振ってるし・・・。

もう、だめってこと?





第11話 終了




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第11話
孝司と晴香シリーズ