高校へ入学して、１週間も経たないある日の放課後。
満が『ちょっと、教室で待ってろ』と言った。
満の『ちょっと待ってろ』は、時々あるので、いつもの様に僕と早苗ちゃんは、
教室で満を待つことにした。
ここで説明しておくと、俺と満と早苗ちゃんは家が近所であり、苗字も
同じ山口と言った。ただし、親戚でもなんでもないことも断っておく。
ただ単に、苗字が一緒なだけだ。
しかし、奇妙なことに、３人は同じクラスになったのである。
大体、同じクラスに同じ苗字の人を集めるなんて、どんな学校だ。
隣のクラスには鈴木が２人、佐藤が３人いたぞ。その隣のクラスには・・・
なんて、思っていると、『待たせたな』と言って満がやって来た。
しかも、彼女を連れて、だ。
『高校へ入ったら彼女作るぞ』が口癖だったが冗談だと思ってた。
こんなに早く？って云うのもあったけど、他の意味でも驚いた。
連れて来た彼女はクラスでも超が付くほど美人。
そんな注目の的になっている子を満が連れて来たのだから。
「俺の彼女にの優子さん。で、これ、優。で、こっちが、早苗ちゃん」
これ扱いかよ。と、思いながら、軽く頭を下げた。
「ど、どうも・・・」
クラスメートに『どうも』って言うのも変だが・・・驚いてというか、他に
言葉が出てこなかった。
「ふ〜ん・・・優君に、早苗ちゃんね・・・あ、私のことは、優子って呼んでね」
明るく話す彼女と満の顔を交互に見てしまう。
そう・・・彼女は、女神優子と言った。
優子さんは、名前の通り、女神様の様だと誰かが言っていたっけ。
「と、云う訳で、俺達、先に帰るからな」
何が、『という訳なんだ？』待たせておいて、先に帰る？何だ、それ。
満はサラッと彼女を紹介しただけで２人だけで帰り支度を始める。
ほらみろ。早苗ちゃんなんか、完全にパニくっているぞ。
唖然とする俺達を放置して、満は教室を出て行く。
釈然としないまま、ふたりを見送り、早苗ちゃんと帰り支度をする。
「信じられないよなあ」
「う、うん・・・」
小さな返事が返ってきた。
やはり、ショックを受けてる。
「でも、俺がいるから・・・」
「う、うん・・・」
静かだ。
男２人に女１人、微妙なバランスを保って来ていたのに・・・。
いつも３人で帰っていたのに、満がいないだけでこんなに違うものなのか。
いつも喋り捲っている満がいないだけで・・・。
満、高校に入ったら早苗に告白すると思っていたんだけどなあ・・・
なんか、このままだと、僕達の関係が壊れそうに思えた。
「早苗ちゃんと付き合えばいいのかな・・・」
単純に出てきた答えがこれだった。
「えっ」
早苗ちゃんが眼を丸くしてこっちを見てる。
「あ、いや、つまり・・・」
ど、どうしよう〜・・・ああ、困った・・・深く考えてなかった・・・
この間数秒だったのだろうが、すごく長い時間に思われた。
でも、今、一番これが良いって思えた。
「僕、早苗ちゃんと付き合ってもいいかな」
早苗ちゃんは何か言いかけたが、暫くして、ゆっくり頷いた。
「ＯＫ？・・・よ、良かった。断られたらどうしようかと思った」
早苗ちゃんがちょっと困った様な顔をする。
自分だって、こんな展開予想していなかったし。
「あ、でも・・・付き合うって、どうするんだろう？」
そう言うと、初めて早苗ちゃんは笑った。
それでも、告白みたいな事を言ったおかげで三人の関係は
崩れなかったと思いたい。
満が優子さんと２人で帰ったのは、２日くらいで、その後は４人で
下校することが多くなった。
どうも、何かあったらしいのだが、満は何も言わない。
まあ、遅くなった時は、途中駅で下車して送って行ったりするが・・・。
半月も経った頃、ＨＲの時間に先生が言った。
「そろそろお互い、分かってきただろうし、クラス委員決めても良い頃だろ」
クラス委員は、男女１名ずつ。
まあ、誰も立候補なんてしないよな。待っているのは雑用だけだろうし。
今までだってクラス委員なんていなかった筈だし・・・と思ったら、
今までは、優子さんが代役でやっていたらしい。
「女神。板書、やってくれ」
「はい」
やはり、ここは、出来るだけ頭を低くしてやり過ごそう。
「はい。私は女神さんが良いと思います」
女生徒の1人が優子さんを推薦した。
「賛成」「賛成」
と手が挙がる。
まあ、妥当な線だろうな。
裕子さんが黒板に自分の名前『女神優子』と板書する。
残りの男子１名は・・・満がやるっていえば決まりだな。
と、思って満の方をみると当の満は苦悶の表情を浮かべていた。
「山口ズ・・・誰かいないか？」
複数形で呼ぶな。
複数形にはなっているが、この場合の山口は、満のことだ。
きっと、先生は、優子さんと帰る満の姿を時々、目にしているからだと思う。
『じゃあ、俺、やります』そんな言葉が満の口から出るものと思っていた。
「はい。俺・・・優を推薦します」
「賛成」「賛成」
誰もクラス委員なんてやりたくないから、一斉に手が挙がる。
本人の拒否する声は虚しく掻き消されて・・・山口優と板書される。
「何だよ。満がやれば良いじゃないか」
「まあ、俺もそうしたかったんだが、部活もあるし。他の男が優子さんと
クラス委員やるのも癪だし・・・その点、優なら部活やってないし、
間違いなく安全牌だし」
「そんな理由でかよ」
安全牌って言葉が引っ掛かる。いや、間違いなくって言葉もだ。
そりゃあ、確かに、僕には早苗ちゃんがいるし・・・。
「いや、優なら、信用出来るって事だよ」
「今更、言い直したって・・・」
今更愚痴っても仕方ない・・・。
「優子さんがさあ・・・」
へえ、『優子』じゃなく『優子さん』なんだと思って聞いていたら、
自分の名前が出てきた。
「優のことを、聞くんだよ」
超美人が興味持つことってどんな事だろうと、少し身を乗り出す。
「えっ！僕のこと？」
「いや、正確には優と早苗ちゃんのこと」
一気にテンション下がった。
「僕達がどうしたって・・・」
「いや、うまくいっているって言っておいたけど・・・」
「・・・」
大きなお世話だ。どうせ、（笑い）話の種にでもしているんだろう。
だが、僕は聞かないぞ。『満達はどうなんだよ』とは。絶対。
長いノロケ話が帰ってくるのはみえているからな。
早速の雑用・・・いや、お仕事を頂いた。
授業に使う資料の冊子作り。
「へえ、優君、この仕事向いてるかも」
「何故」と言って、パチンとホッチキスで留める。
「仕事が丁寧だもの」
「？」
分からないって顔をすると、優子さんが答えた。
「満君が手伝ってくれたんだけど、綺麗に揃えてくれないのよ。どうせなら、
綺麗に揃えてあった方が、気持ち良く使って貰えるでしょう」
「まあ・・・でも、満は優子さんだから手伝ったんだね。僕達が作業して
いても、まず、手伝わないね」
そういうと、優子さんは微笑みながら言った。
「へえ、そうなんだ・・・ありがと」
「えっ、何が？」
お礼を言われる訳が分からない。
「ふ〜ん、優君って・・・ホントに、鈍いんっだ」
「ええっ！何で？」
優子さんは、問いには答えず、ただ笑っているだけだった。
満の奴が、何か言ったな。くらいしか分からなかった。
「じゃあね」
優子さんが電車から降りる。
慌てて、降りると優子さんが言った。
「ふ〜ん、ホントに家まで送ってくれるんだ？」
「満と約束したし」
「ふ〜ん」
多分、『ふ〜ん』と言うのが優子さんの癖なんだ。
何故、優子さんを送ることになったのか、先ほど言った通り、
満と約束したからに他ならない。
満は早苗ちゃんは委員会があって・・・満は優子さんに『終わるまで、
待ってて』とか言っていたけど・・・優子さんは、『何故、待ってなきゃ
いけないの』と、キツイ一言。
で、困った満に無理矢理、頼まれた訳だ。
「俺と早苗ちゃんは、美化委員会で遅くなる。そこで、優が優子さんを
しっかり家まで送って行くんだ。これは重要任務だぞ」
「子供じゃあるまいし・・・」
「子供じゃないからだ。いや、俺が言うのも何だが、優子さんは見た通りの
美人だ。つまり、帰り道が心配なんだ。ナンパされないかとか・・・
あ、早苗ちゃんの事なら心配するな。俺が家まで送り届けてやるから」
こんなやり取りの結果、結局、送っていく事になってしまったんだ。
会話のネタに困るかと思っていたが・・・そんなことはなかった。
『どんな話していいか、分からないから困る』と満に言ったら、
『聞き流せ』と言った。
その時は変な顔をするしかなかったが、やがて、その意味が分かった。
駅から出ると細い路地の様な所へ入って行く。
優子さんはお喋りをしながら、右へ左へ。いや、よく喋る。
優子さんのお喋りに相槌を打ちながら・・・でも、実は道を覚えるのに必死。
１５分くらい歩いただろうか、『ここよ』と優子さんが言った。
「寄ってく？」
「いい」
首を横に振ると優子さんが言った。
「でも・・・不審者が家の中に入り込んでたら、どうする？」
絶句。そんな事言われたら、確認しないって訳には、いかないじゃないか。
『満に家まで無事に送り届けろ』と言われているし。
交換条件でゲームを借りる件もあるし。
「おじゃましま〜す」
今日は誰も居ないということだが・・・。
「ジュースくらい出すけど・・・その前に着替えてくるね」
そう言って二階へ行きかけた優子さんが、立ち止まった。
「部屋も・・・確認する？」
部屋？ここまできたら、何でもしてやる。
部屋を覗くと、予想通り、綺麗に片付いた部屋だった。
「大丈夫みたいだよ」
「でしょうね」
まあ、これで、『不審者がいない事まで確認したぞ』と満に報告出来る。
出してくれたジュースを飲み干した後、帰ろうとすると優子さんが言った。
「もう帰るの？」
「任務は完了したから」
「残念ね。そろそろ、妹が帰ってくるのに・・・」
何が残念なのか分からないが。
家の前に出ると優子さんが尋ねた。
「方向感覚は・・・あるほう？」
「え？・・・まあまあ」
「じゃあ、駅の方向は？」
「う〜ん、こっちの方かな？」
「じゃあ、何故、そっちへ行くの？」
確かに、反対方向に向かっている。
「何故って・・・道がないから？」
ここへ来るまで、路地をあっち、こっち・・・つまり、袋小路なんだろうと。
「こっちへ・・・３本目の道を右に行ったら、駅が見えるよ」
優子さんが反対方向を指差す。
「はあ？」
「あっ、それから・・・満君、家に入った事ないのよ。いつも、家の前で
帰ってしまうんだもの」
「・・・」
満に報告出来ないじゃないか。
「今日はありがとう。気持ちよくお話が出来たわ」
優子さんはニコッと笑った後、舌を出した。
見た目は、超が付く美人かもしれないが、こいつ、変態だ。
ゴールデンウィーク最後の休みのこと。
「キス・・・したいな・・・」
前置きもなく満がポツリと呟いた。
「はあ？」
「いや、付き合い始めてもう１ヶ月。未だ進展がないってのは、
おかしいだろう？そう思わないか？」
おかしいか、どうかは分からないが・・・やはり、おかしいのだろうか？
こっちだって、何もない。
「よ〜し、頑張るぞ！」
満が１人拳を握り締めて気合を入れている。
超美人の彼女のこと話したいだろうが、あえて、今まで聞かなかった。
が、最後の休みくらいは、ノロケ、聞いてやっても良いか。
借りたゲームも楽しかったし。
「それより、連休中はどうだった？」
「聞くまでもないだろう。毎日デートさ」
「へえ・・・」
やっぱりか。
「お前とな」
何？
「（僕の）家へ来ていない時はどうしてたんだよ」
「家でゴロゴロ」
今もそうだけどな。
「そこでだ」
「何がそこなんだよ」
「いいから聞け。折角、彼氏が出来たのに、家族との旅行があり、
その彼氏と電話すら出来ない」
そうだったのか・・・。
「だから、逢いたい。とか、申し訳ない・・・くらいは思っているだろうから・・・」
そうだろうか？
「来週末あたり、デートに誘うと、必ずＯＫが貰える・・・」
ホントかよ。
「・・・かな？」
疑問形かよ。
「なあ、優、どう思う？」
「旅行で疲れていて、どこへも出かけたくない」
そういうと、いきなり、胸座辺りを掴まれた。
「優、冷たいぞ」
知るか。
満は手を離すと、僕達の事を尋ねてきた。
「お前達の方は、どうなっているんだよ」
「別に・・・今まで通り・・・」
「な〜んだ、一緒なんじゃないか」
大きなお世話。早苗ちゃんも実家へ行っているなんて教えない。
プイッと横を向くと、満が手を合わせた。
「優〜、協力してくれ」
「協力？」
「そう、Ｗデートで」
「Ｗデート？」
少し、興味が出てきた。
満、待望の遊園地。
しかし、今日は、何か変だ。満が優子さんと並ばずに僕の横にいる。
昨日は、喜々として優子さんを送って行ったというのに・・・。
僕も今日は早苗ちゃんと並んで歩く程心臓強くないし・・・駅までは、
真ん中に満を挟んで歩いた。
今は、優子さんも早苗ちゃんと並んで歩き、小声で話をしていた。
キスとか、胸とか、平手打ちとか・・・胸にグサグサ突き刺さるような単語が
聞こえてくる。
『ええっ、キスしようとして、胸触ったの？そんな奴、平手打ちでも
してやれば良かったのに』
そんな会話がなされているんじゃないかと、もう、胸はドキドキしてる。
あれは、ただ、体を支えようとして・・・故意じゃない、信じてくれ。
早苗ちゃんには何度も謝ったし・・・早苗ちゃんは許してくれていると思う。
でも、女の子同士・・・今、本音の話をしているのでは？
限界。耐えられなくなった。ここは、満にでも聞いてもらって謝罪したい。
誰にでもいいから、謝罪したかった。
「満、実は、早苗ちゃんにキスしようとして失敗した」
「なに〜ぃ、何てことするんだ」
満が、突然、胸座を掴み、大きな声を出した。
満が、何故そんなに怒るんだと思った時、後ろを歩いていた２人の姿が
視界の端に入った。
２人は驚いた様な顔をして、こっちの方をじっと見つめていた。
「観覧車に乗りましょう」
優子さんが早苗ちゃんの手を引っ張ってさっさと歩いて行く。
「えっ、ちょっと」
僕達は、訳も分からず、その後を追っ掛けて行くだけだった。
挙句の果て、優子さんは早苗ちゃんの手を取って観覧車に乗り込んだ。
なんで・・・？
少し揺れる観覧車に、早苗ちゃんの手を取って乗り込むのは僕の役のはず。
しかし、今、観覧車に満と向かい合って座っている。
ここの観覧車は二人乗り。
優子さんと早苗の乗ったひとつ前の観覧車を見上げる。
係り員のお兄さんは、無表情で券をもいでいたが・・・どう思っただろう。
「ま、優さあ・・・ごめん、実は、俺も・・・」
「何が？」
頂上を過ぎた頃、満がやっと口を開いた。
「じ、実は・・・俺も、優子さんに・・・」
実は、満も同じ様な事をやっていたんだ。
「でも、触れるか触れないうちに、ビンタだぜ・・・ホントに触ったのかな・・・」
満が、少し落ち込んでいる。
ビンタか・・・優子さんらしい。と、思った。
それから、あれは満と優子さんの事だったのか・・・と、少し、ホッとした。
優子さんに知られた訳じゃないんだ。
が・・・それじゃあ、満が何故、あんなに怒るんだ？
そう思った時、すでに降りる準備をしなければいけなかった。
かごの外には、早苗ちゃんと優子さんが立っていた。
「次、乗りましょう」
優子さんが、満の腕を掴んで乗り場へ向かう。
何なんだ？もう一回？
早苗ちゃんを気遣いながら、２人の後を追いかける。
多分、大学生のアルバイトであろう係員は、さすがに変な顔をして
券をもいだ。
早苗ちゃんを先にかごに乗せ、続いて乗り込んで座る。
「何が、どうなっているんだろう？」
ポツリ、呟く様に早苗ちゃんに話しかけると、早苗ちゃんは俯いたまま
言った。
「ご、ごめんなさい」
「え？」
何が言いたいのか分からないが、この『ごめんなさい』は分からない。
しかし、とても、不安になった。
一緒に居るのに一緒に居ない、傍に居るのに傍に居ない不思議な感覚。
「こっちこそ、昨日は、ごめん」
静かな時間が流れる。観覧車の金属同士が擦れる音がするだけ。
１周すると、先程と同じ様に、満と優子さんが立っていた。
「ほら」
優子さんが満の肩を押す。
バツが悪いって顔の満が早苗ちゃんに小声で何かを囁いた。
優子さんが僕の腕を掴んで、２人の後に続いた。
多分、大学生でアルバイトであろう係員のお兄さんは、券をもぎりながら、
優子さんを見ていた。
かごに乗り込むと優子さんが言った。
「このかごって、ゴンドラとも言うんだっけ？」
「あ・・・そうかも・・・」
優子さんはニッコリと笑い掛けながら言った。
「まあ、こんなこともあるよ。気にしないことね」
「何が？」
「え・・・」
優子さんは少し驚きながら言った。
「早苗ちゃん、謝ってたでしょう？」
「あ・・・うん。『ごめんなさい』って・・・」
今度はため息をつきながら優子さんは言った。
「鈍い・・・」
「何が？」
今度はあきれたって様子で優子さんは言った。
「早い話、優君はフラレタって事」
「ああ、やっぱり・・・」
この一言で納得してしまったが・・・さっきの不安はこれだったのか・・・
優子さんは再び不思議そうに言った。
「悔しいとか悲しいとか、何かないの？」
「ああ、そうか・・・」
こうなった時の関係って考えていた様で考えてなかった。
「成る程・・・現実を受け止められないでいる訳か」
「はあ？」
そう言う優子さんだって、同じ立場じゃないの？
「そう言う優子さんは、フラレタのに意外に元気だね」
「誰がフラレタって？」
フラレタ者同士って感じで言ったら、憤慨した様子で優子さんが答える。
「フッタのは、こっち。優君とは立場が違う」
優子さん⇒満⇒早苗ちゃん⇒僕
頭の中で、ドミノ式に倒れて行く。
「えっ、えっ・・・それじゃあ・・・」
「ごめんね。私にも責任の一端があるかもしれないから、謝っておくね」
頂上を過ぎたかごと同じ様に気分も少しずつ下降して行く様な気がした。
「優子さんは、何時気が付いたの？」
「と、言うことは・・・分かってた訳だ、優君は。私の方は、付き合い始めて
すぐかな」
「・・・なのに、どうして？」
「決定的になったのは、さっきだけどね」
「・・・」
優子さん、速攻で動いた訳だ。
もう少し、ゆっくりでも良かったのに・・・。
収まる所に収まった。と、言えなくもないけど。
「それにしても・・・」
暫くして、優子さんが静かに口を開いた。。
「男の子って、どうして、女の子の胸触りたがるのかしら？」
優子さん、知って・・・
「あ、あれは・・・」
『違う、誤解だ』と叫ぼうとした時、もう、降りる準備をしなければ
いけなかった。
カゴから降りると満が頭を下げた。
「すまん、優」
面と向かって、謝られても困る。
「良いじゃない。友達までやめる訳じゃないから」
優子さんが、明るくサラッと言った。
まあ、そうなんだ、結局は、そういうことだ。
３人のグループだったのが、優子さんが加わって４人になったって事なんだ。
第１話 終了
