うわあっ、地震だ
かなり、大きな地震だ。
「かなり、揺れたなあ。きっと、ニュースになるなあ・・・震源地はどこだろう」
つい、独り言が口から出てしまう。
僕は、高藤慎之介。
今日は、休みを利用して、使われなくなった旧国道を歩いている。
昔は、なんとかっていう街道だった。
僕は、山道を歩くのが趣味って言うか、体も鍛えられるし、いい景色も見られるって言うか、
一挙両得と思ってる。
季節も、秋で、ちょっと肌寒いが、歩き廻るにはちょうどいい。
あれ？こんなところに洞窟がある。ふもとの案内所で貰ったパンフレットには
そんなことは書いてなかったはずだ。
ちょっと興味が湧いて、中を覗き込んでみた。奥のほうで、人影が動いた様に見えた。
あれ？洞窟に誰かいるよ。まさか、熊とかじゃないよな。
「あのォ、誰かいるんですか？」
恐る恐る声を出してみる。
「誰じゃ？」
ああ、よかった。熊じゃなかったよ。でも、なんでこんなところに人がいるんだろう？
「誰って・・・通りすがりの者ですけど・・・」
「狼藉者は退けたのか」
「は？あの、とりあえず、外には誰もいませんけど・・・」
「では、外に出てもよいのか？」
「え？いいと思いますけど・・・」
なんか、よくわかんないけど、いつまでも、こんな暗い所にいることもないと思うけど・・・
人影がゆっくりと洞窟の入り口の方へ、近づいてくると、だんだん容姿がはっきりしてくる。
背格好から見ると中学生くらいかなあ・・・へえ、着物なんか着込んじゃってる。
時代劇に出てくるお姫様みたいだ。
外へ出ると、まぶしそうにしている・・・何時からいたんだろう？
そのお姫様も、目が慣れたのか、こっちの容姿を確認したようだ。
あからさまに眉間にしわがよっていくのがわかる。いかにも、不快って感じが・・・
「無礼者っ」
「無礼者って・・・」
いきなり、なんなんだよ。こいつ。
「髷を斬られたような下賎の者と口をきくつもりはない。それに、その奇妙な着物はなんじゃ」
「下賎って・・・・あのね、今時、髷っていったら、お相撲さんぐらいだよ、髷結ってるのって。
それに、この服・・普通だと思うけどなあ・・・」
でも、僕って、そんなにセンス悪いかなあ？ちょっと、自信がなくなった。
でも、どっちかって言うと、今時そんな着物着てる方が・・・お正月でもないのに。
「・・・・」
「あの、聞いてる？」
「・・・・」
ホントに口をきくつもりがないらしい。
このお姫様、キョロキョロしてるけど・・・
ナンパされてるとでも思ったのかな？・・・行こうかな。
「じゃ、僕は行くね」
そう言った時だった。
キュ〜ウ、グルグルグル・・・
は？・・お腹の音・・・
「お腹・・・空いてるの？」
お姫様の顔が・・・見る見る赤くなってく。
確か、お昼のおにぎりが残ってたよな。
リュックの中から、おにぎりを取り出す。
「コンビニで買ったやつだけど」
「いらぬ」
そう言って、そっぽをむく。
もう、お腹空いてるくせに。
「人の好意は、素直に受けるものだよ」
「・・・・」
無理やり、手に握らせる。
お姫様、手の中にあるものを、珍しそうに見ている。
「・・・これは・・・食せるのか」
「え？・・・傷んではいないと思うけど・・・って、わっ、ちょっと待った」
ああ、びっくりした。このお姫様、目を瞑ったかと思ったら、いきなり齧りつくんだものなあ。
包装くらい取ってよ。包装くらい。
包装を取って、手渡す。
「おお、おにぎりではないか」
・・・なんだと、思ったの？
「う、美味じゃ、のりが、パリパリして・・・お紺がつくたおにぎりは、もっとべとべとしていたが・・・」
コンビニのおにぎりって食べたことないのかな？
なんか、こんなにおいしそうに食べられると・・・
「すまぬ。供のものが参ったら、礼を遣わす。そなたは、悪いものではないようだ。
山賊の類とは違うようだ。すまぬ」
山賊？・・・まあ、最近は、物騒になってきてるから・・・警戒してたのか・・・
それにしても、相変わらず、お姫様気取りだなあ。
「そなたの名は、なんと申す」
「え、ああ、僕は、高藤・・・高藤慎之介って言うんだ」
「高藤・・・苗字があるのか・・・」
お姫様、一瞬、びっくりしてた。
「そなたは・・・？」
？・・・それにしても、苗字？なんで、そんなこと・・・聞くんだ・・・
あれ？お姫様の胸のところにあるのって、もしかして・・・
「あ、あの、それ、本物？」
思わず、指差す。
「本物？・・・本物とは？これのことか？これは、父上から戴いた懐剣だが・・・
むっ、そなた、私にこれを使わせる気があるということか」
「いえ、ないです。ありません」
いきなり、短刀、抜こうとするんだもんな・・・物騒なお姫様だ。
「あ、それより、名前は、なんて言うの？」
「名か？・・・雪乃・・・家臣の者どもは、雪姫と呼んでいたが」
ははは・・・やっぱり、頭おかしいんだ？あんまり、係わり合いにならない方が・・・
「私は、いつまで待てばよいのじゃ・・・」
お姫様が、ポツリとつぶやいた。
な、なんか・・・
うわあっ、また、地震だ。
揺れがおさまって、お姫様の方を見ると・・・蹲ってる。
「大丈夫？雪乃ちゃん・・・二度も、地震なんて」
そう言って手を差し伸べると、一瞬、眉間にしわがよる。が、黙って、手をとって立ち上がった。
だって、姓のほうは言わなかったよ。雪姫様って呼べばよかったの？
「揺れたのは、初めてだったが」
立ち上がったお姫様は、ぽつりと言う。
初めて？・・・二度もあんなに大きく揺れたのに？
「あーっ、ど、洞窟が、洞窟がない！」
今まで、目の前にあった洞窟が消えてる・・・
「たしかに、なくなっている・・・これはどういうことであろう？」
ちょっとォ、落ち着いてる場合じゃないでしょ・・・って、こういう時こそ、落ち着かないと
いけないのか。
・・・・
と、いうことは・・・
「もしかして、本物のお姫様なの？」
「先ほどから申しておるであろう」
あれ？そうすると、俺が、お姫様を洞窟から連れ出したばかりに・・・
お姫様を元の時代に戻れなくした？
・・・え、俺の責任？・・・げっ、もしかして、歴史が変わる？え〜っ
プロローグ 終了
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