歴史が変わる・・・ああ、どうしたらいいんだ・・・

今更、焦っても仕方ないんだけど・・・

何とか、お姫様を元の時代へ戻す方法を考えないとなあ。

「私は・・・神隠しにあったのか」

遠くを見ながら、ポツリと呟く。

「え?」

その寂しげな声に、一瞬、ドキッとする。背を向けているいるので、表情は伺い知れないが・・・

自分の責任だけを考えて、雪乃ちゃん自身のことを思いやれなかった自分が

少し恥ずかしかった。

「神隠しの話は聞いたことがあったが、たわごとだと思っていた・・・

洞窟を出た時、なんとなく、空の色が違うと思ったが・・・」

空の色?

「今の場合は、たぶん、タイムスリップって言うんだと思うけど・・・」

「たいむすりっぷ?」

「時空を・・・あ、つまり、過去とか未来へ行っちゃうこと。今の場合は未来へ来たんだと・・・」

「未来か・・・・いまは、どんな世になってる?」

「科学とか医学とか発達して・・・」

「身分とかは・・・?」

「身分って、あの、士農工商ってやつ?・・・今は、みんな平等だよ」

「平等・・・そ、そうですか・・・身分のせいで・・・いや、ちょっと、気になったものですから・・・」

そう言った雪乃ちゃんは、黙って考え込み始めた。

そして、しばらくして、心細げに口を開いた。

「私は、どうすればよいのであろう・・・」

「え、あ、あの、家へ来て・・・狭いかもしれないけど・・・僕の責任でもあるし」

お城に住んでたんだよなあ・・・大抵の家は狭いよなあ・・・

「よいのですか?」

ちょっと、明るい、嬉しそうな声にほっとしながら、答える。

「うん、部屋は、空いてるから・・・」

「雑作をおかけします」

「早く戻った方がいいよね。今、来た道なら30分ほどで、ふもとまで行けるから」

元来た道を歩き始める。

「慎之介様、もうすこし、ゆっくり歩いてくださいませんか」

「はい?今、なんて」

「もう少し、ゆっくりと歩いてください。慎之介様」

そ、そうか、お姫様・・・雪乃ちゃん、ぞうりだった

「でも、その”様”ってなに?」

「もう、身分等ないのでしょう。それに、殿方を呼び捨てになど・・・」

「・・・でも、なんか口調も変わってない?」

「先ほどの言葉使いは、家臣から、威厳を保った話し方をするようにと・・・これがいつもの私です」

話がややこしくなりそうなので追求するのはやめよう。

「さっきも言ったとおり、平等なんだからさ・・・あ、男女もね。だから、そんなに・・・」

「そうですか・・・でも、これは私の問題です・・・慎之介様、雑作のかけついでに、

手を引いてくださいませぬか?」

がくっ・・・言っても無駄って事か。じゃあ、僕は何て呼べばいいのかな?

平等だって、主張したもんなあ・・・。

「はい、雪乃ちゃん」

手を差し出す。中学生くらいなんだから、こんなもんでいいよな。

歩きながら、電車とか、自動車とか説明する。その場で騒がれても困るし。

思いつくことは出来るだけ話しておく。

案内所までは、1時間かかってしまった。まあ、仕方ないだろうなあ。

リュックを担いだ俺と、着物のお姫様・・・一体、どんな風に、見えてるんだろう?


説明はしておいたが、やっぱりというか、電車に乗ってる間、しっかり手を握られていた。

駅から、家の方へ向かって歩く。

やはり、ものめずらしいのか、キョロキョロしている。

お姫様ともなると、こんなに歩くことってなかったんだろうなあ。

結構、疲れてるんだろうなあと思っていると、聞きなれた声がした。

「あれぇ、クレヨン高藤じゃない?」

う、嫌なのにあったなあ・・・こいつ、同じクラスの柴田彩音。

何かにつけて、突っ掛ってくるんだ・・・僕にとっては、嫌なやつ。

「誰よ、その子?手なんか繋いじゃって」

「親戚の子さ」

まあ、こう言っておいた方が無難だろう・・・

「慎之介様、この方は?」

「慎之介様あ?」

こんなやつなんだよ。でも、無視、無視。

「あ、こいつは、同じ学校のクラスメートの柴田彩音・・さん・・・あ、学友でわかる?」

「こ、こいつって、何よっ」

無視、無視。

「あ、ええ・・・雪乃です。お見知りおきください」

雪乃が丁寧にお辞儀をしている。

「え、あ、こちらこそ」

つられて、同じようにお辞儀してる。

「雪乃が疲れているから、もう行くからな」

「彩音様、失礼致します」

再び、丁寧にお辞儀をしている。

「あ」

また、つられて、同じようにお辞儀してる。意外と面白いやつなのかも。

柴田彩音は、歩いていく俺達をずっと見送っていたようだった。


「慎之介様、先ほどの話し方が、今風なのですか?」

う、嫌なやつだから、素っ気ない話し方だったとは言えないよな

「あ、ま、同じ歳だからね」

「親しいと・・・いうことですか?」

「あ、それほど親しいとは・・・」

「そうなのですか・・・」

話し方が気になるのだろうか・・・今までは、身分の上下っていうのもあったろうからなあ

さて、家の前まで来たけど・・・よく考えたら、どう説明したらいいのか。

タイムスリップとか言わない方がいいよなあ・・・どうせ、信じないだろうしなあ。

「慎之介様?」

雪乃が心配そうな顔で見ている。

「あ、ここなんだけど・・・疲れたろう、遠慮せずに、入って」

玄関の戸を開ける。

「ただいまあ」

ちょっと、憂鬱・・・。


第1話 終了




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第1話

雪姫様っ