「み、瑞希ネエ・・・ま、まだ、かかるの？」
あれだけ、嫌がってたのに、いざ、売り場に来ると・・・何時間ここにいるんだろう。
開店した時からだから・・・２時間くらいか
黙っていたら、昼食も抜きなんてことになりそうだ。
雪乃ちゃんも、最初は珍しがって、騒いでいたけれど、結構、疲れているみたいだし。
「ねえ、瑞希ネエったら・・・」
「うるさいわね。男が、みっともないわよ」
「みっともないって・・・で、でも、雪乃ちゃんも、疲れてるみたいだし、休憩しない？
・・・そろそろ、お昼だし」
瑞希ネエが、マネキンの下でしゃがみ込んでいる雪乃を見つける。
「こっちのほうがみっともないわね。スポンサーがそう言うならそうしましょう」
スポンサーって？・・・ま、まるで・・・
「ハイエナの瑞希様って言えば、猫だって避けて通るからね」
瑞希ネエ・・・じ、自分で言わないでよお。
「此処って、こんなところもあるんですかあ」
「お昼も食べちゃいましょう。スポンサーもいるし」
「すぽんさあですか？」
ホ、ホントに、払わせる気？・・・ホントにハイエナ・・・
「スポンサーって言うのは、慎之介のことよ」
「慎之介様も呼び名が色々あるんですね。お姉様と同じように・・・」
「え？私が？」
「ええ、はいえなとか・・・ところで、はいえなって何ですか？」
「気にしないで、何にするか、早く、選びなさい」
「は、はいっ」
雪乃ちゃん、瑞希ネエの話聞いていたんだ。
思わず、にんまりすると・・・瑞希ネエがこっちを見ていた。
おっと、危ない。瑞希ネエに見られると何言われるか、わかったもんじゃない・・・
・・・
「こーゆー所へ来た時は、デザートも頼むものなのよ」
「ち、ちょっと、み、瑞希ネエ・・・」
「でざあとですか？」
「そう、デザート。うん」
瑞希ネエがメニューを開いている。
「これなんか、どう？スペシャルジャンボパフェ」
「これ・・・なんですか？雪と泥が交じり合ったような・・・」
「へっ・・・雪乃ちゃん、知らないの？」
瑞希ネエが雪乃ちゃんから、視線をこっちに移しまじまじと見る。
「牢獄に閉じ込められていたお姫様をさらって来たってところか・・・
うん、これ、頼みましょう。いいわね、慎之介」
とか、言いながら、返事を聞く前に、ウェートレス呼んでるし・・・。
「え、慎之介も、頼むの？・・・え、コーラ？・・・じゃ、コーラも」
「慎之介様・・・何か悪い事したんですか？」
「え？」
「お姉さまに、こらって・・・」
「あ、あのね・・・」
今時、駄洒落にもならないよ、それ。
「お待たせしました」
ウェートレスが、ちょうど、コーラを持って来てくれた。
「これが、コーラって言う飲み物なの・・・飲んでみる」
「ええ・・・う、これ大丈夫ですか？お醤油みたいな色してますけど・・・」
「お醤油じゃないよ」
雪乃ちゃんが、恐る恐るコーラを一口、口に含む・・・見る見るうちに表情が歪む。
「やっぱり、これ、危ないです。毒です。舌は痺れるし、喉もヒリヒリします」
「くっくく・・・雪乃ちゃん見てると、退屈しないわあ」
「ま、まさか、なんとかぱふぇとか言うものも、こんな味なんですか」
・・・
「う〜、満腹・・・」
「とっても、美味しかったです」
満足そうに雪乃ちゃんが笑顔を見せる。
「よし、おやつの時間までもうひと頑張り・・・スポンサーがいると
心強いわ・・・余裕の笑顔もあったしね」
え、３時のお茶代も出させる気？
・・・やっぱり、さっきの見られてた？
伝票を握り締めながら、ぞっとした。
「つ、疲れたあ〜」
「お帰りなさい・・・」
家に着いた時は、すっかり暗くなってた。
瑞希ネエったら、どさくさに紛れて、自分のも買ってるし。
２年分くらいのお小遣いが飛んでったぞ。
母さんからは特別にお金貰ったし・・・でも、これで、春先まで、大丈夫だな。
翌日からは、雪乃ちゃんに色々教えるために奔走・・・。
うちの場合は、古い日本家屋だから・・・和室が多いし、雪乃ちゃんにとって
あまり違和感がないかもしれないが、日常生活に不便のないように・・・。
つ、疲れる〜・・・。
ほんとに疲れたので、このときの話は機会があるときに・・・。
母さんは、何も知らない雪乃ちゃんを見て、同情したのか、色々
世話を焼いてくれる。
瑞希ネエは仲良くしてくれてるみたいだし・・・ひとまず安心。
後は、父さんだな・・・。
父さんは、地方の私立の学校を経営してる。
ちなみに、俺と瑞希ネエも通っているだけどね。
いわゆる、理事長ってやつで・・・数年前から、大学部を設立しようと画策してるみたいだ。
そのために出張・・・で、今日戻ってくるらしい
雪乃ちゃんのことをどう切り出したら良いか・・・思案中。
気持ちを落ち着けるため、散歩に出た。
歩いていると、ちょっと、落ち着く。
本当のことなんか言っても信じてもらえないだろうし・・・
その辺は誤魔化すしかないか・・・
「・・・」
いい考えなんて、浮かばない。
あ、いけない。陽が没しかけている。
家に戻ると、母さんが言った。
「お父さん、部屋で待ってるわよ」
覚悟を決めて、ドアをノックし、部屋へ入る。
「で、お前は、どうしたいんだ」
いきなり、こんな言葉を言われて、途惑った。
すでに話はついているかのようだ。
実際、母さんと瑞希ネエに攻められて、折れた後だったようだ。
細かい話をしないで済むなら、とても楽だ。
「どうしたいかって・・・」
どうしたかったんだろう・・・そうだ、雪乃ちゃんに今を、今を知って欲しい
「まず、学校に・・・普通の子と同じ様に学校に・・・」
「普通？・・・どういう娘なんだ」
「それは・・・」
「まあいい。だが、お前の相手は、もう決まっているからな」
「はい？」
「相手は決まっていると言っているんだ」
「相手って、どういうこと」
「結婚相手だ」
なんだそれ・・・とは、思ったけど・・・以外に冷静な自分に驚いた。
「それって、政略結婚」
「何を言っているんだ。お前にふさわしい相手を探したんだ」
「ふ〜ん、で、誰？・・・」
「同じクラスにしてあったと思うが・・・おしとやかで、綺麗なお嬢さんだ」
「へっ、同じクラス？・・・名、名前は」
「名前か・・・まあいいだろう・・・柴田さんのところのお嬢さんだ」
柴田？
一瞬、彩音の顔が浮かんだが、即、否定。
なんて言ったって、おしとやかって言うんだから。
「お前が１８になるまでは、まだ公表しないと言う事になっている・・・」
おしとやかで、綺麗・・・
おしとやかっていうんなら、目立たない子かも知れない
「このことは、まだ内緒なんだから、誰にも言うなよ・・・母さんにもな」
「・・・その、相手は知ってるの？」
「まだ、知らされてはいないだろう」
「・・・」
まあ、まだ、２年も先のことだし、今は、雪乃ちゃんのことが優先だ。
でも、同じクラス・・・どんな子だろう・・・ちょっと、気になるな。
「そうだな・・・来週から、編入ということでいいな」
「来週・・・」
雪乃ちゃん・・・来週から中学生か・・・。
「母さんとその子を呼んで来てくれ」
久しぶりの学校。
連休と、数日休んだだけなんだけどね。
「慎、久しぶりだな。風邪でもひいてたんか？」
「あ、ちょっと・・・風邪」
「ほら、俺の勝ちだ」
「ちぇっ」
「なんだ？」
「慎がズル休みかどうかどうか、賭けてたんだ」
「人を賭けの対象に・・・あ、それよりも、このクラスに柴田さんって
いたっけ？あの彩音の他にだぞ」
「あ・・・そういえば、長期欠席してるのって、柴田さんじゃなかったか？」
「そういえば・・・そうだな」
「体弱いのか？」
「そうらしいな。４月にちょっとだけ来て、後は、休学同然だからな」
「薄情なやつらだな・・・見舞いとか行かないのか？」
「なんだよ。突然」
「大体お前だって、知らなかったじゃないか」
「あ、いや、ま・・・そ、そうだな」
「どこかで、療養中って言ってたかな」
「はあ、そうなのか」
空席になっている机の方をなんとなく眺める。
・・・俺って、こんなに他人に興味なかったんだ・・・
「あら、慎之介様ぁ。ズル休みは終わりですかあ？」
げっ、柴田彩音。
「「慎之介様？」」
ふたりが顔を見合わせる。
「う、うるさい。ちょっと、風邪をひいてただけだ」
第４話 終了
★ NOVEL TOP ★ ＢＡＣＫ ★ ＮＥＸＴ ★