住み慣れた晴香の家・・・ガラスが入ったリビングの戸を開け、お母さんに声を掛ける。

「あのォ」

「晴香、遅かったじゃない。どこ行ってたの」

「あ、ごめんなさい。遅くなりましたっ」

慌てて、頭を下げる。

「え・・・もしかして、孝ちゃん?」

「は、はい・・・また、宜しくお願いします」

「また、替わっちゃったんだ・・・あ、おかえりなさい」

こうして、晴香としての生活が再び始まった。


「さ、入って。もう、1週間寂しかったわよ」

「え、あ、あの」

お母さんが、戸のところまで来て、手を引張って部屋の中へ導き入れ、椅子に座らせてくれる。

この反応は何?・・・晴香、一体どんな生活してたんだろう・・・

晴香も、思いっきり羽を伸ばしたのかもしれないなあ・・・

俺も、怠惰な生活ってのを堪能したからなあ・・・

晴香も、俺の家では、やっぱり、気を使ってたんだろうなあ・・・

そこへ、裕香お姉さんが入ってきた。

「あ、晴香、おかえり」

「あ、裕香お姉ちゃん、ただいま」

「え、お姉ちゃん?・・・あ、素直な方の晴香だぁ」

ぶっきらぼうな声が、うれしそうな声に変わる。

「え?」

「また、ピアノ弾いてくれるよね」

「は、はい」

晴香・・・羽伸ばし過ぎって感じが・・・しないでも・・・

お母さんがキッチンの方へ行ったので、声を掛ける。

「あ、なんか手伝いましょうか」

「今日ぐらい、ゆっくりしなさい」

「は、はい」

明日から、またお手伝いの日々・・・って、この3ヶ月で、お手伝いも結構慣れたんだよ。

1週間、ちょっと、休憩させてもらったと思えば・・・



「なんか、凄い御馳走じゃない、お母さん。何かあったの?」

た、確かに、裕香お姉さんの言うとおり・・・

「ちょっとね・・・晴香も、替わるなら、先に言ってくれれば、もうちょっと、出来たのにね」

あのォ・・・歓迎会ってことですか?先にって言われても・・・替わりたくて替わったわけじゃあ・・・

「え?晴香がどうかしたの?」

「え、裕香の成人式のお祝いの前倒しよ」

お母さんが、舌を出している。いいんだろうか・・・

「え〜、そうなの?ちょっと、早過ぎない」

「裕香も、晴香に何か弾いて貰うんでしょ」

「それは、もちろん・・・そのつもりなんだけど」

裕香お姉さんが、チラッとこっちを見たので、慌てて頷いた。

そ、そうか、裕香お姉さん、成人式か


夕食後、裕香お姉さんにピアノを弾かされる。

なんか、日常が戻ってきたみたい・・・

でも、晴香って、すごい・・・自分の身体に戻ったとき、ピアノを弾いてみたけど、

こんなに指動かなかった。

1曲はこなせても、後は指がつって・・・あの身体で、あれだけ弾けるなんて・・・すごいよ


珍しく、裕香お姉さんが数曲で解放してくれる・・・なにか良いことでもあったのかしら?



1週間ぶりの晴香の部屋

相変わらず、片付いてる。

また、宜しくっ・・・思わず、部屋に挨拶しちゃった。

机の上をふと見ると、箱がおいてある。・・・お菓子箱くらいの大きさの・・・

ふたを開けると・・・日記と眼鏡が入っていた。日記は鍵付きのだけど。

そうか・・・この間、晴香に言われて持ってきたんだっけ・・・

中に何が書かれているか、ちょっと、興味はあるけど・・・鍵ついてるし、見ちゃだめだよね。

日記なんかつける習慣無かったけど・・・年末に、お母さんが買ってくれた。

結局、それは、机の引き出しに入ったままなんだけど・・・

「明日、晴香に日記帳持って行かないと・・・」

つい、独り言が口から出てしまう・・・

眼鏡は・・・机の引き出しにでも入れておけばいいか・・・

買ってもらった日記の横へ、眼鏡を置く。

かわりに日記を取り出し、開いてみる・・・やっぱり、真っ白だよな・・・

え〜と、今日は、何があったんだっけ・・・

朝起きたときは、元の身体だったんだよな・・・はあ〜っ

それから、電車で晴香と・・・あ、駅で、切符探させられたっけ・・・強引な女の子だったなあ

・・・へへへ、やっぱり、晴香の方が可愛いや・・・

それから、学校行って・・・そうだ、言葉使いでコースケたちにめちゃくちゃ馬鹿にされたっけ・・・

で、始業式があって・・・放課になって、帰ろうかと思ったら、晴香が来たんだよな

生徒会の新年の挨拶だって・・・それから・・・

あ〜〜、忘れてた・・・先輩が、晴香を次期副会長にしたいって、どうしても、

初代女子生徒会長にしたいって言って、それで、私に、補佐やれって・・・

補佐なんか、できっこないのに・・・

どうして、この学校、女子の生徒会長いなかったんだよ・・・とんだ、とばちりだよ・・・

身体が入れ替わっちゃって、晴香に話すのすっかり忘れてた・・・

・・・

ん?・・・待てよ・・・身体入れ替わっちゃったってことは・・・じょ、冗談じゃないぞ・・・

絶対、ヤダ・・・でも、晴香がやりたいって言ったら・・・うう・・・あ、でも、4月までに

元に戻れれば・・・今回だって戻れたんだし・・・1週間だけだったけど・・・

・・・

そ、そうだ・・・キスで戻れなかったんだよ・・・どうやったら・・・戻れるのかなあ・・・

晴香ったら、ドサクサに紛れて、2度も・・・

・・・もう少し、優しくしてくれても・・・わああ、何考えてるんだよ・・・

・・・

何これ?・・・何書いてあるんだか、さっぱり・・・自分で読んでも全然わからないのに、

他の人が読んでもわからないじゃないか・・・あ、自分しか読まないんだよな・・・日記って

・・・やっぱり、日記書くってむいてないや・・・

とにかく、おやすみっ



第1話 終了




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第1話
孝司と晴香シリーズ