どうしようかしら・・・。
朝、話してた通り、進路調査の用紙が配られた。
『希望の進路を書いて、交換して出そう・・・』
孝には、そんな風に言ったけど・・・そんなに簡単に戻れそうになさそうだし・・・
孝と漫才やってるわけにもいかないし・・・それはそれで、面白いけどね
「お〜い、コージ・・・」
え？
中原君が、教室の入り口のところで、両手を使って、シュートする真似をしている。
バスケットやろうって誘いに来たようだ。
考えていても仕方ないし、体でも動かそう・・・
・・・
お正月、また、体が入れ替わって孝の家に帰った時、ちょっとドキドキしながら、扉を開けた。
「母さん、ただいま・・・ああ、疲れたぁ」
いつも通りの態度で振舞う・・・つもりで・・・
「あら、お帰りなさい。孝ちゃん・・・やっと、戻ったようね」
「えっ」
一瞬、ドキリとした
「言葉使いと仕草よ・・・女の子の真似して・・・ちょっと、気持ち悪かったわよ」
「・・・」
孝ったら、切り替えがちゃんと出来てなかったんだ・・・もう、ホント、仕方がないな・・・
そう言えば、今日も、教室で中原君達にからかわれていたっけ・・・
孝らしいと言えば、その通りなんだけど・・・
そんなことより、戻る方法を考えないと・・・前に、キスで戻れたのは偶然なのかな？
・・・医学・・・じゃ、ないな・・・精神的な・・・心の問題かもしれない・・・
あっ、そう言えば、裕香の成人式もすぐだっけ・・・プレゼント考えないと・・・
やらなければいけないことは・・・いっぱいある・・・
なんて、思ってるうちに風邪をひいちゃったんだ・・・
・・・
ボカッ☆
「痛っ」
「コージ、何、ボケッとしてんだよ・・・大丈夫か？」
「ううっ・・・・・・あ・・・ああ、大丈夫だ」
ちょっと、考え事してたら、ボールが頭に直撃・・・目から、星が出ちゃった。
そう云えば、前にもあった・・・前は、孝が庇ってくれたんだっけ・・・
孝が突き指して・・・そんなことを思い出したら、目が孝の姿を探していた。
そうだった、今日は、先生に仕事言われて・・・
姿が見えないと、ちょっと、寂しい・・・
ふふっ・・・やっぱり、孝って、不思議な存在ね・・・
「コージ、本当に大丈夫か？」
「？」
「突然、笑い出すから・・・打ち所が悪かったのかと」
むっ
「ボール、イタダキッ・・・」
「えっ・・・あ、コージ、ずるいぞっ」
「ハイッ・・・シュ〜〜ト」
「コースケ、何やってるんだよ」
ふ〜っ
風邪ひいた時、孝が来てくれて、嬉しかった。あの時は、ちょっと不安だったもの。
料理とか・・・色々、世話焼いてくれて・・・あ、裕香のプレゼントの刺繍もやってくれて
結構、器用なんだよね・・・あっ、知らず知らずの内に、孝を頼りにしてるんだ・・・
そうそう、孝ったら、料理とかも、テキパキと作って見せたようだから・・・
孝の母さんたら、『何処であんな娘見つけてきたの？アンタにしちゃぁ、出来すぎじゃないの』って
根掘り葉掘りの事情聴取・・・
ふふっ・・・あの時は、ちょっと、くすぐったかったかな・・・
「お、おい、コージの奴、また一人で笑ってるぞ」
「直撃受けて、壊れちまったかな？」
「そうだな・・・今日は、もう、やめるかあ」
うっ、なんか、背筋がゾクッってしたぞ・・・
後ろを振り向くと・・・上のフロアに大野木さんの姿・・・
大野木さんがこっちを見ていたのか・・・苦手だな・・・なんか・・・
あんな強引な娘、初めて・・・そりゃあ、私も孝に対しては、多少強引な処は
あるけど・・・あ、たまに・・・だよ、たまに・・・でも、いいのよ。本人が喜んでるんだから。
「コージ、今日はもうやめるぞ。彼女も迎えに来たみたいだしな」
「え？」
孝が、体育館の入り口のところで、小さく手を振っていた。
「・・・」
仕草が可愛いじゃない・・・私だと、ギクシャクして、とてもあんな風にはいかない・・・
ああいうのを見ると思いっきり抱きしめてみたくもあるけど、いじめてみたくもなっちゃう。
・・・いけないと思いながら、ついつい、孝をいじめてしまう。
あのシュンとした可愛い顔が見たくて・・・
「孝、一緒に帰ろうか？」
「うん」
この嬉しそうな顔を見るのもいいけどね・・・
教室へ戻ると、孝が鞄からタオルを出して、渡してくれる。
「風邪・・・ひかない様にね」
「・・・サンキュ」
私専用のタオルらしい・・・孝、ホント、出来過ぎ・・・
それとも、男の子の方が、気がつくの？
結婚式のお手伝い・・・
力仕事って聞いていたけど、どっちかって言うと暇なくらい。
理君が除雪とか、ほとんど済ませてしまっていたから・・・することなくて・・・
「慣れていますから」
なんて、にっこり微笑むところを見せられて・・・
「可愛いっ」
って、孝も思わず、呟いてたもの・・・頷けるけど・・・その後、私の顔を見て、
「でも、晴香が一番だよ」
って・・・そこまで、気を使わなくてもいいのに・・・私も、そう思ったもの。
でも、孝の巫女さんも・・・可愛かった・・・踊り？も上手に踊っていたようだし・・・
水都さんから、式を挙げたふたりが、私達みたいに名前を交換して呼び合っているって
聞いたときは、ショックだった。
さすがに確認までは出来なかったけど・・・・・・ま、まさかね・・・
その時は、そんなことを考えてしまったけど・・・ありえっこないよね、そんなこと。
花嫁さん・・・綺麗だったな・・・手を引いている花婿さんも、カッコ良かった。
・・・いつか・・・
でも、本当に、あの神社が・・・神様が、係わっているんだとしたら・・・
ジンクスなんて、本当にあるんだろうか・・・
本当にそうなら、今回のことは、私が原因だってことになる。
「・・・」
あ、前に入れ替わったのも、やっぱり、私が原因？
冗談・・・孝に、嫌われちゃう？かもしれない。
孝には、絶対に、言えない・・・お正月にあの神社でお願いしたことは・・・
ああ、自分が嫌っ・・・
「孝、久しぶりに、お好み焼き食べない？奢っちゃう」
「え、本当？」
後ろめたいことがあるせいか、つい・・・孝に甘く・・・
あのことを思うと、落ち込んじゃうし・・・
孝も気にしているみたい。
気をつけようと思っていても・・・はあ〜っ
「コージ・・・お前、大野木さんにも気に入られているのか？」
中原君の言葉に、一瞬、びっくり。
「え・・・俺、なんとなく苦手なんだ・・・」
「へええ、大野木さんを・・・」
トールが不思議がっている。
「トールは気づかなかったか・・・コージのこと、チラチラ見てるの」
「全然・・・でも、大野木さんて、男子にかなり人気あるらしいぜ」
ふたりが、こっちを覗く様に見る。
「ふ〜ん・・・」
「ふ〜んって・・・コージはいいよな。可愛い彼女いるしな・・・」
「白石さんだろ・・・可愛いよな・・・コージ、どうやって、彼女にしたの？」
「え・・・ト、トールだって付き合っている彼女いるじゃないか」
「う・・・」
「そーなんだよ・・・コージも、トールも、いつの間にか、くっついちゃって・・・
彼女いないのは、俺だけか。ちぇっ」
「でも、白石さん、すごく可愛くなった」
「うん、なったなった」
山田君の言葉に、中原君が、即、同意する。
「そ、そうなんだよ・・・ベースが一緒とは思えないんだ・・・」
「ベース？なんだそりゃ」
「あ、いや、なんでもない」
綺麗な彼女がいるって言われるのは・・・悪くない。
元々、騒がれるのは好きじゃないけど・・・孝の話をされるのは・・・悪くない。
いや、むしろ、嬉しい・・・心地よいかも・・・。
でも、なぜ、私を選んでくれたのか、ちょっとした疑問・・・自分の元の体だったから？
ううん、孝は、表面だけを見ているわけじゃない・・・心を見ていてくれるから・・・
そう思ってしまうのは、私の自惚れ？なのかな・・・
孝は、最近、戻りたいって言わなくなった。
戻りたいんでしょうって聞いたら、遠慮がちに、うんって言うけど・・・
私に気を使っているのかも知れない。でも、そればかりでないと思うのも、やはり・・・
自分で解決できないことが多くなってきているみたいだ。
どうすれば・・・
進路調査のことだって・・・
ちょっと、賭けをしてみることにした。
孝には、いつ戻れるか分からないから、それぞれの希望を書こうって話をして・・・
きっと、孝は、去年と同じ理系って書いて提出するだろう。
中原君が理系にするんだろう？って言ってたもの
私も、孝と同じ理系を希望したいけど・・・文系って書いてみよう。
孝と離れるのは、辛いけど・・・あの神社のジンクスはどうしても打ち破っておきたい。
・・・
私だって、孝と変わりはない・・・将来、何になりたいか・・・なんて、考えていないもの。
本当なら、孝と、ずっと一緒にいたいと思うだけ・・・
あれ、私って、意外と一途だったんだ・・・
けれど・・・今は・・・今は・・・自分の罪でないことだけを・・・確かめたい
孝ったら、今日も合唱部でピアノの伴奏？
合唱部も３年生を送る為の練習を始めたらしい・・・
「そーゆーのは、はる・・・日高君の方が上手なんだよっ」
「いーのっ、その方が歌の下手なのが目立たないから・・・晴香、友達でしょ」
って、水都さんに引っ張って行かれたけど・・・
「はるかぁ〜、先に帰らないで待っててよォ」
そうして、私は、孝を待っている。・・・いつもの様に、本を開きながら・・・。
こんな時間も嫌いではないが、以前とは違う。
待つっていう、ワクワク感みたいな何かがある・・・
この時間は・・・自分自身で終わらせるんじゃないんだっていう・・・
今日は、どんな言葉を掛けて来るんだろう・・・
・・・もし、『先に帰ってもいいよ』なんて言われたら・・・
あ、帰って来たみたいだ・・・
「はるかぁ〜、酷いんだよ。歌の練習なのか、私を扱いているのか・・・晴香、どっちだと思う？」
「後者・・・でしょ」
「ううっ・・・やっぱりぃ・・・」
「孝・・・伴奏って、苦手みたいね」
「そうなんだ・・・なんでだろう・・・」
「晴香ぁ、ちゃんと、練習して来るのよぉ」
教室に、水都さんの声が響く・・・
「わかってるぅ・・・晴香、早く帰ろう。宿題が増えないうちに」
きっと、この後、家まで引っ張れて行かれて・・・『晴香、ここ教えて』が始まる・・・
・・・それも、悪くはない・・・
孝は、最近、花梨ちゃんの恋を手伝ってる。
クリスマスの失敗を取り戻すんだとか言って・・・
今も、ふたりでチョコを作っているけど・・・仲のいいところはあまり見ていたくない。
ああ、後悔。
後悔先に立たずって名言だな・・・なんて思ってしまう私は、孝の影響を受けているんだろうな・・・
やっぱり、理系って書けばよかった・・・神様なんて、信じなければいいだけじゃない。
・・・はあっ〜、溜息。
あっと、気をつけないと・・・孝がまたどうしたのって、心配する・・・
「義理チョコじゃないよ」って、孝がチョコレートをくれた。
ホントは嬉しかったけど・・・恥ずかしくて・・・
「他の子に渡したらぶっ飛ばすわよ」なんて、言っちゃった。
孝も、少し軽いところあるから・・・あのくらい言っておかないと危ないかもしれない。
でも、孝、すっかり、女の子してるんだ・・・。
「一応、男の子だから・・・」って、お母さんも板チョコくれたけど
こっちは、義理もいいとこ・・・一応って何よ。
意外なのが、裕香・・・
「かっこいい子にはあげるね」って・・・妹のボーイフレンド？に、何考えてるのよ。
私も、しっかり、貰ったけど・・・本命、義理は別にして、ある程度の数は確保したいし・・・
あれ？私も、すっかり、男の子している。
お正月に、孝が、食事作ったり、成人式のお祝いをあげたりしてたから・・・
本当に義理でくれたんだろうけど・・・
「日高君のおかげね。日高君と付き合うようになってから、晴香もすご〜く、
女らしくなったのよ」って・・・この、一言が余分。
『すご〜く』って、そんなに強調しなくってもいいじゃないって思うけど・・・裕香めっ。
でも、孝も、何も考えていないわけではない。
そう、いつの間にか、手話まで齧ってるし・・・油断も隙もない・・・
あれ？なんか、違う話になってしまった様な・・・
コホン・・・生徒会の作業でも、どうしたら良いかなって聞くと何か考えてくれる。
私なら、絶対、思いつかないことを。
本当なら・・・男の子だったら、もっと・・・って、つい考えてしまう。
私だって、女の時には出来なかったことも、男の子になった今なら、出来ることが多くある。
孝だって、そうに違いない。
それにしても、今日は、思いっきり待たせてない？お天気も悪そうなのに・・・
何やってるんだろう・・・と思ってたら、やっと、帰って来た。
「孝、先に行くわよ」
「ちょっと、晴香、待ってよ」
こんな風に焦った孝の声聞くのも、心地いい・・・
ギクッ
・・・大野木さん・・・彼女は、今まで回りにいた子たちとは違う・・・。
風邪をひいている時に、あちこち連れ回されたから、体が覚えているのかもしれないけど・・・
何か、怖い。
孝とは、正反対で・・・でも、私の中にもある・・・何かが・・・
「晴香、何か言われたの？」
「・・・」
孝も気にはしているみたいだけど・・・あまり考えないようにしよう。
ん・・・あ、雨の匂いがする・・・雨、やっぱり、降ってくるのかなあ・・・
雨か・・・雨って嫌いじゃない。私自身を変えるきっかけを作ってくれたんだもの・・・
人って、近づいて、接してみないと分からないって・・・
孝が教えてくれたんだけど・・・初めは、孝の事を好きになるなんて思ってもいなかった。
そう、実際、クラスの問題児の一人としかみていなかった。孝、ごめん・・・
同じクラスになって、自己紹介みたいなのをしたけど・・・孝の自己紹介は覚えていない。
男子のはほとんど覚えていないけど・・・しっかりした話し方をするなあって思って
聞いていた数人を除いて・・・だけどね。
入れ替わって生活するようになって分かったんだけど・・・孝のあの性格は環境によるものね。
孝の母さんの口癖が『他人の気持ちをもっと考えなさい』だもの
孝も、ずっと言われ続けてきたんだろうなあ・・・自分のことより他人優先って所あるから・・・
今は、他人の事より、自分の事っていうのが普通だから・・・私だってそうだし・・・
でも、やっぱり、孝の傍にいると安心する。
誰にも、渡したくない・・・そう思う・・・あは、やっぱり、自分の事が優先かな
こんなこと思ってるなんて、孝、気づいていないだろうなあ・・・
「あ・・・雨、降ってきた・・・孝、あのコンビにまで走るよ」
「え、雨？・・・う、うん」
孝の腕を掴んで、コンビニまで走る。
コンビニの軒に入ると、突然、ザーって感じで振り出した。
「晴香のおかげで濡れなかったよ。最初は雨が振ってきたって分からなかったから・・・」
孝がそういいながら、傘を取り出している。
「晴香、今日も、家へ寄ってくよね」
もちろんそのつもりだ。傘を取り出しながら、返事をする。
「うん」
「あの、この傘、貸してあげてもいいかな？・・・あの子に」
コンビニの出入り口を見ると小さな女の子・・・手にはコンビニの袋・・・一人で買い物に来たけど、
雨が降ってきて、困ってる感じだ。
「孝は、貸してあげたいんでしょう」
そう返すと、孝が嬉しそうな顔をする・・・やっぱりね。
しゃがみ込んで、女の子に傘を持たせてる。
「お姉ちゃん、どうもありがとう」
手を振って見送った後、孝ったら、確認してくる。
「晴香、入れてってくれるよね」
そのつもりだったけど・・・ちょっと、いじめてみたくなる。今日はいっぱい待たされたし。
「なんで」
「え〜〜」
予想通りの反応。
「孝は、後先のことを考えないからダメなのよ。でなければ、甘えているか・・・ね」
「入れていってくれないの？」
この不安げな顔がいいのよ・・・私って、やっぱり、いじめっ子かな？
「まさか・・・ちゃんと入れてあげるけど・・・狭いわよ」
傘を指して、孝の肩に腕を廻す。一瞬、びっくりした様だったけど、小さい傘に替えた事を
説明すると納得したようだ。
ちょっと遅くなったせいで、学生はほとんど見かけない。
「晴香、そっち側の肩濡れてるよ」
って、傘を戻そうとする。
「じゃあ、もっと寄って」
腕に力を入れる・・・孝の耳が、真っ赤になっている
雨で濡れるのは気持ち悪いけど・・・孝を濡らす訳にはいかないよ
・・・
あの時・・・孝はどんな気持ちだったのかな・・・
このコンビニもなかったし・・・ずぶ濡れで電車に乗ったら、皆にジロジロ見られただろうし・・・
そんな思いまでして、何で貸してくれたんだろう・・・私には・・・きっと、出来ない。
孝にとって、私って嫌な奴だったろうし・・・
私以外の女子だったら・・・どうだったんだろう
・・・普通、一緒に、入って帰るか・・・濡れるの嫌だし、大き目の傘だったし・・・
ああ、考えるの疲れてきちゃった。
孝を攫って逃げようかしら・・・
じ、冗談よっ・・・私がそんなことする訳が・・・
番外編（１−１） 終了
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