ベットの上には寝巻きがおいてあった。きっと、アーシアが置いたもの・・・。
着替えてベットの上に座るが、なんとなく落ち着かない。
考えてみれば、こうやって独りになるのも久しぶり。
窓を開けて外を覗いてみるが、暗闇で何も見えない。
「・・・」
カイがあんなこと言うから・・・不安になるのよ。
カイのところへ行こう・・・
アーシアが覗きに来たら・・・そうだ。
毛布を丸め、寝ているように見せかける。
「後は、蝋燭を1本だけ、点けておけば・・・」
トントン
「カイ・・・」
キィー
蝶番が音を立て、戸が開いた
「どうした?」
「え、あ、あの・・・」
しまった、カイの部屋を訪れる理由なんて考えてなかった。
「とにかく部屋へ」
カイが入れてくれたので、ちょっと、ほっとした。
カイは、考え事をしていたみたい。
「一体、どうしたんだ?」
部屋に入って、ベットの上に座った私に、改めて、カイが訊ねる。
「あ、あの・・・」
「夜這いにでも来たの?」
「あ、夜這い・・・え、夜這い、ち、違いますっ」
力一杯、否定する。
「カイがあんなこというから、気になって・・・」
「あ、え、俺のせいかぁ・・・仕方ないなあ・・・そんなつもりじゃなかったんだけどなあ・・・」
カイが頭をかきながら言った。
やった・・・これで、しばらくここに居られる。
そうと決まれば、早速、布団に潜り込む。
顔だけ出して、カイに訊ねる。
「カイは、何してたの?」
「お、お前なぁ・・・」
カイがあきれたという様子で傍の椅子に座った。
「でも、カイの言った通りでした・・・先に聞いていたおかげで、落ち着いて聞いていられました」
「ああ、王妃様のこと・・・」
・・・
カタッ・・・話が尽きかけた頃、隣の部屋から物音が聞こえた。
「あ・・・窓、鍵閉めるの忘れてた」
さっき、窓を開けて外を覗いたんだっけ・・・
風か何かの拍子で、開いてしまったに違いない。
「閉めてこなくっちゃ」
「待て、セイネ。俺が見てくる」
カイが剣を手にする。
え?
「そこで待ってろ」
カイが部屋を出て行くのを見ながら、耳に神経を集中した。
ガタッ
「殺ったぞ」
「何者だ」
カイの声だ。
「ふん、遅かったな・・・今頃来ても・・・」
窓から、外へ人が飛び降りる様な音がする。
「待てっ」
カイの叫ぶ声がする。
バタバタバタ・・・
「ど、どうしましたっ」
村長が駆けつけたようだ。
「賊が入ったようなんだ」
「ええっ・・・セ、セイネ様は?」
「ああ、無事だ」
パタパタパタ・・・
「セ、セイネ様っ」
あ、アーシアも来たみたい・・・。
で、でも、な、なんか、出て行きにくいな。
と、思っていたら、アーシアが来てしまった。
「セイネ様、御無事でしたか・・・」
「え、ええ」
「本当に良かった・・・あ、セイネ様、何故、ここに?」
う・・・
アーシアの言葉に、布団から出て、ベットの上に座りなおす。
「つ、つまり・・・」
「セ、セイネ様・・・寝巻きのままじゃ・・・」
「あ、こ、これは・・・」
「セイネ様ともあろうお方が・・・はしたない事なさらないで下さい」
「は、はい・・・」
自分だって・・・と、口に出したかったけど、やめておく・・・
きっと、何倍かになって返ってくる。
カイが戻ってくる。
「後のことは、村長に頼んできた・・・」
「カイ・・・ありがとう」
「アーシアにも、お礼、言わないとな。寝ていたところを、心配してとんで来てくれたのだから」
「ええ・・・アーシア・・・」
「え、あ・・・いやっ」
アーシアもやっと、自分の格好に気がついたみたい。
お礼の言葉を聞かないまま、部屋を出て、走って行ってしまった。
「どうしたんだ?」
「え・・・ど、どうしたのでしょう」
ここは、惚けておくに限る。
「それにしても・・・お前・・・度胸があるというか・・・」
「え?」
「殺されかけたというのに、気にする様子も見せないし・・・」
「わ、私が・・・」
な、何かの間違いでは・・・カイが狙われ・・・う、そんな感じではなかった・・
「穴のあいた布団は、換えて貰ったが・・・あの部屋で寝るのは嫌か?
相手も同じ部屋で寝てるなんて思わないだろうから、安全だとは思うが・・・
セイネが嫌なら、代わってやっても良いぞ」
カイの言葉に、現実を突きつけられたような気がする。
昨夜の賊もやはり、私を狙っていたのだろうか・・・
そんなことを思ったら怖くなってきた。
「わ、私の・・・希望通りにして貰えるということですか?」
「ん・・・ああ、セイネの希望する通りに・・・どっちでもかまわない」
元の部屋に・・・安全だと言うけど、そんなに神経太くない。
カイと代わる・・・だけど、安全は保障されている訳ではない。
「では・・・ここに居ても良いでしょうか」
「了解・・・じゃ、俺は、隣の部屋へ・・・」
カイが言葉と供に行動し始めたのに焦る。
「い、いえ・・・そ、そうではなくて・・・私をここに・・・」
「は?」
荷物を取ろうとした手が止まる。
「つまり・・・私を、傍に置いてください」
「え・・・そ、そりゃ、まずいだろう」
「な、何故ですか?・・・昨夜も、その前も一緒だったではないですか」」
「今日は、そんな環境じゃないだろう」
「カイは男子ですよね」
「も、勿論。だ、だから・・・」
「カイは、私の希望通りにしてくれるといいました・・・男子が一旦口にした言葉を
違えるのですか?」
「う・・・」
カイが言葉に詰まる。
「俺の負け・・・な訳?」
「大丈夫です。宿のベットよりはずっと広いですから・・・」
ベッドの真ん中が広く空いている。
ベットの端の方から、カイが訊ねてきた。
「セイネとアーシアはどんな関係なわけ?」
「え・・・それはですね・・・私、こう見えても、結構、良い家の生まれだったわけですよ・・・
アーシアは、その時に・・・」
「ああ、それで、セイネ様なわけね」
「ええ・・・」
翌朝。
「おはよう御座います。カイ様、どうなされました?」
アーシアの声だ。
「ああ、セイネが、今、着替え中なんだ」
「ええっ、ま、まさか、あのままカイ様の部屋に・・・」
「あ、いや・・・その、つまり、セイネが賊が入った部屋で寝るのは嫌だと言うので
部屋を取り換えたんだ・・・」
声だけ聞いていても、カイの焦る姿が容易に想像出来る。
「そうでしたか・・・それでは、私、ちょっと、見てきますね」
戸が開いて、アーシアが部屋に入って来た。
「おはよう御座います。セイネ様・・・ああ、まだ着替えていらっしゃらないのですか」
それにしても・・・アーシアの声は・・・。
朝食後、なんとなく呟いた。
「これから、どうすれば・・・」
「セイネは、どうしたい?」
「え・・・」
カイは・・・いつも、私がどうしたいのかを聞いてくる・・・
自分の意思で行動を決めなさいということなの?
王宮に居たときは、自分が何をすればよいかなんて・・・いや、何をしてもよいかなんて
決めることが出来なかった・・・と思う。
そういえば、カイは初めて逢った時から・・・そうだったかもしれない。
「カイは・・・まだ南の方へ行く予定なの?」
「ん・・・ああ、そのつもり。もう少し南の方まで行ってみたいと思っている・・・」
「では、私も連れて行ってください」
「行くのか?」
「あの・・・御迷惑ですか?」
「いや、ここまできたら、最後まで面倒見るよ」
「はい」
「戻ってくるつもりだから、大きな荷物は預かって貰おう」
「アーシアに伝えてきます」
そのことをアーシアに伝えると、アーシアは心配そうに言った。
「気をつけてくださいね」
風、緑、鳥の囀り・・・
隣の村を抜けて、オーデル公の領内に入ったところで、いつものように道が見渡せる場所で
休憩を取る。
カイが傍に寄ってきて言い聞かせるでもなくポツリと呟いた。
「・・・王都へ戻らなくてはいけなくなった」
きっと、新たな情報が入ったに違いない
なんとなく、そう思った。
「仕方がないが・・・少し休んでから、戻るとするか」
カイが私の傍に寝転ぶ。
カイは寝入ったのだろうか?
私を守るために、ずっと、神経を張り詰めていたと思う。
昨夜も、その前も・・・
心の中で、カイに感謝する。
静かだ・・・
そのうちに馬が駆けてくる音がしてきた。
道の方を眺めると、数頭の馬の集団が・・・その先頭にたっていたのは・・・
急いで、道の端まで走った。
「ライムロック様っ」
集団は、少し過ぎた所で止まった。
1頭だけが残り、後は、そのまま走り去った。
1頭が近づいてくる。
「これは・・・セイネローゼ様・・・神は我等を見放してはいなかった」
歪んだ笑いを見せながら、ライムロックが近づいてくる。
「あなたを殺して、王都の広場にでも放り出しておけば、面白いことになる」
そう言いながら、ライムロックは剣を抜いた。
背筋に冷たいものが走る。
ライムロックが馬上で剣を振り上げたのを見て、目を瞑るしかなかった。
第10話 終了
★ NOVEL TOP ★ BACK ★ NEXT ★