扉をノックして、正規軍がやって来た事をアイサムが報告に訪れた。
「予想通り、正規軍が戻ってきた。向うもこちらの出方を伺っている様だな」
カイの言葉に皆が頷く。
「国王の軍と鉢合わせると大変なことになるなあ」
カイは、対応を考えているみたい。
戦争になるなんて、私が王宮へ来た意味がなくなる。
「私なら、国王の軍が到着する前に、攻め込みたいですね」
アイサムが意見を述べる。
「うん・・・だが、セイネ達がいるから、簡単には手を出して来ないだろう」
「でも、王子はセイネローゼ様を盾にするつもりなどないでしょう？」
カイは、アイサムの問いには答えず、別の言葉を口にした。
「オーデル公の方へも、兵を差し向けたいし・・・」
「ねえ、カイ・・・様子を伺っているということは、正規軍も対応に困っているという事でしょう」
「ああ、そう云う事だな」
「私が将軍に手紙を書いてみる」
「セイネが・・・」
「ええ」
私だって、役に立ちたい。
私の手紙に応じて、将軍はやって来た。
「セイネローゼ姫様。お元気そうで何よりです」
「ええ・・・モーゼフ将軍も・・・」
将軍は、カイの方を気にしている。
「失礼ながら、お隣の方は・・・」
「この方は・・・ロザンネイの王子様です」
「はい。それは存じ上げております」
将軍は次の言葉を待っているのが分かる。
ロザンネイと自分たちの立場を確認したいのだ。
「将軍・・・私が、降伏の指示を出しました。今は、この方が・・・この国の責任者です」
「・・・やはり、事実なのですか・・・」
将軍には、信じたくないとの気持ちもあったのだろう・・・
でも、事実は伝えなければいけないと思う。
沈黙が訪れた。
カイが口を開いた。
「将軍は、この国に対しては、変わらぬ忠誠を誓って頂けますか」
「私は、国民と王家に忠誠を誓っている。どちらかが欠ける様なことがあっても・・・」
将軍は、臆することなく自分の意志を述べる。
「パーシフォリア王家のことは、私に任せて貰えませんか？」
「それは・・・」
「決定するのはロザンネイの国王ですが、私は私の出来る限りのことをします」
「王子のことを信じろ・・・と？」
「あの、将軍・・・カイは・・・りっぱな方で・・・亡きお父様が私の夫にと考えて
おられたくらいの方です・・・信じてあげて下さい」
「それでは、セイネローゼ姫様は・・・」
「私は信じております」
「いえ、そうではなく、セイネローゼ姫様のお心の内のことです」
「え、わ、私ですか・・・私は・・・私は、カ、カイ様のことを・・・」
こんな展開になるとは思ってもいなかった。
私、きっと真っ赤な顔をしている。
「おお・・・それでは、王子は・・・」
「セ、セイネローゼ姫は私が必ず守ります」
カイの言葉に驚きカイの方を振り向いた。
「そうですか・・・そういうことであれば、我々も変わらぬ忠誠を誓えます」
将軍が満足そうに言う。
「それでは、ご命令を」
将軍が指示を待っている。
「王弟のオーデル公に国王殺害と謀反の疑いがあります。拘束を命じます」
「分かりました。われらは、直ぐに南へ向かい、オーデル公を拘束致します」
将軍は礼をし、従者を伴って出て行く。
これって・・・将軍との駆け引きに負けたってこと？
こんなことでは、ロザンネイの国王と話し合っても負けてしまうかもしれない。
「ご、ごめんなさい。こんなことになって・・・」
部屋に残された私は、カイに謝った。
「なにが？」
「え？カ、カイ・・・本当に私で良いの？」
「悪いわけがない。セイネは不満？」
慌てて、首を力一杯振った。
カイの言葉に、自分の居場所みたいなものを見つけた気がした。
「セイネ・・・将軍から報告があった」
カイの悔しそうな様子から、内容は想像出来た。
「ごめんなさい。私を守るために・・・」
ライムロックに殺されそうになった時のことを思い出す。
「いや、セイネが謝る事はない。いつか、必ず・・・」
数日後、ロザンネイの王はやって来た。
丁重に迎えた後、一同が部屋に入った。
国王は玉座に座ると、カイに向かって言った。
「たいしたものだな。１００名足らずで、この城・・・いや、一国を落としたのだからな」
「いいえ、父上。落としたのではありません。訪れただけです」
カイは、静かに答えた。
「そうなのか？パーシフォリアは降伏した・・・と聞いたが、セイネローゼ姫よ
違うのか？」
柔らかな口調の中にも重みと有無を言わせぬ迫力があった。
「それは・・・私が、降伏の指示を出しました」
「うむ・・・では、パーシフォリアという国はないと考えてもよいな」
「・・・」
悔しいけど・・・言われる通りだ。
「パ、パーシフォリアは・・・王家だけのものでありません。国民がいます」
「その通りだ。敗れた王家はなくなり、代わって、新しい王家が支配する」
「・・・」
「新しい王家が悪い政治を行うと決め付けるのもおかしいと思わぬか？」
いくら反論しても手も足も出ない。いや、反論すら出来ない。ただ、唇を噛むだけだった。
でも、私は、パーシフォリア王家の代表だ。何とかしなくては・・・
「セイネローゼ姫よ。姫は、降伏しておきながら、城から脱走したのではないのか？
これは、国民を見捨てる行為ともとれる。それこそ、死罪であっても、弁解の余地は
ないのではないか？」
反論する前に、新たな事実を突きつけて来る。
「父上。セイネローゼ姫は、謀反の調査を行うために城を出たのです。その証拠に
自分の意志で戻って来ました。謀反人拘束のため、軍を差し向けましたが、残念ながら
謀反人を捕らえるまでには至っておりません。だが、脱走したのでないことは確かです」
カイが色々弁護してくれるけど・・・私、ダメかもしれない。
カイが逃げろって言っていた意味はこういうことだったんだ。
「王家をなくすのは簡単にはいかないでしょう。忠誠を誓った家臣も大勢います。
王家を無くしてパーシフォリアを手にするには大きな犠牲を払わなければいけません。
周囲の国々も黙って見ているとは思えません」
「ふむ・・・アイサム」
「はい」
「他のものを連れて退出せよ。王子とふたりで話がしたい」
「は、はい」
アイサムは立ち上がり、一礼をして退出する。他のものも同様に退出を始めた。
カイの方を見ると、黙って私の肩を押す。
私が退出すると、アイサムが扉を静かに閉めた。
「セイネローゼ様は、お部屋でお待ち下さい。後程、お迎えに参ります」
アイサムの言葉に部屋の方へ歩き始めると、アーシアが立っているのが見えた。
アーシアを安心させようと、微笑んだつもりだったけど・・・余計に心配させることに
なったようだ。
「セイネローゼ様、大丈夫です。カイ様が守って下さいます」
「ええ」
アーシアの言葉は耳に入るけど・・・カイのことが気になって、生返事になっている。
１時間ほど経った頃、アイサムが呼びに来た。
一同が集まったのを見て、国王は、重々しく、簡潔に言った。
「パーシフォリアのことは、すべて王子に任せる」
第１３話 終了
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