突然、国王から呼び出しがあった。
アイサムを近衛隊長にして、近衛兵の訓練もまあまあうまく言っているし、
何事だろう？
思い当たる節はない
・・・
「お呼びですか」
「隣国の王から、王女を娶せたいと言ってきた」
「は？」
「自分の妃の事だ。自分で判断するがいい。用件はそれだけだ。
下がって良いぞ」
「は、はい」
正直、驚いた。
妃の話もだが、時期が来れば国内の有力な豪族の娘と有無を言わさず
結婚させられるものと思っていた。
それが・・・自分で判断しろ？
いや、そんな自由が自分にあったのか・・・
それより、国内は大丈夫との判断なのか・・・
隣国の王女であれば・・・受けようが、断ろうが、どちらでも良いというのだろうか？
それとも、後継者として相応しいかを試しているのだろうか？
最近の父上は、何を考えておられるのであろう？
隣国・・・パーシフォリア
先の旅で、一番最初に廻った国だった。
国王一家も国民から慕われていて、裕福で平和な良い国だった。
旅の中、間近で、国王一家を見る機会もあった。
それにしても、パーシフォリアも姻戚関係を結ぶなら中央の国と・・・と、
考えるのが普通だろう・・・
何故、ロザンネイと・・・
逢いたいと言うのだから、一度会ってみるか。
「・・・と、いう訳で、一度逢ってみようと思う・・・一緒に行くか？」
「は？・・・一緒に行くかとは？・・・近衛兵は連れて行かれるのでしょう？」
アイサムが怪訝そうな顔つきでこっちを見る。
はは・・・アイサムのこんな正直なところが好きだ。
「いや・・・未だ役に立つとは思えないが・・・足手まといになるくらいなら、
一人の方が良い」
「そ、そんな、危険です」
アイサムが慌てる。
「自分の身を護るくらいの自信はあるぞ。だが、他の者の事まで
心配するとなると・・・な」
大げさに腕を組み考え込むふりをする。
「解りました、私がお供致します・・・一度言い出すと聞かないのだから・・・
こんなところは国王様にそっくりですよ」
「ん、何か、言ったか？」
「いいえっ、何も」
「ふ〜ん・・・まあ、次回までには使い物になるように・・・頼むな」
「・・・」
一度遇ってみます・・・と報告すると、国王は軽く頷いただけだった。
相変わらず、真意が見えない。
日を置かずして、隣国からの返事が届いた。
国境にあるパーシフォリアの砦で、遇おうということだった。
ある意味、こちらの品定めなのだろうか・・・
だが、こちらも相手の意図を確かめたい。
すぐに、約束の日は来た。
出発の時、国王に挨拶に行くと、ふたりで行くことに対しては
何も言わず、ただ一言、
「朝早く、従者１０騎を率いて城を出たそうだ」
とだけ言った。
さすがに、情報が早い・・・。
約１年前に通った道を進む。
あの時は、雪が降る直前だった。
季節は進んでいないだけで、険しさは、あの時のままだ。
途中、砦に寄り、愛馬を休ませる。
ロザンネイの王都から、この砦まで馬を飛ばして、２時間くらい・・・
相手の砦まで、１時間少々か。
３０分くらい、休憩を取り、砦を出た。
多人数だったら、もう少し、早く出発する必要があっただろう。
約束の時間に、遅れるとは思わないが・・・愛馬の足を速める。
砦の門をくぐると、広間に通された。
パーシフォリアの国王と側近の従者が、早足で壇上に上がった。
「使者殿、ロザンネイの王子は、何処までおいでになっておられる？」
前触れの使者とでも思ったのだろうか？
ゆっくりと、一礼し、返事をする。
「御前に」
「えっ」
一瞬、意味が解らず、判断が出来ずにいたようだ。
「これは、失礼をした」
国王が壇上から、急ぎ降りる。
「それにしても、従者が１名とは・・・」
「姻戚関係を結ぼうとの話に、多数の従者は不要でしょう・・・
内々とのことでもありますし・・・」
「うむ・・・なるほど」
「これは、近衛隊長のアイサム。そちらの方は？」
国王の後ろに控えている長身の男の方に目をやる。
「これは・・・わが弟の臣下で、ライムロックと申す・・・兎に角、場所を移そう」
国王の提案で、５メートル四方くらいの狭い部屋に通された。
中央に小さなテーブルがひとつと椅子が二つ。
入り口側の椅子にパーシフォリアの国王が座り、向かい側の椅子に私が座った。
国王の斜め後ろにライムロックが、私の斜め後ろにはアイサムが立つ。
「国境の砦ゆえ、何もないが、くつろいで頂きたい」
「はい。有難う御座います」
軽く礼を返しながら、疑問をぶつける。
「単刀直入に言わせて貰いますが、何故、我が国と姻戚関係を？」
「本当に、単刀直入ですな」
国王が笑いながら、壁に掛かっていた地図を指示す。
「我が国の西に国境を接するスカビエラ王国・・・我が国とは
不可侵条約を結んでいるのですが、最近は、国王の力が弱まり、
豪族達が度々わが国境を侵しています」
御存知か？と言う様な素振を示したので、軽く頷き返した。
「ロザンネイと姻戚関係を結んでおけば、心置きなく、スカビエラに対して
より多くの力を向ける事が出来ます」
「スカビエラの北は、我が国との国境。姻戚関係を結んでおけば、
スカビエラにとっては、より脅威になる？」
「そのとおりです」
「ですが、その逆もあり得るのでは」
「それは・・・」
「僭越ながら・・・」
ライムロックが口を挟む。
「スカビエラの王子は、未だ幼い。王女様方とは釣り合いが取れない。
それに、我が国とロザンネイの間には、この山々がある。ロザンネイを
護っている様に、我が国も護られていると言えます」
「そういう意味では、姻戚関係を結ぶこと自体、意味が薄いのでは」
「いえ、我々は、平和を望んでいます・・・先程、王子様が仰られたとおり、
北から睨みを効かせて頂きたいのです。そうすれば、スカビエラも
簡単に我が国へ手を出すことはなくなるでしょう」
「王女を政略の道具に使おうと言われるのですか」
「それは、王家に生まれたものの宿命。国民のことを思えば、ある程度の事は
仕方がない。いや、あなたであれば、願ってもないこと。王女達もきっと、
気に入ることでしょう。是非、今度は、王女達と会って頂きたい」
ふたりが去って行くのを見送りながら、パーシフォリアの国王は傍らの男に問う。
「本当に、ロザンネイは、我が国の災いとなるのか？」
「ロザンネイは、蛮国・・・虎視眈々とこの国を狙っています。ロザンネイの国王は
油断なりません。あの王子にしても胆のすわった者と思えます。このままでは、
我が国の脅威となるのは、目に見えています。跡継ぎの王子さえいなくなれば、
国は乱れ、自滅することでしょう」
「あの王子であれば、姻戚関係を結んでも構わぬと思うが・・・」
「国王は、我が国をロザンネイに渡すと言われるか？王女様をあの蛮国へ・・・
ロザンネイの王子を葬ってから、スカビエラを我が国のものとし、中央の
ペルフィールージュと姻戚関係を結んで、ロザンネイを攻めるべきです。
そうすれば、パーシフォリアはペルフィールージュと肩を並べる国になります」
「・・・ひとつの選択肢として考えておこう」
国王は、ライムロックの方へ顔を向けることなく言った。
結局、真意は掴めてはいないと思う。
「どう思った？」
横を走るアイサムに話し掛ける。
「はい・・・油断は出来ませんね。特に、あのライムロックという男・・・」
やはり・・・な
「凄い顔で睨んでたもんな・・・お前」
「それは、そうです。いつ襲い掛かってくるかと気が気ではありませんでしたから」
「そうか？・・・常時、砦を守っているのが２０名弱だろう。それに国王が
引き連れてきたのが１０名・・・砦の中に入ってしまっているんだ。
負けはしないだろう？」
「それはそうですが・・・しかし、砦の外に逃げられて、囲まれてしまったら・・・」
「それは、まずいな・・・敵の援軍が来る前に逃げないと」
「お、王子〜〜」
「まあ、何とかなるって」
第２話 終了
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