「セイネローゼ、落ち着いて聞きなさい。お父様が、亡くなりました」

「お母様?」

一瞬、何を言われたのか解らなかった。

「敵が目前に迫っております。出来れば、指揮をとってください」

済んだ声が響く・・・ライムロック様。

肩で息をしている?

「傍に居て頂けるだけで、兵の士気が上がります。敵は少数。危険なことは

ありません」

言われるままに、頷くだけだった。


甲冑を身に着け、戦場の方へ向かった。

敵は、既に城内に入り込んでいた。



しばらく、状況を見ていると、戦いの経験のない私でも解ってきた。

強さというものが全然違う・・・これは・・・負けてしまう?

中でも、あの銀の甲冑の人・・・。

「あれは・・・」

傍に居た従者に訊ねる。

「・・・ロザンネイの・・・敵国の王子です」

「えっ」


お父様が言っていた・・・

「セイネローゼも、きっと、気に入るぞ・・・」

お父様が、私を嫁がせたかった・・・人。

それが何故?


「セイネローゼ様、ここは、もう・・・奥の方へ移動してください」

従者が悲痛な声を上げる。

剣同士がぶつかる音が大きくなってきている。

「ライムロック様は?」

「先程から、姿が見えません」

「・・・」

どうしよう・・・私は、どうしたら・・・

「セイネローゼ様」

「降伏しましょう・・・」

「えっ」

「降伏しましょう・・・結果は見えています。私は、お母様のところへ参ります」

「はっ・・・」

従者は、悔しそうに唇をかんでいるようだった。




「あなただけでも、早くお逃げなさい」

降伏の指示を出した事をお母様に告げると、そう返事が返ってきた。

「でも、お母様や、ルビーフローラは・・・」

「私達がいたのでは、足手まといです。あなただけで行きなさい」

侍女が出してきた身軽な服に着替える。

お母様が侍女のアーシアに私のことを頼んでいるようだ。

「さあ、早く、敵が来ます」

「お母様。きっと、助けに来ます」

お母様が、ぎゅっと抱きしめ、そして、言った。

「幸せになりなさい」

・・・お母様。





「セイネローゼ様、ここまでくれば、大丈夫です」

城をでて、何日が過ぎただろう。

どこを通ってここまで来たのかもわからない。

アーシアが道外れに、民家を見つける。

「お疲れになったでしょう。私、水と、何か食べ物を貰って来ます。ここで

待っていて下さい」

「あ、ありがとう」

本当に、疲れた。

道端の石の上に腰掛けて休む。




「ちょっと、道を尋ねたいんだが・・・」

顔を上げると目つきの鋭い男が立っていた。

「私、この辺の道知らなくて、・・・あ、何するんですか」

いきなり、手首を掴まれる。

「痛い・・・放して」

抗議するが一向に取り合ってくれない。

「だ、誰か・・・」

声をあげようとした時、男の手が大きく振り上げられ、頬をたたかれた。

「うっ・・・」

低く呻く。

口の中で血の味がする。口の中が切れたようだ。

「おとなしくしな」

今度は髪の毛を引張られ、引き起こされる。

「い、痛い・・・やめて・・・」

涙が滲む。

・・・何故こんな目に遭わなければならないの?

再び、手首を掴まれ、引きずられて、馬車に乗せられた。

馬車の中で、手首をロープで縛られる。

「逃げ出されると、困るからな」

そういいながら、男は、馬車を走らせる。

やっとの思いで逃げ出してきた町の方へ・・・。

「私を・・・どうするつもりですか?」

男に問い掛ける。

「おまえは、売られるんだよ」



「ちょっと、痩せ過ぎだが、見た目は悪くねえから、娼館にでも、売ってやるかぁ」

「しょ、娼館て・・・」

「なんでぇ、娼館もしらねえのかい」

男がニヤニヤしながら言った。

「へへっ、楽しいとこだよ。男にとっちゃあなあ・・・おまえにとっちゃあ、地獄かも

しれねぇがな」

男の意味するところを知り、青ざめる。

「そ、そんな・・・ど、どうして、・・・」

絶望的な思いが広がっていく。

・・・お母様、私を守って・・・

心の中で念じるしかなかった。


苦労して脱出した街に戻ってしまう。

検問所で、男は、賄賂を渡しているようだった。

破れた幌の隙間から、街並みが見える。

声を上げて、助けを求めても、正体がバレてしまえば、今度は敵に捕まってしまう。

「着いたぜ。降りな」

男が更に追い討ちをかける様に言う。

「へへっ、天国か、地獄か、先に試してみるかい」

「嫌です。そんなこと、嫌です・・・放してください。何故、私なんですか」

「そんなこたぁ、知っちゃいないさ・・・運命だと思ってあきらめるんだな・・・ん?」

男が、傍らの若い男に気づき、近寄って行く。

「旦那、どうです?安くしておきますよ。ちょっと、痩せて見えますが、病気も持っちゃあいないし、

元気で、よく働きますぜ」

若い男の身なりを見て、声をかけたようだ。

青い瞳が印象的だった。

「お願いです。助けてください」

「旦那、安くしておきますよ」

男が重ねて言う。

「人買か?」

「まだ仕入れたばかりで・・・ちょっと上玉でしょう?」

「いや、俺は、奴隷とかには興味ない」

絶望的な声が耳に届く。

「おまえは、やっぱ、娼館行きだな」

「お、お願いです。どうか・・・」

涙が出てきた。



第4話 終了


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第4話

青と緑