「お願いです・・・助けて・・・」

「は〜っ、俺もまだ、甘いな・・・おやじ、いくらだ?」

若い男が、奴隷商人と交渉を始めた。



「なんで、こんなことになったんだろう?」

男が呟いた。

「う・・すいません・・・ありがとうございます」

俯いたまま、答えるしかなかった。

「あ、そういう意味じゃないんだ・・・」

「?」

よくわからないけど・・・私は、この人に買われた奴隷・・・

実際には、状況は変わってはいないのだけど・・・

先程の商人よりはマシと思われた。

「おまえ、この町には詳しいか?」

「いえ、あまり・・・」

「そうか?」

男の視線に気づいた。こっちを見ていたようだ。

「あ、あの・・・どうか、しましたか?」

「いや、今日の宿を探さねば、と思って・・・」

陽は沈みかけていた。

「宿でしたら、もう少し行ったところに・・・先程、見かけました・・・」


南へ向かって伸びる石畳の道を歩いて行く。

東側の建物は夕日が照らし、赤く染まり、西側の建物は影が出来、

薄暗くなっている。

しばらく行くと宿と書かれた看板が下がった建物を発見した。

馬車の幌の破れから見えたものだ。

小さな戸を開けると、宿の主人らしき男が問い掛けてきた。

50歳くらいの小柄な男・・・

宿の主人が、ジロジロとこっちを見ている。

「ふたりかい?」

「そうだ」

「今、宿はいっぱいでね・・・一部屋でもいいかい?」

「仕方がないな」

そういいながら、ちらっと、こっちを見た気がしたけど・・・

意味も分からず、会話が耳に入ってくるだけ・・・

疲れて・・・足が棒のよう・・・兎に角、早く座りたい。

「半分は前金で・・・そこの戸の向こうが食堂さ。そこにある階段を上って・・・

2階の一番奥の部屋さ」




2メートル四方くらいの狭い部屋に、ベッドがひとつ、それにテーブルと椅子が

ひとつずつ。

ベットが置いてある側に窓がひとつ。

「同じ部屋ですか・・・」

奴隷の自分に、一部屋与えてくれる訳など、あり得ないけど・・・

つい、口に出てしまった。

「・・・部屋がないんだ」

そう言いながら、腰から、剣を外している。

ベッドに座るよう目配せしている。

「そういえば、名前をまだ聞いていなかったな」

「名前は、セイネロー・・・あ・・・あの、セイネです」

「セイネ・・・そうか、セイネか・・・俺は・・・カイとでも呼んでくれ」

カイと名乗った若い男が少し微笑んだような気がした。

「は、はい・・・カイ様」

「カイでかまわない・・・様なんかつけられたら・・・あ、いや、だから、様はいらない」

「はい・・・カイ」

「ちょっと、待っててくれ」

カイが部屋の外へ出て行く。

疲れた・・・そのまま、ベットに横になる。


戸が開いたのに気づき、慌てて、跳ね起きた。

カイに笑われた様な気がして・・・俯いてしまう・・・。

カイが手を取って・・・濡れたタオルで、手足を拭いてくれる。

「あ、自分でします」

「疲れているんだろう」

う・・・やっぱり、見られてたんだ・・・

「歳は?」

「え・・・あのもうすぐ16に・・・」

「ふ〜ん、セイネは、どうして、人買なんかに?」

「・・・町の外れで、休憩していたところを、あの男が、無理やりに・・・」

「人攫いに捕まったのか・・・あんな大金払うんじゃなかったなぁ」

「う・・・すいません」

「じゃあ、セイネは帰る家があるんだ」

「・・・そ、それは・・・その、ないんです」

「・・・あ、ああ・・・そうか、悪いこと聞いちゃったかなあ」

「・・・」

カイが立ち上がった。

「・・・に行こうか」

「は、はい?・・・」

「食事を取りに行こうか。女の子にひもじい思いさせとくのもなあ・・・」

「☆★☆★・・・聞えて・・・」

う〜・・・私のお腹ったら・・・恥ずかしい・・・

「ほら、行くぞ」

カイが、促す。

「お前、ずっと、食ってなかったのか?」

こくりと頷く。

朝、アーシアが持ってきてくれたパンを分けて食べただけで・・・


そう云えば、アーシアはどうしているだろうか?

もし離れ離れになることがあったら、アーシアの家で会いましょうとは言ってあったけど・・・

あの状況で居なくなったのだから、心配しているだろう。


出されたものを、一生懸命食べた。まともな食事なんて久しぶり・・・

お腹がふくれてきた頃、カイがこっちを見ていることに気づいた。

あっ・・・頬が赤く染まっていくのが分かる。

でも・・・こんなのが王女だなんて思わないだろう。

その方が都合が良いかもしれない。

「俺は、この国の南の方に用事があるんだ。セイネはどうする?」

動きが止まる。

どうする?とは・・・どういう意味だろう

「どこか、奉公先を紹介してやってもいいぞ」

あ・・・そんな選択をさせてくれるというの?

でも、南であれば、アーシアの家も近い。

「ご、ご迷惑でなかったら、御一緒させてください」

「そうなのかぁ?」

「はい」

「まあ、いいだろう・・・何とかなるさ」


食事を終え、二階の部屋へ戻った。

落ち着いてみると、状況は変わっていないことに気づく。

「あ、あの、私はどこで寝れば・・・」

「ベッドがひとつで、人がふたり・・・詰めて寝るしかないだろう」

とんでもない答え・・・ある意味、予想通りの答えが返ってきた。

全身に緊張が走る。

「ほら・・・」

カイにベッドの奥の方へ押し込まれた。

「えっ、えっ・・・」

「ほら、もっと、詰めて・・・蹴飛ばすなよ」

「う、そんな・・・」

「お休み」

カイは、そう言って背を向けた。

少しずつ、緊張が解けていくのが分かる。

「お、お休みなさい・・・」

ほっとした。

久しぶりのベット・・・城を出てからは、納屋や倉庫の影で寝るのが普通だった。

それに比べれば・・・

まもなく、疲れが、眠りに引きずり込んでいった。



第5話 終了


  NOVEL TOP  ★  BACK  ★  NEXT  ★


第5話

青と緑