数組の旅人が私たちを追い越して行った時、初めて気がついた。

カイは私に歩調を合わせていれてくるのだと。

他の旅人に歩調を合わせて、頑張って歩いてみるが５分ともたない。

歩き慣れていないからだ。

その様子を見てカイが笑っているのが許せない。

次に来た旅人に合わせてみるが、これも・・・

数回繰り返した後、カイが言った。

「そろそろ、休憩しようか？」

「いえ、まだ大丈夫です」

拒否しようとしたら、すかさず、カイが言う。

「いや、俺が疲れたんだ」

「え・・・そうなんですか」

ちょっと、ほっとした。

カイのように旅慣れた人でも、このくらいで休むものなんだ・・・


カイが道から少し入った処に敷物を敷いてくれる。

そこは、道よりやや高くなっていて見晴らしもよく、往来する旅人の姿も見える。

腰掛けると、うっすらと汗ばんだ顔に、そよ風が気持ちいい。


アーシアと供に城を脱出した時の不安、奴隷商人に連れて行かれた時の恐怖。

その時と比べたら・・・心休まる。

お父様が亡くなったなんて、いまだに信じられない。

雲だっていつものように流れているのに・・・私は、夢を見ているのだろうか・・・。


カイの傍で鳥が舞っている。

鳥に好かれているの？それとも、餌をあげているの？

どちらにしろ不思議な光景・・・それをただ、ぼーっと眺めていた。


「いつもは・・・カイは、どのくらいで休憩を取っているんですか？」

横に座ったカイに話かけた。

「・・・そうだな・・・特に決めてないけど・・・２、３時間に１回位かなあ・・・」

思わず、すっくと立ち上がる。

「ん、どうした」

「出発しましょう」

これは、どう見てもカイが私を休ませるために取った休憩・・・。

「え？・・・あっ」

カイが焦る。

「だから・・・今日みたいな日は、休憩を取りながら行きたいじゃないか・・・後、５分だけ・・・な」

カイが袖を引っ張って座らせる。

「では・・・５分だけ・・・」

・・・こんな天候の日は、ゆっくりしたい・・・とは、思うけど・・・。



「馬に乗ってみるか？」

歩き始めようとしたら、カイが言った。

・・・声が出なかった。

馬には乗せてもらったけど・・・高いし・・・お尻も痛い。

「お、降ろしてください」

私は、百歩も歩かないうちに、悲鳴を上げた。

「乗馬の経験があるって・・・」

カイは、最後までは言わなかったが・・・

別に見栄を張った訳ではなくて・・・あれは、お父様と一緒に一度・・・・。

ただ、俯くしかなかった。



いくつかの村の検問所を通ってわかったことがある。

身なりの良い人には甘く、貧しい人に程厳しいのだと。

アーシアと検問所を避けて、遠回りしたことを思い出す。

アーシアは、うまく通り抜けたのだろうか？



「セイネは、何処へ行きたいの？」

地図を広げながら、カイが尋ねてくる。

「・・・アーシアの・・・知り合いのところです」

「ふ〜ん、それは、どの辺？」

「この辺りです」

「こっちの道のほうが、近いかな・・・でも、この調子だと、野宿になるかも・・・」

また、小屋影で眠ることになるのだろうか？

「あの木の処で休憩しようか？・・・昼食も取らないと・・・」

・・・今度で３回目・・・本当に、１時間毎に休憩している。


カイが差し出すパンとミルクを受け取り、空を見上げる。

澄み切った青い空が広がっている。

足が痛い・・・ということを忘れてしまえば、ピクニックに来ているような錯覚さえも・・・

また、空から鳥が・・・木の傍に立っているカイに舞い降りてくる。

パンを齧るのも忘れて、カイを見ていた。


「セイネの家族は？」

横に座ったカイが話しかけてきた。

「母と妹がいます・・・父は亡くなりました」

嘘は・・・言っていない。

「・・・悪いことを・・・聞いちゃったかな」

「いいえ・・・あの、カイの家族は？」

「俺んとこ？・・・うちは二人とも元気だよ」

ちょっとすまなさそうにカイが答える。

「カイは何をしているんですか？」

疑問に思っていたことを口にする。今なら、訊けそうだ。

「え、俺？・・・ん、まあ、つまり・・・情報収集・・・かな」

「カイは、どこかの国の間者なのですか？」

「え・・・いや、そんな勤勉な輩じゃないよ」

カイが驚いたように言う。

「・・・そ、そうですね」

カイの言葉に納得してしまう・・・でも、カイは誰かに仕えているんだ。

根拠はないけど、そんな気がした。

「う〜ん・・・そんな簡単に納得されても・・・」

「では・・・どんな情報を集めているんですか？」

確証を取りたくて、更に訊ねてみることにした。

「・・・そうだな・・・セイネも一緒に考えてみる？」

「えっ」

「パーシフォリアの国王は何故殺されなければならなかったか？」

カイから理解できない言葉が発せられる。

「それは・・・どういうことですか？国王様は・・・ロザンネイに・・・」

「国王は背中から刺された」

「そんな・・・お父様が敵に背中を見せるなど・・・あっ・・・」

しまった・・・

「あの・・・国王様は、国民から慕われていて・・・つい、私も・・・」

「うん。それは知っているけど・・・セイネが着ていた服も王宮の侍女が着る服に似ていたような・・・」

「え、ええ・・・私は、王妃様に仕えていて・・・名前も王女様に似ていたので可愛がって頂きました」

「ああ・・・王女のような幸運にあやかろうって、似たような名前をつけるって、あれね」

「ええ」

ほっ・・・信じてくれたみたい？

「セイネは、王女には、見えないよね・・・」

カイが笑っている。

ど、どういう意味？

「そうか・・・王妃様にか・・・では、セイネに教えてあげよう。最新情報だよ」

カイがにっこり笑う。

「王妃と第二王女は、明日、国民の前に姿を現し、国王の喪に服することを宣言する」

「え、お元気なのですか・・・」

囚われて、ひどい目にあっていないかが心配だった・・・。

「第一王女とロザンネイの王子は姿を見せないらしいけど・・・噂では、ロザンネイの王子は

臥せっているとかで、第一王女は・・・王宮にいること自体が怪しいって噂も・・・」

「・・・」

そこまで調べられるものなの？

でも、聞いたことがある・・・情報を売り買いしている集団があるって・・・。

正確な情報程、高価なのだと・・・もしかすると、カイは、その一人なのかも。

「自信があるのですね」

「あれ、信じていないの？」

「そう云う訳ではないですけど・・・」

「う〜ん、明日になれば分かると思うけど・・・じゃあ、他に何でも聞いてみなよ」

「え・・・何でも良いのですか・・・」

「うん」

「そうですね・・・では、私たちが泊まった宿の女将さん、今、何していますか？」

「うっ・・・」

カイが絶句する。

「やっぱり、分からないのですね」

「こ、今度、調べとく」

「あ、あの・・・冗談です。ロザンネイの・・・王子・・・」

「ルペストリア王子？」

「ええ・・・臥せっていると言いましたが、病は重いのですか？」

「・・・風邪・・・程度だと思う。色々指示は、出しているって云うし・・・」

「そうですか・・・」

「それじゃあ、出発しようか？」

「は、はい」

カイの言葉に、慌てて、立ち上がる。



少し、歩き方の配分が分かってきた。

カイは・・・１時間毎に休憩を取ってくれるから、このペースで歩けば良いんだ。



第７話　終了


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第７話