王子が仰った通り、この城は守りには適していないな・・・

街なかにある城壁はいまや、役をなしていない・・・

スカビエラへ向かった正規軍が引き返してくるのは・・・早くて明後日くらいか

しかし、スカビエラも黙って見送るってこともないだろうが・・・

正規軍を何日、足止めしてくれるか・・・

う〜、こんな時に、王子は・・・

「アイサム様」

衛兵が走り寄って来る。

「どうした」

「王妃様が、王子にお話がしたいとのことです」

「わかった。王子は休んでおられるので、私がお会いする。すぐに参りますと伝えて貰ってくれ」

「はい」



「失礼致します」

扉を開けて入ると、喪服を纏った王妃が椅子から立ち上がった。

「あ、セイネローゼは見つかりましたか？」

「いえ、まだ・・・手は尽くしているのですが・・・」

「そうですか・・・私がいらぬことをしたばかりに・・・・」

「大丈夫です。無事に探し出します・・・それから・・・これは、王子の指示なのですが・・・」

「はい・・・」

「夜は、護衛を増やしたいと思います」

「それは？・・・なにか、危険なことでも？」

「念のためです・・・それよりも、明日のこと、宜しくお願い致します」

「はい・・・あの、王子様のお加減が悪いと聞きましたが？」

「ええ・・・ちょっとした風邪で・・・たいしたことはありません」

「そうですか・・・お大事になさって下さい」

「ありがとうございます」

「あの・・・セイネローゼのこと、宜しくお願いします」

退出しようとするアイサムを呼び止めて、王妃が頭を下げる。

「はい。お任せください」



・・・とは、言ったものの・・・かなり遠くへ行ってしまったのか？

女性ふたり・・・検問を掻い潜って、そんなに遠くへ行けるものだろうか？

東の方から、街を出て、南へ向かうと言っていたそうだが・・・

それらしき人物は引っ掛かってこない・・・

まさか、西へ・・・検問を抜けられてしまったとすると、弱ったことになる・・・。

これは、援軍を乞わなければいけないことになるかもしれないな。

そうだ、王子と相談しなければ・・・







う・・・も、もう、歩けない・・・

近道だということで、こっちの道を選んだけど・・・

「この辺で、野宿かな・・・」

カイの言葉に周りを見渡す。

あたりは薄暗くなってきており、木以外何も見えない。

え？ここで・・・野宿？・・・こんなところで？道端の木に寄りかかって寝るの？

アーシアの時のように寄り添って寝ることも出来ないし・・・

「ん・・・あそこに、小屋が見える」

カイが指差した先に・・・道から少し林の中へ入ったところに、小さな小屋が見えた。

ちょっと、安心し、その小屋を目指して歩き始める。

「おじゃましま〜す」

戸を開けてみたが、小屋には人の気配はない。どうやら、冬の間だけ使われる

猟師小屋のようだ。

「今晩一晩、使わせて貰います」

カイが小屋の奥の方に向かって、話し掛けている。

誰もいないはず・・・

「あ、あの、誰に言っているんですか？」

不審に思って、カイに訊く。

「え・・・小屋に。無断で使うのは、なんか悪くて・・・」

「・・・」

へ、変な人・・・カイって、変な人かも。


生まれて初めて、火をおこしたり、お湯を沸かしたりした。

料理の作り方も・・・カイが親切丁寧に教えてくれる。

夕食も・・・結構、美味しかった・・・と、思う。


空を見上げると、星が瞬いていた。

今夜も冷えそうだ。


小屋へ入ると、囲炉裏をはさんで座った。

囲炉裏に薪をくべながら、カイに話しかけた。

「カイと・・・どこかであったことありますか？」

「え」

「あ・・・そ、そんなこと、あるわけありませんよね。どうかしてました」

前にも、そんなことを思ったけど・・・そんなことある訳がない。

「カイは・・・国王様が、味方に殺されたと言いたいのですよね？」

「・・・」

「南に向かっているということは・・・王弟・・・オーデル公のことを疑っていると

云う事ですか？」

「それを・・・調べている・・・」

「カイは、それを誰かに頼まれたのですか？」

「・・・」

カイの顔が険しくなる。

「ごめんなさい・・・訊いてはいけないことだったみたいですね」

「いや、これは、誰に頼まれた訳でもない。俺が疑問に思ったからだ」

やはり、そう言いますよね、普通は・・・ある意味、予想通りと云うのか・・・。

「セイネは、どう思っているの？」

「え・・・私、ですか？」

ロザンネイの王子に殺されたものと思っていたけど・・・

お父様は、あの日も自ら迎えに行かれた・・・私に、早く逢わせてやりたいと言って・・・。

どんな・・・人だったんだろう・・・

「私には、分かりません。よく・・・分からなくなりました」

「・・・セイネもか・・・あ〜あ、繋がらないんだよな」

「・・・」

カイにも分からないことがあるんだ・・・なんて、思ってしまう。

「セイネ・・・今夜は、俺の傍で・・・できるだけ近くで寝てくれ」

「えっ？」

心臓がドキンと音を立てた。

そうだった・・・私は、買われた人間・・・すっかり、忘れてしまっていた。

「あ、あの・・・」

「ん・・・ここがいいかな」

カイが囲炉裏との間にスペースを作っている。

心臓の鼓動が早くなっているのが分かる。

立ち上がって、カイの傍へ・・・カイに、聞こえていないだろうか・・・心臓の音。

カイに背を向けるようにして横になる・・・こんな時って、どうしたらいいの・・・

カイが、毛布を掛けてくれる。

薪の燃えるパチパチという音が、異様に大きく聞こえてくる。

「あ、そうだ、セイネ・・・」

カイの言葉に体が硬くなるのがわかる。

「・・・宿の女将だけど・・・あの頃、セイネが着ていた服を洗濯していたみたいだ。

それで、その後、宿の主人をボコボコにしたらしい」

「え？」

「セイネのことを売れって言ったのがバレたらしい」

カイが笑っているのにつられて、笑ってしまった。

・・・カイは、私をどうかしようなんて、考えていないみたい。

むしろ、大切にしてくれている様な・・・

・・・


カキーン

狭い小屋に甲高い音が響いた。

え、な、何？

囲炉裏の火は消えかかっていて薄暗い。異様な気配だけが伝わってきた。

傍にあった薪を囲炉裏に投げ込む・・・瞬間、火は大きく燃え上がり、周りを明るく照らした。

数人の男が剣を構えているのが確認出来る。カイの方を見ると、同じように剣を構えていた。

先程の甲高い音は、剣がぶつかり合った音？

そんなことを思った時、相手がカイに切りつけてきた。

カイは、難なくこれを押し返す。別の男が、横からカイに切りつけるが、カイはうまくかわし、

相手の腕に傷を負わせた。カイって・・・強いんだ・・・

「ちっ」

相手の首領らしき人物が舌打ちをし、新たな指示を出した。

「引けっ」

その声と供に、数人が一斉に小屋の戸口へ走った。

カイも戸口まで走り、外の様子を伺っている。

「行ったみたいだな・・・」

気がつくと、私も、カイの後ろに立っていた。

カイが戸口に駆け寄った時、一緒にくっついて、来たみたい・・・

「と、盗賊？」

カイに訊いてみる。

「だと、いいけどな」

ど、どういう意味？

「カイって・・・誰かに、狙われているの？」

「は？」

一瞬、間があって・・・カイが言った。

「いつまで、握ってるの」

「？？？」

・・・あっ！

「こ、これは・・・」

カイの服の裾をしっかり握りしめていた。

手を離した後が、皺になっていたので・・・皺を伸ばそうと、一生懸命、指で扱いてみる。

その様子を見てカイが笑っている。








「アイサム様」

今夜の警備隊長だ。

「どうした？」

「賊が十数名・・・城に侵入したようです」

「何・・・今、直ぐ行く」

「いえ、賊は、既に撃退しました・・・王妃様の方は、部屋の前で追い払ったのですが・・・

王女様の方は、ちょうど、廊下に居られましたので・・・王女様を守って、衛兵が怪我を

しました。今は、城の内部に、賊が残っていないかを確認中です」

「分かった。王子に報告しよう・・・そうだな、私も見廻ることにしよう」

「はい」

「御苦労だった」



第８話　終了


★　　NOVEL　TOP　　★　　BACK　　★　　NEXT　　★

第８話