（文化祭一日目）

初日は各教室での展示、模擬店がメインとなる。

でもなぜか、正面玄関で晴香とふたり並んで座っている。

別に正座させられているわけではないんです。

・・・中学の時はコースケとよく座っていたけど・・・授業抜け出て遊んでたのがバレたり、

授業中漫画読んでたのバレたりで・・・あ、余談でした。つい、昔を・・・。


「孝、やることちゃんと把握してる？」

「うん、なんとなく」

手に持ったボールペンを玩びながら答えると、晴香は、あきれたって顔で言葉を続ける。

「もう・・・孝、今日は、９時から１１時まで受付よ。それから・・・」

「あ〜あ、せっかくのお天気なのにぃ」

「だから、付き合ってあげてるじゃない」

晴香と入れ替わって、約２週間。

クラス委員の晴香の仕事はすべてこっちに廻ってきた。

やってみて、クラス委員の仕事って大変だなと改めて思った。

「う、うん。それは、感謝してる。晴香がいなかったら、どうしたらいいか、わかんないもん。

でも、受付って何するの？」

「父兄とか、見に来た人にパンフレット渡したりするのが主な仕事よ」

「ふ〜ん、他には？」

「そうねえ、脱走する生徒を捕まえたりとか・・・」

「へっ？」

一瞬、コースケ達の顔が浮かぶ。

「孝も、本当だったら、きっとその口よね」

ギクッ

「そ、そ、そんな、そんなことはないよ・・・多分」

「本当？・・・捕まえるって言うのは冗談だけど・・・不審者が入らない様に・・とかね」

晴香どこまで本気？


「退屈。退屈。退屈。・・・」

「孝、何言ってんの？」

なんか、めちゃくちゃ、退屈だ。ほとんど人なんか来ないし。

二日目は、催しものがあるため、父兄とか、見に来るらしいが。

「ご苦労様。退屈でしょう」

そう言って、事務のおばさんが、番茶を入れてくれた。

うひゃあ、事務室まで聞こえちゃったか・・・『何やってるの』って、晴香に怒られちゃった。


ぼんやりしてると、昨日のことが思い浮かんでくる。

昨日は、逃げちゃったって感じだけど、いつまでもそうは行かないだろうし。

冷静になって、よーく考えてみると、ライバルの情報が欲しかっただけなのかな？

でも、そうなら、先輩の性格からいって”白石晴香”に直接聴くようなことないと思うけど・・・

そうすると、晴香が持っている雰囲気みたいなものを感じ取って訊いてきたのかもしれない。

先輩、同じ中学だったって言うし、晴香との付き合い長いんだよね・・・

って、それ、入れ替わりがバレてるってことじゃない・・・そ、そんなわけないよな。

あれ？中学の頃の晴香って、入れ替わった後の・・今みたいな感じだったのかな？

高校入った頃の晴香じゃ、好かれるって感じじゃないもんな。

先輩、余程変な趣味じゃなきゃ・・・

え、じゃあ、なにかあって変わったってことなの？晴香。

慌てて、晴香の方を振り向く。

「ん、どうしたの？孝」

「な、なんでもない」

き、訊けないよォ、何かあったの？って・・・

勝手な想像でしかないし・・・

なんか、わからないことが増えただけみたいだ。

大体、先輩を振ってまで、俺を選ぶ理由ってないよなあ。

やっぱり、体の入れ替わりだけなのか・・・はあ〜っ。


「ちょっと、孝、パンフ」

「え、あ、はい・・・ゆっくり観てってくださいね」

慌てて、笑顔を作って、パンフレットを渡す。

いや、びっくりした。たまにしか、人が来ないから、つい・・・。

「孝、ぼーっとしないで・・」

「ごめん」

「・・・何、考えてたの」

「べ、別に、なにも」

「ふ〜〜ん」

げっ、この雰囲気、ヤバイ。俺だって、ちょっとは学習してるんだから。

「あ、あのね、は、晴香のこと、考えてた」

「へえ、私の？」

「う、うん、中学の頃の晴香って、どんな風だったんだろうなあって」

「え、中学・・・ふ、普通よ。今と変わらないわよ・・・あ、孝、ちょっと、ト、トイレいってくるから」

晴香が走っていく。

お〜い、晴香ぁ、トイレそっちじゃないよォ・・・って、言わないけどさあ。

なんか、相当焦ってるな・・・トイレ行くなんて普段言わないよなこと言って・・・逃げたんだよな。

・・・やっぱり、触れて欲しくないってことなんだろうなあ。

晴香のほうから、話してくれるまで待った方がいいのかなあ・・・。

ところで、今と変わらないって・・・どちらのほうと変わらないって言うんだろう？

・・・・

しばらくして、晴香が戻ってきた。校舎をひとまわりして来たようだ。

「晴香ぁ」

「えっ、な、何」

「お腹すいたよォ」

「え・・・何言ってんの。まだ１０時よ。後１時間あるんだから」

「ああ、まだ１時間あるのかあ・・・腹減ったなあ」

「孝、言葉使い」

「あ、そ、そうでした・・・久しぶりに注意されちゃいました」

「もう、孝ったら・・・」

うん、いつもの晴香だ。



「晴香、ごめ〜ん、ちょっと遅れちゃったぁ」

弥生が駆けてきた。

あ、本当だ。いつの間にか１１時を過ぎてる。退屈すぎて、気がつかなかった。

「次の当番、弥生？」

「うん。１時まで・・・一緒だったの？相変わらず、仲いいわね」

そっちこそ、相変わらず、一言余計だ。

「・・・じゃあ、後、お願いね」

そう言って、会場の方へ向かう。

「孝、お腹空いたんでしょ。先にお昼食べよう。食べた後、ゆっくり見て廻ろうよ」

「そうしよう。でも、どこで食べる？」

「そうね・・・こういうのは、弥生に聞くのが一番なんだけど」

「え、そうなの？じゃあ、聞いてみようか」

受付のほうへ引き返す。

「え、お昼？う〜ん、まず、野球部の焼きそばは、焼きすぎで、焦げてて具が少ない。

テニス部のうどんは、ゆですぎ。はっきり言って、食堂のほうがおいしいわ。

ソフトボール部のカレーは肉が少ないけど、まあ、いけるほうね。

サッカー部のたこ焼きは女子マネージャーが焼いてる時はいいけど、男子が焼いていたら

やめたほうがいいわ。生はまずいわよね、生は。ハンドボール部のホットドックは、

温めてるだけだから、可も不可もなし。合唱部のサンドイッチは量は少ないけどいけるわね。

生物部は喫茶店。ここのジュースは間違いなくPETボトルのだわ。まあ、それでもいいんだけど、

ただ、標本をを見ながらって云うのはちょっといただけないかな。

ブラスバンド部はお好み焼きやってた。自分で焼くわけだから問題ないけど、家庭用の

ホットプレートってのがね、風情がないわね。ちゃんとした鉄板でないと雰囲気が出ないわよ。

本当は、もうちょっと、廻りたかったけど時間来ちゃったし。後は午後から、廻るつもりだけど・・・

まあ、相対的に言って、ボリュームを求めるなら、やっっぱり、運動部ね。

質なら文化部ってとこかしら。どう？参考になった？」

「あ、うん、なった・・けど、あの、それ、全部食べてみたの？」

「もちろん。なんで？」

「べ、別に・・・あ、ありがと。とっても参考になった・・」

人は見掛けによらないっていうのは、このことなのか？

なんか、食べる前から、お腹いっぱいになったような気もする。

「晴香、何食べる？」

「そうね、お好み焼きにしようか？」

「うん、いいよ」

「孝が焼いてくれるよね」

「え〜〜っ、なんで」

「受付、付き合ってあげたでしょ」

「それは、そうだけど・・」

「感謝してるって言ったわよね・・・態度で示して欲しいなあ」


うう・・一瞬、ドーナッツが頭に浮かんだ・・・あれ？なんだっけ？

「とりあえず、行こうか」

晴香がニコニコしている。


ブラスバンド部は・・１−Fの教室か。

席について、とりあえず、ミックスを注文した。

あれ？晴香、いつの間にか漫画の本を持ってきて読んでる。一体、どこから持ってきたんだろう？

その前で、一生懸命お好み焼き焼いてるこのシチュエーションって・・・。

「晴香、焼けたよ」

小声で晴香に声をかける。

「お、サンキュ」

晴香の声に周囲が一斉に振り向く。

なんで、こんなことで注目されなきゃならないんだ・・恥ずかしいよう・・・。


教室を出た後、晴香が

「あはは・・あれ、一度やってみたかったんだ」

「・・・・」

晴香って、一体・・・。


「さて、どこから廻ろうか？」

晴香の顔を見ると、当然というように、

「やっぱり、美術部でしょう。まず、顔を出しておかないと」

うう、やっぱりですか・・・

渋々、美術室に向かった。

「いよっ、来たな。ゆっくり見てってくれ」

「は、はい」

うう、やっぱり、なんとなく、苦手なんだよな。臣先輩。


はー、でも、やっぱり、迫力のある凄い絵を描くんだよね。

・・・ちらっと、晴香を見る。

なんか首を傾げてる。

そ、そっか、晴香、絵は全然ダメなんだっけ。


「白石君、日高君をちょっと借りるぞ」

「は、はあ」

いちいち断られても困るけど・・・あ、晴香、気をつけてねって、こんなとこじゃありえないか・・・。


ちょっと、長引きそうな雰囲気。仕方がない・・先に、廻るか。


美術部を覗いた後、写真部、被服部など特別教室のある棟をみて、その後は、

１年の教室がある１階から順番に見てきた。で、今は、３階の３年生の教室で

展示している部を見て廻ってるところだ。

それにしても、晴香遅いな・・・クラブハウスでの展示見たら、見終わっちゃうじゃないか。

「晴香ぁ」

「あれ、水都さん」

「あれ？ひとり？彼は一緒じゃないの？」

「え？ああ・・」

もう、皆、これだ。

「晴香がひとりでいるなんて珍しいじゃない」

「そう？・・・臣先輩とどこか行っちゃたんだ」

「ふ〜ん・・・え、あ」

水都さんの後ろにいる子が、袖を引っ張っている。

「あのね、晴香。この子、同じ部の原田亜矢・・・紹介しろってうるさいのよ」

「真美ちゃんったら・・・原田亜矢です。宜しくお願いします」

「その”ちゃん”付けはやめてっていってるでしょう」

「え、あ、あの、白石・・晴香です。こちらこそ、宜しく」

原田さんって、１年生で一番有名だよな・・・紹介って、なんだろう？

「水都さんの部はなんだっけ？」

「合唱部、うちの部は、オーソドックスに喫茶やってるの。でも、結構人気あってね・・・

売り切れになっちゃったの。亜矢のおかげかな」

そういえば、そこの教室、『準備中』の看板かかってたな・・・

「明日もやりますから、早めに来てくださいね。サービスしますから」

「うん、ありがとう。絶対行くね」

水都さんがいたずらっぽい顔をして、

「晴香ぁ、一人でいるなら気をつけなよ。男達が狙ってるから」

「え？」

思わず、周囲を見廻してしまう。

あ、あれ？なんか、見られていた様な・・ああ、原田さんを見てたんだ。

なんてたって、学年で一番だもんね。

「狙われるなら原田さんのほうでしょう」

「亜矢は大丈夫よ。私がちゃんと守ってるから」

「え〜、本当は邪魔してるだけだったりして」

「う〜ん、それもあるわね。あはは・・」

「真美ちゃんったら」

「じゃあ、また後でね」


水都さんののおかげで助かってる事って結構あるんだよね。

あのさばさばした性格は、すごく話しやすいし。

でも、原田さんと話できるとは思わなかったなあ。クラスも違うし、話する機会なんて

なかっただろうなあ。以前だったら、上がっちゃって会話にも、ならなかっただろう。


ん？な、なに？

ふたりを見送って、振り向いた途端に３年生の男子数人にに囲まれてしまった。

「白石さん、これを」

な、なんだ？皆一様に封筒のようなものを差し出している。

文化祭の優待券とか？食券とか？

そういえば、どっかのクラブが客寄せにやってたっけ。

「え、貰っていいのかな？」

「はい」

一斉に返事が返ってくる。

「ありがとうございます」

一応、お礼を言って受け取る。

これだけあれば、結構食べるなあ・・・後で晴香と食べに行こうっと。


概ね、見廻った頃、晴香が追いついてきた。

「孝、見終った？」

「うん、晴香のほうは？」

「展示関係はね」

まあ、それよりも、先輩の話の方が気になる。

「うん、いいけど・・・先輩の話って・・・なんだった？」

「うん、仕事の話」

仕事？仕事って何だろう？

「孝、そういえば、この後の仕事だけど・・４時から・・・」

え〜〜、まだあるのォ・・・歩き廻らないで、休んでればよかった・・・



第１２話　終了




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