(文化祭二日目)

う〜ん、今日もいいお天気だ。

普段の行ないがいいからねぇ。なんて思ったのがいけなかったのか・・・


水都さん達に早目に来てって言われたのを思い出し、晴香を誘う。

「昨日、水都さん、『是非来て』って言ってたよ。結構人気あるんだって」

「水都さんは・・・」

「あ、合唱部・・喫茶店やってるって。昨日は売り切れになっちゃったって」

「へえ・・・もちろん孝のおごりよね」

「まあ、いいけど・・・昨日、他にも、優待券みたいの貰ったから」

「ふ〜ん、優待券?」

合唱部は、3−E・・・3階かあ。



「水都さん、来たよォ」

「は〜い、いらっしゃいませ。今、空いてるから、ちょうどよかった」

教室の四分の一くらいをカーテンで仕切ってある。

そこが調理室ってことなのか・・・。

水都さんが奥の窓際の席に案内してくれた。

「へえ、可愛いエプロンしてるんだぁ」

「いいでしょ、自作よ。こういうのは得意なのよ。」

そう言って、メニューを手渡してくれた。

「何が、おすすめなの?」

「アップルティーとサンドイッチかなあ」

晴香の顔を見て聞いてみる。

「それでいいかな?」

「うん。いいよ」

「じゃあ、それをお願いします」

「まいど〜・・・えへ、前払いでお願いします」

「え、あ、はい」

ふむ、しっかりしてる。メニューの金額を見てお金を払う。

「しばらく、お待ちくださ〜い」

水都さんが、カーテンの奥に消える。

さて、昨日、貰った優待券は、何処のかな?

封筒を開けてみる。

「へっ!?」

「孝、どうしたの?」

「うう、これ、優待券じゃない・・・こんなの、いらない」

「何?・・・こ、これ、ラブレターじゃない」

生まれて初めて貰ったラブレターが男からだなんて・・・なんて不幸なんだ。

それも、5枚とも・・・大体、こんなものを集団で渡すかよ。

きっと、いたずらだ。

「これ、私宛に来たのよね。孝」

「えっ・・・そ、そうなの?」

う〜ん、まあ、晴香宛といえば、晴香・・の・・なのかな?

そうすると、もし、晴香がラブレター貰ったとしたら、それって俺の?

なんか、今なら、たくさん来そうだし・・・って、なんか墓穴掘ったような・・・

もし、俺が晴香に手紙書いたとしたら・・・う〜ん、なんか、よく解らなくなってきた。

「じゃあ、私が預かっておくわね」

まあ、男からのラブレターなんかいらないし。でも、晴香、どうするんだろう?

「うん、いいけど・・・」

「お待たせしました」

原田さんが、注文したものを持ってくる。

「これ、サービスです。白石さん」

え、ちょっと、サービスのし過ぎじゃあ・・・これ、2倍はあるぞと、思った瞬間、

近くに座っていた女の子ふたりから声が上がる。

「ここは、客を差別するの」

その言葉を聞いた原田さんがうろたえている。

「え、あ、そっか、不公平かもしれないなあ。原田さん、お金払うよ・・・はい」

「孝、私の分もね」

すかさず、晴香が言う。

「はいはい。そう言うと思って出しときました」

晴香がにこりとする。・・・やれやれ。

「行こうよ」

そう言って、ふたりが教室を出ていった。それを見ていた晴香がつぶやいた。

「あれは、”白石晴香”に対しての妬みと嫌がらせだな」

「え?」

「最近、孝、目立ってるし・・・」

「え、目立つだけで?」

「100%の人から好かれるってのは難しいと思うよ。色々な人がいるんだもの。

この5通の中に想い人が居たのかもしれないけど・・・まあ、それは別にしても、

否定してしまうのは、簡単かもしれないけど、それでも、ひとつの見方だもの。

だから、それはそれで、認めてあげないと・・・まあ、会議の時と同じよ」

な、なんか、よく解らないけど、晴香って、凄く大人って感じがする。

「は、晴香って、いくつ?何月生まれ?」

「は?何言ってんのよ、同じ歳でしょうが。誕生日は3月21日だけど・・・あ、何かくれるの?

あ、いけない・・・孝の誕生日12月よね・・・先にとられちゃうのか・・・あ、もしかして、

私が貰えるのかな・・・そして、3月までに元に戻れば、もう一回、貰えたりして・・・

もうすぐよね、う〜ん、何がいいかなあ」

・・・なんか、やぶへび・・・だったかな。それに、この科白、凄く子供って感じが・・・。

で、でも、3月生まれとは思わなかった。どっちかって言うとお姉さんかと・・・あれ?

じゃあ、厳密に言えば(3ヶ月くらいだけど)、年下に怒られてたの?俺達って。

ううっ・・・情けない。


意味がわからないって顔で聞いていた原田さんが口を開く。

「白石さん、ごめんなさい。こんなことになるとは、思わなくて」

「え、あ、私も思わなかった。あはは、びっくりしちゃった・・・でも、原因が私みたいだから・・・

ごめんね、嫌な思いさせちゃって」

「・・・白石さん、男だったらよかったのに」

「はい?」

「あ、すいません。なんでもありません」

原田さんがカーテンの奥に消える。

「なんなんだろうね?はる・・か、え?」

晴香が睨んでる。な、なんで、睨まれなきゃいけないの?

その後、晴香の機嫌が悪かった。・・・どうして?



晴香、どこへ行ったんだろう?

お昼だっていうのに・・・まだ機嫌悪いのかなあ。

後ろから、聞き慣れた声がした。

「晴香っ」

え?裕香お姉さん?なんで・・・。

「暇だから、見に来てあげたよ」

暇?ですか・・・。

「今日は、一緒じゃないの?」

「はい?」

だ、誰とですか・・・って、晴香しかいないか・・・

「あ・・・あの、さっきまでいたんだけど・・・まだ、仕事してるのかな」

でも、どうしたんだろう?・・・急に、晴香の事、聞いたりして?

「ふ〜ん・・・じゃあ、あそこでお好み焼きやってたから食べに行こうよ」

「あの、昨日、食べたんですけど・・・」

「へえ〜、おいしかった?私が奢るからね」

「はあ」

仕方ないか・・・一応、お姉さんだし・・・。

昨日と同じミックスを注文する。

「晴香、焼いてね」

「え〜〜っ、なんで」

「お金払うの私でしょ」

う〜〜、なんで、二日続けて・・・。

うわ〜っ、い、いつの間に・・・漫画の本なんかどこから・・・。

「お、お姉ちゃん、焼けたよ」

「お、サンキュ」

昨日と同様周囲が一斉に注目している。今日はどっちかというと裕香お姉さんの方が

注目されているんですけど・・・。

教室を出ると、裕香お姉さんがポツリと、

「お好み焼きは、あれにかぎるのよ」

・・・なに考えてるんだ?この姉妹は。

「後はゆっくり見て廻るから・・・晴香、また、後でね」

手を振って歩いて行く裕香お姉さんを、周りの男子生徒がぼーっと見つめていた。

なんか、複雑な気分・・・なんでだろう?


晴香の姿見つけて、『どこへ行ってたの?』って、聞いたら、

「裕香の姿が、見えたから・・・」

それって・・・逃げたってこと?

まあ、わからなくもないけど・・・。


とりあえず、生徒会の出し物は無事終わった。

よく考えてみたら、晴香に代わってもらってよかったのかも。

だって、人前でピアノ弾いたことなんて一度もないし、あがって失敗してたかもしれない。

それにしても、これだけ、流暢に弾けるなんてさすが晴香。

いままで、晴香がピアノを弾いてるとこ、じっくり見たことなかったけど、なんかいいなあ

・・・背筋ピンとして、りりしくて・・・ちょっと、かっこいい。

でも、終わった後、女の子達に囲まれてたのは・・・ううっ。


最後のプログラムは、先生達のかくし芸。

劇だった・・・部分的なシーンを抜粋した・・・。

脚本、神崎、出演、朝霞、山上、小野、・・・

はあ〜、脚本が校長先生で、出演が、1、2年の先生ってわけか・・ふ〜ん

『コメディ 白雪姫と7人の小人』って・・・はあ?なんだ?

あ、朝霞先生が白雪姫?・・・あ、頭、痛い。

毎年、こんなことをやってるんだろうか?

なんか、卒業生がいっぱい見に来てたみたいだし・・・

ところで、先生達・・・どこで練習していたんだろう・・・

この学校、大丈夫なんだろうな・・・なんか心配になってきた。


うちの学校、後夜祭みたいのないし・・・後は、後片付けするだけね。

それにしても、疲れた。晴香も、かなり疲れたみたいだ。

でも、晴香の機嫌も戻ってたようなので、ちょっと、安心。


晴香と駅で別れて、家に帰ったら変な男がうろついていた。

よく聞いたら、裕香お姉さんの友人だった。以前は家にもよく来ていたって言ってた。

気をつけないと・・・こんなことからバレるんだよな。注意、注意。



第13話 終了




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第13話
孝司と晴香シリーズ