「おはようございま〜す」

「あ、おはよう、晴香。なんかご機嫌ねぇ」

「そ、そう？なにか手伝おうか？」

「それより、今日は暇？」

暇かと言われれば・・・裕香お姉さんが居なければ、暇ってことになるんだけど・・・

だって、今日は晴香との約束もないから。

・・・でも、何だろう？

昨日のこともあるし、注意はしなくっちゃあ。

「ど、どうして？」

「晴香、毎日、日高君と一緒だし、今日ぐらいは買い物にでも付合って貰おうかなと思って」

あ、そう言えば、ずっと晴香と一緒だったなあ。たまには、家族と出掛けないといけないのかなあ。

買い物くらいは一緒に行かないといけないんだろうなあ。

断らなきゃならない理由もこれと言ってないし。

「大丈夫だと思いますけど・・・」

ちょっと、変な返事だったかな・・・

「じゃあ、いいのね」

「は、はい」


はあ、晴香のお母さんて、綺麗なんだよね。スラっとしていて・・・晴香、どちらって言えば

お母さん似だよね。裕香お姉さんは、どちらかと言えばお父さんに似ている。

そんな事を思いながら、お母さんの後をついて行く。


「あの、今日の買い物は何？」

「あなたの服よ」

「え、私の？」

「そうよ。この間、クローゼット開けたら、ちょうどいいのがないんだもの」

「は、はあ」

そうなんですか？数は結構あったけど・・・



「まず、服ね。これなんかどう？」

「はあ」

ん？壱、十、百、・・って、女の子の服ってこんなにするの？

ふるふる・・・思いっきり、首を振っていた。

「え？気にくわない？・・・じゃあ、これは？」

「え、あ、あの、色が」

「？・・晴香、好み変わった？」

「え、あ、そういうわけじゃないけど・・・（ホントは、わからないけど）」

「変ねえ・・・」

ええっ、そ、そんなあ・・おかしいなあ・・晴香に似合う色とは、ちょっと違うと思っただけ

なんだけど・・・。あ、でも、クローゼットの中、暗めの服ばかりだったなあ。

晴香、グレーとか、そんな色が好きなのかな？

そりゃあ、中には、赤とか、ピンクとかもあったけど、あんまり着た様子なかったなあ。

自分の好みで選んじゃうとまずいのかなあ。

「でも、そうよね。お母さんも、そう思ったの。晴香が好きそうな色だけど、ちょっと違うかなって

・・・じゃあ、これは？」

う〜ん、どうしよう・・・選びにくいぞ。

これも、ちょっと違うような気がするんだけど・・・お母さんの顔を見上げる。

「やっぱり、そう思う？」

下手なこと言うとバレそうだしなあ。

「晴香のセンスがよくなっただけよね」

「・・・・」

そ、そうなのかなあ？


そんなこんなでもう二時間くらい、行ったり来たりしてる・・・

うえ〜っ、つ、疲れた・・・

「もう、どんなのがいいのよ」

「あ、あの、Ｔシャツとか・・」

「そんなのは、自分で買ってきてるでしょ。それに、これからはそんな季節じゃないし」

まあ、それもそうですが・・・

「あ、あの、お母さんにお任せしてもいいですか」

「え、本当？お母さんの選んだもの、ちゃんと着てくれるのね」

「は、はい」

「じゃ、そこで休んでいていいわよ」

売り場のベンチに腰掛けて、一息つく。

ふ〜〜買い物に対して、女って体力あるなあ・・元の体だったら、１５分もこんな事していたら

・・・死んでる。

それにしても、お任せしたら、凄く喜んでいたけど・・・よかったんだろうか。

でも、はじめから、お任せした方がよかったのかも・・・



「こ、こんなに、買ったんですか？」

「そうよ。晴香とは久しぶりに来たからね」

・・・久しぶり？・・・晴香、買い物に付き合ってないの？あれ？あれ？あれ？

「次ね・・・晴香、サイズは？」

サイズ？・・・えっと・・・あれ？女性用のＳサイズとか、Ｍサイズとか、確か男性用と違うよね・・・

あ、○号とか云うのもあるんだっけ？

晴香どっちなんだろうな？

「え、あの、Ｓかな？Ｍかな？」

「何言ってんのよ」

え？違った？

「下着よ」

な、な・・・そ、そんなこと知らないよ

ふるふる

「え？知らないの？」

ま、まずい。ヘンな目で見られている。

こんなこと、晴香にも訊けなかったし・・・た、体重くらいは・・お風呂場に体重計あるから・・・

あ、いや、晴香がダイエットってうるさいからで・・・まあ、体重なんか言ってもはじまらないし

・・・ど、どうしよう・・・

「測ってもらいましょう」

「え」

店員さんを呼んでいる

「自分のサイズくらい憶えておきなさいよ」

「・・・・」



店員さんが小さな紙にメモしてくれた

晴香、ごめんね。元に戻ったら、忘れるからね。

「何紅い顔してるの？へんな娘ねえ」



はーっ、疲れた。

足が棒のようだ・・・買い物なんか、もう、こりごりだあ・・・

ホントに、もう、ぐったりだあ・・・このまま休みたいよ〜

家に戻った途端、リビングのソファにひっくり返る。

「晴香、これ着てみて」

「え〜〜」

「ちゃんと着てくれるんでしょ」

「う」

確かに、そうは言いましたが・・・・

しばらくは、着せ替え人形となってしまった。

なんか、明るい色が多いんですけど・・・。

まあ、どっちかというと、晴香によく似合うと思うんですが・・・晴香・・・着るかなあ？

それにしても、一体全体、何着買ったんだ・・・

お母さんが最後に一言

「よし、これで、デートしても大丈夫ね」

はは・・、まさか、下着は違うよね。ちらっと、下着の方を見る。

「なんで？」

なんでって・・・声に出してないはずなのに。か、顔に出たのかな。

慌てて、手で顔を擦る。

「勝負なんとかって・・・いうのよね？」

あ、あの、意味判って・・・

裕香お姉さんが顔を出した。

「ついに、晴香もお母さんの道楽にハメラレちゃったか」

「あれ？裕香、まだいたの？今日帰るんじゃなかったの？明日は用事があるって・・・」

「お母さん、ずるいんだもん。今日一日中、晴香独占してて、晴香いないし。だから、明日にした」

裕香お姉さん・・・用事の方はいいんですか？・・・大学生って暇なんですか

・・・いつ帰るんですか？

「夕食終ったら、ピアノ弾いてもらわなくっちゃ」

「え〜、今日もォ」

食後、ピアノを散々弾かされた後、裕香お姉さんに尋ねてみた。

何故、裕香お姉さんは、自分でピアノを弾かないのかと。

あっさり、出来ないからと答えが返ってきた。

この家での晴香の存在って・・・地位ってどうなっているんだろう？




連休明けの学校。

いつものように登校すると、既に晴香は来ていた。

「は、晴香、どうしたの？」

傷だらけの晴香に、びっくりした。

駅の階段から落ちる実験をしたなんて雰囲気じゃあない。

「うん、ちょっと、試合を・・・ね」

「し、試合って、なんの？・・・いつ、誰と？」

「言わなきゃダメ？」

「そ、そりゃあ・・・うん、私の体、これだけ、ボロボロにしたんだもの。

聞く権利ぐらいあると思うけど・・・」

「はあ、仕方ないなあ・・・日曜日に、”白石晴香”を賭けて先輩と試合をしました

・・・これでいい？」

これでいいって・・・え？晴香を賭けて？・・・あ、晴香、合気道齧ってたんだっけ・・・

それにしては、晴香、ボロボロ・・・って、しっかり、俺を巻き込んじゃってるじゃないか・・・

「そ、それで」

晴香は嫌そうな顔をしながら、口を開いた。

「う〜ん、厳密に言えば、試合には負けちゃったんだろうなあ・・・」

え、ま、負けた・・・

「先輩の家、空手の道場やってるんだもん・・・やっぱりって感じかな」

空手？・・・やっぱりって、わかってて、試合したの？・・・なんか、めまいが・・

「あ、孝・・・大丈夫だよ。先輩認めてくれたから。私も負けたって絶対言わなかったし」

認めて・・・

「は、晴香・・・」

「”白石晴香”の気持ちが、かかってるんだもの。絶対に、負けられないもの」

それって・・・

でも、こっちが暇をもてあましてる時に・・・晴香かっこよすぎ・・・ちょっと、感激・・・

思わず、晴香に抱きついちゃった・・・ホントは抱きしめたいところだけど。

「孝、人、来ちゃうよ・・・あ、鼻水つけないでね」

晴香、デリカシーなさすぎ・・・

「あ、孝、その代わりに、生徒会の仕事手伝うことになった・・・

元に戻れたら、孝がやってよね」

え・・・え〜〜、そ、そんな・・・。



第１５話　終了




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