晴香が珍しくお好み焼き食べに行こうと誘ってくれた。

晴香の奢りらしい・・・もちろん断る理由はないので即ＯＫした。

家へ帰っても、疲れるだけだしな。

明日は、休みだし、予定としては、晴香と図書館で勉強することになってるだけだ。


店の戸を開けると・・・それなりに混んでいる。

晴香が、一番奥の席を指差している。

晴香の顔を見て頷くと、晴香がスタスタと歩いていく。

「ちょっと、待って、晴香」

慌てて、後を追う。

店の客の視線が・・・最近は、慣れてきたけどね。

席に着くと、エプロンをしたお姉さんが注文を聞きに来た。

コップを受け取っていると、晴香が、注文している。

スペシャル？・・・結構ボリュームのあるやつ・・・珍しいなあ


晴香が、じっと、こっちを見ている・・・

ま、待てよ。確か、文化祭では・・・

「孝、焼いてくれるよね」

や、やっぱり・・・

「え〜〜、なんで、自分で焼かないの？」

「もちろん、私の奢りだし、孝は私の彼女なんだから、焼いてあげたいと思うでしょ」

え、か、彼女かあ・・・焼く、焼かないは別にして、自分の居場所って感じが、

認められた地位って感じが、ちょっと嬉しいかな・・・あ、いや、彼女に

なりたいわけじゃなくって、どっちかって言うと彼氏の方に・・・なりたいわけで・・・

あ、でも、可愛い女の子に焼いてもらえれば、うれしいかも・・・

「それに・・・」

晴香の声が、急に小さな声になる。

「おいしく食べたいからね」

「はい？」

どういうこと？簡単に言えば、お好み焼きって、混ぜて焼くだけ・・・だよな

「だから・・・生や焦げたの食べても、おいしくないって事」

「だって・・・適当に焼けた頃見計らって、ひっくり返すだけだよ」

「裏側見えないでしょ」

「・・・・」

そうか、デートの時、お弁当作るって言った時、晴香のおかあさん、

すごく嬉しそうだったもんな・・・そうか、なるほど・・・

あれ？そんな晴香に焼かせた裕香お姉さんって？

「え、じゃあ、裕香お姉さんは？」

「え、裕香？・・・ダメダメ、私の方がマシよ。裕香が作ると、炭、炭になっちゃうよ」

「・・・・」

そ、そうなのか・・・

はっ、もしかして

「元に戻った時、晴香が焼いてくれるんだよね」

「あら、孝は、可愛い彼女に、焼いてあげたいと思わないの」

がくっ、どっちにしろ、俺が焼くことになるのか・・・まあ、お腹を壊すよりは、いいか・・・

と、言う訳で、スペシャルを焼いている。

「焼けたよ、晴香。でも、今月、お小遣いに余裕があったの？」

「ん、どうして？」

「だって、スペシャルなんて・・・」

「んん、ちょっと、孝に、栄養つけてもらおうかと思って」

え・・・

「孝、最近、やつれてきてない？」

「え、あ、あの・・・」

「もしかして、学校や私の家族にかなり神経使ってんじゃないの？」

「そ、そんなことないよ」

「そんなに気を使うのやめなよ。こんなこと自体、誰も信じないんだから」

「そんなに気なんか使ってないよ。皆、いい人達だし・・・あ、そりゃぁ、ちょっとはね」

「あ、やっぱり、お母さん？」

「え、あ、違うよ。なんか、逆に気を使ってくれてるのかな・・・」

「・・・違うわね。男の子が珍しくて・・・遊んでいるわね」

晴香が断定する。・・・さすが、晴香、鋭い。

「お母さんに一言言わなくっちゃ」

あ、晴香、でも、やっぱり・・・。

「大丈夫だよ。晴香の言うとおりにするし」

「本当？」

「うん、明日の午前中は、ゆっくりと体を休めるよ。だから、大丈夫」

「・・・わかったわ」



「今日は、ご馳走様。晴香」

「明日ね」

晴香に手を振って別れる。

晴香って、心配性だなあ。優しいところでもあるんだけど・・・。

まあ、本人には言えないくらい、体重減ってるんだけど・・・

ちょっと、ダイエットしたと思ってくれないかなあ。

玄関の前まで来たところで、あれ？お腹が痛い・・・その場にうずくまる。

食べ過ぎたかなあ？あ、違う。これは・・・

これだけは、慣れないなあ・・・

ううう、気持ち悪い・・早く、部屋へ行こう・・・

「あら、晴香、お帰りなさい・・・どうかしたの？」

「た、ただいま」

「晴香？・・・孝ちゃん？」


やっと、部屋にたどり着いたって感じだなあ

うー、頭、痛い・・・明日になれば・・・少し休も。



頬に何か触れる感覚がある

「きゃあ、な、なに」

「びっくりした・・・どうしたの？」

「はー、なんだ、お母さんか・・・びっくりした」

「孝ちゃん、どうしたの？・・呼んでも来ないと思ったら・・・寝てたの？」

「あ、ちょっと・・・」

「どこか悪いの？」

「ん、別に・・・ちょっと疲れてるだけ」

「そう・・・あ、晴香から電話よ」

「え、本当？」

体を起こすと気持ち悪い・・・でも、気づかれないようにしないと・・・

急いで、階段を降りようとしたら、お母さんが

「孝ちゃん？・・・あなた、ふらついていない？」

「え、そんなことないよ」

振り向いて、笑顔を見せたつもりだった・・・

「あれ？」

床がない・・・

ズダダダ・・・

「孝ちゃん！大丈夫っ？」

う・・思いっきり落ちてしまった・・・今日はついていないや

「あ・・・で、電話・・・」

う、痛い・・・足、捻ったみたい・・・

お母さんが、受話器を取ってくれた。

その場に、座ったまま電話に出る。

「もしもし・・・あ、なんでもない・・・・うん、わかった。１１時に・・・うん・・・

え、迎えに・・・・あ、いいよ、遠回りになるし・・・うん、いつもの駅の階段のところね

・・・うん、わかった」

時間を決めてなかったんだっけ。

ふ〜っ、でも、晴香には、気づかれなかったようだ。よかった。

気づかれたら、中止するって言うかも。

せっかくの晴香との時間なんだし。

「お母さん有難う。明日、図書館で勉強することにしたから」

「大丈夫なの？断ったほうが・・・」

「ん、ちょっと、捻っただけだから、冷やしとけば大丈夫」

「ちょっと、かなり腫れてるわよ」

本当は、めちゃくちゃ痛いんだけど、そんなこと言ったら、きっと外出禁止だ。

お母さんが、湿布とか、手当てをしてくれる。

「大丈夫？」

「う、うん。大丈夫」

「膝と腕はちょっと擦りむいた程度だけど、左手首と足首がかなり腫れてるわよ・・・」

電話では誤魔化したけど・・・これじゃあ・・・明日にはこの湿布とれるかなあ・・・

「とりあえず、部屋で休むから」

「そうね。部屋でじっとしていたほうがいいわ。ほら、抱っこしてあげるから」

「え、あ、いいです。ホント、大丈夫ですから」

あ、びっくりした。ほ、本気かな？



翌日。

「どうしても、行くの？」

お母さんが、心配そうに聞く。

「うん」

「そう」

「あ、湿布と包帯外してったら駄目かな？」

「駄目よ」

「え〜、カッコ悪いなあ」

「自業自得でしょ・・・どっちかって言うと、出掛けないほうがいいんだけど」

「あ、このままにしておきます・・・それじゃ、行って来ます」

足首に湿布して、靴下はいたら・・・ぶかぶかで、カッコ悪いなあ・・・

手首も、湿布して包帯だもんなぁ・・・こんな姿、晴香に、見せたくないけど・・・

晴香と一緒にいたいし。

この時間だから、ゆっくり歩いても充分間に合うな・・・



あれぇ？・・・晴香遅いなあ・・・１１時って言ってたよな。

時計を見ると１１時５分を過ぎている・・・時計狂ってないよね。

晴香いつも早めに来るのに・・・それにあわせて来たから、もう３０分以上待ってる

ことになる・・・晴香事故とかに遭ってないよな。電話とかしたほうがいいのかな。

うちの学校携帯電話禁止だし、晴香、まじめだから持ってないんだよね。


「晴香」

「はい？」

ん？他校の制服・・・誰だろう？

「おまえ、綺麗になったなあ」

いきなり、なんなんだ・・・こいつ。

「は？・・・あの、どなたですか」

「おい、シカトかよ」

「え、そんなこと言われても・・」

「いい加減にしろよ」

「・・・・」

ホントに、一方的な奴だなあ・・・晴香の知り合いなんだろうけど・・・

「また、つきあわないか」

「え」

「あののこと、忘れてやるから」

「あのこと？」

「とぼける気か？」

この男・・・危険だ・・・頭の中で、誰かが囁いている。

え？逃げたほうがいい？・・・なんでだろう・・・頭の中で・・・

「あ、急いでますから失礼します」

「おい、待てよ」

「い、痛い・・・放して」

乱暴に腕をつかまれてしまった・・・逃げようにも、足は痛いし・・・

晴香・・・早く来て


「あそこで話をしよう」

「手を放して」

「・・・・」

うう、放すつもりはないらしい・・・

おい、ちょっと、どこまで、引っ張っていく気だ？

こいつ、誰なんだろう・・・以前に、晴香と付き合っていたんだろうか・・・

”また”って言ったもんなあ。

でも、何とかして、逃げないと・・・

あれ、そういえば、晴香と初めてデートした日、反対側のホームにいたのは・・・こいつ？


「あれれ？この間の彼女・・・手なんか繋いじゃって・・・新しい彼？」

「「！」」

げっ、この間のコンビニのナンパ野郎。

繋いでるんじゃない。掴まれてるの。って反論してる場合じゃないか。

「そんな彼ほっといて、俺達と遊びに行こうぜ」

変な男に、ナンパ野郎が２人かよ・・・じょ、冗談じゃないぞ。

「は、晴香、また今度な」

「え」

え？あ、あの、ちょっと・・・おい、置き去りかよ・・・な、なんて奴だ。

ほんとに、晴香、あんな奴と付き合っていたのか？

なんか、汗が出てきた・・・ど、どうしよう

「彼女、晴香って言うんだ」

「あらら・・・新しい彼、行っちゃったね」

気安く呼ぶな。嬉しそうにするな。気持ち悪い。

でも、今日は走れないし、かなりやばい展開かも。

う、なんか、本当にやばい・・・人気のいないとこに追い詰められてるし。

やっぱり、大声出すのが・・ってこんなとこじゃ・・・誰にも聞こえないか。

大声は、早めに・・・って、余裕かましてる場合じゃないな。

う〜っ、あいつ、晴香の知り合いだと思って油断しちゃったのが・・・まずかったか。

は、晴香・・・晴香、来て、早く・・・必死に念じる。

ドン

え、後ろ・・・もう壁・・・

う、これじゃあ、もう逃げられない。



第１７話　終了




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