図書館での勉強の帰り、晴香に送って貰ったんだけど・・・

「晴香ぁ、寄ってくよね」

「う、うん・・・」

???

「どうかした?」

「別に・・・」

何故か、晴香の歯切れが悪い・・・よくわからないけど・・・晴香の手を引張って、家へ入る。

「ただいまあ」

声を聴いて、お母さんが飛び出してきた。

「大丈夫なの?」

「え?・・・はい」

突然、なんなんだ?

「襲われたんでしょ、弥生ちゃんから聞いたわよ」

「え、あ、ちょっと、絡まれただけで、大したことは・・・」

なんか、とんでもない話になってるなあ・・・そりゃあ、あの時はちょっと焦ったけどさあ・・・

「晴香も、孝ちゃんは、自分のだって言っておきながら、ダメじゃない」

「う」

あ、晴香は、全然、悪くないんだよ。

「あの、これは、晴香全然知らなかったことで、悪いのは、怪我とかを隠してた私が、

悪いんです。だから・・・」

「わかったわ」

「でも、晴香、あなたは、今は男の子なんだからね」

「う、うん、わかってるっ。孝は、私が守る」

「わかっていればいいわ」

と言って、晴香を抱きしめてる。

反省した娘?を抱きしめる母親・・・ま、それは、それで、いいんですけど・・・

容姿が俺っていうのが、

ちょっと、引っ掛かる。

それに・・・男の子は、女の子をしっかり守りなさいよって言われてるみたいで・・・

ちょっとプレッシャーが・・・

そう思ってると、お母さんが、こっちに向き直った。

「孝ちゃんも、無事だったから、いいんだけど・・・今度から、気をつけてね」

そう言って、抱きしめられてしまった。

晴香が、『あっ』って、叫んでる。

そんなに、心配させてしまったんだろうか・・・

大事な娘の体ってこともあるし・・・硬直しながら、改めて謝る。

「ごめんなさい」

「本当に気をつけてね」

チュッ

へ?

『あ〜〜っ』

晴香の叫び声が部屋中に響いている。

な、何があったんだ?

晴香の悲鳴?のおかげで、フリーズはしなかったけど・・・

「晴香、夕食食べていくわよねっ♪」

お母さんが、鼻歌まじりに部屋を出て行く。

「う〜ん、役得っ♪」

「「え?」」

何、今の???

晴香と顔を見合わせてしまった・・・



「弥生も話し好きだし、お母さんも聞き出すの上手だから、こんなことになるんじゃないかとは

思ったんだけど・・・」

晴香がため息をついている。

「ごめん、晴香。こんなに大げさなことになるとは思わなくて・・・」

「孝、今度から、しっかり迎えに来るからね」

「う、うん」

今回は、反論できない・・・

晴香、家に入るときになんか予感がしたんだろうな・・・

「でも、お母さんたら・・・ほっぺた・・・私でさえ・・・」

晴香がブツブツ言い始めた。

・・・もしかすると、あのナンパふたり組みより、こっちの母娘の方が危険かも・・・。


翌日の日曜日は、お母さんから、しっかり外出禁止を言い渡されてしまった。

外出しないからって、動き回らないって訳じゃないんけど・・・

それと、一晩考えて・・・今の晴香(俺の体)に・・・その・・・なんだ・・・

キスをしたわけじゃないからいいことにしよう・・・と、思い込むことにした

・・・無理やりだけど。




今朝は、晴れているんだけど、結構、風が冷たい。

湿布は、恥ずかしいので外した。お母さんは、ダメって言ってたけど・・・最後は、肯いてくれた。

だって、カッコ悪いいよなあ・・・湿布なんて。


駅の改札口で、晴香が声をかけて来た。

「孝、おはよう、今日は遅いね」

「え、晴香こそ」

「・・・孝を待ってたの」

「え、あ、ありがとう、実は、まだちょっと足が・・いつもより早く家を出たんだけど」

「やっぱり・・・そうじゃないかと思ってたんだ。本当は、家まで迎えに行こうかとも

思ったんだけど・・・」

晴香はかなり気を使っている様子。いつもなら、先に学校へ行ったりしているのに。

ホームまで行くのも、こっちの歩調にあわせて、ゆっくり歩いてくれてるし。


この電車、混んでいるんだよなあ・・いつもの早い電車か、以前乗ってた遅刻ぎりぎりの

電車なら、空いているんだけど・・・

案の定、満員の電車がホームに入ってくる。

降りた乗客の後の隙間へ無理やり押し込まれるって感じだ。

押し込まれた先に・・・あれ、C組の原田さん?

原田さんも気がついたようだ。

「し、白石さん」

「あ、おはよう。原田さん」

「おはようございます・・・日高さんも」

晴香は笑顔だけ返している。

うん、やっぱり、かわいいなあ・・・

・・・コースケに同じ電車だったって話したら、うらやましがるだろうなあ・・・

その間にも、晴香は押し潰されないようにガードしてくれる。

ありがとう、晴香・・・心の中で呟く。



今は、晴香がガードしていてくれるから押し潰されないけど・・・結構、きついなあ・・・

電車がポイントを通過した時大きく揺れた。

「!」

「あ、白石さん、ごめんなさい」

原田さんがよろけて抱きつくような格好になってしまった。

普段なら、ラッキーなんて思うところなんだろうけど、今回は・・・。

「孝、大丈夫」

「し、白石さん?」

「う、痛っ・・・また、足捻っちゃったみたい」

晴香が腕を取って、支えてくれた。

「あ、ちょっと、足捻っててね。トロイところあるから」

晴香が笑いながら原田さんに言う。

「そ、そうなんですか、私知らなくて・・・ごめんなさい」

あ、まずい。半分、泣きそうな顔になってる。

「原田さんは、いつも、この電車なの?」

突然話題を変えられて、ちょっと戸惑った様子を見せたが、答えが返ってきた。

「あ、はい。いつもこの電車なんですが・・・車両は違うんです。

今日は、人波に流されて、この車両になっちゃったんです・・・

あの、白石さんはいつもこの電車だったんですか?見かけた事なかったと

思ったんですけど」

「あ、いつもは、もう一本早い電車なの。今日は、ちょっと、遅くなって」

ちょっと苦笑い。

「あの、白石さん、日高さんのこと、『晴香』って呼んでいませんでしたか?」

「え」

晴香の顔を見上げる・・・ああ、あっち向いてる・・・晴香ひどい

「そ、そうだったかしら?」

「あれ?違ってましたか・・・この間も不思議に思って聞いていたんですけど・・・」

「あ、きっと、聞き違いだと・・・」

「ああ、そうなのかも・・・。でも、以前から、お話してみたいと思ってたんですけど、

ちょっと声掛け辛くて・・・この間、真美ちゃんに紹介してもらってから、なんか

親しみ易そうなので、話したくてウズウズしてたんです。あ、私ったら、ごめんなさい」

そうこうしているうちに、電車が学校のある駅に到着する。

改札口を出ると、晴香が耳元で囁いた。

「孝、おんぶしようか?」

「ちょっとォ、恥ずかしい事言わないでよ」

と言いながら、一瞬、おんぶされている光景を想像してしまった。

やっぱり、かなり、恥ずかしい光景だ。

ん?晴香、なんか残念そうだ・・・おんぶしたかったのかな?でも、冗談じゃない・・・絶対嫌だ。

原田さんも歩調を合わせて、ゆっくり歩いてくれる。責任感じちゃってるんだろうか?

しばらくして、原田さんが傍に寄ってきた。

「白石さん、肩、貸します。掴まって下さい」

「あ、ありがとう。でも、大丈夫」

笑顔でそう返す。

ああ、びっくりした・・・晴香も睨んでるし。

学校まで坂になってるし、結構、きついんだよな。

予鈴が鳴り響く。うう、あと、少しなのに。

「ああ、もうっ、じれったいなあ・・・原田さんも、走って」

晴香が叫ぶ。

えっ

・・・晴香に、抱きかかえられていた。

数分後、校門のところで、おろしてくれる。

「教室まで、運んで欲しかった?」

肩で息をしながら、晴香が言う。

思いっきり、首を左右にふる。

月曜日の朝から、話題を提供したくない。

「原田さん、今の内緒ね」

そう言って、晴香が、人差し指を口に当ててる。

「はい、3人の秘密ですね」

な、なんか・・・嬉しそうなんですけど


教室へ入ると先生は、まだ来ていなかった・・・ほっ、良かった。

うちのクラス担任、たまに早く来るから。

「あ、晴香。今日、遅かったのね」

水都さんだ。

「真美、おはよう。うん、ちょっと、足捻っちゃって」

「え、大丈夫?・・・晴香って、思ってたよりドジなのね」

ドジなのは、私であって、晴香ではないんだけど・・・

水都さんにも、色々と迷惑をかけていますが・・・。

「晴香、仕事、やっといたから」

「ありがとう、助かる」

私が遅いから、掃除とか、やっておいてくれたらしい。

水都さんが小さな声で、訊いてきた。

「ところで、晴香、今、亜矢と一緒だった?」

「え?」

「あ、C組の原田亜矢」

「ああ、原田さん。朝、同じ電車だったから」

「じゃあ、やっぱり、抱っこされてたの、晴香?」

「え」

見られたの・・・顔が、青ざめていくのがわかる。

「あ、ほんの一瞬だから、誰も見てないと思うよ・・・私は、亜矢がいなかったから、

正面玄関で校門の方を見てたから・・・でも、怪我なら仕方ないじゃない」

「う、うん」

「私も、誰にも言わないから」

「う、うん」

4人の秘密になってしまった。

扉が開いて朝霞先生が入ってきた。

「あ、遅くなって、すまん」

遅くなるなら、先に言ってよ・・・なんてこと、思っても仕方ないか・・・。

「起立・・・礼・・・着席」

いつものようにSTが始まった。




放課後、音楽の先生に呼び出された。

それで今、音楽室へ向かっているところなんだが・・・でも、何だろう?

特に思い当たる事はないんですけど。何かやったんだろうか?

音楽室の鍵は開いていたが、先生はまだのようだ。

音楽室は校舎の一番端にある。

元々、俺は美術を専攻したのだけど、晴香と入れ替わってからは、必然的に音楽の授業に

出ることになってしまった。

音楽の先生の名前は、山上先生。女の先生だ。


話は変わるが、あの晴香にも不得意なものがあったらしい。

一度晴香の描いた絵を見た事があったが、お世辞にも、褒める事は出来なかった。

美術の点数だけは下がりそうだ。

そんなことを考えているところへ先生が・・・。

あれ?一緒にいるのは、誰だろう。リボンが緑色だから・・・2年生だよね。

「あら?日高君はまだなの?」

先生が音楽室を見渡ししている。

「え、はる・・日高君もですか?」

・・・美術を専攻している晴香も呼び出されてるなんて何だろう?

「あの、先生、今日は?」

先生が何か言いかけた時だった

「遅くなりました」

そう言って晴香が入ってきた。

・・・晴香・・・

「ああ、ちょうど良かったわ。日高君は初めてよね、2年の緑川さん」

緑川さんが軽く会釈している。

「はい、1年A組の日高です。宜しくお願いします」

晴香がこちらをチラッと見て、挨拶する。

ふ〜む、私とは、面識があるってことか・・・

打合せが始まった。

毎年クリスマスイブにチャリティのミニコンサートを計画してるらしい。

今年は、この3人が参加っていうことらしい。

晴香は、文化祭でピアノを弾いたのがキッカケで呼び出されたらしい。

今年は、近くの幼稚園の子供達を招待するらしい・・・ピアノに親しんでもらうために。

各自、20分から30分程度の持ち時間で、選曲するようにとのことだった。

選曲は、月曜日まで・・・か。


晴香自身は2学期が始まった頃にこの話しを聞いていたようだ。

こんなことは初めてなので、戸惑ってしまう。

晴香は、何度か発表会を経験しているみたいだし・・・大勢の人に聴かせるなんて・・・

文化祭の時だって、晴香に代わってもらったし、考えただけでも緊張するなあ。

「どんな曲を選曲すれば、いいのかな」

晴香に問いかける。

「自分の好きな曲でいいんじゃない」

「自分の好きな曲・・・晴香はどんな曲にするの?」

「え・・・内緒」

「え〜〜、けち」

「また言ってる」

「え?」

「孝の『けち』って口癖?何回か聞いたわよ。それに、先生も仰ったでしょう。

3人が選んだ曲は、重複しない限り、内緒にしておくって。当日、他の人が何を弾いてくれるか

楽しみが増えるでしょって」

うう、それはそうなんだけど。

「選ぶ曲数は、曲の長さで違うけど、大体、5曲ほどってとこかしら」

「う、うん」

「クリスマスだから、それにちなんだ曲でもいいし・・・私は、自分の好きな曲を選ぶから」

どんな曲がいいのか、頭の中で、考えてみる。


晴香と鞄を取りに教室に戻ったら、教室には、まだ結構、生徒が残っていた。

「あ、白石さん」

あっ、原田さん・・・

「もう、足は大丈夫ですか?」

「ええ、有難う。もう大丈夫」

「良かった・・・あ、今、部活が終わって、真美ちゃんと帰ろうとしていたところなんですよ」

あは、また”ちゃん”つけで揉めてる。

4人は、鞄を持って、廊下の方へ歩き始めた。


ああ、そういえば、水都さんと原田さんは中学も同じ出身校って言っていたっけ。

「合唱部か・・・二人とも、声綺麗だものね。歌、聴いてみたいわ。ね、晴香」

「そうだね」

晴香が同意する。

「ほらね」

「ホントだ」

水都さんと原田さんが2人で、顔を見合わせている。

「え?」

な、何だろう?

「白石さん、やっぱり、日高さんのことを『晴香』って呼んでます」

「え」

あ、朝の話か・・・

「あ、そ、それは・・・」

も、もう、バレるのは、嫌だぞ・・・なんて答えようか、晴香。



第19話 終了




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第19話
孝司と晴香シリーズ