へへへ・・・試験のおかげで、午前中で終わり・・・

試験のメリットって、これだよな。

「どうだった、孝」

びくっ・・・背中から、晴香の声。

まさか、今思ってたことバレないよな。

ゆっくり晴香の方へ振り向く。

「？・・・どうかしたの」

「ううん、晴香のおかげで、今のところ順調だよ」

「そう、よかった」

ほっ、気づいてないみたいだ。

「晴香、今日も宜しくね」

「うん、それで、今日は何が出てくるのかな？」

晴香、あれから楽しみのひとつになったみたいだ。

元に戻りたくないっていうのは困るけど、こっちも期待されて悪い気はしないし。

う〜ん・・・勉強、教えてもらってる訳だし・・・お礼ってことで。

「うん、たいした物は出来ないけど、お昼作るね」

「うん。早く行こう」



アサリのパスタ・・・晴香、好き嫌いがないから、楽でいいよな。

お婿さんにするなら、晴香みたいなのが楽でいいよな・・・

・・・

あれ？なんか・・・

「ご馳走様。とっても、おいしかった」

へへへ・・・この晴香のにこやかな顔を見るのが楽しみなんだ・・・

この顔を見ると、明日は何にしようかなあ、なんて思っちゃううんだよ。

「ちょっと休憩してから、始めようか」

あっ・・・こんな現実もあるんだけど。

しばらくの雑談の後、勉強を始めた。


「これの解き方って、これでいいのよね」

「それでもいいけど、こうやった方が楽だよ」

「え、どうするの・・・あ、はあ、なるほど・・・」


お母さんが微笑みながら、こんな光景を眺めてる。

晴香が、いつものようにピアノの練習に行くとお母さんが話しかけてくる。

「孝ちゃん、頑張ってるわね」

「う、うん、晴香の成績下げれないから」

「無理しないでね」

「あ、うん」

「今度は、アップルパイの作り方、教えてあげるね」

「はい、お願します」

もちろん、笑顔で即答。

よし、明日のおやつはアップルパイだ・・・

「いい娘を持ってよかったわ」

「え・・・」

気、気のせいでしょう・・・きっと。

なんか、和やかに時間が過ぎていくんだけど・・・こんなのでいいのかな？




そんなことを、思っている間に試験は終わってしまった。

最後の試験が終わって、筆記用具を片付ける。

晴香に扱かれただけあって、いつもよりは書けたと思うけど・・・

あ、書けてないと・・・大変だよな・・・

でも、やっぱり、難しい問題がいっぱい・・・主要科目集中し過ぎだよ。

・・・晴香の成績、下がっただろうなあ・・・

・・・皆はどうだったんだろうな・・・とりあえず、晴香に聞いてみるか。

晴香と一緒に帰ろう・・・と思って、教室を見渡す・・・と、

あ、コースケたちとなんか話している。

帰り支度をして、晴香の所へ駆け寄る。

「なにしてるのォ」

晴香の背中に声をかけると、晴香がびっくりしたようだ。

そんなに驚かしちゃったかなと思っていると、何かを隠しがら晴香が振り向いた。

「し、し、白石さん・・・なんか用？」

？？？・・・変な晴香・・・

「ん、一緒に帰ろうかと思って」

「あ、今日は、ちょっと・・・中原君たちと・・・」

コースケ達と？・・・え、一緒に帰れないってこと？

「え〜っ」

「白石さん、ごめんね。いつもの反省会するんだ」

コースケが両手を合わせている。

うー、仕方ないか・・・友人関係は大切にしないと・・・えっ

ま、まさか・・・なにか隠したのって・・・

「ふ〜ん、いい本が手に入ったんだ」

晴香を見つめると、視線が宙を泳いでいる・・・

え、図星？・・・うっ、ショック・・・晴香が・・・そ、そんな・・・

ふらふらしながら、その場を離れた。

私というものがありながら・・・これだから、男って・・・

・・・

あれ？・・・うわー、ヤダー、何で・・・

その場で、頭を抱えて座り込む。

「晴香？どうしたの？」

顔を上げると・・・水都さんと原田さん。

「あらあら、涙ぐんじゃって・・・日高君にふられたの？」

「え、そうなんですか？」

あ、いや、そういうことじゃなくって・・・

「私たちが、付き合ってあげるわよ・・・って、本当は、晴香を誘おうかと思ってたの」

「え？」

立ち上がって、２人を見つめる・・・まさか、反省会？

まさか・・・筋肉ムキムキの・・・写真集見ながら・・・

「衣裳が出来たから､１度合わせてもらおうと思って」

あ〜、びっくりしたぁ・・・そんな事、あるわけないよね・・・２人とも、ごめんね。

「どうしたの？晴香」

「あ、いや、試験中だったのに、すごいなあと思って」

「教科書開いてると、眠たくなって・・・好きなことだと、何ともないんだけどね」

水都さん、ため息混じりに・・・うん、なんか、わかるなあ・・・確かに。

「うん、わかる・・・教科書開いてると、数字が勝手にラインダンス踊って、アルファベットは

ワルツ踊って、漢字なんか、タンゴ始めるんだよね・・・」

「へえ〜、晴香でもそうなんだ・・・」

まあ、晴香じゃなくって、私の場合・・・なんだけど。

でも、なんとなく親近感が湧くなあ。




「昨日作ったんだ・・・食べてみてよ」

昨日作ったアップルパイをふたりの前に置く。

「「おいしい」」

いやあ、そう言ってくれるのが一番嬉しい・・・

へへへ・・・本当は、たいしたことないんですけど・・・教えてもらいながらだから。

「晴香って、やっぱりすごい・・・試験中にこれ作ってたの？」

「真美だって、服、作ってたんでしょ・・・好きなことなら苦にならないもの」

「晴香さんって、女らしいんですね」

女らしい・・・

・・・

あれ？・・・ちょ、ちょっと、待ってよ

頭を抱えて座り込む。

「晴香さん、大丈夫ですか?・・・私、何か変なこと言いましたか？」

原田さんが慌ててる。

「あ、いや、そうじゃなくって・・・女らしいなんて言われたことなくって・・・」

いや、本当はそんな風に言われたくないんだけど・・・

「ええっ、そうなんですか？・・・女らしいですよ。綺麗だし、思いやりがあるし」

「そうよね。以前は、表に出さなかっただけかもしれないけど・・・

やさしいし、側にいると安心できるしねえ・・・充分女らしいわよ」

なんか、そう言われる度に、ズキ、ズキって、胸に突き刺さるんですけど・・・

でも、にっこり微笑むしかないか・・・

「それだけじゃなくって、スタイルもいいんだから・・・ね、これ、着てみて」

水都さんが、紙袋から衣装を取り出してる。

「デザインは同じで、色違いなの・・・晴香は・・・ちょっと薄めのレモンイエローね。

ブラウスは白にしてね。あ、これ、リボン」

リボンも黄色ですか・・・

「２人は、どんなの？」

「私が、萌黄色っていうのかな。これね。で、あーやが、菫色・・・っていうより、

ピンクに近い紫かな」

「これです・・・じゃあ、着替えましょうか」

原田さんがそう言って、着替え始める。

ドキッ

「え、あ、じゃあ、外で、待ってるね」

「え？晴香、どこ行くのよ」

水都さんに手首つかまれた。

「晴香も、着替えるのよ」

「あ、で、でも・・・あ、ほら、ブラウス取ってくるから」

「今、着てるのでいいわよ」

「あ、そうか・・・」

「ほら、早く着替えて」

「う、うん」

ふたりの方は、出来るだけ見ないようにして・・・

急いで着替える。

「晴香さん、着替えるのはやいですね」

「そーなのよ。体育の着替えの時もすごいのよ。あっという間に着替えて行っちゃうんだから」

本当は、苦労してるんですよ・・・

夏でなくて、ホント、よかったよ・・・今は寒いから、皆、さっさと服着てくれるけど・・・

「晴香、リボン結んであげる・・・どこか、きついとことかない？」

腕を上げ下げしたり、体を捻ったりしてみる。

黄色って、かなり目立つかなと思ったけど・・・爽やかな感じがする。

「うん、ぴったり・・・普段でも着れそう」

「うん、１回きりじゃなくて、何度も着て欲しくて・・・」

「真美ちゃん、苦労してたもの・・・ね」

「動きやすいし、縫い目もしっかりしてるし、お店で買ったら、高いんだろうなあ・・・あ、お金」

「あ、うん、じゃあ、材料費だけ、お願いね」

水都さんが、メモしてる。

「え？これだけなの」

ちょっと、安くない？

「本当は、いいかなと思ったんだけど・・・晴香が、誘ってくれてうれしくて・・・

でも、晴香は、きちんとしたいんでしょう？」

うん・・・水都さん、わかってくれてる・・・なんか、うれしいなあ・・・

「あ、真美ちゃんのなじみのお店ですから・・・値切るのも上手だし。もう、主婦って感じ。

あ、私の分も一緒に買ってもらったから、間違いないですよ」

「あ、あーや、主婦ってあんまりじゃない」

「だって、いつも、すごいなあって見てるんだから・・・私だったら、

あそこまでは値切れないけど・・・あ、私、時々、真美ちゃんに服作ってもらってるんです。

だから、値切ってるところ、よく見かけるんです」

「ま、あーやは、モデルにちょうどいいし・・・もう少し凹凸があればだけど」

「ああっ、真美ちゃん、それ、あんまり・・・自分だって、かわらないくせに」

・・・ははは・・・やっぱり、仲いいんんだ、このふたり・・・

笑顔で言い合ってる・・・じゃれあってる子犬みたいだ

「成功させたいね・・・」

思わず、口から出てしまった。

「よし、晴香、練習よ」

「頑張りましょう」





２人を見送って、家に入ろうとした時、晴香の声が聞こえた。

「孝」

「あ、晴香・・・反省会は」

「うん、早めに、やめたんだ」

やっぱり、来てくれたんだ・・・なんか、うれしい。

「入って」

晴香の背中を押して、家に入る。

「はい、晴香、今日のおやつだよ」

座ったばかりの晴香の前に、アップルパイを置く。

ちゃんと、残してあったんだからね・・・晴香の分。

おいしそうに食べる姿を見てるのって・・・うれしいなあ・・・

反省会なんか断って、家へ来ればいいのに・・・あ、なんか、意地悪したくなっちゃった

「晴香・・・いい本は、おもしろかった？」

「あ、あれは・・・バレない様に話を合わせてただけだよ」

あ、そうか、そこまで考えてなかった・・・

「あ、そうか・・・そうだよね。ごめんね。晴香がそんなことする訳・・・」

あれ、ちょっと、待てよ。まさか・・・

「晴香、本、借りてきてないよね」

「あ、それは・・・中原君が無理やり・・・」

や、やっぱり、借りてきてるんじゃないか・・・

「ふ〜ん」

「孝・・・ちょっと・・・あの、すっかり女の子の目になってない？」

「えっ」

「なんか、いやらしいなあって目で見てる・・・」

あれ？・・・そんなはずは・・・

「あ、そんなことないよ。そんな本くらい男の子だったら、普通だよね。

全然、気にしてないよ。うん」

じと〜っ

『『普通なんだろうか・・・』』

「「どうかした」」

「「あ、なんでも・・・」」

じと〜っ

・・・女性化が進んでるんだろうか？・・・ま、まずいな・・・どうしよう・・・

そ、そうだ。

「は、晴香、本見終わったら貸してね」

「え」

「だから、その本・・・」

うわっ、晴香が睨んでる・・・ぞ〜っ、やっぱり、無理か。

「孝っ、見たかったら、私を見て。他の娘なんて見ないで」

え、あ、そんな・・・お風呂入るのにも、あれだけドキドキしながら入ってるのに、まともに・・・

あれ？ドキドキ？・・・

・・・

あ、なあ〜んだ、ドキドキするってことは・・・

大丈夫ってことじゃないかあ・・・ああ、よかったあ

ん？晴香、真っ赤になってる・・・あっ

「晴香・・・可愛い・・・」

思わず、口から出ちゃった。

ん？晴香、拳を握り締めて・・・どうしたんだろう？

「孝・・・か、からかったわね・・・」

えっ

「あ、違う。違います。そんなことしません」

そんな恐ろしいこと・・・

「孝、はっきりさせておきましょう」

な、何？なんか、怖い・・・

「孝が先に好きだって言ったんだよね。お嫁さんに貰ってくれって」

「う・・・はい」

「よろしい・・・じゃあ、私のことが好きなのよね」

「は、はい」

「正直で、大変よろしい・・・じゃあ、『お嫁さんに貰って』って、言うのは・・・

プロポーズよね」

「え〜〜っ」

「違うの？」

あ、それは・・・そうなのかな？・・・お嫁さんに貰って・・・貰って・・・

あ、プ、プロポーズとしか聞こえないよォ・・・

あ、ううう、反論出来ないよう・・・どうしよう

「どうなの？」

「はい、したみたいです」

「したみたい？・・・う〜ん、男らしくないなあ」

「し、しましたっ」

「よろしい」

晴香の顔が笑顔に変わる。

しまった・・・今、女の子なんですぅとか言って誤魔化せばよかった・・・

でも、なんで、こうなるんだ？確か、晴香の本から、始まったはずなのに・・・

「先に、好きになった方が負けなのよ・・・うん」

あ、う、なんか、実感あるなあ・・・その言葉。

「何、また、孝ちゃんを苛めてるの？」

あ、お母さんだ・・・ちょうど仕事が終わって、部屋から出てきたところみたい・・・


「へえ〜、晴香にプロポーズ・・・無謀なことしたわね・・・孝ちゃんも」

え？無謀って・・・それだけなんですか・・・

「無謀って・・・お母さん、ひどい」

「大丈夫よ。孝ちゃん、晴香はともかく、立派なお嫁さんにしてあげるからね・・・

今度は、何がいいかしら・・・お茶？お花？」

「お母さんっ」


・・・そんなことより・・・元に・・・元に戻りたいよォ



第２２話　終了




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