先日、雪が降った。今日は、風が強い・・・駅のホームは尚更だ。

晴香が横に立っている・・・それはいいのだけど・・・

つまり、本音を言うと足元が寒い・・・。

「ど、どうしたの」

「え？」

「さっきから、こっちを見て、睨んでるから・・・」

知らず知らず、横に立っている晴香を睨んでたらしい。

「え、あれ・・・んん、あ、つまり、羨ましいなあって・・・」

「何が？」

「その・・・ズボンが・・・」

「え、寒いの？・・・それだけ武装してて？」

マフラーして、コート着て、タイツはいて、ソックスはいて・・・全身黒ずくめ・・・

「う、うん」

「ふ〜ん、それで、くっつきたいって訳？・・・いいよ。はい」

そう言って晴香がコートの前を広げる。

うう、晴香、意地悪。いくら、ホームに人が少ないからって、そんなこと出来るわけ・・・

バサバサバサ・・・

ホームのスピーカーが強風で揺れてる。

うひゃあ、寒いっ・・・風除けがある所にいればよかった・・・今更、思っても・・・

あれ？暖かい・・・晴香のコートの中へ避難してた。

「孝ったら、信じられない。人前で・・・」

うう、晴香が入れって言ったんじゃないか・・・

でも・・・一度入ると、出たくない・・・寒いから。

「いつまでくっついてるのよ」

ちぇっ、仕方ないなあ・・・って、あれ？

「晴香が押さえているんじゃあないか」

「え？あはは・・・だって、孝、温かいんだもん」


電車が風を纏ってホームに入ってきた。

「「うひゃ」」

ドアの開いた電車に早速に乗り込む。

『う〜、あったっか〜い・・・』

ホント、心からそう思う。

「「おはよう」」

『あ、真美とあーや。おはよう』

心の中でつぶやき、手を振る・・・だって、寒くて、まだ、声が出ないんだもん。

晴香も同じみたいだ。手で挨拶してる。

「晴香・・・ホームで大胆なことしてなかった？」

「え゛っ？」

「だから、真美ちゃんの見間違いだって・・・」

「うん、２人とも、黒いコート着てるから・・・」

原田さんが弁護してくれてるようなんですけど・・・

げっ、もしかして見られた？

「え、あ、あの、日高君を・・・風除けに使ってたけど？」

「あ、風除けか・・・あはは、ごめん、抱き合ってるように見えたから・・・」

「えっ」

・・・

見えないこともないよ・・・っていうか、よく考えたら、そっちに近いかも。赤面。

「ごめん、晴香。でも、こんなのが噂になっちゃうのよね・・・あ、ごめん」

いやあ・・・ありえる・・・軽率な行動は慎まないと・・・。反省、反省。

「でも、私たちって得よね。２４日が創立記念日なんて」

そう、なんか１日得したような気になります。でも、行事は入ってるんですけど・・・。

ミニコンが・・・。

「２４日はよろしくね」

「「うん」」





終業式の後、教室に入ると、ＳＴが始まった。

「あー、２４日・・・明後日だが、恒例のミニコンサートが開かれる。

時間は、２時からだったな。場所は、体育館だ。

あー、このクラスから、日高と白石と水都が参加するから、時間のあるものは、

聴きに行ってやってくれ。２年の緑川とＣ組の原田も出るんだったな」

教室がざわめく・・・

「ミニコンサートって、山上先生のよね。ピアノのコンサート」

「水都さんも参加するの・・・それにＣ組の原田さんも」

「コージ、お前、ピアノ弾けるの？まさか、”猫踏んじゃった”じゃないよな」

コースケが驚きの声を上げてる。・・・こいつ、文化祭ふけたのモロバレじゃん。


・・・でも、まあ、概ね予想通りの反応だな・・・

「あー、静かに。成績表配るぞ」

教室が、更にざわめく。

色々な、声が飛び交う

「期末、難しかったからなあ」

「俺、このまま帰ろうかな」

「郵送してやってもいいぞ。中原」

さすが、朝霞先生・・・慣れてる。

「着払いはやめてくださいよ。先生」

ははは・・コースケも負けてないか。

順番に成績表が配られていく。


「日高は今回、がんばったな。中間は散々だったが、期末だけで云えば、白石に

ついで２番だったぞ。皆も、がんばれよ」

さすが、晴香・・・って、私、１番？・・・本当？よ、よかったぁ・・・

なんとか、成績をキープできた・・・でも、晴香、手を抜いてくれたのかな？


解散になった途端に男子が晴香に集まっている。

「お前、いつの間に勉強してたんだよ」

「雪、降るんじゃないか・・・って、もう降っちゃったか」

「ピアノだって弾くって言うしさ」

「ちょっと成績表見せろ。ひえー、７番かよ。ゼロが２つほど足りなくないかぁ」

「はは・・７００番かぁ」

・・・好きなこと言っている。


う〜ん、さすがにあの中には入っていけないな。と思っていたら、女子が集まってきた。

「ミニコン、真美も参加するんだって」

へえ・・・結構、人気あるんだ・・・ミニコン・・

「うん、晴香のおかげ。皆、見に来てね」

「え？白石さんの」

「そう言えば、白石さんって、なんか、感じ変わったわ・・・あ、ごめんなさい。

親しみ易くなったっていうか・・・」

「うん、よく笑うようになったよ」

「凄く綺麗になったし」

「誰かさんのおかげかも」

「あ、そうね。そうね」

「この間の噂も凄かったし」

「そう、噂になるってどんな気分？」

「いつから、付き合ってたのよ」

「そー、そー、白状しなよ」

「きっかけは？」

「どこまでいってるの？」

「あ、だめよ。晴香ってば、本当は、凄い恥ずかしがり屋なんだから・・・

そんなにいじめたら、固まっちゃうわよ。あ、ほら・・・」

「本当だ。固まってる」

あ、う、このマシンガントークみたいなのにはまだついていけない・・・





２４日。

今日は私の誕生日なんだけど、世間一般では、クリスマスイブ。

いつも、クリスマスと一緒にされちゃうんだよなあ・・・。

でも、今年は、私が祝ってあげよう・・・なんて。

ちょっと、寂しいなあ・・・


１時少し前に、晴香が迎えに来てくれた。

早速、プレゼントを手渡す。たいしたもんじゃないけど、手作りだぞう・・・

「晴香、誕生日おめでとう。これ、プレゼント」

「え、今日は孝の誕生日だよ・・・私も、孝にプレゼント」

「体は、そっちだから・・・たいしたものも、出来なかったけど」

「うん、私も・・・期待しないでね」

お互いに、紙袋を交換する。

「「開けてもいいかな」」

袋を開けると、あれ・・・マフラーだ・・・

「同じだね。晴香も同じ本買ってたんだ」

試験が終わった後、お母さんにしつこく聞いて、作ったんだけど・・・。

「ホント・・・でも、孝の網目の方が揃ってる・・・」

「そんな事ないよ。晴香の方が綺麗に出来てるよ」

晴香がくれたのが白地に赤のライン、晴香にあげたのが、白地に青のライン。

あれ？でも、これって・・・ペア・・・あ、でも、この雑誌買った人って、大勢いるよな

・・・ま、いいか。



会場の入り口にはコースケたちが作ってくれたコンサートの看板がある。

実際に描いてくれた祐樹が顔を見せないのがちょっと気になったけど、

皆で記念に写真を撮った・・・

今日は、天候が悪いし・・・たくさん、来てくれるのかなあ・・・

ちょっと、心配になった。

控え室に・・・って生徒会の会議室なんだけど・・・入ると、花束が届いていた。

これ、めちゃくちゃ、大きいじゃん・・・

「誰に？」

「あ、カードがついてる・・・あ、晴香にだよ」

「え〜〜っ、誰から？」

心当たりなんて、全然ないぞ

「あ、臣先輩から・・・あれ？日高君宛のメッセージも付いてる」

『勝負はこれからだ。頑張れ』

「何？このメッセージ・・・意味わからない」

水都さんが首を傾げてる。

うわぁ、晴香、怖い顔してる・・・

あっさり、あきらめたわけじゃないんだ・・・先輩。

なんて、思ってる場合じゃないよ。早く着替えないと・・・。


舞台袖から、客席を覗くと・・・満席に近い・・・壁に張り付いているような人も結構いる。

招待した幼稚園児も前のほうの席に座っている。

なんか、緊張するなあ・・・こんなのって、はじめてだもんなあ・・・

水都さんたちが一緒で、よかったあ・・・一人だったら、心臓止まってたかも・・・

あ、それは、ちょっと、オーバーだったか・・・

あれ？照明係りって・・・演劇部の・・・あ、そう言えば、マイクとか準備してたのは

放送部だったな・・・ふ〜ん、色々な人が・・・

晴香と知り合わなかったら、知らない世界だったかも

・・・きっと、今頃、昼寝してるなあ・・・

よ、よしっ、が、がんばるぞォー

・・・と、その前に・・・トイレ・・・やっぱり、緊張する。



コンサートが始まる。

山上先生が簡単な挨拶・・・そして、演奏・・・街中でよく流れてる曲

・・・子供たちも口ずさんでる。

つ、次だ。水都さんと原田さんの顔を見る。３人で頷いて、ステージへ。



「いやあ、ご苦労様、山上先生」

「あ、校長先生」

「最初は、1年の白石と水都と原田ですね」

「ええ」

「ＴＶの幼児向け番組を見てるようですな・・・この曲、家の孫もよく歌ってますよ」

そういって、校長先生も口ずさみ始めた。


「皆、楽しんでくれたかなあ・・・・・・それじゃあ、ピアノのお姉さんに拍手っ」

え？そんなの、打ち合わせにないよォ・・・水都さぁん・・・

子供たちが、一生懸命拍手してくれる。・・・ちょっと、嬉しくなって、涙が出そうになった。

慌てて、立ち上がって、ペコリとお辞儀をする。

「ありがとうね・・・次のピアノのお兄さんは、どんな曲を弾いてくれるのかなあ。当ててみてね」

お、終わったあ・・・晴香とバトンタッチ。

晴香とすれ違う時、晴香がウインクしてた。

・・・晴香・・・余裕・・・。


客席の隅っこの席に３人並んで座る。

前の席には、校長先生と山上先生が座ってた。

晴香の演奏はもう始まっていた。

あれ？これ、アニメ・・・あ、演劇とかでも使われてるか・・・

「これって、晴香と日高君？」

水都さんがにやりとして耳元で囁く。

私って、野獣・・・なんとなく、ぶすう〜っ

「へんな晴香」

・・・まあ、子供達もおとなしく聴いてるし・・・

次は・・・映画音楽みたいだ・・・

「これ、あーやが好きな映画よね。ラストシーンがいいよね・・・ビルの展望台での」

ああ、それって、観たことがあるような気がする・・・

ふ〜ん、甘いって言うか、切ないって言うか・・・そんな曲が多いんですけど

・・・どっちかって言うと、子供達より、お母さん達に受けてるみたいだ。

「日高君は、好きな子がいるのかな・・・」

校長先生が呟いた声が聞こえた。

え〜っ、そんなことわかるの？


次は緑川さんだ。

よく考えたら、緑川さんって、集会とかで、校歌とか弾いてたんだよ。

あ、これ・・・魔法の・・・映画の・・・この本買って読んだよ・・・映画館でも並んだし・・・

たいていの子は観てるよな・・・日本語バージョンあったし・・・

親子で並んでるの見かけたもんな。


あ、晴香・・・わあっ、凄い汗。薄暗い中でもわかっちゃう・・・

横へ座った晴香に、慌てて、ハンカチを取り出して渡す。

「晴香、ハンカチ」

「サンキュ」

・・・晴香、こんなに汗かいて・・・一生懸命弾いてたんだろうなあ・・・


これって・・・よく聞くクラッシックだよな・・・でも、なんか・・・

あ、伴奏側に何か混ぜてある・・・よく聴くと、童謡だったり、今流行の曲だったり・・・

へええ、こんなこと出来るんだ・・・


もう少し聴いていたいなあと思ったんだけど・・・時間が来ちゃった・・・

山上先生が、お礼の挨拶してる・・・


控え室に、戻ると・・・やっぱり、大きな花束が目に付く。

「この花、分けようよ」

「え、晴香宛だよ」

「臣先輩だよ。代表で私の名前書いたんだよ」

「え、そうなのかなあ・・・」

「間違いないって。こんな大きな花束持って歩けないでしょう」

先輩なら予想してる・・・だから、これだけ大きなものを用意したんだ。

「それもそうね・・・晴香がそういうなら」

晴香は要らないって言った・・・まあ、わからなくもないが・・・

それぞれの花束にした時、着替えを終えた緑川先輩が入ってきた。

花束を手渡すとありがとうって言って受け取ってくれたんだけど・・・

１年生と２年生って、こんなに違うのかなあ・・・って思ってしまった。

落ち着いた女性って感じが・・・

１年たったら、こんな風に落ち着いた女性になっ・・・

わあ、やばい・・・危ないとこだった。

「私、先生に渡してくるね」

そう言って、水都さんが部屋を出ようとした時、ちょうど、先生が・・・

花束を受け取りながら、

「来年からはミニコンじゃなくなってしまうわね。今年が最後ね」

え、最後？・・・なくなっちゃうんですか・・・

え、なんか、私たち３人の方を見て言ってるんですけど

・・・やっぱり、問題が・・・

「ブラスバンド部とか合唱部が、来年は一緒に参加させて欲しいって言ってきて

・・・校長先生が、午前中から体育館を開放してもいいってことになったの」

・・・

今日のような雰囲気のもいいけど・・・一応チャリティーだからなあ・・・

たくさん人が集まった方がいいよね・・・


水都さんと原田さん・・・駅での別れ際、来年、合唱部として参加するよりも晴香と一緒に

参加したいと言ってくれたのが・・・嬉しかった。




今日は、色々あったけど・・・

今、晴香に送ってもらってるところ・・・

「孝、寒くない？」

「うん、寒ーい」

「やっぱり、寒がりね・・・入る？」

コートの左側を開けてる・・・

「え？」

この間みたいに、『信じられない』なんて、言うんじゃないだろうな。

晴香の顔を見上げる。

「遠慮しないで・・ほら」

「だって、晴香が・・・」

「クリスマスだから、いいのよ」

ふ〜ん、ま、晴香がそう言うなら・・・暖かいのが一番だし・・・

すかさず、もぐり込む・・・へへへ、やっぱり暖かいや・・・

来年は、元に戻って・・・ふたりでこうして歩きたいなあ・・・



第２３話　終了




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