16年間、家以外で年越したのって・・・記憶にある限りではないな・・・

家にいたなら、まず、寝正月してただろうなあ・・・

でも、やっぱり、ここは晴香の家だからな・・・今年もがんばるか。

決意を新たに、下へ降りる。


「あけましておめでとうございます。」

「おめでとう、孝ちゃん」

「あ、あの、何してるんですか?」

1階に下りたら、皆、もう起きてて・・・お母さんが、腕まくりしてて・・・

正月早々何してるんだろう?

「裕香が終わったから・・・今、お父さんやってるから、次ね」

次?

なんか、すごく疲れてるようなんですけど・・・

あれ、裕香お姉さん、着物着てる。

濃い紫色に、桜の模様・・・髪はアップにして・・・綺麗・・・

一瞬、ぼーっとしてしまった。

あ、晴香、見てなかったよな。キョロキョロとあたりを見回す。

姉妹だもの・・・晴香と似てるよね・・・

なんか、言い訳してるな・・・ごめん、晴香。

「裕香お姉ちゃん、おめでとうございます。お姉ちゃん、とても綺麗・・・」

「あ、晴香、おめでとう・・・早く脱ぎたい・・・」

は?な、なんで?とっても、綺麗なのに・・・

「折角、着せたのに・・・ほんとに、裕香はぁ・・・」

お母さんの嘆きの声が・・・着た途端にこれじゃあ、無理もないか・・・

「振袖ですよ。とっても、綺麗なのに・・・勿体無いですよ」

「今日1日くらい、がんばりなさい。晴香もそう思うでしょ」

「え、ええ、折角着たんだから・・・1日くらいは」

「だって、窮屈だし、お腹空いたのに、食べれないし、海苔巻きの気持ちがわかるわ」

「え?海苔巻き・・・」

裕香お姉さんって、面白い・・・でも、海苔巻きって言うより、寿司の伊達巻・・・あ、いや、

うーん、でも、男が百人いたら、間違いなく、百人とも惚れるな・・・でも、実体を知ったら、

何人かは・・・あ、裕香お姉さん、ごめんなさいっ。私、最後まで残りたいと思いますっ。

「やっと、終わった・・・孝ちゃん、次よ」

「はい?」

な、なんですと?

「早く」

「え、あ、あの、な、なんで・・・私も?」

「裕香の成人式用のもの、準備してたんだけど、それと一緒に晴香のも、準備してたんだけど

・・・あ、ほら、成績上がったでしょ、だから、ご褒美」

え、でも・・・晴香だって、一度も着てないのに

「それに、振袖なんて着る機会ないでしょ」

あ、あの、男なんですから・・・機会があるもないも・・・ないのが普通なんです・・・



ひ〜、く、くるしー・・・裕香お姉さんの気持ちがよくわかる・・・

1日なんて・・・言うんじゃなかった・・・

「髪は、やっぱり・・・リボンか」

いてて・・・髪が突っ張ってるんですけど・・

「よし、出来上がり・・・っと・・・ふ〜、疲れたから、お母さんは着るのやめるね」

「・・・・」



お母さん、お父さんに、お酒飲ませて・・・

・・・御節料理・・・ひとりで、食べてない?

晴香が、10時に迎えに来るのに・・・初詣、一緒に行く約束をしてるのに。

それにしても、お腹空いたよーォ

伊達巻になるより、伊達巻食べたいよーォ



10時に晴香が迎えに来た。

「おめ・・・え?孝?」

「おめでとう、晴香」

「孝、綺麗・・・」

「ごめんね。先に、晴香の振袖着ちゃって・・・」

「ううん、構わないよ・・・どっちかというと、私は、綺麗な娘を連れて歩く方が・・・」

え、晴香、大丈夫?・・・お正月から、なんか不安・・・

「じゃ、行こうか、初詣」

「う、うん」



天神様かあ・・・それにしても、人だらけ・・・すごいなあ・・・

それにしても、着物が・・・ちょっと、重い・・・思うように、動けないんだけど、

晴香の右斜め後ろを歩くと・・・人にぶつからないし、晴香も、カバーしてくれるし、

ゆっくり歩いてくれるし、時々振り返ってくれるし・・・えへへ・・ちょっと、嬉しい。


晴香の成績を維持出来たことに、精一杯の感謝と今年も維持できるようお願いした。

お参りを済ませて、鳥居のところまで来ると、聞き慣れた声がした。

「あれ?日高君じゃあ・・・」

「あ、水都さん、原田さんも・・・おめでとう」

「おめでとう・・・晴香と一緒じゃないの?」

「え、ここに居るけど・・・」

「えっ、晴香?・・おめでとう、見違えちゃったぁ・・・振袖なんて、すご〜い」

「晴香さん、おめでとうございます。とても綺麗です」

「おめでとう、無理やり、着せられちゃって・・・」

「でも、いいわねえ・・・私も着てみたい」

着るのと、見るのとでは、全然違うんだよォォ・・・

心の中で、叫ぶ。晴香が、見透かしたように、笑ってる。

「ねえ、次、行かない?」

「え?次って?・・・え?初詣のはしご?」

「うん、学校の裏にある神社」

「お願いよく聞いてくれるのよ」

「へえ〜、晴香、行ってみる?」

「い、いいけど・・・」

?・・・晴香、ちょっと、へんな顔したけど・・・



学校の裏・・・あ、学校が、神社の裏手に出来たのか・・・

学校へ行く時と同じように、坂道を登っていく。

へえ〜、街中の天神様ほどじゃないけど、結構、人が来てる。

空気も、なんか、凛としてて・・・

あ、どっちかっていうと、こっちの雰囲気の方が好きかも・・・

「ここへ来たのって、初めて」

水都さん達に向かって話しかける。

「そうよね、普通学生は、天神様へ行っちゃうわよね」

「私は、毎年、真美ちゃんと一緒に来てるんですよ」

「ここ、水都(ミト)神社って言うのよ。私の親戚になるんだけど・・・神様と区分する為、

分家すると、水都(ミズト)になるの」

「へえ、そうなんだ」

そういえば、珍しい名前だよね。

「私は、今年はあーやと同じクラスになれるように、お願いする。今年は、別だったものね」

「じゃあ、私は、晴香さんと同じクラスになれるように・・・あ、晴香さんは、日高さんと・・・ですね」

「あ、う、うん」

「そうすれば、皆、同じクラスですね。日高さんも、お願いして下さいね」

原田さん、嬉しそう・・・


あれっ、石段を降りてくるのって・・・臣先輩・・・なんで・・・

あ、なんでって事もないか・・・初詣だよね・・・帰るところみたいだけど。

「おめでとうございます」

「おめでとう」

挨拶したら、先輩が、晴香の方を見てにやりとした。

げっ、晴香の目が、鋭くなってる。

晴香、お正月だよ。思わず、腕を取って顔を見上げる。

晴香がこっちを見て笑顔になる。

晴香、また、なんかする気じゃないでしょうね。

先輩は、手を振って、石段降りて行ったけど・・・


4人並んで、お参りする。

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・・・・・・」

?・・・晴香だけちょっと、長くない?・・・まあいいか、お正月?だし


皆で、おみくじを引く。

・・・

う、う〜ん・・・これって・・・う〜ん、内緒。

「去年は、ふたりとも、合格祈願だったから、クラス別になっちゃったんだよね」

「そうなの。去年以外は、ずっと、一緒だったもの」

「へえ〜、そんなに聞いてくれるんだ・・・」

あ、しまった・・・そんなに効果があるんなら、元に戻れるようにお願いすればよかった。

あ、今からでも・・・

「ただし、1年に1個しか聞いてくれないのよ、この神様・・・ちょっと、ケチでしょう」

「真美ちゃんたら・・・バチあたるわよ」

「えへへ・・・ごめんなさーい」

そ、そうなのか・・・残念・・・。

「私、ちょっと、おじさんに挨拶してくるね」

「あ、私も一緒に・・・晴香さんたち、ちょっと待っててもらえますか」

「うん」

神社の裏手へも行けそうだ。

「晴香、折角来たんだから、裏手も行ってみようか」

晴香が頷く。


そこは、ちょっとした、空き地になっていて、木のベンチもあって、

なんとなく、落ち着く空間だった。

今時、こんな所、誰も来ないだろうし・・・

夏の暑い時に、ここで、昼寝したら気持ちいいだろうなあ・・・なんて思ってしまった。

ふと見ると、細い小道が1本、山のなかへ続いている。

それに気づいてか、晴香が説明してくれる。

「ここを登っていくと学校の体育館の裏に出るのよ」

へえ、ここに出てくるのかぁ・・・って、

「え、な、何で、知ってるの?」

「生徒会で学校周辺を見廻った時、金網が破れてて、修理してもらおうってことにしたんだけど、

校長先生がそこはそのままでいいんだって言って・・・」

えっ、皆知ってるの?

「孝、ここから脱走しようとしたんじゃないんでしょうね」

「え、あ、ま、まだ、してないよ」

「まだって・・・あきれた」

コースケ、バレてるよ・・・

「でも、なんで、直さないんだろう?」

「うーん、誘惑に負けない強い精神を作るため・・・とか、かな?」

そ、そうなのか・・・誘惑に負けてます・・・


「孝、座る?」

「う、うん」

「はい」

晴香がベンチにハンカチを広げてくれた。

「あ、ありがとう」

「それにしても、孝も大変ね。お母さんの道楽にも付き合わなきゃいけないし・・・」

「え、あ、う、うん、着物って綺麗だけど大変だね・・・女の子って」

「そ、そうね・・・」

晴香も、横に座る。

今日は、天気はいいとは言え、やっぱり寒いよ。

風の音も、落葉した銀杏の木も、杉の木が揺れる姿も、なんとなく寒いって・・・。

でも、隣に晴香がいるって言うのが、嬉しいけど・・・そう言えば・・・

「晴香が振袖着てるところ、見たかったなあ・・・綺麗だろうなあ」

「な、何言ってるのよ。鏡見ればいいじゃない」

「鏡と実物見るのじゃ、全然違うよ。きっと、本物の晴香の方が綺麗だよ」

晴香が真っ赤になっている・・・可愛い・・・

体が入れ替わることがなかったら、こんなに親しくなれただろうか・・・

「体が入れ替わったのは、神様のいたずらかもしれないけど、晴香と親しくなれて

ホントに良かった。神様に感謝しなきゃね」

「え・・・」

赤い顔をしていた晴香がみるみる青い顔に変わる。

「ど、どうしたの?」

「あ・・・」

「どうしたの?気持ち悪くなったの?」

晴香が頭を左右に振りながら答える。

「入れ替わったのって、私のせいかもしれない・・・私、孝と親しくなれますようにって、

ここの神様に”お願い”したことがあった・・・ど、どうしよう・・・あ、さっきも」

「え?」

「私のせいだったんだ・・・」

・・・こんな晴香見たことない。なんか、声も、弱々しい・・・

「ふ〜ん、じゃあ、神様と神様にお願いした晴香にも感謝しないといけないね」

「えっ」

「晴香、ありがとう」

「えっ、だって・・・」

「ありがとう、晴香」

「あ、あの、で、でも、そのせいで、孝、苦しんで・・・」

やっぱり・・・晴香が・・・愛しい

思わず、両手を晴香の肩へ・・・廻しちゃったんだけど・・・晴香に見つめられたら・・・

あ、あ・・・ど、どうしよう・・・自然、下を向いてしまう。

「あ、あの、は、晴香・・・その・・・キ、キス・・・していいかな」

恥ずかしいっ・・・晴香をちらって見たら、真っ赤だった・・・

こっちも、顔が熱い・・・きっと、真っ赤になってるんだろうけど・・・

あ〜、何か言って欲しい・・・この”間”っていやだよ〜

「え?」

晴香の両手がほっぺたに・・・

「孝、ちゃんと目瞑ってよ」

ええっ、な、なんで?・・・あれ?な、なんか、立場が・・・

そう思いながらも、目を瞑った。

唇が触れたかと思うと・・・頭の中が・・・何かグルグル回る様な・・・不思議な感覚・・・

キスって・・・こんな・・・

目を開けると・・・自分が・・・いや、晴香?・・・え、戻れた?

晴香を抱きしめてみる。

「孝、苦しい・・・」

間違いない・・・戻れたんだ。

「やっぱり、本物の晴香の方が綺麗だ」

「え」

鏡で見るより・・・何十倍もいい・・・。

しばらくして、晴香が話し始めた。

「孝、覚えてるかな?6月の終わりだったと思うけど・・・私、機嫌悪くて

孝に当り散らしたことあったんだ。その日は午後からどしゃ降りになってさあ、

傘なくって、帰れなくって、困ってた。

でも、孝ったら、当り散らしたことなんか全然気にしてない様子で、

駅まで入れてってやろうかって声かけてくれたんだけど、私ったら・・・

噂になるから嫌だって言っちゃった。

そうしたら、傘貸してやるって・・・自分は友達に入れてって貰うから

傘差して行っていいって。でも、その時は、もう友達帰ってしまっていたんでしょ?

孝、濡れて帰ったもんだから、熱出したって、3日も休んでさ・・・

治って学校出てきた孝に傘返したら、サンキュって、笑顔で受け取ってくれて・・・

私、その笑顔が忘れられなっくって・・・だんだん、気になりだして・・・」

ふ〜ん、晴香、そんなに前から・・・

あれ?この前、先に好きになった方が負けだよって・・・あれ?

「成績影響するとか言って、理由つけたけど、本当はどうでもよかった。

ふたりでいられる時間があれば・・・なんでも、よかった。

・・でも、孝が、お嫁さんに貰って言った時は、やったぞって思っちゃた。

もし、元に戻らなければ、孝のこと、ずっと独り占めできるかなあなんて・・・

それでつい、いつも優位にいられるようにって・・・そんな態度とったり・・・」

うん、いつも、負けてました・・・声に出して言えないけど、よく泣いてました。

「・・・いつも一緒にいるのが、嬉しくて・・・いつか、孝とキスしたいなあって・・・

あはは、思い出しちゃったあ・・・紅葉見に行ったでしょ・・・覚えてる?

帰りの電車の中で、孝の寝顔見てて、髪の毛なでてたら、幼稚園ぐらいの男の子がね、

じっとみて、『キスするの?』って言うもんだから、周り中の人が注目するの。

・・・あの時、本当に恥ずかしかったわ。孝をおいて逃げようかと思った・・・」

晴香が笑顔をこっちを向ける。

確かにあの時、晴香の顔が赤かった・・・そんな事があったんだ。なんとなく納得する。

それより、この笑顔が・・・あ〜〜っ、もしかして、先輩と勝負するのって・・・

だ、大丈夫かな・・・。

あ、水都さんたちが待ってるかな。


「晴香あー」

水都さんが手を振ってる。

「裏の方に行ってたんだ・・・でも、あそこは、夏、昼寝するのにいいんだよ」

やっぱり。

「・・・・」

「何?水都さん?」

「晴香、口紅、落ちてるよ」

「?」

晴香が首を傾げてる。

「口紅はつけてないよ。リップだけだよ」

晴香知らないだろうから、ちょっと補足。

「う〜ん、違ったかあ」

???

「ふたりの雰囲気が違ったから、キスでもしたかと・・・」

「真美ちゃん」

原田さんに、叩かれてる・・・鎌かけたってことか、いや、でも、危なかった・・・。

「日高君・・・17日、暇かな。あ、土曜日だけど」

「え、まあ、たぶん」

なんか、話し見えないんですけど。

「17日に結婚式があるんだけど、手伝って欲しいの。手伝ってくれたら、3月、春休みに

温泉にご招待って・・・実は、おじさん、腰痛めて・・・いいでしょう?だめかなあ?」

「・・・水都さんには、色々お世話になったし・・・いいよ」

「私、お世話したかな?・・・でも、よかった。日高君がOKということは、晴香もOKよね」

はい?

「いいけど・・・」

「晴香、日高君いないと寂しそうだし、一緒だからいいよね」

え・・・そんな風に見えてたんですか・・・


水都さんたちと、いつもの駅で別れる。

晴香と歩いてると・・・他の男たちの視線が・・・う〜ん、快感・・・

「孝・・・」

「ん?何」

「・・・お腹すいた・・」

あ、そうだった・・・朝から・・・

「何か食べる?って、あ、振袖が・・・お母さん、思いっきり締め上げるだもんなぁ」

「孝に無理やり脱がされたってことで・・・」

何か食べるのに、そんな理由使われたら・・・冗談じゃない。

「晴香、まっすぐ帰ろう。ちゃんと送るよ」

「ちぇっ、せっかくの既成事実をつくるチャンスが・・・」

「ちょっと、晴香ぁ・・・」

晴香が嬉しそうに腕にしがみついてくる。

・・・

これからは、普通の恋人同士・・・やっぱり、普通が一番。



・・・これからも、ふたりの時間、大切にして行こうね。




第24話 終了




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第24話
孝司と晴香シリーズ