どこへ行くんだろう?

晴香、内緒って言ってたけど。

まさか、ゲーセンなんてことは・・・ないよな。

映画、コンサート、遊園地・・・う〜ん、どこだろう?

今、面白い映画ってあったかな?

あれ、ちょっと待てよ。これって、デートにあたる・・・のかな?

いつもの勉強で扱かれて、ふたりでいるのとは違うよな。

体は入れ替わっているが・・・細かいことさえ気にしなければ、・・・やっぱり、デート。

デ、デートかあ・・・この響き、心躍るなあ。

晴香も、そう思っている・・かな?



ところで、明日は何着て行こうか?

クローゼットを開ける・・・う〜ん、何着ようか・・・

シックな服で決めるか、可愛い服にするか・・・

これと、これの組合せかな・・・いや、これとこれかな?

これっていう手もありかな・・・う〜ん、これにしようかな。

う〜ん。

よし、こっちにしよう。

最近、やっとミニスカートも穿けるようになったし。

白と水色でさわやかな感じだし。まあ、本当は、赤とか、ピンクとかは、まだちょっと、

抵抗があったりして・・・

それに、晴香、この服買ったこと知らないから、お披露目兼ねて、ちょうどいいかも。

まあ、俺も一応、男だった?訳だし、男の目から見たら、結構いけると思うし。

ここで、はっとする。

そうだ、俺、男なんだよな・・・こんな事していていいのかな・・・。

「・・・・」

でも今は、外観は、女なんだし、仕方がないよな。うん。


で、次は・・っと。

し、しまった・・・そうだ、女の子だった。

そうすると、お弁当とか作らないといけないのかな?そんな考えが頭に浮かぶ。

こ、これはまずい。

明日、お弁当くらいないと、晴香、冷たい目で見るだろうなあ。

『やっぱり、その程度ね』なんて・・・いや、晴香がそんなことを言うわけない。

でも、やっぱり、晴香の笑顔が見たい。普段迷惑かけてるし。

・・・慌てて、下へ駆け下りる。


「お、お母さん、明日、お弁当作りたいんだけど、材料ある?」

「あ〜、びっくりした。何が落ちてきたのかと思っちゃった」

ちょっと、勢いがよすぎたか。

「すっかり元気ねえ。・・・へえ、デート?で、どこへ、いくの?」

「え、あ、わかんない」

「ふ〜ん、じゃあ、サンドイッチでもつくる?公園とかでも食べられるし、

帰りは荷物にならないし。簡単だし。」

「う、うん」

簡単なのにこした事はないが、しかし・・・お弁当なんか作ったことないぞ。

じと〜〜っ


「手伝ってあげるわよ。そんなに不安そうな顔しないでよ」

あ、やっぱり、晴香も作ったことなかったのかな?

「お、お願いします」

こればっかりは、素直にお願いするしかない。家庭科の時間、

もう少し真面目にやっていればよかった・・・。



翌日、早めに起きてお弁当と格闘?することになった。

お母さんは、丁寧に教えてくれる。・・・始終、微笑みながら。

「晴香、ツナ好きだったわよね」

・・・そうか、晴香はツナが好きなのか・・・

当然、多目に準備する。

よし、これでひと通りの準備はできた。

なんか、ちょっと、ほっとした。

「晴香、ちょっと」

と言って、お母さんが、ニコニコしながら髪をまとめてくれた。

「その服だったら、こうした方が似合うでしょう」

ふ〜ん、こんなふうにするのか・・・次回は、自分でやってみよう・・・。


8時ぴったりに晴香が迎えに来る。

俺をみた晴香がびっくりしている。

「どう?」

「そ、素材は悪くないからね」

「・・・・」

まあ、たしかに悪くはないと思う。いや、むしろ・・・

そ、そんなことより、もうすこし、言い方ってないか?

晴香を見ると、ちょっと顔が赤い・・・よし。まあ、そのくらいの反応はして欲しいよね。



「今日は、何処へ行くの?」

「この電車に乗って、途中で乗り換えて、終点まで」

「終点?」

かなり、遠くへ行くんだな・・・。

切符を買ってホームで電車を待つ。

電車を待つ間、晴香に話しかけていたが、様子がおかしいことに気がついた。

ちょっと、反応が鈍いとでも言いますか・・・うわの空って言いますか・・・

ふむ、反対側のホームの・・・他校の生徒を見ているようだが。

向こうもこっちを見ているようだ。

晴香の知り合いかな?

晴香の顔を見ようとしたら、突然に抱きしめられた。

お、おい、こんなところで何ていうことを・・・人が見ているじゃないか。

電車がホームに滑り込んでくる。

電車が止まると、あっさり、放してくれた。

「?」

開いたドアから電車に乗り込む。

座席に座ってから、晴香にさっきのことを問いただす。

返ってきた答えは、

「孝、トロいから、ホームから落ちないように、捕まえてただけ」

な、なんだあ〜、それは。子供でもないのに、いくらなんでも、あんまりだ。


「機嫌なおしてよ、孝。・・・拗ねてる孝も、可愛いんけどさあ」

「な・・」

「そ、そうなの、孝が可愛くて、つい、抱きしめちゃったの」

「・・・・」

な、なんか、おもちゃにしてないか・・・。


いつまでも、怒ってばかりもいられないし。

電車に揺られながら、元に戻ったときのために、お互いの家族の話とかをする。

後は雑談・・・。

時間はあっと言う間に過ぎてしまった。



「帰りは1時間に1本ぐらいになっちゃうから、3時くらいまでに、ここに戻ろう」

駅の時刻表を見上げながら、晴香が言う。

「お昼だけど、駅前に食堂があるんだ。早めだけど食べて行こうか?」

「あ、晴香、お弁当用意してきた。サンドイッチだけど」

「え、お弁当?孝が」

一瞬、驚きの表情を見せたが、にっこりと微笑んで言った。

「じゃあ、ついてから食べよう。楽しみが増えたね」

この笑顔を見られるなら・・・作ってよかった。



「ここだよ」

「うわ〜、凄い。いい眺め」

「でしょ、気に入った?」

「うん」

あ、駅が小さく見える。

あそこから、歩いてきたんだな・・・結構、距離がありそうだけど、そんなに歩いたかな?

「あそこのベンチで、お昼食べよう」

「うん」

幾つか並んでいるベンチのひとつに座って、お弁当を広げる。

「はい、晴香。ツナ好きなんでしょう?多めに作ってきたから」

「ううう、なんて愛い奴」

晴香が、私を抱きしめ、頬擦りしている。

「ち、ちょっと、晴香」

「やっぱり、嫁さんにするなら、孝がいい。可愛いし、女らしいいし、

私が知ってるなかで一番だよ!」

・・・晴香の目が笑ってる・・・また、おもちゃにされてるんだ。


「でも、孝の女の子に対する理想って高いのね」

ぽつりと晴香が言う。

「どうして?」

「完璧にドレスアップして、お弁当まで作っちゃって・・・」

あれ?これって俺の理想か?

そうなのかも・・しれないけど、理想を考えてやったんじゃない。

「理想でやったんじゃないよ。・・ただ、晴香に・・晴香に喜んで欲しかっただけだよ」

「・・・私のため?」

黙って頷く。

「はあ、やっぱり、孝には・・・」

晴香がため息をひとつ漏らし、そして笑顔を見せてくる。

「で、孝は、何が好きなの?ツナ?玉子?ハム?」


食事の後、もう少し上のほうへ言ってみることになった。

わ〜、紅葉が凄い。麓の方はまだ紅葉が始まったばかりだったが、この辺りは

かなり紅葉が進んでいる。ちょっと、肌寒さを感じた。

ちょっと、ドキドキしながら晴香の手をとった。・・・暖かいな・・・。

晴香は黙って、そのままにしていてくれた。

「でも、晴香、こんないいところよく知ってたね」

「ああ、臣先輩に教えて貰ったんだ。たまにスケッチに来るんだって」

臣先輩・・・昨日の事が思い出される。


晴香は早く戻りたいんだろうなあ。

元に戻れば、別れが待っている。

元に戻れないほうが、晴香とずっと一緒にいられるんだけどな。

あ、だめだ。こんなこと考えちゃいけない。






「孝、次降りるよ」

その声にはっとする。

いつの間に寝てしまったんだろう。

帰りの電車に乗って晴香といくつか言葉を交わしたのは覚えているんだけど。

晴香の顔を見上げる・・・顔がちょっと赤いような・・・どうしたんだろう。


「今日は有難う」

「こっちこそ・・・孝もお弁当作るのに早起きしたんでしょ」

「あはは、初めてだったから」

「じゃあ、明日、学校で」

「うん、おやすみ」

晴香も家の玄関まで送ってくれた。小さく手を振って見送る。




「ただいま」

その声に、お母さんが出てくる。

「おかえり、あれ?日高君は?」

「うん、今帰ったところ」

「え〜、帰っちゃったの。お母さんも話したかったのに」

なんか複雑・・・母娘だもんね。やっぱり。

「今日の晴香の様子、詳しく教えて貰おうと思ったのに」

「ん?何それ?」

「だって、最近の晴香、すっごく面白いから」

「・・・・」

さ、最近のほうの・・か。どっちにしろ、複雑。

そこへ、裕香お姉さんが顔を出した。

「あれ?裕香お姉ちゃん、帰ったんじゃ・・・」

「今日一日中、晴香いないんだもの。だから、明日にした。夕食終ったら、ピアノ

弾いてもらわなくっちゃ」

「え〜、今日もォ」

「かわいい妹は、お姉さんのお願い聞いてくれるわよね」

「・・・・」

晴香の家族って・・・やっぱり、晴香の家族だ。


夕食はお母さんの質問攻め、食後は裕香お姉さんのリクエスト攻め。

でも、今日は、質問攻めも、リクエスト攻めも、なんでも来いって気分。

初デート?の日はこうして終った。



第8話 終了




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第8話
孝司と晴香シリーズ