月曜日の朝、今日はちょっと曇っている。雨が降ることはなさそうだが。

昨日は晴天だった。今更ながら、神様に感謝。


朝、学校へ来たら、晴香の周りを数人の女の子が取り囲んでいた。

『本当ですか』とか、『私と付き合ってください』なんて声が聞こえる。

俺、あんなにもてたことないぞ。でも、なんで急に・・・？

晴香の姿を横目で見ながら、いつもの仕事をこなしていく。

まさか、ＯＫしないよね・・・と心の中で思いながら。

そして、いつものように席で小説を取り出すと、水都さんが話しかけてきた。

「あれ？白石さん、眼鏡は？コンタクトにしたの？」

「え、ええ、まあ・・・」

いままでの眼鏡、度が入っていなかったとは言いにくいし・・。

「こっちの方がずっといいわ・・・ところで、身体の方は、いいの？」

「うん、ありがとう。もう、全然大丈夫」

「あんまり無理しないでね。金曜日も、あれから、また倒れたんでしょう」

「た、倒れたって・・・」

そうなのかもしれないけど、凄い話になってるなあ・・・自然、笑みがこぼれる。

「お昼に戻ってきたとき、まだ蒼い顔してたもの」

「そ、そうだった？」

水都さんは、ちょっと迷うような様子をみせながら訊いてきた。

「白石さん・・・日高君とつきあっているの？」

「えっ？」

やっぱり、人から言われるとびっくりする。

確かに、一緒にいることは多くなった。

けど、目立たないようにはしてるつもりではいたんだけど。

「最近、一緒にいること多いし、金曜日も・・・」

「えっ、金曜日？」

金曜日って？何のことだろう・・・

「白石さんが倒れたとき、臣先輩が保健室まで運ぼうとしたら、日高君が『彼女は

俺が運ぶ』って誰にも触らせなかったとかなんとか」

「そ、そ、それって、誰が・・・」

「噂だけど、もう、皆知ってるわよ」

噂？・・・知らないのは俺だけか。そう言えば、全学年のクラス委員が揃ってたんだっけ。

晴香の方を見ると今度はコースケたちに囲まれていた。

噂の件についてだろうか？・・・真偽は・・・どうなんだろう。

晴香自身は何も言ってなかったし、晴香は臣先輩のことが・・好きな・・はずだし。

側にいた男が運ぼうとして、自分の身体を知らない人に触られるのが嫌だった

だけかもしれない。う〜ん、そう考えるのが妥当なんだろうな。

「し、白石さん・・・」

水都さんに呼ばれて、はっとする。

朝霞先生が教卓のほうから、こちらを見ていた。え、いつのまに・・

「あ、き、起立・・・礼・・・着席」

「金曜日の実力テストを返す。順番に取りに来るように」

先生がいう。

「実力テストぉ？」

「うん、白石さんが保健室にいってる間に抜き打ちであったの」

水都さんが説明してくれる。

「え〜、私、追試？」

思わず、叫んでしまった。

「ああ、白石か。このくらいの問題なら、追試しなくてもいいだろう」

当然、満点だろうと言う口ぶりで、先生が言う。

（実は不在だったのをすっかり忘れていたらしい）

た、助かった・・・晴香の方をちらっと見る。

腹を抱えて笑っている。・・・う〜くやしいなあ。


休み時間、晴香がやってきた。

「孝、お小遣いの件は解決よ」

「え？」

「孝のお母さんと賭けしたの。今度の実力テストで、クラスの１０番以内に

入ったら、従来の倍にしないかって」

「それで、入ったという訳ですか」

「当然でしょうが」

恐ろしい奴・・・

「一度にトップなったら不審がられるでしょう。だから順次ね」

本当に恐ろしい奴。白石さんも抜く気ですか？

「白石さんも頑張ってね」

「ちょっとォ、晴香ぁ」

にっこり笑ってそういわれると、なんか、汗が・・・

ああ、そうだ。金曜日のことを確認しないと。

「あの、晴香、ちょっと訊きたい事が・・・」

「あ、コースケが呼んでる。じゃあ、またあとでね」

晴香が走っていく。

あ〜あ、訊きそびれてしまった。

まあ、実際には、本人には訊き辛かったが・・・コースケ達には何て言ったんだろう・・・

コースケ達に訊いてみるか・・・う〜む、晴香が素直に話しているとは思えないし・・・

それに、”白石晴香”が、訊くというのもおかしいか。

そうなると、真偽を確かめられる相手は、あの場にいたＥ組の木下さんか・・・

いや、待てよ・・・木下さんは晴香と臣先輩がって・・・思ってるよな。

だとすると、逆に『どうなってるのよ』って問い詰められる可能性が高いな・・・

そんなことになったら、答えられないし・・・うん、絶対、近づかないほうがいい。

う〜ん、そうすると、結局誰にも訊くことが出来ないのか・・・。



放課後、廊下を歩いていると、臣先輩の姿が見えた。

慌てて、柱の影に隠れる。きっと条件反射だ。

だって、頭の中には”腕ずく”って単語しか残っていないから。

姿が見えなくなってほっとしていると、明るい声と共に肩をたたかた。

「晴香ぁ・・・何してるの？」

げっ、木下さん・・・今、一番顔を合わせたくない人。

こういうときに限ってこうなんだよなあ。

「あ、こ、こんにちわ」

「何？なんか変ねえ・・・それに、なんか嫌がってない？」

「え、どうして」

と、きり返してみたけど・・・顔に出ちゃったんだろうか。

「う〜ん、まあ、いいや・・・そんなことより、ちょっと、お願いがあるの」

急に声のトーンが変わる。

「え、お願い？」

辺りを見廻したかと思うと、廊下の隅の方へ引張られた。

「あ」

突然のことで、危うく転びそうになる。

晴香といい、木下さんといい、結構乱暴なんだよね。これが普通なのかな？

「晴香にはさあ、臣先輩がいるよね」

「え・・」

なんで突然そんな話になるんだ。

「日高君って、どんな人？」

はあ？何で晴香がでてくるんだろう？よく知ってると思うけど・・・って、そんな事言えないか。

それにしても、話が見えない。

「ど、どんな人って・・・ク、クラスメートよ」

「ふ〜〜ん」

こっちの様子を窺うようにみている。

「な、何なのよ」

「日高君は、晴香の事好きみたいだけど・・・晴香はどう思ってるの？」

好きって、金曜日のことを指しているのかな？こっちのほうが詳しく知りたいのに。

「木下さん、好きってどうして？」

「木下さんって・・さっきから。晴香どうかしたの？なんか変よ」

ああ、そうか。晴香は弥生って呼んでたっけ。

「あ、弥生・・・どうして？」

「え、う〜〜ん、つまりね、もし、晴香が日高君の事なんとも思ってないんだったら、

紹介してほしいの」

「はい？今、なんて？」

「つまり、彼のこと気に入ったの」

気にいったって・・・どうして？

なんか、よくわからないけど、今日、晴香もてまくり・・・何故？

「白石さん」

突然、背中から声がかかる。

振り向くとそこに、晴香が立っていた。

「何話してるの？」

「晴・・じゃなかった、日高君」

木下さんの顔を見る。

「は、晴香、まだ心の準備できてないから、今の話、またあとでね」

木下さんが、かなり焦っているのがわかる。

「今の話って?」

晴香が興味深げに聞いてくる。

「なんでもないの。じゃ、晴香、日高君、またね」

木下さんが慌てて走っていく。ああ、転びそうになって・・・よっぽど、焦ったんだな。

そりゃあ、突然当人が来れば驚くけど・・・

晴香が変な顔をしている。

「どういうこと？」

う〜ん、まだ話すなってことなんだよな。でも、相談されたのは晴香の方なんだけど。

さて、どうしようか？

ん？

そんなことを思ってる間に晴香が首に腕を廻して、首を締め上げてきた。

「何隠してんの？ほら、白状しろ」

うっ・・・俺だったら、女の子にこんな事・・絶対・・しない・・ぞ・・・

「う・・言う、・・言います・・・」

晴香がようやく力を緩めてくれる。

・・・しないって、いうか、出来ない・・・ってのが本当なんだけど。

「それで」

「・・・・」

「まだ絞めたりないのかなあ」

晴香が笑顔で恐ろしい事を言う。

「あ、言います」

即答していた。ふざけてのことだとは、わかってはいるんだけど。

「木下さんが、晴香の事を気に入ったから・・・それでね・・・付き合いたいんだって・・」

「へえ〜」

「へえ〜ってそれだけ？」

「私は孝から『お嫁さんに貰ってくれ』って、泣いて頼まれてるからね」

「泣いて頼まれてるって・・」

「違うの？」

う・・・

あの事を持ち出されると何も言えなくなる。

と、いうことは、晴香、断ってくれるってことなのかな？

木下さんにとって、想いが届かないってのは、やっぱり辛いだろうなあ。

今の状況は複雑だし。元に戻った場合を考えると、更に・・・。

でも、実際には・・・やっぱり、ＯＫして欲しくない。

「じゃあ、木下さんのことは断るの？」

「う〜ん、どうしようかなあ」

「え〜〜」

ひどい・・・弄んでいるんだ。

「え、孝・・・」

晴香が驚いた顔をしている。

「？・・どうかした？」

「あ〜、コージ、白石さんを泣かせてる」

通りかかったコースケが叫んでいる。

えっ・・手で頬を触ると・・濡れている・・涙・・？

「あれ・・目にゴミが入ったみたい」

う、カッコ悪い・・男のくせに。

走り出していた。ここにいたくない・・・



第９話　終了




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