「祐ちゃん・・・鍵、落としちゃった」

「鍵って、家のか」

「う、うん」

「どの辺か、わかっているのか」

「う、うん・・・ポストの前を通った時にはあったから・・・」

よし、わかった。

でも、今日は、めちゃくちゃ寒いぜ。



ちくしょう・・・見当たらないぜ。何処にあるんだよ・・・ポストの前から、家の前まで

何度往復したか、忘れちまったぜ。・・・時計は・・・

う、２時半か・・・コージ、２番目だって言ってたから、出番は今頃からだよな・・・

すまん、コージ。もう、間に合わなくって・・・でも、今は、花梨のことの方が大事なんだ。

お前なら、わかってくれるよな・・・。


なんで、こんなに一生懸命になるかって・・・

家の鍵より、鍵についているキーホルダーが大事なんだよ。

あれは、中学１年の時だったかな・・・あのキーホルダーは、花梨の親父さんが

海外出張した時に、花梨にって、買ってきてくれたものだ。

水晶がついてて、お守りになるからって・・・

あの時は、鍵じゃなくて、財布につけてたんだっけ。

最初、コージが気がついたんだよ。

そしたら、花梨が、嬉しそうに自慢し始めて・・・花梨が自慢したのって、あの時だけだ

・・・だから、よく覚えてる。・・・きらきら光って、綺麗だった。


くそっ・・・だめか・・・側溝まで覗いたのに・・・誰かが拾って持って行っちまったのか・・・

これだけ探しても見つからないってことは・・・そう考えるのが妥当ってことだろう。

４時か・・・もう、終わった頃だな・・・薄暗くなってきたし・・・

今日は、だめかもな・・・う〜、寒い、風邪ひきそうだ・・・


花梨の所へ戻り、そう告げる。

「祐ちゃん・・・ありがと」

花梨が力の無い笑顔を見せる。

「お前、ふらついてないか・・・何時から、探してたんだよ」

「お、お昼頃から・・・」

お昼？

「俺が外に出てくる前からか・・・何で、声掛けないんだよ」

花梨の身体に触ると・・・冷たい・・・心底冷えきっている様だ。

思わず、唇を噛みしめる・・・こんな時にコージが居てくれたら、こんな事には・・・

俺がコージに勝てないと思うのは、こんなとこなんだよな。


身体温めるには・・・そ、そうだ、風呂、お風呂沸かして・・・

「とにかく、家に入れよ」

花梨をヒーターの前に座らせる・・・スイッチ切ってから、だいぶ時間がたつから、

すぐには暖かくならない。

躓きながら、風呂場へ駆け込み、蛇口を捻るが・・・お湯がたまるには、少し時間が

かかりそうだ。

溜まってゆくお湯をじーっと睨む・・・気持ちだけが焦っている・・・冷静になれ

半分を少し過ぎたところで、風呂場にお湯をまく・・・これで何とか入れそうだな。

「花梨、風呂に入れ」

「え、お風呂？」

ヒーターは点火したようだが・・・花梨はまだ、震えてる様だ。

花梨を風呂場に押し込む。・・・次は何をするんだっけ・・・

次は、布団だ。鍵をなくして、家へは入れないし・・・おばさんは、いつもの様に遅いだろう。

客間のヒーターも点火して、布団を敷く・・・シーツはＯＫだし・・・あ、寝巻き・・・

俺がまだ着てない奴があったな・・・これで、我慢してもらおう・・・

一息ついた時、誰かが来たようだ。

「ユーキ、居るのかあ？」

コースケの声だ。

慌てて、玄関へ・・・皆居る・・・助かった。これ、この時の本当の気持ち。


事情を手短に話す。

「え、あのキーホルダー・・・どうしても、探し出したい。晴香、どうすればいい？」

な、なんだ？白石さんが、コージに相談している・・・どーゆーことだ・・・

目に入ってくる情報と、耳に入ってくる情報が一致してないぞ・・・

俺も、身体が冷えて、おかしくなったのか？

確かに、耳がツーンって感じで・・・。

「そうだな・・・交番に届いてるかもしれないから、確認するくらいかな・・・後は・・・

もう一度、辺りを探すくらいしか・・・」

「う、うん、わかった。・・・コースケは、駅前の交番、トールは、中学校のそばの交番で

訊いてみて・・・私と晴香は、もう一度、この辺見てみる。ユーキ、懐中電灯貸して」

「「ああ、わかった」」

コースケとトールが飛び出していく。

「雫は、花梨について・・・あれ？花梨は？」

「え、ああ、花梨は・・・今、風呂入ってる・・・でも、ちょっと、長いかな・・・」

「雫・・・見てきてくれる」

「うん」


「やだ〜、花梨たら、のぼせてる」

平野さんの声が響く。

「私だけじゃ無理みたい。白石さん、手伝って」

「え゛・・・は、晴香、どうしよう」

「仕方ないじゃない」

また、わからない会話を・・・とにかく、俺は・・・

「白石さん、宜しく・・・俺、懐中電灯探してくるから」



「清水君、花梨に、あのパジャマ着せてよかったのよね？」

「え、ああ、あれ１回も着てないから・・・平野さん、花梨どうしてる？」

「今、寝かせたところ・・・大丈夫よ、のぼせただけだから・・・う〜ん、コージ君の彼女って

変わってるよね」

平野さんが、独り言のように呟く。

「花梨がパジャマ着るまで、ほとんど目瞑ってるのよ・・・同性なのに恥ずかしいのかしら」

「でも、花梨は・・・白石さんのこと、気に入ってるみたいだけど・・・」

平野さんがこっちをじっと見て、ゆっくり頷く。

「そうなのよね・・・あの人見知りする花梨が・・・コージ君の彼女だからかな・・・」

あのコージの彼女だから、無条件で信頼してるって言いたいんだろうか？

・・・それは、言えてるんだろうな・・・

「花梨も、がっかりしてるんじゃないか・・・コージに彼女が出来て」

「え？・・・はあ〜っ・・・花梨も・・・」

なんだよ、そのため息は。


コージに懐中電灯２本を見せながら言う。

「あ、コージ、懐中電灯あったぞ・・・行くか？」

コージに声を掛けたとたん・・・ふすまが開いて、白石さんの声が飛んでくる。

「鍵は、私と日高君で探す。ユーキは休んでて」

「そうだな・・・風邪ひかれるより・・・」

コージまで、なんだよ。

「清水君も、お風呂で身体温めたら・・・」

平野さんまで・・・俺だって、一緒に探したいんだ。

その思いを読み取ったのか、白石さんが

「ユーキが１度探してるし、もう暗いから見つかる確率は低いと思う・・・だから、

明日また探すことになるんじゃないかと思う・・・だから・・・」

・・・確かに今日はもう暗いし・・・風邪ひいて、明日一緒に探せない方がくやしい・・・

「わかった」

これだけ言われれば・・・仕方がない・・・

「出来るだけ、探してみるから・・・」



お湯に浸かりながら思う。

俺って、花梨を引っ張り回してただけだよな・・・最後は、いつも、コージに頼って・・・

海へ行った時だって・・・花梨が、日射病になりかけたのに気づかなかったし・・・気づいた

コージが看病しててくれたんだよな・・・映画観に行った時だって、冷房の効きすぎで

・・・俺は気分悪くなった花梨に気づかなくて・・・でも気づいたコージが廊下に出て

花梨を休ませてたんだよなあ・・・コージが一番観たがってた映画だったのになあ・・・

花梨のことに関しては、コージに勝ててないかも・・・あ、待てよ、コージ、期末試験で

２番だったとかコースケが言ってたな・・・成績でも負けてるってか・・・

あ・・・白石さん・・・あ〜あ、彼女作るのも・・・コージに完敗じゃないか・・・

あ、花梨のこと、どうするつもりなんだ、コージは。

花梨にあれだけ慕われてるのに・・・成績とかはいいけど、花梨のこと・・・許せないな・・・

・・・

おっと、このままじゃ、花梨の二の舞いだ・・・あがろう・・・



コースケとトールが帰ってきた。

交番には、まだ届いていないって・・・とりあえず、ここを連絡先にしてきたようだ。

コージと白石さんはもう少し探してみるって、ふたりに言ったようだ。

もう、６時だしな・・・外は、真っ暗だから、明日に賭けるしかないか・・・



「孝、あれ・・・あれと違う？」

「う、うん、晴香・・・きっと、誰かが拾ってポストの上に乗せたんだ」



「ユーキ、見つかったよ。はる・・・日高君が、見つけてくれたよ」

ふたりが、家に駆け込んでくる。

間違いない、花梨のだ。

コージ、すまん。さっきは、許せないとか思ったが、お前はやっぱり、頼りになる奴だ。

「ユーキ、花梨ちゃんに・・・」

白石さんに、頷き、花梨のところへ持って行く。

花梨は、キーホルダーを握り締め、黙って頭を下げた。

嬉しくて、言葉が出ないんだろう・・・花梨らしい。


居間へ戻ると、コースケが訊いてきた。

「電話帳あるよな？・・・貸してくれ」

「そんなもの、何するんだ？」

「交番に、ありましたって、連絡しないと・・・」

「あ、そうか」

「トールったら、１１０番しようとするんだもの、びっくりしたぜ」

「・・・それ、冗談、きついな」

「あ、それから、白石さんが台所借りるって」

「何するんだ？」

「なんか、作るって・・・本当は、ユーキたちを誘って、何か食べに行くつもり

だったんだけど・・・」

へえ・・・

「あ、別に、かまわないぞ」

「そう、言っておいた」

ははは・・・いいけどな。


ご苦労様とか言いながら、出てきたのは鍋焼きうどん・・・

なぜ、白石さんが知っているんだ？

あ、いや、土鍋の器がね・・・在り処のこともなんだけど・・・それより、数が・・・

なぜか家には器が１０ケあるんだ。

偶然、景品が重なっちゃってなんだけど・・・コージとふたりして、笑ったよな・・・

あ、コージが話したのか・・・そっか・・・そうだよな。

でも・・・具もしっかり入ってるし・・・店のと、変わらないぞ・・・

コースケがコージの顔をチラチラ見ている・・・どうしたんだ？

「コージ・・・白石さんの料理・・・よく食べるのか」

「え・・・う、うん」

「ふ〜ん」

な〜んだ、そういうことか・・・原田さん一筋のコースケが・・・ねえ


白石さん、後片付けまで、しっかりやってくれた・・・いいって言ったんだが

・・・後片付けまでが、お料理の内だよってお母さんに言われてるらしい・・・

白石さんとこって厳しいんだ・・・


しばらくして、トールが平野さんを送っていくって言い始めた・・・

コースケも一緒に行くらしい・・・

何でも、新しいゲーム買ったから、トールの家にコースケが泊まるらしい・・・

ってことは、今日は徹夜か？・・・タフだな。

コージも白石さんを送っていくって、支度を始めた。

白石さんと花梨が何か話をしている・・・

「今日、聴きに行けなくて、ごめんなさい」

「花梨ちゃんには、聴かせてあげるよ」

「それより、あれ、渡したの？」

「あ、そうだった」

花梨が勢い欲立ち上がる。

「おい、花梨、何処行くんだ」

おい、パジャマのままで・・・いくら、暗いからって・・・

花梨は自分の家の玄関先まで行き、また戻ってきた。大きな包みを抱えて。

「祐ちゃん、クリスマスプレゼント」

「え？俺にか？」

花梨が大きく頷く。

「開けて、いいか？」

「うん」

包みを開けると・・・絵の具と筆・・・俺が欲しかったやつ・・・

あ・・・花梨、これのためにバイトしてたのか？

なんか・・・あっ

「俺だけ貰っていいのか？でも、俺、何も用意してないぞ」

その言葉を聞いた白石さんが、がっくりって感じで、へたり込んだ・・・

？？？

当の花梨といえば、頷きながら言う。

「祐ちゃんが喜んでくれれば、いいの」

いいのかな・・・

「花梨ちゃん、今日は、泊めてもらったら・・・いいわよね」

なんか・・・白石さん、怒ってない？

「おばさんも遅いようだし、かまわないけど・・・でも、花梨が泊まるのって久しぶりだな

・・・小学校の時以来・・・かな？」

白石さんが、また、へたり込む・・・今度は、べちゃって感じで。

？？？

いやあ〜、やっぱり、コージの彼女って変わってるよ・・・ホント。

花梨の家には、メモを入れておいた・・・花梨は、家に泊まってますってメモを。



あ、花梨には、翌日の昼、ちゃんと奢ったぞ。・・・貰った分には、届かないけど。



貰った絵の具で何を描こうか・・・いや、実は、決めてあるんだ・・・



第２話　終了




★　　NOVEL　TOP　　★　　BACK　　★　　NEXT　　★