ああ、どう数えても・・・今日だよな。

前回、入れ替わった時には、戻れたんだよな・・・1週間だけだったけど。

記録更新ってことになるのか・・・嬉しくないな。


無事、終業式も終わったし、問題は、週末からの温泉旅行だね。

お母さんも、晴香を借りますって家に電話してくれたし・・・

目ざとい水都さんと、時々鋭い原田さんにバレない様に過すかが課題だね。

と、その前に・・・

うひゃあ、晴香に1点差まで詰められた。あ、期末試験の話だけど・・・

なんとか、逃げ切ったとも言うんだよ・・・それにしても、晴香の頭脳ってすごいな。

データの蓄積量が半端でないって言うのか・・・私のレベルでも、ここまで行けるって

いうのか・・・それにしても、晴香の悔しそうな顔。

恨むなら、その動かない頭脳を恨みなさい・・・って、私のか。

でも、次は・・・危ないかも。



成績表を鞄に仕舞うと水都さんから声が掛かった。

タイミング的に言えば、成績の話は避けたいって事だね。

うん、良く分かるよ。私だって、前は、そうだったもん。

「晴香、ミニコンで作った服着て行かない?」

「え・・・うん。春先だから、ちょうど合うかもしれないね」

ミニコンの時は、ちょっと寒かったけど、今の季節ならちょうどいい。

色もいいし、お気に入りなんだ、あれ。

「あ、それから、裕香お姉ちゃんが、9時過ぎに迎えに行くからって」

「晴香のお父さんの車じゃないよね?」

お父さんの車じゃ、皆、乗れないけど・・・

「うん、友達に借りてあるって言ってたから・・・でも、なんで?」

「へへ・・・実は、荷物が・・・」

「?・・・ワゴンだって言ってたから、たくさん積めると思うけど」

「あ、ホント・・・あーやにも、教えておこう」

「?」

まさか、トラックが必要なんてことはないよね。

ふたりで引っ越すつもりじゃないよな・・・まさかね。


帰り道、晴香とその話をしたら、晴香に笑われた。

「引っ越しじゃないよ。女の子は、男の子と違って荷物が多くなるんだよ」

って、言われた。そうなのか・・・と、思っていたら

「やっぱり、男の子って楽だな・・・」

って・・・晴香、まさか・・・

「着替えも持って行かないつもりじゃないでしょうね」

「えっ・・・そ、そ、そんなことしないよ」

晴香、その焦り方は、何。

「孝、そんな冷たい目しないでよ。着替えは、ちゃんと持って行くから」

「・・・」

晴香って、こんなに大雑把だったかな?

コースケの影響じゃ・・・ないよな。




さて、その日はやって来た。

お父さんを見送った後、こっちも準備を・・・。

裕香お姉さんが借りてきたワゴンに荷物を積んで・・・

う〜ん、やっぱり、荷物多いな。

まず、晴香を迎えに行って・・・裕香お姉さん、運転上手じゃない。心配することなかったな。

晴香の家に着くと、母さんが見送りに出てきていた。

「いってきまーす」

と言って、晴香が車に乗り込む。晴香の横に座って・・・と。

今日から晴香と、一緒に居られるんだ。夜も。お願い券、使って良かった。

と思ったら、あれ?車が動かない・・・お母さんたちが、おしゃべりを始めたんだ。

これは、先が思いやられる・・・。


水都さんと原田さんは門の前で待っていた。約束の服を着て。

ここでも、お母さんたちの長い挨拶が・・・

「なに、これ、キツネ・・・可愛い」

「真美ちゃん、シートにもついてるよ」

「ホントだ」

水都さん気に入ったみたい。車の中を覗き込んだ水都さんが一言。

「ふ〜ん、やっぱり、当然のように日高君の横に座ってるね」

「え」

ダメなの?・・・そ、そんなあ・・・。

「あはは・・・晴香、情けない顔。冗談だって。・・・でも、私の隣にも来てよ」

う、からかわれたのか・・・



高速道路に入って・・・・小さなパーキングエリアで休息した時だった。

パシャって感じで写真撮られた。びっくり。

その後、サインして下さいって・・・

何かの間違いじゃないですか・・・って聞いたら、タレントさんじゃなかったんですか?

それステージ衣装でしょって言われて・・・確かにそうではあったんだけど・・・

違いますって説明したら、最後にすみませんって・・・

皆で写真撮って貰ったりして・・・後日、ネガと写真が送られてきた。

却って悪かったかな。

水都さんだけは、伝説?が増えたって喜んでたけど・・・他にどんな伝説があるんだろう

機会があったら、聞いてみようかな。



どうやら、着いたみたいだぞ。

なんか、工事用の車両も停まってるけど、ここでいいのかな?

「海あり、山あり、温泉ありなのよ」

水都さんが解説してくれる。

「そこの細い道を降って行って、道路を横切れば、小さい砂浜があるのよ」

そう言えば、海岸線を走ってたっけ。

「で、こっちの道を上っていけば、山の上にお寺があるの」

ふ〜ん。

「今来た道をもう少し行けば、駅があるよ」

はあ、なるほど・・・

で、ここが、旅館か・・・木造でいい感じだけど・・・向こう側、シート被ってるぞ。


「ようこそ、おいでくださいました」

「お世話になります」


ふ〜ん、あっち側は、改装中なんだ・・・へえ、大浴場も・・・

こっち側が2部屋あるのか・・・ふ〜ん、こっち側の2部屋を借りたってことか

へえ〜、じゃあ、貸切みたい・・・って、あれ、温泉ないの?

何しに来たんだろう?

「大丈夫よ。露天風呂があるから」

「え、ろ、露天風呂?」

「そう、そっちが売りだから」

「ふ〜ん」

「今は、近所の人たちも入りに来るのよ」

「そうなんだ」

「ただ・・・ひとつしかないから・・・」

「?」

「つまりね。男湯と女湯が分かれてないの」

「え、混浴ってこと?」

「時間帯で分かれてるのよ・・・それぞれの時間帯の間は、混浴って事になるけど」

「はあ」

「それに、料理だって、おいしいんだから」

水都さん、なんか、そっちの方が嬉しそう・・・。

・・・私も、そうかも。


ふ〜ん、左右対称っていうのか、こっちの部屋も同じ造りだ。

荷物を置いて、早速、隣の部屋を見に来たんだけど・・・

あれ、裕香お姉さんダウンしてる・・・。

「裕香お姉ちゃん、ご苦労様。疲れた?・・・お茶入れるね」

「うん、ありがとう・・・」

やっぱり、疲れてるんだよね・・・ずーっと、運転しっぱなしだったもんね。

「は〜い、お茶、入りましたよォ。お茶菓子もついてますからねぇ」

「うん・・・」

「お姉ちゃん、水都さん達は?」

「庭へ・・・出て行ったよ」

やっぱり、かなり疲れてるんじゃあ・・・

「お姉ちゃん、大丈夫?」

「後、3分で、復活する」

「へっ?」

こんなところは、やっぱり、裕香お姉さんだ。

「へえ、こっちも同じね」

お母さんと、晴香がやってきた。

「夕食はあっちの部屋で一緒にすることにしたから」

皆で一緒にか・・・

「でも、いいところね・・・」

お母さん達も座ったので、お茶を入れる。

裕香お姉さんが、突然、がばぁって、起き上がる・・・3分、経ったのか。

さて、お姉さんも復活して、お母さんとおしゃべり始めたみたいだし・・・

「晴香、散歩行こうよ」

「いいよ」

「海岸の方へ行ってみない?」

「うん」

っていう訳で、海岸へ来たのはいいけど・・・

うひゃあ、めちゃくちゃ、風が強いよォ。

誰もいない砂浜。

波は、そんなに荒くない・・・のだろうと思うけど・・・

景色もそれなりに良いのだけど・・・楽しんでる余裕はないみたい。

「戻ろうか」

「うん」

晴香の意見に即座に同意する。


う〜、髪の毛、ボサボサ・・・

部屋に戻ると、水都さんと原田さんの抗議の声が・・・

「晴香達、ずるい」

「そうですよ。ふたりだけで、散歩に行くなんて」

「でも・・・行かなくて正解だったのかも」

「そ、そうですね」

人の頭見て、それはないでしょう。

櫛、何処だっけ・・・え?

「裕香お姉ちゃん?・・・あ、ありがとう」

裕香お姉さんが、髪を梳いてくれる。

「はい。いいよ」

「う、うん・・・ありがとう」

こんなことがあると、晴香が羨ましいなあって思ってしまう。

「次、日高君ね」

・・・晴香、手櫛でいいんだって、逃げ回ってた。


それにしても・・・

ゆっくり、出来るけど・・・退屈だなあ。



夕方、水都さん達が誘いに来てくれた。

「晴香、お風呂へ行こうよ」

「え゛、あ、あの、もうちょっと後にする・・・行っておいでよ」

小説が面白い所だっていうふりをするのも大変だ。

「う、うん」

水都さんも諦めた様だ。

でも、ほっとしたのも、つかの間。今度は裕香お姉さんが・・・

「もう、いい時間よね。晴香、入りに行こうよ」

「お、お姉ちゃん・・・私、お留守番してる。お母さんと入って来て」

「そお」

「う、うん」

「そんなこと言わないで・・・一緒に行かない?」

お、お母さん・・・なんてこと言うんですか。汗が出てきた。

「キリのいい所まで読みたいんでしょう」

晴香が、助け舟を出してくれる。

「う、うん」

「そう?じゃあ、先行ってるわね」

「う、うん」

パタンとふすまの閉まる音がして、話し声が遠ざかって行く。

ほっ

「晴香、ありがとう」

「え・・・で、孝、いつ行くの?」

う、晴香まで・・・

「キ、キリのいいところまで読んだら・・・」

「ふ〜ん」

・・・そういう晴香は、どうするのかな。

それは、おいといて・・・折角、温泉に来たのに入らない手はないよね。

と、すると・・・夜中の混浴時間帯しかないかな・・・

近所の人も夜中までは来ないだろうし、皆、寝静まってからかな。



料理が運ばれてきたけど・・・皆、まだあがって来ないぞ。

「あ〜あ、いいお湯だった」

あ、裕香お姉さんの声。

あれ?皆、着替えてる。浴衣に、丹前・・・。

「あ、お料理、もう来てるんだ」

相変わらず、元気な水都さん・・・なんて思ってたら、突然こっち見て、

「晴香、なぜ来なかったの?」

「え・・・そ、その、キリのいいところが来なくて・・・」

「それで、1冊読んじゃったの」

「う・・・うん」

「真美ちゃん、いいじゃない」

よ、よかったあ、原田さんが助け舟を・・・

「明日もあるんだし」

えっ

「そうね・・・それより、お料理ね」

まあ、いいか・・・何とかなるよね。本は、まだあるし。


早速、晴香の横に陣取り・・・えへへへ。

「いっただきま〜す」

お母さんとお姉さんは、お酒のみ始めたし、水都さん達も食べ始めた。

「晴香、お醤油は?」

「うん」

「はい」

「サンキュ」

「ジュースにする?ウーロン茶?」

「ウーロン茶」

「はい」

「サンキュ」

こーやってるのが・・・

「晴香、板についてるね」

「えっ」

水都さんに突然話し掛けられた。隣で原田さんも頷いてる。

「いつもだものね。お父さんなんか、もう、嫁にやったような気分だって

嘆いてたもの」

ゆ、裕香お姉さん。

「ふふふ・・・お嫁に貰ったの間違いなのにね」

げっ、お母さんまで・・・酔っ払ってるの?ま、まずい。

「こ、これ、おいしいよね。何かな・・・」

「え、これ?・・・・・・うん、いける。なんだろう」

「真美ちゃん、これ?・・・うーん、何かな」

とりあえず、話題がずれて、助かった。

酔っ払ったお母さんには、要注意だね。





ふたりとも寝てるな・・・よし・・・

折角、温泉に来たんだからね・・・トイレに行くふりをして・・・



う〜ん、お湯の中で、手足を伸ばすのって、気持ちいい・・・

普通は、手足なんか伸ばせないし・・・

間接照明で雰囲気もいいし、来て良かった・・・

やっぱり、温泉は、こうでないと・・・

・・・

ん、人の気配?誰だ、今頃。

バスタオルは、体に巻いてきたけど・・・

と、兎に角、か、隠れなきゃ・・・


バシャッ・・・

今、入ってきた人・・・来たばかりで悪いけど・・・早く出て行ってよォォ・・・

私が、のぼせちゃわないうちに。


「う〜〜ん・・・この一瞬がいいんだよ」

え?この声・・・晴香?

ど、どうしよう・・・

「だ、誰だ?」

う、やっぱり、気付かれた?

「あ、あのォ・・・は、晴香、私」

「ほっ・・・孝か」

晴香も、一瞬、焦ったみたいだけど・・・

「何で、孝が入っているのよ」

「何でって・・・」

「今は、混浴の時間帯だよ」

そーゆー晴香だって・・・と言いたいけど・・・絶対、負けるな。

「つ、つまり・・・水都さん達と一緒には、入りにくいんだもん」

「・・・そうゆうことね」

「と、言うわけで、優先権は、先に入ってた私にあるよね」

「何?出て行けってこと・・・折角、入ったのに・・・」

「晴香、男性の入浴時間帯に入れば、いいじゃない」

「う・・・私だって、入りにくいんだから」

なーんだ、晴香だって、一緒なんだ。

「大体、自分の体に、ときめく訳ないじゃない。だから、いいでしょ」

晴香、得意のこじつけ?えーっと、そうなのかな?

晴香にとっては、こっちが自分の体。私にとっては、あっちが自分の体。

う〜ん、なるほど。そうと分かれば、ゆっくり出来るってことか。

もう一回、手足を伸ばして・・・

やっぱり、気持ちいい・・・

「星が綺麗だよね・・・晴香」

「うん・・・」

「・・・」

あれ?いつものように会話が続かないぞ・・・

なんか、ふたり並んで、お湯に浸かってるだけって云うのは、息苦しいな。

なんか、話題はないかな・・・話題、話題、話題・・・

こんな時に限って、何も出てこない・・・と思ってたら、肩が、晴香の肩に触れた。

「「あ、ごめん」」

晴香の困ったような顔・・・晴香も話題探してたのかな?

「えっと、孝、ゆっくり、入ってきなよ。先あがるから・・・」

晴香、のぼせちゃったの?顔、赤いようだけど・・・

「こっち見るなよ」

え?

出て行く晴香・・・晴香の腕と胸・・・

あれ?何か、胸がドキドキしてる・・・

自分の体にドキドキするなんて・・・何かの間違いだ。

・・・

絶対、間違いだよねっ





第10話 終了




★  NOVEL TOP  ★  BACK  ★  NEXT  ★ 

第10話
孝司と晴香シリーズ