ホント、疲れた。

緊張しっぱなしの旅行だった。

え？ベッドに倒れこんでるんだろうって・・・それがね、エプロンして、オタマ握り締めてるんだ。

夕方には家に到着したんだけど・・・『孝ちゃん、食事お願いね』なんて言われちゃって・・・

お母さんはレポート書くために部屋に篭っちゃったし・・・お姉さんも、部屋に篭ってる。

別に、それはそれでもいいんだけど・・・と、言いながら、ここで愚痴をこぼすところが

人間が出来ていない証拠だな。うん。

そりゃあ、お母さんは仕事だし、裕香お姉さんにはいっぱい運転させちゃったから、結構疲れてる

様だったから・・・仕方ないんだけど・・・。

あ、でも、家族の一員として扱ってくれるのは、ちょっと嬉しくもあるかも・・・

それにしても、お風呂準備して、食事作って・・・主婦って大変だな。

疲れてても、食事の準備はしないといけないし・・・

あ、そろそろ、お母さんと裕香お姉さんを呼ばなくっちゃ・・・


・・・


「ご馳走様っ、晴香、美味しかったよ。じゃあ」

「あ、裕香おねえ・・・」

す、すごい・・・裕香お姉さんときたら、あっという間に食事して部屋に戻っちゃった・・・

部屋で何かしてるのかな？

「裕香ったら、何してるのかしら・・・私もちょっと、休憩・・・孝ちゃん、宜しくね」

っていいながら、お母さんもリビングでテレビ見はじめたし・・・早く後片付けしちゃおっと・・・。




今日から４月か・・・

今日はちょっと、曇ってるか・・・晴香どうしてるかな・・・

テレビでも見てるのかな・・・また、分厚い本でも読んでいるのかな？


・・・


旅行から帰って、１日経って、漸く落ち着いたって感じかな。

「・・・」

ん〜、でも、退屈だなあ・・・晴香も、ゆっくり休んだかな。

明日には、晴香に電話してみようかな・・・電話するって、言ってあるし・・・

でも、晴香いないと退屈・・・え、元に戻るための研究でもやったらって？

そんな難しい話は、晴香に任せてある・・・あ〜あ、退屈だな。

変わったこともないしな・・・『あっ』って言うようなことでもないかな・・・

お父さんは、明後日にならないと帰ってこないし・・・お土産買ってきてくれるかな・・・

お母さんはレポート終わったようだけど・・・裕香お姉さんだけは、まだ何かやってるみたい・・・

『インクがぁ』とか言って突然出かけたり、『あの構図は良くない』とかぶつぶつ言ってるんだもの。

『晴香、ピアノ弾いて』とも言わないし・・・あ〜あ、ホント、退屈・・・



「あ、これ、孝ちゃんと晴香じゃない？」

テレビを見ていたお母さんが叫ぶ。

「・・・突然の雨・・・これは、とんだハプニングだ・・・さあ、どうする、マユミチャン

・・・恨めしそうに空を見上げるマユミチャン・・・でも、傘は持ってきていない・・・

このまま、ずぶ濡れになって帰るのか・・・周りのスタッフもやきもきし始めた・・・

でも、ラッキーだった・・・・雨宿りしていた、女子学生が・・・傘を貸してくれるようだ・・・

『うん、お姉ちゃん、どうもありがとう』・・・おねえちゃんにお礼を言って、歩き始める

マユミチャン・・・時々後ろを向いて手を振るマユミチャン・・・さて、傘を貸してしまった

女子学生はどうするのだろうか・・・隣のボーイフレンドに入れていってと頼んでいるようですが

・・・おっと、大胆にも、ふたりは肩を抱いて、歩き始めた・・・これが本当の相合傘か・・・」

・・・真っ青・・・こ、これ、この間の・・・顔から血の気が引いていく。

なんて事を・・・脚本家が悪いのか、ナレーターのアドリブか・・・どっちにしろ、

お母さんに見られた・・・う、お母さん、ビデオのリモコンを握り締めてるし・・・

うわ〜あ、冗談じゃない・・・


これ、初めての・・・とかって言う番組だよな・・・

全国放送？・・・再放送もある・・・かな？

えっ、ギャァ〜

皆に見られちゃう・・・真っ青。ど、どうしよう。



「も、もしもし、白石ですけど、コ、コージ君いますか・・・」

慌てて、晴香に電話を入れた。

「もしもし、孝？」

「は、晴香、テ、テレビ、見た？」

「はい？テレビなら、居間に置いてあるの知ってるでしょう」

「は、晴香、落ち着いてる場合じゃない」

「孝こそ、落ち着きなさいよ」

受話器の向こうの声がちょっと太くなった。

「う、うん・・・だ、だから、テレビ見た？」

「だから、居間に置いてあるの知ってるでしょう」

「そうじゃなくて、番組・・・私達が、出てた」

「は？・・・あっ、ふ〜ん、ははは・・・テレビに？それはそれは・・・良かったじゃない」

「良くない。一緒に、傘入ってる所だよ」

「へえー・・・あ、この間のね・・・じゃあ、有名人だね。私達」

な、なんで、晴香、落ち着いてられるの？

・・・ん？・・・え？・・・あれ？考えてみれば・・・どーでも、よかったんだろうか？

ただ一緒の傘に入って、帰っただけだもんな・・・なーんだ、そうか

「そーだね。ちょっと、有名人になったかも・・・晴香、明日来る？」

「うん」

「じゃあ、待ってるね・・・バイバイ」

カチャ

なーんだ、そーなんだ。これって、大した事なかったんだ。




「ヤッホー、孝」

翌日、晴香がやってきた。今日は、機嫌がいいみたいだけど？

「晴香、今日は早いね」

「孝が約束より早く電話してくるんだもの・・・早く来て欲しかったんでしょ」

「え、まあ・・・そーなんだけど・・・」

前日に作っておいたお菓子とお茶を晴香に出す準備をしていると、晴香が話し掛けてきた。

「えっ、昨日の？」

「うん。ネタとしては、面白かったよ。思わず笑いそうになったもの」

「？」

ネタ？ってなんだろう・・・笑い？そうになったって？

「うん、お母さんがビデオに録ってるんだもの。あの時は、びっくりしたよ」

「あはは・・・まだ、言ってる」

「？」

なんか、話が・・・分からないけど？

「晴香、見る？」

「えっ・・・見るって何を？」

「何って、これだよ」

テレビをつけてビデオを再生する。

「えっ、あっ・・・ああっ・・・あ〜〜・・・」

晴香、何、叫んでいるんだろう・・・

「今度、再放送されたら、最初から録るんだって、張りきってたよ。お母さん」

「な、なんて・・・こと・・・」

「はい？」

「な、なんてことするのよ。孝が、悪いんだからね」

「えっ、え〜〜、な、なんで・・・昨日、晴香に電話した時は、有名人になったって、

喜んでたじゃない」

「ち、違うっ・・・昨日は、４月１日だから、てっきり、孝のいたずらかと・・・」

「いたずら？４月１日？・・・って、エイプリルフール？・・・え〜〜」

「どうするのよ」

どうするのよって言われても・・・もう、放映されちゃったし・・・誰も見てないことを

祈るしかないと思うけど・・・

「誰も、見ていないかもしれないし・・・」

晴香が・・・怖い顔で睨んでる。

「あ、ほら、晴香だって見てなかったじゃない・・・実際には、お母さんに言われなければ・・・」

「どうして、孝はそんなにのんびり構えてられるのよ」

え、そ、そんなこと言われても・・・なんて答えれば・・・


「あら、相変わらず、仲がいいのね」

お母さんが声を聞きつけて出てきたみたいだ。

「違うっ・・・喧嘩してるの」

「そうなの？・・・良かったじゃない」

「え？」

「喧嘩が出来るくらい仲良くなったんでしょう」

お母さんがこっちを見てにっこり微笑んでいる・・・なんで？

「晴香も、自分の感情を孝ちゃんにぶっつけても受け止めてくれるって信じてるから

出来るのよね」

そ、そんなものなのかな・・・でも、ホントにそうだったらいいけどな・・・

「ところで、何で喧嘩になったの？」

「え、あ、あの・・・昨日のテレビの・・・」

「ああ、あれ・・・晴香も大胆だったわね」

「うっ」

晴香、詰まってるけど・・・よく考えてみれば、肩に手を廻してきたのは晴香の方なんだよね・・・

そりゃあ、『傘に入れてって』って頼んだのは私だけど・・・

「大胆と言うよりは、カッコよかったと思うけど」

「えっ」

お母さんが、晴香が止めたビデオを再生する。

「・・・いやあ〜、羨ましいですね。男子学生も、自分が濡れるのも構わず女の子が濡れない様に

傘をしっかり女の子のほうに差していますね。いいですね。・・・さて、傘を借りたマユミちゃんの

ほうは・・・・」

「ほらね」

「あ、あれは・・・孝なら、ああするだろうと・・・」

えっ、す、するかな？・・・相手が濡れない様には・・・でも、あんな大胆な事するかな？

・・・やってみたいけど・・・

「へえ、そうなの？」

おかあさんの言葉に、晴香も赤くなってる。

そこへ、裕香お姉さんが降りてきた。

「あ、日高君も来てたの・・・ちょうど、良かった。旅行の時の写真出来あがった所よ」

「「え？写真」」

お母さんが持ってたカメラは、まだフィルムが何枚か残ってるって、現像に出してないはずだし、

裕香お姉さんいつの間に写真なんて撮ってたんだろう・・・気づかなかった。

「これ・・・カメラなんだよ」

裕香お姉さんが首から提げたアクセサリー？みたいなカードを振ってみせる。

デジカメ？・・・あ、裕香お姉さん、昨日から部屋に篭って、写真の編集やってたのか。

でも、話題が変わって良かったかも・・・

「はい。これが、日高君を見つめる晴香の図」

な、なに〜ぃ・・・・全然、良くないじゃないか

テーブルの上に置かれた写真を慌てて手に取る。

うっ、構図が微妙だが・・・た、確かに・・・そう見えるかも・・・。

「へえ〜、こんな風に見てたんだ・・・」

横から覗きながら、晴香がそう呟いた。

なんか、目と声が笑ってる・・・うっ、な、なんか、訳もなく、悔しいぞ。

「で、こっちが・・・晴香を見つめる日高君の図」

「えっ」

あ、ホントだ・・・

晴香、慌てて写真持っていったけど・・・へへ、ちょっと、すっきりしたような・・・

「次が・・・」

次ぃ？

「晴香と日高君、ふたりがおしゃべりしてる写真」

あ、食事の時のだ・・・晴香が、話しかけてる時の・・・

「こうやって見ると、ふたりだけの世界って感じよね」

「「・・・」」

・・・って、感じで１枚１枚解説しながら見せてくれるんだけど・・・裕香お姉さん、

私達のこと、からかって楽しんでいない？

・・・

「そうして・・・これが・・・」

ま、まだ、あるの？

「ふたりが寄り添って寝てるところ」

「「！」」

こ、こんなところ・・・絶対にあるはず・・・ない

「撮影は私だけど・・・構成は、お母さんだからね」

構成？構成って・・・

「ふたりとも、良く寝てたからね」

「「・・・」」

わざわざ、離れてた布団を引っ張ってきて・・・くっつけて？

私達がこの写真を見たときの様子を想像して、ふたりで笑いを堪えてるシーンが容易に

想像できるぞ。

じとぉ〜っ

「他は真美ちゃんと亜矢ちゃんとの写真・・・お母さんの写真は、酔っ払ってるとこしか

ないんだもん」

「裕香がそんなところしか撮らなかったんじゃない・・・でも、今度貸してね。それ」

「うん、いいけど・・・後の編集がポイントなんだからね。・・・あ、真美ちゃん達にこの写真渡して

あげてね」

「う、うん」

つ、疲れたけど・・・いい思い出になったかも・・・。



退屈でもいいから、平凡な日々がいい・・・

学校が始まったら・・・ちょっと、怖いな・・・





第１２話　終了




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