びっくりしたなあ・・・最初何のことか分からなくて・・・


合唱部がテレビに?・・・あったかな?聞いた事はないけど・・・

「たしか・・・出たことはなかったと思うけど・・・」

「すいません・・・変なこと訊いちゃって・・・それじゃあ、失礼します」

そう言うと、ペコリと頭を下げて友達の所へ駆けて行く。

その場は、そんな風に終わったんだけど・・・


後から、水都さんと原田さんに訊いてみた・・・間違ってると嫌だし・・・

「真美・・・合唱部って、テレビに出たことあるの?」

「え〜、なかったと思うよ・・・なんで?」

「うん、新入生がね・・・」

「ふ〜ん、テレビに出るような部なら入部してもいいってことかしら」

「そーかも・・・」

「あのー、それ、晴香さんがってことじゃないですか」

「えっ」

ドキン

「晴香さん、綺麗だし・・・晴香さんのことが気になったってことじゃないですか」

「え、わ、私なんか・・・訊くなら、あーやに訊けばいいのにね」

水都さん、いきなり、ウサギのピース・・・

「ふふふ・・・今年の新入生の勧誘は、それを狙って、あーやと晴香に頼んだのよ」

「へ?・・・私達って餌だったの?」

「そう。これで可愛い男の子達が入って来れば・・・」

「でも・・・訊いてきたのは、女の子だったよ」

「え・・・それじゃあ、晴香が漫才師に見えたのかもね・・・な〜んだ、ハズレかあ・・・」

「それ、ひどいなあ〜」

と、言いながらも・・・頭の中では、別のことを考えていた。

まずいじゃないか・・・高校生はマジックショーだったかもしれないけど

受験生は・・・いや、大人達だって・・・これは、ま、まずい

晴香と一緒のところを見られると・・・確実にバレちゃうかも・・・

・・・晴香、周りから騒がれるのは嫌ってところあるからね・・・機嫌も悪くなるし・・・




「晴香、悪いけど、今日は、先に帰って・・・ちょっと、用事があるの」

「え・・・・・・今日は、待っててって言わないのね・・・」

晴香が、小さな声で呟いた。

「え?・・・今、何か言った?」

「別に、何でもない・・・バイ」

「あ、うん・・・バイバイ」

晴香の後姿がズンズン遠ざかって行く・・・

ごめんね・・・晴香の為なんだよ・・・と、その後姿に心の中で声を掛ける。



とりあえず、髪形でも変えてみるかな・・・

・・・

これで、ごまかせるかな?・・・あーや風、シングルテール・・・なんちゃって

・・・鏡の中の晴香が、寂しそうな顔をしてこっちを見ている・・・

あれ?・・・晴香の為なんて思ったけれど、本当は自分の為かも・・・

晴香にめちゃくちゃ言われるのが嫌で、逃げただけなのかも・・・

そう思ったら、すごく不安になってきた・・・心の中に影が差すっていうのか・・・

気がついたら、鞄を取りに教室へ向かって走り出していた。

何処をどう走ったか覚えはないけど・・・駅へ着いたら・・・電車が出て行ったところだった。

ハアハアハア・・・

呼吸は苦しいし、口の中は、すっぱいし、喉はひりひりする・・・

でも、胸がぎゅーっと締め付けられるようだ・・・


「ひぃ〜・・・は、はるか〜・・・す、すぐに電車くるんだよォ・・・」

振り向くと、水都さんと原田さんが、同じように息を切らしていた。

「はっ・・・は・・・晴香さん・・・すごい勢いで・・・駆けて・・・ハア、ハア・・・」

「追い越して・・・いくんだもん・・・なにか・・・あったの?」

途中で、水都さんと原田さんを追い越して走ってきたらしい・・・

私のあまりの勢いに、ふたりがびっくりして、追いかけてきたみたいだ・・・

そんなこと・・・全然、気づかなかった・・・

「べ、別に何でも・・・ないの・・・ただ・・・思いっきり、走ってみたくなっただけ・・・」

息を整えて・・・出来るだけ冷静に・・・答える。

「え〜〜、そーなのォ?・・・は〜あ、疲れたぁ・・・走って、損したぁ」

水都さんは、それだけ言うと、ベンチに座り込んでしまった。

「晴香さん・・・髪形・・・変えたんですか?」

「え・・・あ、ちょっと、気分転換にね」

「私のに・・・似てますね」

「あ、うん・・・あーやのを参考にして・・・」

「ホントですか」

原田さん、ちょっと嬉しそう・・・髪形、真似されるのって・・・嬉しいものなの?

「ふ〜ん、晴香の傍に、日高君がいないなんて・・・珍しい・・・」

水都さん、突然、ドキッとするよ−なことを・・・

「気分転換に髪形を変えたら、突然、走り出したくなった・・・でも、日高君がいない・・・

日高君がいないので、髪形を変えて走りたくなった・・・う〜ん・・・どっちにしろ、不吉。

明日は雨だね・・・土砂降りだったりして」

「・・・」

「真美ちゃん、そんなことないよっ」

珍しく、原田さんが水都さんをきつい目をして睨んでいた・・・

晴香、ごめん・・・やっぱり、胸が苦しいよ・・・明日、謝ろう・・・






今日は早めに家を出てきた。(水都さん、いいお天気じゃないか・・・・・・よ、よかったぁ)

晴香が、早い電車に乗っていくかもしれないし・・・

と、言うわけで・・・今、1本電車を見送ったところ・・・

まさか、休むってことはないよね・・・

ちょっと、不安を感じた時、晴香の姿が見えた・・・慌てて、走り寄る。

「晴香、昨日は、ごめんなさい」

「孝・・・髪形、変えたんだ」

「え、あ、ああ・・・うん、少しね」

「ふ〜ん、これもいいけど・・・私は、前の方が好きだったな・・・」

「ええっ!・・・す、少しの間だけなんだけど・・・」

「少し?」

晴香が髪形のことで好き嫌いを言ったのは初めてだ・・・

「それより、昨日は、ごめんなさい」

「何で、謝るの?用事があったんでしょう・・・それより、選挙も近いし、頑張りましょう」

「う、うん」

晴香の言葉に、胸がちくちくと痛む・・・良心の痛み?・・・晴香に嘘ついちゃったから?




放課後・・・

「・・・」

「ほらね・・・あーや、入れていってあげるよ」

「ええ・・・晴香さん・・・」

原田さんが、チラチラ、こっちを見ている。

うう・・・こんなはずでは・・・

「孝、ちゃんと、入れていってあげるよ・・・ちゃんと、家まで」

「あ、ありがと、晴香」

晴香の言葉に・・・出そうになった。

でも、帰り際になって、急に雨でなんて・・・

「あーや、しっかり、くっつくんだよ。そうしないと、濡れちゃうよ。土砂降りだからね」

「あ、孝も・・・」

でも、おかげで、晴香と元通り・・・には、なれたようなんだけど・・・

原田さんが、なぜ、傘持っていなかったかというと・・・後で知ったんだけど・・・天気予報で

雨が降りそうだと分かってはいたんだけど・・・私の気持ちを考えて持ってこなかったらしい

友達って・・・胸が詰まってしまった。



選挙当日は・・・問答無用で当選???

選挙応援当日には・・・最大のライバルだった須藤君が応援演説してくれるし・・・

あ、もちろん、晴香もね。

・・・ちょっと、失敗はあったんだけど・・・あ、その、須藤君と晴香の応援演説の原稿に

夢中になっててさ、自分が話すの忘れてたんだ・・・司会者が「それでは、候補者からも一言」

って、指名されてから「ええっ?!私も、話するのっ」って・・・ああ、恥ずかしかった

「宜しくお願いしますっ・・・え?一言なんでしょう?」って言ったら、会場大爆笑・・・。

晴香からは、「すごく不安だ・・・応援演説するんじゃなかった」って、言われるし、

須藤君は、「すごくよかったよ」なんて言って笑ってるし・・・ホント、恥ずかしかった。

誰も投票してくれなくて、無効になるかと思ったんだけど・・・その後、誰も立候補しなかったし

・・・選挙には、ほとんどの生徒が私に投票してくれた・・・ほっ。

投票されても、されなくっても・・・困っちゃう私って、なんなんだろう・・・


先輩に生徒会室に呼ばれた。

「う〜ん・・・盛り上がらなかったのかな・・・」

「・・・」

盛り上がらなかった?・・・そーゆー問題なのかな・・・

ああ、そうか・・・去年は臣先輩が・・・皆の先輩になった日だっけ・・・

私の場合は、爆笑だったかも知れないけど・・・先輩の場合は、全員が唖然として・・・

・・・まあ、いいか、こんなことは早く忘れたいっ。

「それより、先輩は、どうして須藤君を推薦しなかったんですか?」

「人望だけでは・・・それなりには、運営していけるだろうが・・・頭も必要だ。

政治家だって、優秀な秘書がいて初めてそれなりの評価が得られる・・・

両方を兼ね備えた白石晴香なら、ぴったりだ。・・・日高と付き合うようになって

変わったよ・・・確かに・・・俺とで、ないところが残念だけどな・・・」

「・・・」

答え難い・・・っていうか、答えられないんですけど・・・

両方を兼ね備えたって言うけど・・・私、頭ないし・・・人望たって・・・

女の子にモテた事だってないし・・・晴香が全部やってくれたわけだし・・・

「頑張ってくれ」

「はあ」

副会長が会長の見習いみたいなこのシステム・・・仕方ないのかなあ・・・

そりゃあ、いきなり、やれって言われても無理だもんなぁ・・・

また、晴香に迷惑かけるんだろうなあ・・・きっと・・・

でも・・・晴香、頑張って。




「あの一角・・・緑がすごいね・・・ああ、白い可愛い花も・・・」

外を見ながら、晴香が庭を指差したんだ。

ここへ来てから・・・庭に出たことって・・・なかったかもしれない・・・

「晴香・・・ちょっと・・・」

晴香を誘う。

「なあに・・・孝」

「庭に出てみようよ」

「え・・・」

ドアを開いて、庭へ出ると、甘酸っぱい香りが、漂っている。

「う〜ん、すごい匂いね・・・甘い匂いが・・・」

あ・・・苺がなっているんだ・・・

「うん、美味しい苺ジャムが出来ると思わない?」

「ええっ!?」

晴香が、ちょっと、びっくりしている。

「食べられるの?」

「もちろん・・・」

「ふ〜ん・・・これ、去年の春先だったかな・・・裕香が買ってきたんだ・・・」

「へえ、そーなんだ・・・」

よし、次の休みまでにはトライしてみよう・・・



実が小さいし、焦げないように気をつけて作ったんだけど・・・

出来たのは・・・小さいビンの半分くらい・・・

それでも、晴香と一緒に食べたくって、ホットケーキを焼いたんだ・・・

「御馳走さまっ・・・美味しかった」

「ええっ!?もう、食べちゃったの?」

「うん、孝が焼いたホットケーキにジャム・・・結構、いけるよ」

あ・・・ジャムのビンが・・・空っぽ?

「うう・・・私まだ、食べてないのに・・・」

「えっ・・・あ・・・ま、また、作れば・・・」

晴香が少しうろたえてる・・・焦った晴香ってめったに見れないんだけど・・・

頭の中で、チャンスって・・・誰かが囁いている。

「良さそうなのを選んだら、少しか取れなくて・・・それでも、晴香と少しずつ分けて

食べようと、思っていたのに・・・晴香と一緒に・・・」

「う、わ、分かった・・・この埋め合わせはする・・・どこかへ連れてくよ」

あ、やったね・・・ジャムは残念だけど・・・こっちのほうがポイント高い・・・へへへ

「こんなのが・・・うちの生徒会副会長・・・はあ〜」

「それは、関係ありませんよ〜だっ」




生徒会の方は、晴香と須藤君が手伝ってくれるから、全然、問題なしっ。

水都さんから、部員が増えたって笑顔で報告があった。

よかったね・・・なんていってたら、いきなりの勧誘。

「ところで、晴香も、うちの部へ入部しない?」

「わ、私は、音痴だから、ダメっ」

「ピアノ弾いてて、音痴?・・・考えといてよ・・・もうひとりの先輩はどうしたんですか

って、うるさいんだから・・・」

そんなこと言われても・・・晴香との時間が一番なのさっ


そう言えば、去年の今頃からだな・・・晴香との付き合いが始まったのは・・・

(・・・正確に言えば、ビシバシ怒られ始めたのは・・・かな?)

学校に慣れてきて・・・中学気分の抜けない俺達が、伸び伸び?と学校生活を楽しみ始めたのが

去年の今頃だったかな・・・最初は、怒る晴香に対して、

「校長先生も、入学式の時、『高校生活を楽しんで欲しい』って言っていたじゃないか」

なんて、反論してたんだけど・・・理屈攻めで来る晴香には敵わなくて・・・最後は、

晴香に言われっぱなしだった・・・子供と大人くらいの差はあったかも・・・

でもさあ、いつも、冷静沈着で通っているあの晴香が、本当は、わがままで、強情で、甘えん坊で

・・・でも、優しくって、臆病なところもあったりして・・・しかも、それは、私にしか

見せないってところが(・・・お母さんにだって見せないところをだよ)・・・とっても嬉しい。


「晴香・・・一人で、何、ニヤニヤしてるの?・・・もう、気持ち悪いなあ・・・」

「え、あ・・・」

「もう、ちゃんと、考えておいてよ」

「・・・」

なんと言われようと、晴香との時間が一番なのっ



と、言うわけで、庭で晴香とおしゃべりの真っ最中なのさ。

「へえ、晴香って、紫陽花が好きなの」

「そーねえ・・・梅雨の・・・雨の中でも、力強く咲いてるところがかな・・・」

晴香のこと、また、ひとつ知っちゃったぞ・・・

「これはね・・・6月には、白い花が咲くのよ。花が、房みたいになって・・・」

「ふ〜ん、6月かぁ・・・6月といえば、ジューンブライドだね」

「・・・」

「なんで、女の子って、ジューンブライドに憧れるんだろう・・・6月って・・・梅雨に入って、

雨も、いっぱい降るのに・・・不思議だなあ・・・晴香も、憧れる?」

「え、あ、私は・・・」

あ、晴香、ちょっと、困ってる?みたい・・・話題変えたほうがいいみたい・・・

「そ、そー言えば、水都さんのお手伝いした時の・・・1月の花嫁さんも綺麗だったよね」

あ、あれ、変わってないや・・・ど、どうしよう・・・

「は、晴香は・・・」

「孝・・・・・・やっぱり、少し距離をおきたい」

「はい?」

晴香の顔・・・真っ青・・・

「私、帰る」

え、あ、あの・・・どういうこと?





第15話 終了




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第15話
孝司と晴香シリーズ