距離をおきたいって・・・晴香・・・・

本気で言ってるんじゃないよね。

ううん・・・そう、いつもの気まぐれかな。

きっと、そうだ。

花嫁さんの話・・・そんなに嫌だったのかな？

・・・また、明日になれば、元の晴香に戻ってるよ。きっと・・・




「晴香、おはよう」

教室へ入るなり、一番に、晴香に声を掛けたけど・・・

いつもより、小さな声になっちゃった。

それでも、なんとなく、晴香が会釈してくれた様に思う。



朝の挨拶以外は、晴香と話す機会がない。

朝のは、自分の・・・欲目だったのかな？

休み時間もこっち見てくれないし・・・ほとんど、席にいないし・・・

今日の休み時間は、先生に呼ばれたり、水都さんが話し掛けて来たり・・・

私が閑な時は、晴香が何処か行ってたりして・・・タイミングが合わない。


私が生徒会の副会長になったので、晴香が自動的にクラス委員に昇格しちゃった

こともあって、忙しいのかもしれないけど・・・



これは・・・”帰り”を狙うしかない。

そう思って、放課後、晴香を待ち伏せ。

「・・・」

晴香、戻ってこない。

後の席をじぃ〜っと睨む。

自分でも・・・少し、苛々してきているのが分かる。

どうやら、体育館でコースケ達とバスケットしているみたい。



「晴香、ちょっといい？」

木下さんが、珍しく顔を出した。

苛々を押し込めて、頷く。

「ここじゃ・・・そうだ、あそこがいい。行こ、晴香」

教室を見廻した後、木下さんが腕を引っ張る。

え・・・晴香を待ってるのに・・・

木下さん、思っていることが分かったのか小さな声で言った。

「あ、あのさ・・・ちーのことなんだけど・・・」

「？」

『誰、それ？』って言えない所が・・・辛いところ？

きっと、晴香の大事な友達のことなんだとは思うけど・・・

うう・・・今日は、仕方がないか・・・

晴香を待つのは諦めることにした。

「それで、何処へ行くの？」



引っ張って行かれた所は、甘味処？

早速、あんみつとか注文してるし・・・。

店の中を見渡せば、純和風って感じで悪くはないけど、学生が入るような雰囲気

でもない。

お客さんもＯＬのお姉さんがふたり・・・奥の方におばさんが・・・

まあ、そんなことは、どうでもいいか。

ほとんど、人は入っていないし、ゆっくり、話するにはいいかもしれないということ。

それより、私としては、晴香の方が気になる。

「お待たせしました」

そういって、和服のお姉さんがあんみつを持ってきた。

「ここの、美味しいのよ。あっさりしていて・・・うん、晴香でも大丈夫。

私、２，３杯なんか簡単よ」

木下さん、ほ、本当に、食べるつもりじゃ・・・

「そろそろ、晴香には、話とかないと・・・」

木下さんが上目使いにこっちの方を見る。

「実はね・・・」

・・・

話終えた木下さんが、こちらの様子を伺っている。

晴香の友達のことだよね・・・いつ？何故？位は訊くよね・・・

「いつ？・・・どうして？」

「うん・・・半月程まえに・・・長く付き合いすぎた・・・のかな？」

「・・・それって・・・」

「ほかに好きな娘が出来たっていうのか・・・飽きられたっていうのか・・・」

「え？」

飽きられた・・・って・・・そ、そんな・・・

それって・・・例えば、晴香に・・・他に好きな娘が出来て・・・突然

『それじゃあ、孝、さよなら』・・・って・・・そういうこと？

・・・ポロリ

そ、そんなの・・・ちーっていう子、可哀想過ぎる・・・

ポロポロ・・・

「あ・・・あ、あの・・・は、晴香・・・」

木下さんがポケットからハンカチを取り出し差し出した。

「晴香、これ・・・これで、涙拭いて・・・」

え・・・涙？・・・あ、目の奥が痛いと思ったら・・・

木下さんが焦っているのが分かる。こっちも、恥ずかしかったけど。

それ以上に、私、カッコ悪い・・・とも思ってしまう。

「まさか、晴香が泣くなんて思ってもいなかったわ」

「う・・・ご、ごめん・・・」

「ううん・・・晴香なら・・・怒るかと思っていた・・・

『何故、今まで黙っていたの』とかね」

「・・・」

店を出る時、木下さん、『ここ、私の奢りね』なんて、言ってた。

晴香の反応としては、失敗だったんだろうなあ・・・

晴香なら、もっと、冷静に対処したんだろうなあ・・・

自分に重ね合わせてしまったのが、失敗だったのか・・・

そんなこと、想像もしたくないのに・・・。




木下さんと別れて、家へ向かいながら、ふと思う。

晴香に、話した方がいいのかな・・・

晴香の友達のことだもの・・・話さないと・・・

でも、どう切り出せば・・・

今は、ちょっと、タイミングが悪い・・・。

今・・・何となく話辛い・・・。

こんな時に・・・でも、話のきっかけに・・・でも、話題が良くない。




夕食後、ピアノの前に座り、楽譜を譜面台に載せる。

指は、毎日動かさないと・・・

ポロン・・・

まさか、私・・・晴香に飽きられてきた訳じゃないよね・・・。

付き合ってみたら、つまらない娘（？）だったとか思われて・・・

でも・・・晴香とずっと一緒・・・なんてことは・・・ない？



「どうしたの？孝ちゃん」

お母さんが、心配そうに訊いてくる。

「え？」

「音がいつもと違って・・・なんかこう・・・どう言ったらいいのかしら」

「え・・・あの、ちょっと、疲れてるのかも・・・今日はもう休もうかな」

「そうね・・・そうしたほうがいいかも・・・」






き、今日こそは・・・

『孝、さよなら』って言葉が、頭の中に響いてよく眠れなかった。


駅前で、晴香の姿を見かけた。

走り寄って声を掛けようとして、慌てて、人の影に隠れた。

何故って、隣に、大野木さんが居たから・・・。

とても親しげに、腕なんか・・・

声なんかとても掛けられなかった。



駅について、真っ先に電車から飛び降り、学校へ向かった。

だって、あの２人の後を歩きたくなかったんだもの。


教室に入ってきた晴香がちょっと、戸惑っているのが分かる。

「お、おはよう」

いつものように、微笑みながら・・・と思ったけど

ちょっと引きつった笑みになっちゃった。

「お、おはよう・・・こ、孝も・・・今の・・・同じ電車だったの・・・」

「う、うん・・・晴香も？・・・ぎりぎりだったから、いつもとは別の車両に乗ってて・・・」

嘘言ってる・・・

「あの・・・昨日、木下さんが来て、ちーって子の・・・」

「もう、知ってる」

「え・・・」

知ってる？・・・誰かに聞いたのかな？

難しい話をしなくて済んだのは、良かったけど・・・

このままじゃ・・・気まずい・・・。

「日高・・・ちょっと手伝ってくれないか」

泉君の声に晴香が振り返る。

「１時間目の資料、取りに行かなければ、いけないんだ」

「いいよ・・・」

晴香の泉君への返事に、ちょっと、ほっとしている自分が居る。

今まで、こんなこと、なかったのに。

どうして、こんなことになっちゃったんだろう？



昨日と違って、休み時間もすぐ傍に居るのに・・・厚い透明な壁があるみたい

歯車が噛み合わないっていうのか・・・

晴香が、なにか一言、話しかけてくれれば・・・





そ、そうだ。屋上に行って風に当たりながら、考えれば、良い考えも得られるかも。


早速、実行。

ところが、いつもの鍵の壊れた扉が開かない。

少し左へ回して、手前へ引っ張る様にして・・・あれ？やっぱり、ダメだ。

修理されちゃったのかな・・・あの清々しい風は、二度と・・・

余計に悲しくなってきた。

晴香に嫌われて（？）から、いいこと無いや・・・。





放課後、廊下で須藤君と生徒会の仕事のことで立ち話をしていた。

実は、半分うわの空・・・晴香のことが気になって気になって・・・

そんなところへ、晴香がこっちへ向かって歩いてくるのが見えた。

そうだ、生徒会の話なら、晴香も会話に参加してくれるかも・・・

晴香も、こっちに気がついた様だし・・・

と、思ったら、廊下を折れて、体育館の方へ・・・。


あ、そんな・・・

知っていて・・・私を避けた？

無理やり、須藤君との話を終わらせて、晴香の後を追った。


廊下の交差点に立った私は『追わなければ良かった』と後悔した。

何故って、そこには、大野木さんと話している晴香の姿があったから。

私を避けたというより、大野木さんの姿が見えたから・・・廊下を折れた？



気がつくと、駅で電車を待っているとこだった。

どうやって、駅まで来たか覚えていない。

でも、鞄だけは、しっかり持ってきたようだ・・・ほっ。




第１６話　終了




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