小鳥の囀りに目が覚めた。
う〜ん・・・少し、頭が痛い・・・
ね、寝不足かな・・・起き上がろうとしたが、体が動かない。
か、金縛り？？？
い、いや、単に、体がまだ起きてないだけなんだ。
そう思って、上半身に力を入れて、一息に起き上がった。
「えいっ」
体が少し重い様に思われるけど・・・何とか起き上がれたみたいだ・・・
「ふぅ〜っ」
「う・・・ん・・・もう、起きるの？・・・晴香」
溜息をついた途端、右側から眠そうな声がした・・・水都さんだ。
よく見ると水都さんの手が右手首を掴んでいた。
それで、体が重かったのか・・・
まだボ〜ッとしている頭の中で、昨日の事を思いだそうとした。
昨夜は・・・確か・・・原田さんの家に泊まって・・・水都さんが・・・
そ、そうだ。
あの、大きな鞄から、雑誌とか、トランプとか、お菓子とかが出てきて・・・
三人で七並べやってたんだ・・・もうちょっとで、私が上がるところへ・・・
双子のお姉さん達が、乱入して来たんだ。あっ、と・・・乱入って、失礼かな？
それで・・・そうそう、私のこと占ってあげるからって・・・
「「今日は調子が悪いのかしら？」」
「お姉さん達、どうかしたんですか？」
水都さんが訊ねた。
「占いでは、今日、亜矢が恋人を連れてくるはずだったのよ」
「え？当たってる・・・と思いますけど・・・」
「どういうこと？真美ちゃん」
「高校生になってからというもの、あーやは晴香一筋なんです。私の事なんか忘れるくらいに・・・」
水都さん、何、言い始めるの？
「ちょっと、真美ちゃん」
原田さんも、困ってるぞ。
「でも、連れてくるのは、男の子って、出てたのよ」
「え〜〜、男？」
水都さんが、マジマジと、こっちを見てる。
お姉さん達、この話、一度、諦めたのではなかったの？・・・やっぱり、悔しい？のかな。
拘ってるな〜・・・あ、あれ？お姉さん達、真剣・・・ホントに拘ってるんだ・・・。
「晴香・・・男なの？」
一瞬、真顔の水都さんに、ギクッ。
「・・・んな訳ないか・・・じゃ、思いっきり、外れたんですね。お姉さん達」
「「うっ」」
水都さん・・・それ、傷口に塩・・・あれ？・・・からしだっけ？
「お姉さん、まず、姓名判断から、やってみましょうか？」
「そうね。じゃ、気を取り直して・・・姓名判断ね・・・名前は・・・白石晴香ねぇ・・・
総画数が３１・・・後は、１７と３８と１４ね・・・う〜ん・・・頭脳明晰、判断力に優れる
重要なポストにつくことも出来・・・後は健康に注意した方がいいわね・・・それから、恋人とは
・・・見た目以上に精神的つながりを求める傾向がある・・・かな？」
へえ〜、晴香ってそーなんだ・・・と納得してしまった。
「お姉ちゃん、凄い。当たってる。晴香さん、生徒会副会長なんですよ。ねえ、真美ちゃん」
原田さんの言葉に水都さんが、ちょっと考えるようにしてから、言ったんだ。
「そーかな？・・・最近は、抜けてるって言うか・・・入学当初とはイメージが違うような・・・」
うっ・・・確かに、本物の晴香とは違う訳だけど・・・と思ってたら、原田さんがしっかり
フォロー？してくれた。
「あ、うん、最近は・・・あ、でも、真美ちゃんと比べたら・・・」
「ええっ、私が基準なの？」
「う・・・うん、真美ちゃんは、平均的な女の子ってことで・・・」
「平均？・・・ふん・・・まあ、いいでしょう」
水都さんは、ちょっと不満そうだったけど、平均点以上ってことで・・晴香の名誉は守られたって
考えていいのかな？・・・お姉さん達と言えば、ちょっぴり不機嫌そうだけど・・・。
ええ〜っと、それから・・・
「お姉さん、星座占いもやってみません？・・・晴香、誕生日は？」
「えっ、誕生日？・・・１２月２４日ですけど・・・」
「晴香さん、それ、日高さんの誕生日です・・・晴香さんは・・・３月２１日です」
すかさず、原田さんの指摘が。
「そ、そうでした・・・３月２１日でした」
へえ〜、原田さん、誕生日まで覚えているんだ。
「晴香ぁ・・・誕生日まで取り替えてるんじゃないわよ」
なんていう水都さんのツッコミがあったんだ・・・汗、汗・・・
「じゃ、私が・・・ふ〜ん、牡羊座になるわけね・・・性格は、真面目で、几帳面・・・
完璧を求める傾向がある・・・他人に対しては寛容な目で見てあげるといいみたい」
うわ〜、なんか、晴香らしいっていうか・・・納得って言うか・・・
「お姉ちゃん、凄い。やっぱり、当たってる」
再び同意を求める原田さんの言葉に、水都さんが首を傾げながら言った。
「そーかな？・・・最近は、適当なところもあるし、手抜きしてるって言うか・・・」
でも、それは、中身が入れ替わってるからであって・・・あ、そうか、それって、
私に問題があるってことなんだ・・・それ、まずい・・・と思ってたら、また、
原田さんがフォローしてくれた。
「それは・・・真実ちゃんと付き合うようになったからじゃ・・・」
「え・・・ははは・・・そう言えなくもないかぁ。そうか、私の影響だったのか」
水都さんが、頷いてみせる。
「でも、晴香に影響を与える私って偉大って事よね。あーや、私の事、尊敬しなさいよ」
「え〜〜、真美ちゃんを尊敬ってことは・・・世界の殆どの人が尊敬に値するってことです」
「うんうん」
水都さんが再び頷いてみせた。
「・・・と言う事は、晴香は誰にでも影響され易いってことね」
「え〜〜、そうーなんですか？」
原田さんが、真面目に聞いてくる。
「突然、そんなこと訊かれても・・・」
「晴香さん、私の影響も受けてください」
「はい？」
う、占いの話じゃなかったの？なんか、訳分からなくなってきた。
「あーやが、晴香に影響を与えるなんて、１００年早いわよ」
「じゃ、１００年後にお願いします」
「えっ？」
原田さんの言葉に水都さんが大爆笑。
「ぶっあっははは・・・あ〜や・・・私の負け・・・あははは・・・」
水都さん、やりすぎでは？・・・お姉さん達、気分害してる？
いや、どっちかと言うと・・・疲れが見えてる？
「今日の占いが凶って、このことだったのね」
「占いにもなっていない様な気がするけど・・・」
溜息をひとつついた後、お姉さん達は、疲れた様子で立ち上がり部屋を出て行った。
「「は〜、もういいわ・・・次の機会にする・・・」」
水都さん、いきなり、ピースサイン。
「ど、どういうこと？」
「晴香は、あーやの家、初めてだから・・・お姉ちゃん達のカモになるところだったのよ。
つまり、危うく、朝まで占い三昧になるところだったと言う訳なのよ」
そーゆーことか・・・でも、次の機会にって・・・確か、そう言ったぞ。と、言うことは・・・
「真美ちゃん！」
原田さん、姉のこととあって、一応抗議。
「あら、あーやだって、晴香をお姉ちゃん達に盗られたら嫌でしょう？」
「あ、それは・・・勿論、嫌です」
「あーやも、はっきりしてるわね・・・だから、さわりの部分で終わってラッキーってことで、
これからは、私達で盛上りましょう」
「そーですね」
お姉ちゃん達同様、こっちも疲れてきたかも。
「あーやのお姉ちゃん達も、占い以外だったら、結構面白いんだけど・・・」
「あ、私、晴香さんのお姉さんの方が、面白いと思いますけど・・・」
「うん、そうね、晴香に似てるよね」
「ええ」
異議あり。似てる訳ないじゃん・・・外観はともかく、中身は・・・
「そうなんだよね・・・ボケるところなんか晴香にそっくり」
「そうなんです」
う・・・でも、中身は・・・
なんか、ふたりの意見が一致してる？私と裕香お姉さんの性格が似てるってこと？
「ところで、晴香・・・」
「え・・・何？」
「日高君と何処までいってるの？」
って、水都さん、笑顔で聞いてきた。
お姉ちゃん達より、こっちの質問の方が・・・どっちにしてもカモってこと？
「何処って・・・水都神社とか？」
「はあ？・・・晴香ぁ〜、冗談言ってんじゃないのよ」
あんまりだ・・・早速、ボケてみたのに・・・
「ま、真美ちゃん！」
「あ〜やだって、知りたいでしょう？」
「そ、そりゃあ・・・で、でも、ダメです！それは、晴香さんのプライバシーです」
原田さんが、間に割って入る。
女の子達のＹ談って・・・男の子達のより凄いって聞いたことあるぞ・・・ど、どうしよう・・・
水都さん、原田さんを押し退け、更に身を乗り出し聞いてきた。
うっ、顔が真剣だ。
「で、どうなの？」
「そ、それは・・・」
今、晴香とは最悪の状態だし・・・それを思うと・・・あまり、話す気にも・・・
「あ〜あ、その様子じゃ、キスも・・・未だの様ね。残念。この話題で盛り上がろうと思ったのに
・・・これなら、お姉さん達の占いでも良かったかも」
落胆を隠せないって云う様な水都さんの様子を見せた。
「ま、真美ちゃん！」
私だって、キスくらいは・・・と反論したかったけど・・・考えてみると、あれから、数ヶ月
・・・キスもしていない。
しかも、最後のは、実験？だったりする。・・・ああ、暗くなりそう・・・。
「・・・どーなるんだろ・・・」
突然、水都さんが笑顔を浮べた。
「ふ〜ん、晴香ぁ〜、知らないんだあ〜・・・キスはともかく、初めてのアレは・・・
死にたくなるほど・・・」
「ま、真美ちゃん！」
「いいじゃない・・・慣れればなんてことはないらしいけど、初めてのアレは、とっても・・・」
「真美ちゃん！」
原田さんが握り拳を作ってた。
「わ、分かったわよ・・・分かったって、あーや」
原田さんの剣幕に、水都さんが諦めた？
でも・・・アレ？は・・・死にたくなるほど・・・何？
とっても、気になる。
「折角、面白い話が聞けると思ったのに・・・あれ、もう、こんな時間？・・・晴香も、
風邪気味だって言ってたし、寝る？」
ふたりが、一緒にお風呂に入ろうって言うものだから、咄嗟に風邪気味だって逃げたんだった。
「そうですね」
時計を見ると、１２時を廻ってる。
「それじゃ、私は・・・」
原田さんが立ち上がり、部屋の外へ出て行った。
「ま、真美・・・アレのことだけど・・・死にたくなるほど・・・って何？」
「ん？・・・ああ、アレのこと？・・・つまり、死にたくなるほど恥ずかしくってぇ・・・
時には、血み・・・どろ・・・」
そこへ原田さんが戻ってきた。水都さんの背筋が一気に伸びる。
「真美ちゃん・・・なんの話ですか？」
あ、なんか・・・怖いオーラが出てる
「あ、あのね・・・そ、その・・・ど、何処に寝よーかって・・・ね、晴香」
「？？？」
水都さん・・・どうしたんだろ？・・・原田さんも・・・
「え・・・ああ、う〜ん・・・そうですね・・・」
原田さん、何か考え始めたようだ。
意味が解らず、こっそり訊いてみた。
「真美・・・どうかしたの？」
「う、うん・・・あのね、つまり、血みどろって言うのは、あーやの・・・」
「えっ！」
びっくり、原田さんて、経験者？
ギクッ
振り向くと原田さんが怖い顔で睨んでいた。
「真美ちゃんは・・・廊下・・・いえ、庭の方で寝たいようですね」
「ご、ごめん、あーや・・・ごめん」」
「・・・」
「あーや、機嫌直して・・・もう言わないから・・・反省してます」
「・・・」
なんか・・・拗れて不味いことに・・・
「あ、あの、あーや、今のは・・・私が無理に・・・ごめんなさい」
「あ、晴香さんは、別に・・・悪いのは、真美ちゃんなんです」
「で、でも・・・」
「分かりました。この話は、おしまいです・・・」
機嫌直してくれたのかなと思ったら、手に持っていたものを差し出した。
「では、晴香さん、このパジャマ着てください」
原田さんの手元を覗き込んだ、水都さんが騒ぐ。
「あ、ずる〜い。それ、私が頼んでも貸してくれなかったパジャマ」
「真美ちゃんは・・・お気に入りの持って来てるんでしょ？」
「え・・・ん〜、まあね。でも、ずる〜い」
「晴香さん、廊下で寝る真美ちゃんは置いといて、ふたりで寝ましょ」
「え、廊下なの？私」
「真美ちゃん、全然、反省してないじゃない」
「いえ、水都真美、しっかり、反省してます」
「ホントかな〜」
「ホント、ホント、ホント」
「うそっぽいなあ〜」
ふたりで遊んでるようだけど・・・どうするのかなっと部屋を見渡した。
この部屋、あんまり描写するなと、原田さんに言われてるから・・・え？全然描写がないって？
それじゃあ、プライバシーに触れないと思われる程度で説明すると・・・原田さんの部屋・・・
和室なんだけど・・・はっきり言うと、この部屋、縫ぐるみが多い。
ホントに、どうやって寝る？って思うくらい多い。
晴香の部屋には、縫ぐるみなんて・・・あ、ひとつ有ったかな？
それから・・・机がひとつとベッドがひとつ。他には、可愛い絵のついたローチェストがひとつと
後は本棚がひとつ。チェストの上も、本棚の上にも縫ぐるみが溢れてる。
「何してるの、晴香」
「え、あ、うん・・・この部屋、縫ぐるみが多いなあって」
「てへ・・・実は、私があーやに作ってあげたの」
水都さんが？
「す、凄い数だけど・・・全てそーなの？」
「そーなんです・・・あ、これ、これ・・・晴香さんとの旅行記念の縫ぐるみです」
「へええ・・・そ、そーなんだ」
良くわかんないけど・・・
「今度、晴香お泊り記念の縫ぐるみ、作ってあげるね」
「はい」
「ところで、縫ぐるみは良いとして、ホント、どうやって寝る？」
「私と晴香さんはベットで・・・真美ちゃんは空いてる所、適当に・・・」
え〜〜っ、冗談・・・
「あーや、晴香は縫ぐるみと違って寝相悪いんだよ」
うんうん、そのとーりです。
「まさか・・・真美ちゃんじゃ、あるまいし」
「あーや、人は見掛けではわからないものなのよ」
うんうん、そのとーりです。
「でも・・・晴香さんですよ」
「あーや、晴香のお姉さん、思い出しなよ」
うんうん、そのとーりです。え？
「え、あ、でも、晴香さんは・・・お姉さんとは・・・」
「あーや、晴香に蹴り入れるの？晴香に嫌われちゃうよ」
え？
「そ、そーですね・・・」
そーですね・・・って・・・？？？。
「私としては、隣の空いてる部屋を使うのが良いのではないかと思いますが・・・」
「やっぱり、そーなりますぅ？」
「それしかないでしょう」
水都さんが、腕を組んで頷く。
「でも、それでは・・・私が、寂しいですぅ」
襖を開けたら、ちゃんと布団が敷いてあった訳です・・・ほっ・・・疲れた。
部屋の間の襖を開けて寝るから・・・と言うことで、原田さんに納得して貰い、眠りについた。
で、起きたら、こーゆー状況になっていたって訳だ。
自由になった右手をみたら、しっかり、指のあとがついてた。
あれ？・・・左手も動かない・・・。
右手で布団捲ると・・・原田さんが左手首を握って寝ていた。
いつの間に潜り込んで来たんだろう？
とりあえず、蹴りは入れられなかったみたいだけど・・・あれ？こーゆー状況って、
もっと、ドキドキするかと思ったけど・・・別に、どうって事ないや。
なーんだ・・・ちょっと、がっかり。
朝食後、学校の課題を思い出し、３人で片付けた。
「晴香が居ると便利ねえ。借りっ放しにしたいわ」
水都さんが、呟く。
私の所有権って誰にあるんだろ？
「私・・・いつ借りようかな」
大変なことにならないうちに・・・
「コ、コホン・・・私、そろそろ・・・」
「あっ、私も、帰らなくっちゃ。用事があるんだった」
「え・・・もうですか？」
原田さんは残念そうだ。
「あーやも、また、借りればいいのよ」
「そーですね」
その話題は、もう・・・
「あ〜、私、荷物まとめてない。晴香、先、行ってて」
「真美ちゃんったら」
原田さんに促されて、ふたりで先に玄関まで来た。
空を見上げると、今日は青空が見え、天気も良さそうだ。
「今日は良い天気のようだね」
「そうですね。また、来て貰えますか？」
「うん・・・色々、ありがと。また、遊びに来るね」
「ホントですか、晴香さんっ」
うわ〜、抱きつかれるって初めてだ・・・抱きしめられるって云うのは、何回かあったけど。
サラサラの髪が頬に・・・なんか、くすぐったい。
ドキドキ・・・心臓の音が・・・原田さんに聞こえないかと心配した。
直ぐに水都さんが例の大きな鞄を持って現れた。
「どーしたの、晴香？」
「べ、別にぃ・・・」
「？」
不思議がる水都さんと私は、クスクス笑っている原田さんに手を振って別れた。
「晴香も大変ね・・・頑張るのよ」
「な、何を？」
「うん、それは・・・色々とね。それじゃあ」
水都さんの家の傍まで来ると、溜息混じりに言った。
何のことだろう・・・と思ったら、水都さん、数メートル離れたところで振り返って叫んだ。
「次は、絶対、私が借りるからねえ〜」
がっくり。
１時間程、歩いた私は、漸く家にたどり着いた。
電車で帰るより、歩きたい気分だったから。
「ただいま〜」
私の声を聞きつけたお母さんが玄関まで出てきて言った。
「おかえりなさい、孝ちゃん。今、晴香が・・・」
「！」
晴香って名前を聞いただけで、脱ぎかけた靴を履きなおし、外へ飛び出していた。
「あっ、孝ちゃん・・・」
背中で声がしてたが、構わず外へ出、人影を探していた。
第１９話 終了
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