晴香の手が頬に触れた。

その部分がとても熱く感じられる。

いつもの晴香の手と違うみたい。

頬に触れていた手が、ゆっくりと優しく、肩の方へ廻る。

「あ、あの・・・」

「何も言わなくていいよ。まかせて・・・」


とっても、恥ずかしくって・・・時には血みどろ・・・

水都さんの言葉が頭に響く。


あ、でも・・・ここで拒否したら、また、嫌われちゃうかも・・・

ここは、黙って・・・でも、きょわい。


「ち、ちょっと、待って、晴香」

「孝、どーしたの?」

一瞬、寂しそうな晴香の顔。

頭は、フル回転・・・白石晴香・・・真面目で、几帳面。特別な関係を望む・・・

原田さんのお姉さん達の占いの言葉を思い出した。

「あ、あのね。晴香に出会えて、とっても良かった」

「え?」

晴香、『何が言いたいの』って顔してる。でも、聞いてくれそうな雰囲気。

「今も、晴香が好きだって言ってくれて、とっても嬉しい」

「う、うん」

「こんな特別な関係も、晴香とだから、とっても幸せ」

「え?体が入れ替わったままでも、構わないってこと?」

「うん。晴香は嫌?」

「私は・・・」

「男になって、晴香を守りたいって思ったこともあったけど・・・今は、一緒に

居られるだけで幸せだと思える」

これは、ホント。この数日で、強く感じた。

「え?」

「だって、心は、好きな人の体と一緒にいられるし、これって、究極の恋人同士って思えない?

晴香は、どう思う?」

「うん・・・孝の言うとーりかもしれない」

「既に、私達って特別な関係だよね。他の誰も真似が出来ない関係だよね」

特別な関係を強調してみる。

「うん・・・きっと、誰も、真似の出来ない・・・ふたりだけの関係。こんな関係、誰にも・・・

別に、焦ることない・・・のかも」

「うん」

いつもの晴香に戻ってくれたようだ。

やっぱり、晴香は、特別な関係というのを望んでいたってことか。

危険?が去った様なので、ホッとした。

双子のお姉さん達に感謝。


突然、晴香がギュッって抱きしめてくれた。

ちょっと、びっくりしたけど・・・ああ、この感じ・・・晴香独特のこの感じ・・・

優しく包み込んでくれるよーな・・・

はっ、もしかして、危険を脱したっていうより、チャンスを逃した?

とっても、惜しい事をしたかも・・・晴香が、この先、こんな行動に出ることなんてあるかな?

あ〜〜、もしかして、二度とないチャンスを潰してしまったような気がする。

あ〜ん、もったいないことしたよぉ〜


「どうしたの?孝」

「もったいないこと・・・あ、べ、別に、なんでもないよ」

「???」

晴香は静かに話し始めた。

「あのね・・・孝、聞いて貰えるかな?」

晴香が悩んでいたこと、思っていたことを色々話してくれた。

晴香が心を開いてくれたようでとても嬉しかった。

今日という日は、私にとって、大切な日のひとつになることだろう。



「水都神社の神様?」

晴香が頷く。

「何故?」

「だって・・・孝や水都さん達は、私達が皆、同じクラスになるように祈ったでしょう?

だから、同じクラスになったってことでしょう?」

「同じクラスになったから、晴香の責任なの?」

「う・・・ん、同じクラスになったって言うことは、神様が、願いを叶えてくれたって言うこと。

私が、このままを望んだから・・・その願いを叶えてくれたって言うことになるでしょう?」

「でも、晴香だって、進路希望出したでしょう?」

「う・・・ん、でも、孝は、理系って書かなかったでしょう?」

「ああ、それは、文系もいいかなって思ったから・・・別に理系って書いたのに、故意に

文系にされたってことじゃないよ」

「孝が、そう書こうとした時点で、神様の意思が働いてるってことじゃない?」

「え〜〜、よく分からないな」

「それに、文系って、3クラスでしょ。だから、4人が同じクラスになる確率は・・・」

「でも、0(ゼロ)じゃないでしょう?」

「別々のクラスになるより、確率が小さいって事よ」

「それでも、有り得ない事じゃないでしょう」

「う〜ん、それはそうだけど・・・」

「単に、偶然かもしれないでしょう?」

「でも、その可能性は、充分にあるって言うことでしょう」

「そんなに、単純なの?」

「え?」

「だって、こーゆーことでしょう・・・つまり、ふたりのどちらかが、元に戻りたいって

願ったら、元に戻れる・・・」

「あっ」

あれ?晴香、そこまで考えてなかったのかな?

と、言うことは・・・まだ試していないってことね。

つまり、晴香の言ったことも、可能性は残っているってことか。

あ、でも・・・他にも、色々とお願いしたいことはあるけど・・・

どれからお願いするか・・・優先順位の問題だな。

「孝、先にお願いしたことって、後からお願いしたことより優先されるのかな?」

「え?・・・あ、そうだとは、思うけど・・・」

晴香に考えてること読まれてるのかな?

じゃあ・・・さっき、思ったことも・・・ま、まさか

「それじゃあ、お願いの取り消しなんていうお願い、聞いてもらえると思う?」

「へ?」

「な、なんでもない。私、変な事、言ってるね」

読まれてる訳じゃなさそうだけど・・・取り消しなんて、もったいない。

今も・・・は、もう忘れて、とりあえず、晴香が変な事考えないように、言っておこう。

「私は、神様とかじゃなく、霊的なものじゃないかと思うんだけど・・・」

「え、霊・・・あの“うらめしや〜”とかの?」

もう、晴香ったら、こんなとこで、ふざけるんだから・・・

「は、る、か」

「あ、ごめん・・・そういう可能性もある訳ね・・・」

納得してくれたかな?

晴香が考え込むような話題からは、離れた方が良いな。

でも、どうやって、別の話題へ・・・

と、思ったら、晴香の方から話題を変えてきた。

「孝、最近・・・どうしてた?」

晴香、気にしててくれたのかな?

「あ、うん・・・お母さんがね、色々と・・・」

「ふ〜ん、やっぱり、お母さんか・・・」

あ、晴香誤解してる。色々振り回されたけど、私の為にしてくれたんだよ。

「あの、色々と心配してくれたんだよ」

「孝・・・ごめんね」

「あ、晴香が悪い訳じゃ・・・」

そう、私が勝手に先走ってしまっただけみたいだし・・・

「それより、晴香は、どうしてたの?」

「私?・・・いつも通りだよ」

「ふ〜ん、変った事とかなかったの?」

「え〜・・・あ、そうだ・・・パン齧ってたら、隣の・・・」

「え?」

「ううん、なんでもない」

「晴香、毎日パンなの?」

「あ、うん。購買でパン買って、放課後、コースケ君達とバスケやって、帰ってから、

カップラーメン食べてる。そんな毎日」

「毎日?」

「うん、殆ど毎日・・・あ、この間ね、カップラーメン作ったんだけど・・・最初硬くってさ、

あ、時間が早かったみたいなんだ。それでね、しばらくそのままにしてたら、2個分位になってた。

これって、得したと思う?」

「え」

真面目で、几帳面・・・何処がだあ〜

もしかしたら、非常に危なかったのかも・・・あ、惜しい事をしたって、思ったんだっけ。

この際、そんなことは、どおーでも良いか。肝心なのは、コレ。

「晴香・・・お弁当作ったら、また、食べて貰えるかな?」

「え・・・うん、喜んで」

や、やった〜・・・得意分野で、少しでも、晴香の心をゲットしとかなくっちゃ。

「あ・・・お弁当で思い出したけど・・・孝は知ってる?」

「何を?」

「あの・・・屋上への扉の鍵のこと」

「あ・・・うん、知ってる」

声のトーンが落ちてしまう。

「そう・・・残念だけど・・・」

「他の皆にもあの景色見せてあげたいね。アレ観れば、悩みなんか吹き飛ぶのに・・・」

「孝、それよ!それ!」

「え、それって?」

「孝の副会長としての最初の仕事・・・学校側と交渉して、屋上を生徒に開放してもらうの」

「そんなこと出来るの?」

「うん。学校側はきっと、安全とか管理の問題出してくると思うの。金網とか所々壊れてたし

修理とかして貰って、生徒会で安全に使用するためのルール作るの」

「何とかなるかもしれないね」

「うん、頑張ろう」

さすが、晴香。なんか、希望みたいなのが湧いてきた。



ふと、時計を見た晴香が騒ぐ。

「あ、孝、もう、7時近いよ」

「え・・・ああ、そうだね。最近、明るいから、気がつかなかった」

「送るよ」

「え?・・・まだ明るいから、大丈夫」

もう少しこのまま話していたいと思ったけど、そんな訳にもいかないし。



玄関で、バッタリ、帰って来た母さんと逢ってしまった。

「お、お邪魔してます」

「あら、こんにちわ」

「あのぉ、お台所、使わせて頂きました」

「あら、孝君、お昼作って貰ったの?」

「う、うん・・・白石さんに・・・ちょっとね」

「ごめんなさい、白石さん。あ・・・孝君、それで、元気そうなんだ」

「え?」

「母さん、白石さん、送ってくるから」

晴香は、顔を紅くして、外へ出て行った。

「あ、失礼します」

お辞儀をして、晴香の後に続いた。



晴香は、私の横を自転車を押して歩いていた。

晴香も、一人の時は落ち込んでいたに違いない。そう思うと、嬉しくなった。

晴香は、ゆっくり歩いていたけど、話しかけてこなかった。

きっと、照れてる・・・母さんの言葉が効いているんだ。



家の前まで来ると晴香に向かって話しかけた。

「送ってくれて有難う、晴香。寄ってく?」

晴香は、首を横に振ってから言った。

「送るのは、当然のことだよ・・・孝は、とても大切だから・・・でも、孝は、私が孝を好きに

なる前から、私の事、好きだったでしょう?」

「え・・・ど、どうして、それを・・・」

それは、ある意味、私の切り札みたいな物だったのに・・・

「良かった・・・恋って、先に惚れた方の負けよね」

「う」

「正直な孝・・・大好きだよ。じゃあ、またね」

晴香は、ニッコリ笑って、自転車で走て行った。

その後姿をぼんやり、見送った。

切り札が・・・弱点になってしまっていた・・・。



「ただいま〜」

「おかえりなさい」

「あのね、月曜日から、晴香のお弁当作っても良いことになった」

その言葉を聞いたお母さんは、『良かったね』と言ってくれた。

うん、やっぱり、今日はいい日だった。









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第21話
孝司と晴香シリーズ