今日はとってもいい日だった。

布団に入ると、今日１日のことが思い出される。


晴香に告白された上に、迫られたなんて・・・ふふふ・・・

頬の筋肉が自然に緩んでしまう。

でも、ちゃんと、説得に応じて思い止まって・・・あれ？

ホントに、こっちの気持ちを察して、止めてくれたのかな？

机の上に、あんな本があったな。ここン所、重要だぞ。

もしかして、一時的な欲望を満たそうとして告白して・・・途中で理性が働いたとか？

「・・・」

晴香だって、今は、男なんだし・・・。

否、そんなことはない。だって、晴香の性格から言っても・・・

ん？晴香の性格？

何か、メチャクチャな事言っていた様な気がする・・・

ちょっと、待って。落ち着いて、分析してみよう。

え〜っと、順番に整理してみると・・・家族構成は、両親と姉が一人・・・

真面目で、勉強が出来て・・・進路は文系で・・・あ、法律関係に進みたいのかな？

ピアノが趣味で、小説が好き・・・合気道も出来るって聞いたな。それから、手話もか。

アジサイの花が好きで・・・花言葉には移り気なんていうのもあるけど、逆に戒めにも出来るって

・・・晴香、移り気って事なの？そんなの困る。あ、そうじゃない。あるけど・・・なんだ。

それに雨の中で強く咲いてるのが良いとか言ってた。

それから、甘いものが苦手で・・・最近は、食べてくれるけど・・・料理とかは、壊滅的。

それから・・・夢は、可愛いお嫁さん？

この辺りもメチャクチャかも。

面倒見は良いけど、悩みとかは一人で抱え込んでしまうタイプ。

恥ずかしがりやで・・・周りから騒がれるのが嫌いで・・・それでいて、凄い見栄っ張り。

几帳面だけど、結構、大雑把。

それから・・・かなりのヤキモチ妬き。

う・・・ん・・・やっぱり、良く分からなくなってきた。

晴香の性格って、つかみ所ないなあ・・・本気だったか、確認したいな・・・。

・・・確認しておかないと、不安なままだ。



翌日は晴香のお弁当の為に大奮闘。

晴香の好物をお母さんに徹底的に教えて貰った。

試食係りの裕香お姉さんは、喜んでいたが、夕方頃には、お母さんから『まだやるの？』って

言われてしまった。でも、メゲナイぞ！！

このお弁当に、私の運命が掛かっているんだから・・・密かに拳を握り締める私がいた。



張り切りすぎて、いつもより早い電車。でも、駅で晴香に会えた。

「おはよう、晴香」

「おはよう、孝」

う〜ん！挨拶を交わせるなんて幸せだ。

「晴香、お弁当作ってきたからね」

晴香がパンを買ったりしないように告げておく。



お昼のチャイムが鳴る。

待ちに待った、お弁当タイムだ。

「晴香・・・お弁当・・・中庭とかで食べる？お天気もいいし」

「ＯＫ」

晴香は、機嫌よく返事をくれた。



ベンチに腰掛け、晴香にお弁当の包みを渡す。

晴香がお弁当の包みを解いた頃を見計らって、質問開始。

「晴香・・・ちょっと、聞いても、良いかな？」

「な〜に？」

「あの・・・正直に答えてくれるかな？」

「なにそれ・・・私、嘘なんてつかないわよ」

「あれ・・・そーだよね」

緊張のあまり、間違った。

「うわー、おいしそー」

晴香の声は、こっちに置いといて・・・質問を優先する。

「うん、それで・・・あの・・・晴香って、法律関係の仕事がしたいの？」

「うん・・・なんで？」

「何となく・・・それって、お父さんを手伝いたいから？」

「それも、あるけど・・・」

「ふ〜ん」

「な〜に？・・・進路調査でもしているの」

「そんな訳じゃないけど・・・」

「こんなに凄いお弁当、朝作ったの？」

晴香は、そう言いながら、いつもより１段多いお弁当をベンチに広げている。

「あ、一部は、前の日から仕込んで・・・それから・・・」

「まだあるの？」

「うん・・・晴香の夢って、可愛いお嫁さんだとか言ってたよね」

「え、ああ・・・その夢は、もう、孝が壊してくれちゃったし・・・」

「え・・・あ、ご、ごめんなさいっ」

やっぱり、入れ替わっちゃたから、夢壊しちゃった？

「孝、勘違いしてるよ。元に戻っても・・・孝程、上手く出来ないって気がついたの。

今は、可愛いお嫁さんを手に入れることが出来ればって・・・ねっ」

晴香の顔が少し引き攣っていたのは気のせいか？

「はあ？・・・それって、元に戻っても・・・なの？」

「う・・・ん・・・きっと、そうかも」

女の子が、お嫁さんを探すの？

そう言えば・・・裕香お姉さんもそんな感じだし・・・やっぱり、晴香も？

「ちょっと、待って・・・それって、もしかして、元に戻っても、私に料理させるって事？」

「そうなるかなあ・・・孝だって死にたくないよね」

えっ・・・死んじゃう？・・・で、でも、元に戻っても、恋人同士って言ってくれてるって

考えれば・・・無理やりかもしれないけど・・・納得しておこう・・・出来るかな？

「それから・・・晴香って・・・周りから、騒がれるの嫌いだよね？」

「今度のは、な〜に？」

「うん、ちょっと・・・ね」

「変な事で注目されるのは嫌だけど・・・」

変な事？・・・それはそうだろうな。私だって嫌だもの。

「た、例えば、良い事をした時とかは？」

「う〜〜ん、良い事って当然のことをしたとか？」

「そ、そうだね」

「出来れば、騒がれない方が良いけど・・・その時は仕方がないわね」

へえ・・・良い事でもか・・・難しいな。

「あの・・・私との事とかは？」

「え・・・孝との？」

「うん」

「具体的にはどんなこと？」

具体的？

「孝、このアスパラの炒めたの凄く美味しいよ」

「ありがと・・・その・・・例えば、手をつないで、歩いたり？」

「う〜〜ん、それは・・・・ちょっと・・・」

「え〜〜、それ以下って、どんなことがあるの？」

「一緒に勉強してた・・・とか」

「そんなの、話にもならないんじゃ・・・」

「う〜〜ん・・・それじゃあ、仕方がないか。そのくらいは・・・」

「ホント？」

「ホント、ホント」

なんか・・・今日の晴香、軽いな・・・ちょっと、違和感。

「それ以上のことは？」

「え・・・それ以上のことって・・・」

「え・・・うん、ま、いいか」

折角、勝ち得たものまで、失ってしまいそうなので諦めた。

じゃ、今度は一番肝心な質問。

「あの、あの・・・晴香・・・この間は・・・本気だった？」

「え？」

「だって、この間は・・・あっさりと、ひいちゃったし・・・」

ホントは、『好きって言ったの、ホント』って、聞きたいけど、直接は聞きにくいから・・・。

「え、ひいた？・・・ああ・・・あの事ね」

「う、うん・・・本気だった？」

「じ、実は・・・でも何故、そんなこと聞くの？」

実は？・・・やっぱり、一時的な？

「実はって？」

「本当は・・・孝と特別な関係が欲しかっただけ・・・」

「特別な関係・・・」

「あれは・・・その手段のひとつ・・・」

手段のひとつ？・・・他に、どんな手段を考えていたんだ？

「コホ・・・それで、あんな本見てたんだ」

「あ、あ、あんな本って？」

晴香が、急にうろたえ始めた。

「机の上にあった本」

「え・・・や、や、やっぱり、知ってたの？」

晴香の顔が真っ赤に・・・なんか、凄く恥ずかしそう。

「うん。コースケが無理やり置いていったんだと思うけど・・・」

「・・・」

「晴香が正直に話してくれたのは嬉しいけど・・・でも、ちょっと、がっかり」

「な、なんで」

「あ、いや・・・本のことじゃないよ。私に魅力を感じて行動を起こした、じゃないところに」

「そ、そんな事ないよ・・・孝が良いなら・・・なんなら、今すぐでも、押し倒してみても・・・」

「えっ」

晴香が急に立ち上がったのでちょっと、びっくり。

突然、ベンチの後の方から、低い、優しい声がした。

「そういうのは、場所を考えて・・・できれば、もう少し大人になってからの方がいいと思うが

・・・それに、今しか出来ないことを、楽しんだ方が良いと思うが・・・あ・・・法律とか

料理とか元に戻るとか戻らないとか・・・もしかすると、文化祭の劇の話でもしていたのかな？」

「「こ、校長先生！」」

突然現れた校長先生に、二度びっくり。

「そ、そうなんです。今回は、ＳＦなんです。宇宙船で出た料理が原因で、食中毒が発生してしまって

宇宙を漂流していた法律家が、地球に戻って恋人と結婚するって云う話で・・・今から、準備しないと

間に合わなくなるので・・・ふたりで、色々、話を考えていたんです」

晴香がお箸を振り回しながら、適当な言い訳してる。

「そうか、すまん、すまん・・・勘違いをしてしまったようだ・・・難解なストーリーみたいだが

・・・文化祭、期待してるよ・・・ああ、もう、お昼なんだね」

校長先生が軽く手を上げて、離れていく。

何処まで聞いていたんだろう・・・断片的程度に聞いていたのだろうか？

「そ、そーゆー訳で・・・孝、この劇の台本、お願い」

「え〜〜」

生徒会は忙しいからって、去年はコーラスだったのに・・・今年は晴香のせい？で・・・演劇？

しかも、台本作れって？・・・しかも宇宙船で食中毒？・・・一体全体、どんな話なんだ？

・・・皆、納得するかな？




放課後、報告会が行われた。

「・・・各クラブの参考になったと考えられ、当初の目的は、果たせたと思います。

それから、閉会時、東校側からの提案でスポーツ交流を提案されました。先生の進めも

ありましたので、その場で実施することにしました。種目は、男子がバスケットボール。

女子は、バレーボールです。日程は・・・・」

「そうか」

「それから、参加者は文化クラブ員または、運動部に所属していない一般生徒となります。

体育館の使用許可は、先生の方で手続きして頂く事になっています」

「メンバーは、どうするつもりだ？」

「男子の方は、現在は、私を含めて参加希望者は４名。明日から、本格的に勧誘活動を始める

つもりです。女子は・・・副会長の参加が決まっているだけです」

「え、私？」

「東校側から、参加の要請がありましたので・・・」

「だ、大丈夫か？白石君」

と、臣生徒会長。

「晴香、辞退した方が・・・」

木下さんが囁く。

「副会長、よろしいですね」

晴香の言葉に頷いてしまった。

「は、はあ・・・大丈夫だと思いますけど・・・」



閉会後、臣生徒会長が小さな声で話しかけてきた。

「おい、は・・・白石。今日、日高は、機嫌が悪いのか？」

「え・・・どうしてですか？」

「日高・・・昔の白石に似てるからな」

「はい？」

「今日の報告、まとまっていて良かったとは思うが・・・やけに事務的な口調だったろ？・・・

機嫌の悪い中学時代のおまえに・・・あ、否、なんでもない・・・つまり、今回の件、押し付けて

しまったから、それが原因じゃないかとちょっと気になって・・・」

「はい・・・後で、聞いておきます」

「すまん、たのむ」

元はといえば、私が休んだのが原因なのだけれど・・・


晴香を中庭へ引っ張って行った。

まず、差し障りのない話から・・・と。

「晴香、私が選手って・・・」

「まずかった？」

「バレーボールなんて、あんまり、やったことないから・・・」

「でも、頑張って・・・かっこいいトコ、見せてやって」

「え？誰に」

「え、あ、うん、勿論、私に・・・に、決まってるでしょ」

晴香に期待されているのか・・・それなら、頑張るしかない。

「あ・・・うん、頑張る」

次が、本題ね。

「晴香さ・・・どうしたの？」

「何のこと？」

「先輩が・・・今日、晴香が機嫌悪いんじゃないかって・・・」

「え・・・機嫌が悪いなんてことは・・・」

「ホントに？」

「実は・・・昼間、話したこと・・・何故か自分に腹が立って・・・あ、アレは、ホントの事なんだ

けど・・・あまりにも、プライドがないって云うか・・・」

な〜んだ、晴香もおかしいって思ってたんだ。

「素直に話すのが、かっこいいかな・・・なんて、思ったんだけど・・・」

「素直に話してくれるのは嬉しいけど・・・」

「でも・・・元に戻ったら、可愛いお嫁さん目指すって言った方がカッコいいでしょ」

「う・・・うん」

「やっぱり、孝だってそう思っているんじゃない」

「うん、その方が晴香らしいや」

「でしょ？」

「うん・・・やっぱり、理想をめざすんだ・・・」

「あ、建前よ。建前」

え、建前？・・・どういう意味だ？

晴香、時々、理解しがたい事を言う・・・

「それから・・・」

「え、他にも？」

「孝、いろいろな事聞いてたよね」

「うん・・・あっ、手をつなぐのも考え直すって事？」

「あ、そーゆーのもあったか」

「そ、そんな・・・じゃ、特別な関係って言うのも嘘なんだ。やっぱり、一時的な・・・」

「え、違う、違う。アレは、本当だって・・・」

「じゃ、手は？」

「う・・・つ、つないでも・・・いい」

「本当に？」

「う・・・うん」

「良かった」

「でも、『人前なんかで、手なんかつながないよ』なんていうのも、カッコ良くない？」

「ない。ない」

「なんで、そんなに拘るの？」

「それは・・・この手が、こうやって、こうなって、こーゆー可能性もありかな・・・なんてね」

「うわー、孝、なにしてるの」

ドサクサに紛れて、晴香に抱きついてみました。

「それは・・・劇の練習かな？」

「「こ、校長先生！」」

また、突然現れた校長先生にびっくり。慌てて、離れた。

「そ、そうなんです。あまり、練習時間が取れなくて、合間を見て練習してるんです。

校長先生は・・・草むしりですか？」

晴香、かなり、焦ってる。

「最近、草の伸びるのが早くて・・・」

「て、手伝いましょうか？」

「否、今日は、もう終わりにしようかと思って・・・君たちも、早く帰りなさい」

「は、はい」

校長先生が去って、ホッとした。

「は〜、びっくりした・・・」

「晴香・・・」

「え？」

「秋の文化祭、劇の主役に、決定！」

「はあ？」

「台本書くの、楽しみになってきた」

「ち、ちょっと、孝・・・待ちなさいよ」




校門を出て、駅に向かう。

最後の方はうやむやになってしまった感じがするけど・・・ここで、もう一回、確かめトコ。

「晴香、はい」

「は？」

「手だよ。手」

「お手？」

「違う〜〜〜！犬じゃないんだから・・・もう、手をつなぐの！」

「えっ」

晴香が周囲を確認している。

「あ、あのさ、孝・・・それは、私服の時ってことにしない？」

「やっぱり、嘘だったんだ」

「ち、違うって・・・ただ、生徒会副会長が風紀を乱すのは、ちょっと・・・ねっ」

「う・・・」

「私服の時は、ＯＫだからさ」

「晴香・・・逃げてない？」

「そ、そんなことないって」

「あ、外出する時は、制服で・・・なんて言うつもりじゃ」

「言わない、言わない」

「ふ〜ん・・・じゃ、私服の時は・・・」

「うん」

「腕ぐらい組んでも、良いんだよね」

「えっ」

「後から、条件を付けたんだもの・・・このくらい譲歩して貰わないと・・・」

「わ、分かりました」

「やったね」

「は〜あ・・・孝には、負けた」

晴香がおおきな溜息をついている。

とりあえず、これで良しとしよう。

一歩、前進？したことだしね。

晴香を見ると、何故か微笑んでいた。








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