ホームの先に晴香が立ってる。

よかったあ、晴香元気になったみたいだ。

「晴香、おはよう」

「あ、孝、おはよう」

「元気になったみたいだね」

「孝、夕食の分も準備してくれたんだって・・・」

「うん、それは・・・晴香のお母さん、とっても心配してて、お母さんが出来ない分のつもりで・・・

晴香、今日、家に寄ってくれないかな？元気な顔を見せてあげてよ」

「う、うん・・・そうだね」

「約束だよ」

「ん？なんか・・・孝のほうが喜んでいるみたいだけど・・・」

あ、う、なんと云うか・・・その通りかも・・・

「あ、えっと、それから、裕香お姉さんにプレゼント渡したよ・・・とっても喜んでいた」

「ホント・・・よかった。あ、孝、電車来たよ」



電車に乗ると、いつもの場所に水都さんと原田さんが立っている。

笑顔で、私たちを迎えてくれるんだけど・・・


いつも思うんだけど・・・なんで、座らないんだろう・・・

４つ同時に空いている時は、めったにないけどさ・・・


「日高君、土曜日、宜しくね」

晴香が水都さんの言葉に頷いている。

水都さんが、そうっと聞いてくる。

「日高君に見せたの？」

あ、リボンの話？

「あ、日高君、風邪ひいてて寝てたの。だから・・・あ、今はよくなったみたいだけど」

「え、そうだったの・・・じゃあ、土曜日持っておいでよ」

「う、うん」

なんか・・・水都さんの方がお気に入りみたい。そんな気がした。



昼休み、弥生に呼び止められた。

生徒会の仕事何かあったっけ？・・・講演会は、もう少し後だし・・・

なんて思ってたら、晴香の件だった。

「晴香、日高君に確認したの？」

「そ、そんなこと・・・私、日高君のこと信じてるもの」

実際、訊き難いでしょうが・・・

「う〜ん、晴香がそれでいいなら・・・でも、腕を組んで歩いてるところ、見たんだよ」

え・・・腕・・・晴香、腕なんかめったに組ませてくれないよ・・・機嫌がいい時か、人がいないところで

ないと・・・と、云うことは、うん、やっぱり、人違いだ。

「やっぱり、見間違いだと思うけど・・・だって、風邪ひいて、寝てたんだよ」

「え、風邪・・・おかしいなあ・・・手が勝手に、こうなったんだけど・・・」

木下さんが、腕を交差させ、胸を隠すような仕草をする。

絶句。・・・条件反射・・・癖になってたってこと？

「あ、あのね、あれ、日高君の冗談だったんだよ」

「え、でも、手話で・・・」

え、あれ手話だったの・・・

「きっと、当てずっぽうに言ったのよ・・・」

「え〜、じゃあ、自爆したってこと・・・やだあ〜」

弥生ったら、両手で頭押さえてる・・・

「晴香が話したのかと思ったことがあったの。でも、晴香そんなことするはずないし・・・やだあ〜」

「きっと、もう、忘れてるって」

「そ、そうかな・・・だと、いいけど・・・」

こんなに気にしてたなんて・・・晴香に言っておこう・・・

「それよりさあ、弥生、今度、合気道教えてくれない？」

「え？晴香、知ってるでしょう」

「あ、あのね、弥生のように、優雅にって意味で」

こうでも言っておかないと・・・

「え、あ、そーか、そーゆーことなら、いつでもいいよ」

快く、返事は貰ったけど・・・

う〜ん、晴香、何でもやってるんだから・・・色々覚えないと・・・合気道の次は手話か

もう、ないだろうな・・・やれやれ。




「「ただいまあ」」

リビングのソファで、編み物をしていたお母さんが、晴香を確認し、慌てて立ち上がった。

「晴香、もう、大丈夫なの」

「うん、すっかり」

「そう・・・今日は、夕飯食べていけるでしょう？」

口ではそう訊きながら・・・もう、そのつもりみたいだ・・・エプロンを身につけている。

「裕香が、あなたにお礼を言いたいって言ってたわよ・・・今日、下宿に戻ったんだけど」

「ふ〜ん・・・戻ったんだ・・・」

傍にいると邪魔者扱いしてるけど・・・晴香、ちょっと、寂しそう・・・

「機会があったら、何かしてあげたいって言ってたわよ」

「へえ、あの、裕香が・・・やっぱり、手作りは効果抜群ね」

？？？・・・なんだろう

「効果って？」

晴香に訊いてみる。

「ああ、裕香のポリシーみたいなもの・・・どんな高価なブランド品より、手作り品ってね」

「はあ？」

わかったような・・・わからないような・・・

「つまりね、手作りのほうが手間暇かけてくれた分、心がこもってるって思ってるみたい

・・・気持ちがこもってればどっちも、同じなのにね」

なーるほど・・・

「晴香だって、そう思ってるんでしょう」

「え、まあ、少し・・・あるかな・・・」

「裕香も・・・晴香が作った座布団、今でも大事にしてるわよ」

「えっ」

晴香の顔が・・・複雑な表情に・・・なっていく

「孝ちゃん、聞いてよ。晴香ったらね・・・」

「お、お母さん」

「いいじゃない・・・裕香の卒業の記念に座布団をプレゼントしたんだけど、それはいいんだけど、

でも、なぜ、ツギがあたった座布団を・・・って思ったら、パッチワークだって言うんだもの・・・

びっくりしたわ・・・でも裕香すごく喜んでたわよね」

「う、どーせ・・・でも、裕香、誕生日に私が行きたがってた遊園地に連れてってくれたんだよ・・・」

ふ〜ん・・・晴香の腕前は置いといて、お姉さんか・・・いいなあ・・・晴香。

「あ、孝、今年の誕生日は期待できるかも・・・裕香の我が儘、色々聞いてるみたいじゃない・・・」

あ、あの、誕生日まで、まだ２ヶ月以上あるんだよ・・・

そんなに長く、晴香、やっていたくないよォ・・・

「あ、孝、孝の母さんがね・・・『孝ちゃん、何処であんなお嬢さん見つけてきたの』って

『成績優秀で礼儀正しいし、綺麗だし、明るいし、お料理も上手だし』って言うんだよ・・・

ホント、参っちゃってさあ・・・」

な、なんか、晴香が照れてる。

「元に戻ったら、あなたが、それをやらなっくちゃあね」

お母さんの鋭い突っ込み・・・

「え゛・・・も、戻りたくない・・・」

「え〜〜っ、は、晴香」

「じょ、冗談よ」

こういう時の晴香には注意しないと・・・でも、ホントにすっかり元気・・・よかった。

「出来たわ。先に食べましょう」

お母さんが笑いながら、誘ってくれる。





学校は・・・特に変わったこともなく過ぎて・・・土曜日がやってきた。

９時集合なのだが、早めに家を出る。

しかし・・・この雪・・・う〜ん・・・

昨晩から降り始めたんだけど、結構、積もった。


途中、駅で晴香と待ち合わせて・・・電車に乗ったら、水都さんと原田さんの顔。

「やっぱり、この電車だったか」

腕を組んで何度も頷いている水都さんって、変。原田さんも、ひいてるよ。


電車を降りて、神社のところまで来たけど・・・

下の鳥居の所までは除雪車が来てるからいいけど・・・確か、石段は・・・あ、除雪してある

きっと、理君が一人でやったんだ。

「晴香、急ごうよ」

「うん」

石段を駆け上がると、理君がいた。ちょうど除雪し終えたところって感じだ。

「おはようございます・・・やはり、早いですね」

「おはようございます・・・終わっちゃったようですね」

「除雪ですか・・・３０分前には来られると聞いてましたから」

私たちに合わせて、除雪してくれたんだあ・・・と思っていると

「ひぃ〜、まっ、待ってよ〜」

いつものパターンで、水都さんが・・・最後に上ってくる。

「情けないなあ。真美ちゃんは」

「そんなこと・・・言わないでよ・・・あ〜や」

原田さんに寄りかかって、息も絶え絶えって感じです。

「まだ時間ありますから、こちらで休んでください」


お茶を飲みながら、大まかに内容を説明してくれる。

式は１１時スタート

修祓の儀、献センの儀、祝詞奏上、三献夫婦固めの盃、指輪の儀、誓詞奏上、

玉串拝礼、神楽奉奏、親族盃の儀、撤センの儀、斎主挨拶、各退下と

なるらしいのだが・・・さっぱり、わかんない。

披露宴は、別の場所でやるらしい。

理君と晴香は、部屋への案内とお茶出しが主な仕事で、原田さんと私は、神楽奉奏が出番・・・

１０時頃までに着替えて、雑談していてくれればいいって・・・

ちょっと、早く来過ぎたかな・・・


１０時近くなったので着替えることにする。

原田さんと別部屋に移って着替える。

先週と同じく、原田さんの「晴香さ〜ん」の声。そうして、例の赤のリボン。

「晴香さん・・・このリボンのこと知っているんですか？」

おずおず、原田さんが訊いてくる。

「え、大事なリボン・・・なんでしょう？」

「あ、あの・・・誰から、聞きました」

「え、あ−やから・・・入学式の日に、桜の木に引っ掛ったのを・・・あ」

し、しまった・・・大失敗。

「って言うのを誰かが話してて・・・誰だったかな・・・水都さんだったかな・・・」

「・・・・」

ま、まずい・・・

「晴香、お待たせ」

水都さんが入ってくる。た、助かった・・・

「真美・・・これ、お願いね・・・あれ？髪伸びてる」

水都さん、なんか、本物の巫女さんって感じがする。見た目から来る雰囲気が・・・。

「へへへ、今日は本番だからね。鬘よ」

そう言って、水都さんがリボンを受け取り、髪を縛り始める。

「ごめんね。ホントはまだ着替えてなくても構わないんだけど・・・たまに、覗く人が・・・」

そーだったのか

う、原田さんが、まだこっちを睨んでる。

「あれ？あーや、どうしたの」

水都さんも原田さんの様子に気がついたようだ。

「あ、あの、あーや、もう一度、おさらい・・・しておかない？」

「え、あ、そうですね」

ほっ、いつもの原田さんに戻ったようだ。

「真美ちゃん、しっかり見ててね」

「ＯＫ」

・・・

よし、なんとか、いけそうだ。

１０時３０分頃に花嫁さんが着いた。

思わず、見に行きました。・・・石段を一段一段登ってきたようだ。

花嫁さんって大変だなあって思ってたら、こっちに気がついて、お辞儀してくれました。

慌てて、こっちも、お辞儀したんだけど・・・あの、花嫁さん、なんか、好印象。


水都さんは、神主さんについて廻って、色々サポートしているみたい。

で、ついに本番・・・神楽奉奏、末広の舞・・・わずか数分なんだけど、すごく緊張する。

何とか、ミスもなく、終えることが出来た。

「よかった〜、ミスなしで舞えたね」

原田さんに声を掛けると、原田さんもにっこり笑顔を返してくれた。


見送る時・・・ふと、水都さんに聞いてみた。

「何で、今日にしたのかしら・・・今日は、大安でもないのに」

「うん、何か、思い出があったみたい・・・１月１７日とこの神社に」

「思い出？」

「うん、内容までは話してくれなかったけど・・・あのふたり、晴香たちみたいなのよ・・・

名前取り替えて呼び合ってるんだから・・・」

「「えっ」」

まさか・・・一瞬、駆け出しそうになったけど・・・思い止まった。

晴香も同じらしい。

そりゃあ・・・なんて訊けばいいのか・・・

「あなたたちも、入れ替わってるんですか？」

なんて、訊けないし・・・

違ってたら・・・大変なことになるし・・・


「晴香たちも、どう？この神社で」

「「え」」

「冗談よ・・・でも、その時は、宜しくね。さて、後片付け後片付け・・・」

晴香、真っ赤だ・・・きっと、私も・・・

水都さん、何処まで本気で、何処から、冗談なのか・・・

「とりあえず、後片付け、行きますか」

「そうね」



帰り道。

晴香に向かって、口を開く。

「・・・今日のふたり・・・」

「やっぱり、あの神社・・・関係してるのかな・・・」

やっぱり、晴香も考えていたようだ。

「晴香も、そう思う？」

「う、うん」

「でも、幸せになって欲しいね」

「・・・なれるかな・・・」

「なれるよ。絶対」

「・・・どっちかが、一方的に・・・」

「え？」

「な、なんでもない・・・孝、似合ってるよ・・・そのリボン」

「え、うん、水都さんに貰ったんだけど、いい感じでしょう」

「うん、そう思うよ」

晴香の方から褒めてくれるとは思っていなかった。

突然、木下さんのことを思い出した。

「あ、そうだった。晴香、弥生のこといじめちゃ、駄目だよ」

「え、そんなことしてないよ」

「ほら、胸の話・・・いまだに、気にしてたんだよ」

「え、ああ、あのことか」

「晴香、当てずっぽうで言ったんだから、気にしないようにとは、言っておいたけど・・・」

「う、うん、わかったよ・・・今度、適当に誤魔化しておくよ」

「うん、お願いね」

「でも、今頃なんで、そんな話に？」

「あ、あのね、弥生ったら、晴香が風邪ひいた日に、他の女の子と腕組んで歩いてた・・・

なんていうのよ」

「え、あれ、見られてた・・・の」

晴香の顔が、急に蒼ざめる。

え、そ、それって・・・笑い話にするはずが・・・

「は、晴香、本当だったの？」

「あ、あのね、金曜日の帰り、ちょっと体がだるいなあっと思ってて、昇降口で孝のこと待ってたら、

いきなり、引張り廻されて、土曜日も、毛糸を買いに行ったところを・・・全然知らない子

だったんだけど、そ、その、孝の友達だと思って・・・無碍なことも出来ないかと・・・」

「え、私の知り合い？」

「違うの？そんな感じだったけど・・・」

「晴香、私が女の子にモテたことないって、よく知ってるくせに・・・ひどいなあ」

？？？

あれ？何？その複雑そうな顔は・・・

「女の子とだって、まともに・・・花梨と雫くらいしか・・・話したことないのに・・・」

「そ、そうだったわね」

「そーだよ。花梨ちゃんは、ユーキ一筋だし、雫はトールしか見てないし・・・」

「う、うん、わかった・・・今度は、ちゃんと、確認する」

「う、うん・・・」

なんか、すっきりしないなあ・・・

「孝・・・もしもだよ、もしも、孝が女の子にモテてるとしたら・・・」

「そんなはずないよ。それは、晴香だからでしょう・・・晴香、カッコいいもん」

「そ、そう？」

「うん」

「そうか・・・孝・・・腕・・・組みたい？」

え・・・思わず、周りを確認する・・・あ、人目を気にしてるのって・・・私の方？

「く、組みたいっ」

「はは・・・]


なんか、誤魔化されたような気もするけど・・・まあ、いいや・・・

あ、電車で席が空いていても、立っているのは・・・他の３人はどうかは知らないけど・・・

晴香から、つかまる所がなかったら、腕につかまってもいいよって言われてるから・・・かも。



第５話　終了




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