「晴香」

結婚式のお手伝い以来、晴香、考え込んだり、妙にはしゃいだり・・・ちょっと、変なんだ。

今だって、考え込んでいるのか、ボーっとしているのか・・・

「晴香ってば」

「え、あ、何・・・どうしたの、孝」

「だから、帰ろうよ」

「あ、そ、そうだね」

慌てて教科書を片付けようとして、教科書を落としてしまう晴香って・・・う〜ん。


ポツポツと、雨が振っている。

傘を差して歩いているわけで・・・いつもより晴香とちょっと距離がある・・・３０センチ程かな？

「晴香、こっちの道、通ってみようか」

「え、電車は？」

「晴香、ぼーっとしてるんだもの・・・」

「え・・・あ、ホントだ・・・ごめん」

晴香が時計を確認して、頭を下げてる。

「時間あるし、いいでしょう」

「う、うん・・・でも、寒いのに」

「え、腕組んでいいの？」

「ダメっ・・・今は、制服着てるんだから」

「うう・・・」

こんなところは、しっかり、晴香だ・・・。

せっかく、傘たたもうと思ったのに・・・。



進路希望調査・・・適当に、文系って書いて出してしまった。

コースケはロボットの設計がやりたいって・・・理系だな、トールも建築設計がやりたいって、

これも理系。ユーキは、デザイン関係に進みたいらしくて文系だし、花梨ちゃんは、進路

言わないし・・・でも、わかる。きっと文系。雫は、通訳やりたいって言ってたから、文系。

ああ、やりたいこと、決まってないのは、私だけか・・・。



「お昼休みに、花梨ちゃんが来てたようだけど」

「うん、クリスマスプレゼント作戦は失敗に終わったから・・・次はバレンタイン大作戦なんだ」

「へえ、大作戦ねえ・・・また、変な事しないでよ」

「変な事って？」

「アルバイトの件よ」

「校長先生に頼みに行った事？」

「そう・・・花梨ちゃんの担任か、生活指導の朝霞先生に言えばいいのに。ホントに

びっくりしたわよ。花梨ちゃんの手を引っ張って、教室を出て行ったかと思ったら、

校長室へ飛び込むんだもの」

「だって、その方が話が早いかと・・・理由、ちょっと説明し辛いし・・・それなら、一番偉い

校長先生にって・・・ちゃんと許可してくれたからいいじゃない」

「何も、正直に申告しなくったって・・・理由ぐらい、ちょっと考えれば良いのに・・・

許可はしてくれたけど、結果報告しなさいって条件付でしょう・・・」

「だから、報告しに行ったでしょう」

「もう・・・校長先生、笑い堪えるのに必死だったわよ」

「え、そうだったの？」

「あ〜あ、これだから、孝は・・・」

晴香のあきれたって声。

これで、いつもの晴香だ。・・・別に、晴香があきれてるのが日常って訳じゃないよ。

断っとかないと。

「あ、こんな所に幼稚園があるんだ・・・」

「ホントだ」

たまには、わき道にそれるのもいいかも・・・晴香も、気分転換になるだろうし。

でも、心配事があるのなら・・・相談してくれれば・・・嬉しいんだけどなあ。

やっぱり、頼りにならないのかな・・・


最近、生徒会の仕事も増えてきた。

卒業式も近いし・・・各部で色々計画してるみたい。

各部とも、スペース確保に必死って感じかな。

私ってば、時折、突拍子のないこと言っちゃうんだけど、晴香がフォローしてくれる

おかげで何とかやってる。

晴香に言わせるとすごいアイデアって言うけど・・・それを実行させている晴香の方が

すごいって思う。

臣先輩も、最近は、晴香のこと一目おいている・・・『お前すごいな』って。

晴香が褒められるのって・・・嬉しい。

前に晴香が、私のこと褒められて自慢してた気持ちがわかるよ。



花梨ちゃんが、突然、尋ねて来た。

晴香は、花梨ちゃんのことは私に任せたって感じで、お母さんと何か話し始めた。

「ふ〜ん、ユーキが悩んでるって・・・」

「う、うん・・・部の課題で・・・」

おかしい・・・そんなことぐらいで、花梨ちゃんがわざわざ家まで尋ねてくるだろうか・・・

「大丈夫だよ・・・ユーキは才能あるから、描くものさえ決まれば・・・知ってるよね」

「う、うん」

「それじゃあ、今度は、花梨ちゃんが相談したかったことの話しをしようか」

「え、相談・・・」

・・・

ユーキが・・・大野木さんと・・・。

家まで来るくらいだから相当ショックだったんだろうなあ。


先日、花梨ちゃんの教室へ行った時のことを思い出す。

晴香、かなり、怖がってた・・・

そりゃあ、熱があって、気分悪いのにあっちこっち引き摺り廻されれば・・・ね。

体が覚えているんだろうな。

元々の原因は私が一緒に切符を探したことだったみたいだけど・・・


晴香に手を出したり、ユーキに手を出したり・・・本気じゃないな・・・

きっと、ユーキと花梨ちゃんのことをからかったんだ。

「でも、花梨ちゃんは、一緒に泣いてくれたユーキのこと信じているんでしょう」

「う、うん・・・でも・・・負けちゃうかも・・・」

確かに、大野木さんて綺麗な人だけど・・・花梨ちゃんが勝負するっていうより、

どれだけ柔軟に対応出来るか・・・なのかもしれない。

ユーキだって、結構、カッコいいし・・・これからも、からかう奴いるかもしれないし。

「勝ち負けを争うんじゃなくて、受け止めることが大事なんだよ」

「う、うん」

「出来るだけ、傍にいて、見守ってあげるのも良いかもしれない」

「う、うん・・・傍で・・・」

ホントは、笑顔で傍にって言いたいけど・・・まだ、ムリかな・・・

ユーキとうまくいくことで、あの笑顔が取り戻せればって、思っているんだけど・・・

花梨ちゃんが、時折見せてくれた優しい笑顔・・・似合っていたもの・・・

あの笑顔がいつも出せれば、そこら辺の男なんか花梨ちゃんに夢中になっちゃうよ。

これは、保証出来る。うん。

「１１日は、一緒に、チョコ作るからね」

花梨ちゃんと約束。

クリスマスイブに鍵を落として、コンサートに来れなかった花梨ちゃんのために、

ピアノを弾くことにした。緑川さんはいないけど、晴香だっているし・・・

晴香が、苦労しながらだけど・・・緑川さんの真似をして弾いてくれる。さすが・・晴香。

花梨ちゃんも楽しそうにしている。「ホントにピアノ弾けるんだ」って目を丸くしていた。

実は、１２月６日が花梨ちゃんの誕生日。ちょうど２ケ月前。

自分のことで精一杯で、花梨ちゃんのことまで気が廻らなくなっていた。

予定日より早く生まれて、未熟児だったって・・・花梨の可愛い小さい花が大きな実をつける様に、

この子も育って欲しいって名付けたって、花梨のお母さんに聞いたことがあるんだ。

その時から、花梨ちゃんを妹分にしたんだ。生まれたのは、花梨が先だけどさ。

最後の曲が終わった頃、お母さんが、食事だって呼びに来る。

食事が終わって、花梨が呟いた。『こんなに大勢で食事したのって久しぶり・・・』

そう言ってから、慌てて、『ごめんなさい』って謝ってた。

ユーキが態度をはっきりさせないから悪いんだよなって思ってしまう。

ユーキのお母さんが花梨を一人にさせておくはずがない。

ユーキが態度をはっきりさせないから、花梨が遠慮してしまうんだ・・・きっと。


お父さんに、晴香と、花梨ちゃんを送ってもらう。

花梨ちゃんのお母さんは、まだ、帰っていなかった。

ユーキの家の方を見て思う。

ユーキ、心配してただろうな・・・きっと、窓の隙間からこっちを見てるはずだ。

花梨ちゃんが家に入り、部屋の明かりが点いたのを確認してから、車に乗った。

「お父さん、ありがとう・・・でも、車替えたの？お父さん」

確か、前は、ボロボロだったけど、一応外車で・・・ビー・・・何だっけ？・・・

「お母さんがな・・・前のは、ボロだし、乗り降りしにくいからって・・・こっちのほうが

可愛いからって・・・」

替えられちゃったわけですか・・・出目金みたいなところも見慣れると可愛いんですけど・・・

このオレンジ色・・・昼間見ると綺麗なんですけど、暗いとこで見ると、汚い色っぽい・・・

お父さんが乗るには、ちょっと、可愛そうな気がする。

「晴香。いつも悪いな・・・一緒に食事出来なくて」

「え、仕事忙しいんだもの・・・」

そう言えば、父さんも遅かったけど・・・家は９時頃まで待ってたな・・・

晴香は、食べなくっても一緒にいるようにしてるって言ってたっけ・・・晴香偉いなあ。

私も、見習おう。


１１日。

約束通り、花梨ちゃんがやってくる。

晴香は、『私はいないほうがいいよね』って、あっちの部屋へ行っちゃった。

晴香の分も作っているんだから、その方がやりやすいけど・・・本当にこれでいいのかな？


「祐ちゃん、わかってくれるかな」

チョコを型に流し込んだ後、花梨ちゃんが呟く。

「う〜ん・・・ユーキも男だから、微妙な女心まで・・・」

「コージ君は女心よくわかるんだね」

「そりゃあ、３ヵ月も・・・じゃなくて、コージ君はあっちでテレビ見てるでしょう。

私は、晴香、白石晴香よ」

「あ、そうか」

そうかって・・・ニコニコしてるけど、わかってるのかな・・・

・・・

最後に固まったチョコを包装する。

「これで、いいよ」

「ありがとう」

う〜ん、このまま渡したら・・・花梨ちゃんの言う様に、いつものチョコだと思うかも・・・

それじゃあ、クリスマスの時と進歩ない。

幸い、今年は土曜日だから・・・ライバルはいないだろうけど・・・ここは、やっぱり、しっかりと

言う様に言っておかないと・・・

「ユーキは、しっかりしているように見えて、鈍いから、はっきり言って渡すんだよ。

『祐ちゃんだけに渡すんだからね』って言って」

「う、うん・・・」

「あ、それから、こんなのを添えてみるのもいいかも」

和紙を鋏とカッターナイフを使って、手作りコースター。

「やってみる？ケガしないように、気をつけてね」

「う、うん」

丁寧に切り始める花梨ちゃん。結構、真剣になって切ってる。

星形とか、葉っぱの形したのとか・・・

「昔、こんなことして、良く遊んだね」

「うん・・・って、それは、あっちでテレビ見てるコージ君でしょう」

「あ、そうか」

ホ、ホントに、大丈夫なんだろうか・・・




１４日、土曜日。

晴香に、作ったチョコを手渡す。

晴香にも、はっきり言って、渡したほうがいいかなあ。

「晴香ぁ、はい・・・義理チョコじゃないよ」

「当たり前じゃない・・・他の子に渡したら、ぶっ飛ばすからね」

な、なんで・・・予想と違う・・・こんなはずでは・・・

花梨ちゃん、大丈夫かな・・・




月曜日。

花梨ちゃんが、報告とお礼にやって来た。

うまくいった様だ。

なんか、肩の荷が下りた様な・・・ちょっと、寂しいような・・・

校長先生にも、お礼言っておかないと・・・アルバイトの時のお礼言ってなかったし・・・

そのためのチョコも少し持ってきた。手作りコースターと。


ふたりで校長室へ行く。

「ちょっと、遅くなりましたけど・・・ふたりからです・・・」

そういって、チョコを差し出す。

「ほお、貰っていいのかな」

私は頷いたんだけど・・・花梨ちゃんが・・・

「はい。完全な義理チョコですから」

って、はっきり言うんだもの・・・もう、びっくり。

そりゃあ、はっきり言って渡せって言ったのは、私だけど・・・

校長先生、声を出して笑うし・・・ユーキに、なんて言って渡したのか心配になってきた。

兎に角、お礼を言って、校長室出てきたけど・・・花梨ちゃん・・・ユーキに

女心がわからないとか、鈍いとか言わなかっただろうな・・・

指をポキポキ鳴らしてるユーキの姿が頭に浮かぶ。・・・ぞくっ。

ま、まさか・・・ね。



「ふ〜ん、うまくいったんだ」

帰り道、晴香に花梨ちゃんのことを報告。

「孝は、これで、よかったの・・・」

？？？

「喜んだり悲しんだりしてくれる人が、一緒に・・・傍に、いるんだよ。花梨ちゃん、とっても、

嬉しいと思うけど・・・ユーキも、花梨ちゃんの事、好きなくせに、誰かに遠慮してるみたいな

ところあったし・・・ふたりが、ちゃんと付き合うようになってよかったと思うけど」

「・・・」

「それにね、花梨ちゃんのお父さんの葬式があった日・・・出来る限り花梨ちゃんの力になろうって

皆で決めたんだ」

そう、あの日・・・ユーキはいなかったけど・・・公園のところまで来たら、雫が泣き出して・・・

それにつられて・・・汽車の形の土管の中に入って、皆で泣いてたんだよな・・・

あれは・・・カッコ悪くて・・・ユーキには内緒なんだけど・・・

「孝には、いい仲間がいて、うらやましいなあ・・・」

「晴香も、仲間の一人でしょう」

「え・・・そ、そっか・・・」

晴香も、自覚するように頷く。

「あ、あの・・・晴香・・・チョコなんだけど・・・晴香のお父さんと、校長先生に・・・」

「あははは・・・、そ、そんなことくらいで、ぶっ飛ばさないわよ・・・孝が好きなのは、

私だけでしょう」

「う、うん」

「よろしい・・・では、その正直さに対して、何か奢ってあげよう」

「え、ホント？」

「ん？疑ってるの」

「い、いえ、そ、そのォ・・・やっぱり、お好み焼きがいいかなあって」

「お好み焼きね、了解」

今日は、晴香、機嫌が良いみたい・・・ラッキー・・・毎日、こうだと良いのに・・・

「え、毎日奢れ？」

「そ、そんなこと言ってませーん」

危うく、割り勘になるところだった・・・危ない、危ない。




第６話　終了




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