「晴香」

「はい？」

誰かと思ったら、木下さん。

「晴香、プレゼント、期待してるからね」

プレゼント？なんだそれ？

「日高君も、くれるなら、何でも貰うからね。晴香と一緒に来てね」

相変わらず？胸を隠しながら・・・プレゼントの請求？


生徒会室での打ち合わせ。

会議が始まる。晴香は、私の右隣に座っている。

晴香の方へ顔を向けると、何って顔をされた。

「あの、プレゼントって？」

小さな声で、晴香に尋ねる。

「ああ、弥生の誕生日が近いんだ」

「誕生日？」

そ、そうか・・・弥生っていうくらいだから・・

「それで、いつなの」

「３月３日」

「へっ・・・え〜〜〜」

「そんなに、驚かなくっても・・・」

晴香も、予想通りの反応をしたって感じで、答えてる。

「耳の日に生まれたの？」

がくっ・・・晴香がこけている。

「桃の節句よ・・・雛祭り・・・」

あ、そうか・・・雛祭りね。

そういえば、お母さんが、そろそろ飾ろうかなって言ってたな。

「晴香、今まで・・・プレゼント何してた？」

「え・・・ケーキとか・・・食べ物関係が多いかな・・・」

な、なるほど・・・納得。

でも・・・それなら何とかなりそう・・・。

問題は、期末試験と重なるぐらいか・・・


晴香と雑談してたのがバレて、プリント配りを命じられた。各クラブへのプリント配りを。

・・・ちぇっ、しっかり見られてたか。

今日は文化部の方を廻れって・・・明日は運動部・・・先輩も、人使いが荒いなあ。


まず、美術部・・・って、自分の部の分ぐらい、持ってって下さいよね。先輩。

次が写真部。・・・やっぱり、晴香、近づかないや。

大野木さんの姿は見えなかった。晴香に伝えると、ほっとしてた。

あの、晴香でも苦手なことがあるんだ・・・。

次が・・・英会話・・・って、な、何で、トールがこんなところに・・・

と、思ってたら、いきなり・・・「お前ら、なにしに来たんだ」って。

おい、それはないだろう・・・

ふ〜ん、雫に誘われて入ったのか・・・それを知られたくなかったってことか。

帰宅部は、コースケと私だけになっちゃった・・・

あ、晴香もいるけど・・・晴香も、何かの部に入っていたら、必然的に入部させられてたよなあ。

晴香が帰宅部でよかったよ。チラッと晴香を見る。

「な、何よ」

「な、何でもないよ」

晴香、機嫌悪そうだな・・・そりゃあ、私が話しかけたから・・・

このプリント配りは、晴香にとって、とばっちりと言えなくもないけど・・・

それより、勉強教えてって、頼もうと思ってたのに・・・頼み辛いなあ・・・。

もう少し機嫌が良くなってから話そうかな・・・

で、次が手芸部・・・えっ、この部の部長って男子だったの？

・・・


色々あって、最後が合唱部。

「あ〜や、どうしたのよ」

あれ？水都さんの声だ。

そうか、水都さんたち、合唱部だっけ・・・

「晴香さんの正体って、なんだと思う？」

ぎくっ・・・

「正体って何よ」

「怪しいのよ・・・」

慌てて、入り口から離れる。

「孝、また何かやったの？」

５メートルほど後戻りしたところで、晴香に問い詰められた。

「別に、何も・・・あっ・・・」

「『あっ』って、何したのよ」

「そ、その・・・ちょっと、口が滑っちゃって・・・」

「もう・・・ホント、孝って、次から次へと・・・」

「そ、そんな・・・」

「・・・花梨ちゃんにも、バレかけてるんじゃないの？・・・この上、水都さんと

原田さんにもなんて・・・」

「か、花梨ちゃんには、バレてないよ・・・本能で感じとってるような所はあるかも

しれないけど・・・」

「そうなの？」

「う、うん」

原田さんが気にしてるのって、多分、この間のリボンの話だと思う。

晴香に、経緯を説明する。

「お願い。以前に、晴香が私に話したことがあったことにして。お願い」

「・・・帰ろうかしら」

「は、晴香っ」

「私、ここで待ってるからね」

う〜、仕方がない、プリントは・・・置いてこなくっちゃ・・・いけないし・・・

戸口のところから顔を出して、声を掛ける。

「こ、こんにちわ・・・プリント、持って来ました・・・」

「あ、ご苦労様・・・ありがとうございまーす」

合唱部の代表者らしき人が、書類を受け取りに近寄ってくる。

水都さんと原田さんもこっちを向いている。

よ〜く見ると、女子ばっかりじゃないか・・・

思わず、引いてしまう・・・

「そ、それじゃあ、失礼します」

プリントを渡して帰ろうとしたら、水都さんに呼び止められてしまった。

「晴香、ちょっと」

何を言われるのかと、緊張する。

「晴香・・・変装癖とか、男装癖とか・・・ある？」

「へっ？・・・ないと思うけど」

「変身出来るとか・・・」

「で、出来ないと思うけど」

「そうよね・・・変なこと聞いて、ごめんね」

？？？

・・・一体、なんなんだろう・・・


「なんだったの？」

「さあ・・・良くわからない・・・」

「とりあえず、バレてるって事じゃないみたいね」

晴香の顔がちょっと和やかになってる・・・チャンスかな・・・

「う、うん・・・それでさ、晴香。また、勉強教えてくれない？」

「え？毎日、まじめにやってたんじゃ・・・」

「あ、あの・・・やってたことは、やってたんだけど・・・水都さんのお手伝いとか、

花梨ちゃんの応援とかしてたから・・・ちょっと、わからないところが・・・」

「・・・いいわ。孝にはプレゼントとか手伝ってもらったりしたしね」

「ホ、ホント」

やったね。

「孝、やけに、勉強熱心だね」

「え、まあ、晴香の成績、下げたくないし・・・」

「ふ〜ん、それでか・・・」

「うん・・・それに、晴香に負けたくないし」

「えっ」

なんか、晴香が急に嬉しそうな顔になったんですけど？

「よし、早く帰ろう。今度こそ、孝に勝つわよ」

「ちょっと、晴香ぁ、本気出さないでね」

冗談じゃないよ・・・今回は、いつもより・・・のんびりしてたのにぃ。

「そんな訳には、いかないよ・・・孝が、頑張ってるからね」

ううう・・・、やぶ蛇だったかな・・・。




やっぱり、勉強が好きって訳じゃないけど・・・晴香と一緒なら勉強も悪くない。

以前は、ほとんど毎日来てくれたけど、二度目に入れ替わってからは、以前の半分くらい・・・

花梨ちゃんに、『出来るだけ傍に・・・』って言ったのは、自分の願望だったかもしれない。

「ん？どうしたの」

晴香の突然の問いかけに、びっくり・・・

「え、あ、晴香は、どうして、数学が得意なのかなと思って・・・」

「どうしてって・・・面白いじゃない、ゲームやってるみたいで」

ゲ、ゲーム？・・・数学が・・・ゲームねえ・・・

ゲームって言えば、コースケだけど・・・

さすがに、コースケも数学じゃ、即ゲームオーバー・・・だろうなあ。

「何よ」

「え、あ、あの、晴香もゲームするの？」

「ゲームくらいするわよ」

「ホ、ホント？どんなの？」

「え・・・七並べとか、ババ抜きとか・・・」

なんか、晴香といえば、こたつとか、蜜柑とか連想してしまいしそう・・・

あ、なんか、反応しとかないと・・・晴香の機嫌が・・・

「そ、そうなんだ・・・テ、テレビゲームとかはしないの？」

「家に無い事知ってるくせに・・・あ、孝のパソコンに入ってるゲームなら・・・」

そ、そうか・・・そうだった。

「それに、中原君の誘いでゲームしに行くけど・・・腕落ちたなって言われるから、最近は

見てるほうが多いかな・・・」

・・・そうか、コースケたちとの付き合いもあるからな・・・

私ばっかりに構っていられないのかも。

「でも、なんで、そんなことを？」

「あ、べ、別に・・・

「へえ・・・」

晴香、きっと、理系を選択したんだろうなあ・・・いつ戻れるか分からないからって、

教えてくれなかったし・・・ああ、理系にしておけば、よかった。

そうすれば、一緒のクラスになれたかもしれないのに・・・

なんで、文系って書いちゃったんだろうな・・・手が勝手にって・・・今更ながら、後悔。


「あの、晴香・・・」

「今度は、何？」

「え、あ、あの、木下さんのプレゼントだけど・・・」

「ああ、弥生の・・・」

「ふたりで・・・しない？ひとりじゃ、なんとなく・・・」

「そうね・・・いいけど・・・私も行かないとダメ？」

「ダメって・・・私、木下さんの家も知らないんだよ」

「ああ、そうか・・・」

「そうかって・・・」

「あ、いつものメンバーが集まるんだろうなあと思って・・・」

「ええ、知らない人たちがいっぱい集まる所へ、一人で行けって・・・ひ、酷いよ」

「ごめん、悪かった」

「木下さんだって・・・一緒に来てねって、言ってたのに・・・」

「だから、ごめんって・・・」

あれ？・・・なんか、駄々っ子みたいに・・・晴香に、甘えちゃってる？

最近、ついつい、こーなっちゃうんだよ・・・注意、注意。

「あ、そ、それで、ケーキでも作ろうかなって・・・どうかな？」

「え゛・・・」

晴香、固まっちゃった。

「あの・・・晴香？」

「あ・・・作る？・・・買うの間違いじゃ・・・」

「ベースは前の日に作っておくから、当日は、デコレーションだよ」

「う、うん」

なんか、渋々って感じだけど・・・。


翌日は、運動部へのプリント配り。

活動場所があっちこっちにある文化部と違って、クラブハウスがかたまっているから、

配り易いや・・・

まずは、一番遠い、野球部から行くか・・・

「あ、あれ？須藤君」

「やあ、ご苦労様」

うーん、知らなかった・・・野球部に入ってたんだ。隣のクラスだし、体育だって同じ授業なのに・・・

結構、知らない事って多いな・・・

サッカー部、テニス部、バスケット部・・・順番に廻った。

昨日より、早く終わったな。

このプリント配りも、ちょっと、勉強になったし。

終わったことを、報告に行ったら、先輩、『ちゃんと、顔を売ってきたか』って・・・

そーゆーことだったのか。




３月３日。

「こ、こんなに大きいの・・・」

「だって・・・木下さん用でしょう」

「そりゃあ・・・まあ・・・そうか・・・」

晴香、最初、びっくりしてたけど・・・納得したようだ。

木下さんには、以前、助けてもらったし・・・感謝の意味も含めて・・・このくらいは、ね。

「始めようか」

そう言うと、晴香も真剣になってクリームを塗りはじめた。

さて、私は・・っと、チョコに文字書かなくちゃ・・・

ＹＡＹＯＩって、これでいいのかな・・・

ＨＡＰＰＹ　Ｂ・・・あれ？ｉだっけ、ｅだっけ、ａだっけ？

スペル・・・正確にはスペリングだっけ、忘れちゃったよ・・・余計な事ばっかり、覚えてて・・・

だから、晴香に睨まれるんだよ・・・そう思って、顔を上げたら、晴香が、じっとこっちを見てた。

まずいよ・・・辞書、辞書。

Ｂ、Ｂ・・・B.C.って、before　Christなんだ・・・じゃあ、A.D.は、After　何とか　かな・・・

Anno　Domini？・・・ええっ、ラテン語なの？・・・うーん、納得いかないな・・・

「ねえ、晴香、A.D.って、ラテン語だって知ってた？」

うぎゃあ〜、晴香に睨まれた・・・

ええっと・・・B、ｉ、ね。

ケーキ作りも命がけ・・・なんちゃって・・・。

苺を並べて、チョコを乗せて、蝋燭入れて・・っと。

「完成だね」

晴香が、にっこり笑った。


傾けて、潰したら最悪って・・・晴香、慎重に運んでいる。

「この川に沿って行けばすぐだよ」


「あ、晴香、いらっしゃい。日高君もありがとね・・・皆、もう来てるわよ」

お雛様が飾ってある部屋に通されたんだけど・・・

女の子ばっかり、５人くらいいる・・・

「晴香、久しぶり」

だ、誰だ？晴香の顔をちらっと見る。

「きゃ〜あ、彼が、晴香の彼氏？」

「結構、可愛い顔してるじゃない」

好きなこと言っちゃって・・・犬とか猫とかじゃないんだぞ・・・これじゃあ、

晴香が来るの嫌がるわけだ。

晴香が、こそっと、名前を教えてくれるんだけど・・・結局、誰が誰なのか・・・覚えられなかった。

あんまり、喋らないほうがよさそうだ・・・バレると困るもんね。

「これ、日高君と、私からね」

「何？・・・開けていい」

木下さんが、そっと、ふたを開ける。

「やったあ〜、これ、手作りだよね」

「え〜、晴香のケーキ・・・塩辛いんじゃ・・・」

「お腹こわさない？」

なんか・・・評判悪いんですけど・・・

晴香の料理って、そんなに酷かったの？

「何言ってるの・・・今や、晴香のお菓子って云ったら、プレミアものなのよ」

えっ、誰かが売ってるの？実習のお菓子・・・持って帰る人もたまにいるけど・・・

「え〜、本当？・・・信じられないよ・・・見た目はいいけどさあ」

「中学時代、何人死んだか・・・」

「誰も、殺していないって・・・」

晴香が、言いかけて、慌てて、自分の口を押さえた。

「論より証拠・・・食べてみようよ」

木下さんが、嬉しそうに提案する。

蝋燭は？・・・え、どうでもいい？

でも、特大サイズにしておいてよかったよ。

木下さんが、一口、頬張る・・・

「くう〜っ・・・晴香と、料理実習一緒にやりたいよォ」

それを見てから、皆が続く。

「う・・・ホントに、お、おいしい・・・」

「え、どれどれ・・・ホントだ・・・信じられない」

「ふたりで作ったんでしょう・・・日高君も、料理上手なんだ・・・うらやましいなあ」

よかった、評判は上々のようだ。


皆、試験中か、翌日から試験ということで、早めに解散になった。

皆を見送った後、晴香が、木下さんに話しかけてる。

「木下さんて、甘いもの得意なんだ・・・」

なんだ？突然、何言い出すんだ・・・晴香。

「え、あ、まあ・・・なんでもね」

「ふ〜ん、でも、木下さん、スタイルいいよね・・・」

その言葉を聞いて、慌てて、胸、隠してる。

「こんなもんだっけ？」

あ、また手話。

「え、あ、まあ、そんなものよ」

あれ？でも、なんか、嬉しそうなんですけど・・・木下さん。


帰り道。

晴香が呟くように、話しかけてきた。

「孝・・・ありがとう」

「え？何が」

「作って、よかった・・・皆が見直してくれたのが・・・ちょっと、嬉しかった・・・

あ、ほとんど、孝が作ったんだけどさあ」

「晴香だって、一緒に作ったじゃない・・・それに、潰れない様に持って行ったのは晴香だよ」

「う、うん」

家庭科・・・料理が不得意って事、大分気にしてたんだな・・・晴香。

「木下さんの誤解も解いてくれたんだよね」

「うん・・・あんなに気にしてるとは思ってもいなかった。これからなのにね・・・」

「でも・・・木下さん、嬉しそうだったね」

「ああ、胸、１０センチ多めに言っておいたから・・・」

え゛１０センチ・・・思わず、顔が紅くなっちゃう・・・

「そりゃあ、ちょっと、大変だね」

晴香が、びっくりして、こっちを見てる。

「・・・ま、まさか、孝、手話を・・・」

「バレないように・・・ちょっとね」

「孝、忘れなさい。完璧に忘れなさい。でないと、強制的に忘れさせるわよ」

ひゃあ〜、こ、怖いよォ・・・

「わ、忘れます・・・はい、完璧に忘れましたっ」

晴香がまだ、睨んでる・・・


それにしても・・・今日のは、誕生日パーティって事だったよなあ・・・

なんか、お雛祭りって雰囲気の方が強かった様な・・・気がする。




第７話　終了




★　　NOVEL　TOP　　★　　BACK　　★　　NEXT　　★