最近、元に戻る方法考えていない・・・
何か方法を考えて、戻してあげないと・・・私は、今のままでも・・・
原因が私にあるのだとすれば・・・いくら考えても無駄かも。
いっそのこと、孝がもっと、女らしくなってしまえば・・・そうすれば・・・
あ、今のなし。こんなこと考えちゃダメ・・・ダメだわ
こんなこと考えてるなんて知られたら、嫌われちゃうかも。
でも・・・
いつものように、孝が入れてくれたお茶を片手に・・・くつろいでいた。
孝といえば、最近はボロを出さずに、女の子をこなしている様だけど・・・
何かが足りないような気がする。
女の子を演じているということに対してよ。念のため。
ん〜、料理とかは、問題ないでしょう・・・あ、そうだ、お洒落よ。
普段は、お洒落しようなんて、まったく、考えていないようだし・・・
もう少し、お洒落でもするように差せれば・・・
んんっ・・・私と一緒の時は、結構、気を使って、着飾ったりしているけど・・・
問題ないってこと？
そうじゃなくて、普段からお洒落するように心がけて・・・どうすればいいの？
『もっと、お洒落しなさい』なんて言っても、『これ、変かな・・・元々、晴香が
持っていた服なんだけど・・・』なんて、返ってきそうだ。
大体、私が持っている服って・・・
孝の方が少しましって言えるかも・・・このアイテムはダメだ・・・
う〜、もう少し何かが・・・あ、そうだ。お花とか・・・
花ぐらいに興味持ってもらわないと・・・
窓から外を眺めながら、庭を指差す。
「あの一角・・・緑がすごいね・・・ああ、白い可愛い花も・・・」
「晴香・・・ちょっと・・・」
テラスのドアに駆け寄った孝が手招きをして呼ぶ。
「なあに・・・孝」
「庭に出てみようよ」
「え・・・」
しめた。早速、興味持ってくれたのかな？
ドアを開いて、庭へ出ると、甘酸っぱい香りが、漂っている。
「う〜ん、すごい匂いね・・・甘い匂いが・・・」
孝がしげしげと、眺めている。
孝・・・興味持ったんだね。良かった。
今は、女の子なんだから。
・・・
去年のクリスマスコンサートを思い出す。
先輩に貰った花。孝の分を、私が持っていた。
「孝、これ」
「え、私が持つの？」
「そう」
「え〜、花なんか、かっこ悪いよ」
「自分の花でしょ。それに、男の私が持つよりはいいでしょ」
「う・・・仕方ないなあ」
・・・
そんなことを考えていたら、とんでもない答えが返ってきた。
「うん、美味しい苺ジャムが出来ると思わない？」
「ええっ！？」
ちょっと、びっくり。
「食べられるの？」
「もちろん・・・」
「ふ〜ん・・・これ、去年の春先だったかな・・・裕香が買ってきたんだ・・・」
「へえ、そーなんだ・・・」
あれ？なんか違うような・・・
元々、裕香が買ってきたものだし・・・こうなるのが普通なのかも。
あの角に植えてあるブルーベリーでしょう、ゆずでしょう、それから・・・
なんか、実のなるものばかり・・・
それは、別にしても・・・他のアイテム考えないと。
部の予算決めが終わったと思ったら、体育祭の準備の打ち合わせ・・・。
ちなみに、予算の方は、孝の目論見通りに事が運んだことを報告しておきます。
「去年は、日高が面白いことを企画してくれたおかげで盛り上がったが・・・
今年は、どんなことをすればいいか、各自意見を出してくれ」
先輩の言葉に、孝が小さくなって、俯いている。
あんな目立つことするから・・・あ、小さくなっていないといけないのは、私か。
「どうした？日高以上の企画はないのか？」
こんな時は・・・意見出ないのよね〜。この会議、長引くのかな？
そう思った時、孝が手を上げた。
「はい」
「ん、白石、なんだ」
「一般生徒から、意見募集したらどうですか？・・・そう、例えば、目安箱みたいな
ものを作って・・・」
「企画の押し付けでなく、生徒個人からの企画募集ってことか・・・クラス毎に出させると
無難な意見しか出てこないし、個人的な意見か・・・全員参加という面からもいいかもしれないな」
先輩が、全体を見回す。
「他に意見がなければ、白石の意見で行くが、どうだ？」
先輩も、半分諦めていたんだ・・・
「副会長の意見に賛成します」
パラパラと手が上がる。
「では、設置場所と期間を決めて、今日は終わりだな・・・」
・・・
「孝・・・なかなか、面白い意見出すんだね」
「んー、今日の会議？だって長引きそうなんだもん。晴香とふたりで居られる時間
少なくなっちゃうもん」
「え・・・あんたのは、また、それか・・・」
「ま、まあね」
呆れた・・・
視線を孝から外し、窓の外へ移し、ひとつ溜息をつく・・・
中庭に、数人の生徒がいるのが視界に入った。
何してるんだろう・・・花壇の世話みたいだな・・・そうだ、園芸部だ・・・
「あ、あれ、うちのクラスの泉君だ」
孝がそう言って指差した先を見ると・・・本当だ。
「孝・・・知ってるの？」
「え・・・同じクラスだし・・・晴香、時々、一緒にいるよね」
「・・・うん・・・」
良く見てるんだな・・・
「草むしりしてるんだ・・・校長先生の趣味取っちゃって・・・ダメだなあ」
「そんなことはない。ワシは、正面玄関のほうが主だから」
「「えっ」」
振り向いたら、校長先生・・・汗っ、汗っ・・・
「暇があったら、手伝ってくれても・・・助かるんだがな」
「「は、はいっ」」
「ははは・・・期待してるぞ」
校長先生が笑いながら、体育館の方へ歩いて行くのを、ドキドキしながら
見送った・・・。
「ああ〜、びっくりした。今度、手伝わないと、まずいかな・・・」
「もう、孝といると、心臓がいくつあっても足りないよ」
「へえ、晴香でも」
「何ですって」
拳を振り上げる。
「うひゃあ〜」
孝が頭を抱えて、教室の方へ向かって走り出した。
「待ちなさい、孝」
翌日、早くもアイディア募集の箱が設置された。
そうして、実力テストもあった・・・
その日の帰り・・・
先に昇降口へ行ってるねって、走っていった孝を追いかける。
「孝、何してるの？」
「あ、あ、あの・・・そ、そう、箱が傾いていたんだ。な、直してたの」
「ふ〜ん」
変な孝・・・
へえ、結構いける・・・
手作りのジャムに、ホットケーキ・・・
絶妙な味・・・
ビンに残ったジャムを、指で掬い取ってしまいたいような衝動に駆られてしまう・・・
「御馳走さまっ・・・美味しかった」
「ええっ！？もう、食べちゃったの？」
「うん、孝が焼いたホットケーキにジャム・・・結構、いけるよ」
「うう・・・私まだ、食べてないのに・・・」
「えっ・・・あ・・・ま、また、作れば・・・」
・・・かなり、焦った・・・孝が追い討ちをかけてくる
「良さそうなのを選んだら、少しか取れなくて・・・それでも、晴香と少しずつ分けて
食べようと、思っていたのに・・・晴香と一緒に・・・」
「う、わ、分かった・・・この埋め合わせはする・・・どこかへ連れてくよ」
え、いつの間にか笑顔・・・う、計画通り？それとも、単純なだけ？・・・どっちにしろ
「こんなのが・・・うちの生徒会副会長・・・はあ〜」
「それは、関係ありませんよ〜だっ」
孝がポットを暖め始めた。
孝がいて、私がいる・・・ずっと、以前からそうであるように・・・それが自然だと感じる。
もしも・・・
カップが目の前に置かれる。
いい香りが漂ってきた。
「今日はジャスミンか」
「はい、晴香」
孝が、ティッシュを差し出す。
「何」
「指・・・ベトベトしない？」
ドキン！・・・バレてたのか・・・
花梨ちゃんとのピアノの練習・・・これで何回目になるだろう
「コージ君・・・休憩・・・しよう」
「んん、またあ？」
「・・ダメ？」
そんな顔で見られると・・・
「・・・じゃあ、５分くらいね」
「うん・・・お菓子、準備するね」
花梨ちゃんが、笑顔になって、立ち上がる。
「まるっきし、先生と生徒だな・・・」
スケッチブックを抱えた祐樹君が、溜息をつく。
祐樹君は、１回目で、諦めてしまったみたいだ。
２回目からは、スケッチブックを抱えてくるようになったのだけど・・・
「は？」
「絵にならないなあ・・・恋人同士みたいな感じで・・・もっと、こう・・・
コージと花梨なら・・・」
祐樹君が頭に何か思い描いているようだ。
「何考えてるんだ。花梨ちゃんとユーキなら、そんな雰囲気かもしれないけど・・・
そうだ、花梨ちゃんが居ない間、ユーキを、もっと扱いて・・・」
「あ、いや、俺は・・・花梨に教えてもらうから・・・」
慌てて、スケッチブックを盾にして、首を振っている。
「何、話してたの？」
お盆にケーキを載せて、花梨ちゃんが戻ってきた。
「あ、いや、俺は、コージに教えてもらうより、花梨に教えてもらう方がいいって話」
「え〜、コージ君、教え方上手だよ。コツだって、ちゃんと・・・」
「そーゆー花梨だって、休憩ばかりしてるじゃないか」
「それは・・・私に、根性が・・・コ、コージ君、どうしたの」
ショートケーキを前にして、少々躊躇している？私に気がついたようだ。
「え、あ、甘そうだなと思って・・・」
「うん、コージ君、甘いもの、好きでしょう」
「え・・・まあ・・・」
「どうした？コージ・・・」
「うん・・・」
フォークでクリームを口へ・・・
ん、甘いものも、結構いける・・・
甘いものがいけるなんて・・・つ、疲れてるのかな？
先日の実力テスト、孝に勝てた・・・僅かな差だけど・・・ちょびっと、嬉しいかも。
「やっぱり・・・負けちゃったか」
掲示板を見上げながら、孝が呟く。
「こんなことも、あるわよ。早く、生徒会室へ行こうよ」
上機嫌で、孝を促す。
今日は、意見箱を開いて見る日。
室の戸を開けると、ちょうど、箱を開いているところだった。
「思ったより、たくさんあるな」
ホント、期待できそう・・・
「なんだ、こりゃあ？」
先輩の声に、傍にあった紙を手にとって見る。
クラス対抗にする？先生だけのチームを作る？・・・何、これ・・・皆、こんなの？
こっちは・・・等級に応じて賞金を出す・・・呆れた。誰、こんな事書くのは・・・
あれ、どこかで、見たことのあるような・・・字・・・んんっ！？
「先輩、こんなくだらない意見もあるんだって事を貼り出して見たらどうですか？
意見がもっと出てくるようになると思いますよ」
「う〜ん、そうだな・・・中間報告としてやってみるか」
諦め声の先輩・・・。
教室へ戻る時、さりげなく切り出す。
「孝、テストの前の日、何してたの」
「あ、あの・・・も、もちろん、テスト勉強・・・」
「ふ〜ん・・・それで、あの点数？」
「え・・・あ、でも、晴香に負けただけじゃないか」
「そうじゃなくて、何をしていたか・・・よ」
「う・・・」
「あの字は・・・孝ね」
「え・・・」
目が逃げてる。
「やっぱりね」
「うう・・・テストあること忘れてて・・・提案したのに、誰も意見出してくれなかったら
嫌だなあって・・・だから・・・」
テストあるの忘れてたぁ？・・・なんか、気分悪くなってきた。
「それで、あんなくだらないこと考えてたの」
「くだらないって・・・それは・・・そーなんだけど・・・」
「は〜、しょーがないわね」
「う・・・でも、そーゆー晴香だって、意見書いてくれた？」
「うっ」
「皆に意見は求めたけど、私達が頼りきっちゃったらダメだと思う・・・」
孝の言うとおり、楽になってたかも・・・
「責任まで転嫁するなってことね・・・私も、意見書いてみるよ」
「ホント？晴香」
「う、うん・・・」
ど、どうして・・・こうなるの？
昼休み、教室へ戻ると、泉君が話しかけてきた。
「白石さんも、普通の人なんだ」
「え、何の話？」
「うん・・・白石さんと話、してたんだ」
孝と？
「最初は、草花と草の違いについてだったかな・・・それから、
部活のこととか、クラスのこととか、色々・・・」
「へえ・・・」
「俺さあ、白石さんみたいな人としゃべることないだろって思ってたけど・・・
白石さんも、普通の人なんだな・・・」
「え・・・どーゆー意味？」
「俺とは、出来が違うって言うか・・・副会長もやってるし、特別な人って思ってたけど、
冗談も言うし、全然普通の人なんだ・・・」
「それは・・・泉が、変に線を引いてるからじゃないのか」
「あ・・・そうかもな」
自分でそう言いながら、何かが引っかかるような気がした。
番外編（１−１１） 終了
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