再び、意見箱を開いた。

腕組みをした先輩が、皆の顔を見回した。

「・・・数だけはあるな・・・」

前回より多いくらい。

手にとって、紙を開いてみる・・・。

う〜、やっぱりダメか・・・まともなのがない・・・

「良い意見は、無い様だな」

先輩は、半分投げやりな声を出してる。

「そうでしょうか？」

「ん、どういうことだ、須藤」

「派手なアイデアとか、奇抜なアイデアとかじゃないけど・・・ほら、これなんか・・・」

須藤君が、紙を広げて見せる。

「前回もあったけど、入場のアーチ古くなってきてるから、皆で作ったらとか・・・こんな競技を

やりたいとか・・・」

「少しずつ意見を取り入れていけば・・・って言うこと？」

「そういうこと。競技中に○○さんのアイデアですとか紹介すれば、次にも繋がると思うけど・・・

これだけの意見が出てるのだから、皆、興味は持っていると思うんです」

「そうだな・・・派手な企画でなく・・・少しずつ意見を取り入れて・・・か」

先輩が、自分を納得させるように、呟いた。

意見は、集計係で集計することになったけど・・・

廊下を充分見渡してから、傍を歩く孝に話し掛けた。

「孝、今日は、何も言わなかったわね」

「ん、そう・・・だね」

「それで、今度は、何枚書いたの？」

「・・・１枚だよ・・・晴香は？」

「え・・・あ・・・１・・・枚だけど・・・それじゃあ、皆、本当に意見出してくれたんだ」

「何？晴香は、また、私が、書いたと思ってたの？」

「う・・・まあ・・・ね。筆跡を変えたり、手のこんだ事をしたのかと・・・」

「もう・・・でも、晴香が中間発表しようなんて、考えてくれたからだと思うよ・・・なにか、

きっかけが必要なんだよ」

う・・・あれは・・・孝に対する皮肉のつもりで・・・

「あ、あの、さあ・・・その、ジュースでも奢るよ」

「え・・・今日は、何もしてないけど・・・」

孝が不思議そうにこっちを見上げる。

「いいの。今日は、そんな気分なの。それとも、嫌だとか？」

「い、いいえ、有難く、奢られますです」

「ふっ、何、言ってるんだか・・・」





孝の所へ行くつもりで・・・途中になるのかな？先に本屋へ寄った。

つい、馴染みの本屋へ来ちゃうんだよね・・・。

いつもは、通らない通りを歩いていた。

ホテルの前を通ると人だかりが・・・結婚式をやっているようだ。

足を止めて見入ってしまう。

結婚式は、やっぱり、花嫁さんが主役ね。

そんなことを思いながら・・・歩き始めしたら、向こうから弥生が来るのが見えた。

女の子とふたりで歩いている。

「弥生・・・えっ」

・・・ちー・・・ちゃん？

「あ、日高・・・君」

こちらに気がついたようだ。

「あの・・・髪・・・」

「え・・・」

「いや、あ、あの・・・」

あ、お、落ち着かないと。

「木下さん・・・こ、こんにちわ」

「こ、こんにちわ。あ・・・あの、こっちは、千島さん。中学の時の友達」

「始めまして。千島千鶴です」

「日高孝司です。よろしく」

ちょっと、落ち着いたか・・・

「日高君は、晴香の彼氏なの」

「へえ〜・・・最初、弥生なんて呼ぶから、弥生の彼なのかと思っちゃった」

「あ、それは・・・晴香がいつもそう読んでいるから、つられて・・・」

あ〜〜、失態。

「へぇ〜・・・そーなんだ・・・晴香の彼氏かあ・・・」

「凄いんだよ。晴香を男の子にしたような感じなんだから」

「へぇ〜・・・ほんとに、凄いんだ」

「・・・」

私って、どんな風に見られてるの？

「それがね・・・晴香ったら、女の子らしくなっちゃってね・・・」

「えっ・・・」

「一度、見せてあげたいくらい」

「ふふふ・・・弥生ちゃんたら、晴香に悪いよ」

ホントに、どんな風に見られてるの？

「でも、日高君・・・さっきは、何かに、驚いたようだったけど？」

「あ、うん・・・ちょっと・・・髪形が・・・」

「え」

ちーちゃんの顔が、一瞬、曇る。

「あ、その・・・そのショートカット、凄く似合ってると思って・・・」

「え、ホントに？」

「う、うん」

「よかったあ」

ちーちゃんが、短い髪に手をやり、撫でる仕草をした。

「ところで、日高君は何してたの？」

「ん、本屋の帰り・・・」

孝のところへ行くとこなんて、言いにくいし・・・ああ、今、何してたかってこと？

「ああ、あのね、結婚式やってたみたいなんで、ちょっと、覗いてた」

ホテルの方を指差す。

「「え、結婚式」」

ふたりがホテルのガラスにはりつく。

スモークのかかったガラスにはりついてるふたり・・・内から見たら、ちょっと異様かも。

「はあ〜・・・綺麗ね。花嫁さん・・・」

溜息をつきながら、こちらに戻ってくる。

「あれ、日高君がなんで・・・男の子でも、結婚式に興味あるの？」

「え？」

「や〜ねぇ、弥生ったら・・・綺麗な女性に興味があるのよ」

「あっ、そうか。だね」

「・・・」

・・・今の私には・・・

「それじゃあ、日高君、またね」

「あ・・・あの・・・そ、そこの喫茶店で、ケーキでもどう？あそこのケーキ、やよ、じゃない、

き、木下さん、好きだったでしょう？・・・奢るよ」

「え・・・どうして、日高君が知ってるの？・・・ああ、晴香かぁ」

「う、うん・・・晴香から、聞いたんだ」

「う〜ん、奢りか・・・急いでるわけじゃないし、ちー、構わないよね？」

「千島さんの好きなもの奢るよ」

「でも・・・」

「ちー、晴香の彼って云うのには、興味あるでしょ」

「それはそうなんだけど・・・」

「じゃ、決まりね・・・行こう行こう」

・・・


あ〜、私、何してるんだろう・・・

ちーのこと知りたくて誘ったのに、全然、訊けなかった。

そりゃあ、そうよね。今の姿でそんなこと訊いたら、ただの変な人よね。

それに・・・最近、奢ってばっかり・・・

自分の意思とズレた事やってるんだ・・・きっと。

それにしても、ジレンマ・・・あ〜、嫌だぁ・・・。

はっ、孝の所へ行くのを忘れてた。

あのまま、帰ってきちゃった。

ヤバイ・・・孝、怒っているかな・・・

と、とりあえず、電話しなくっちゃ。



・・・昔の友達じゃあ、仕方がないよね・・・か

ちょっと、寂しそうではあったけど・・・

それにしても、埋め合わせに何か奢るねって・・・つい・・・

私、何やってるんだろう・・・






廊下で、弥生の姿を認めた。

迷いながら、結局、声を掛けた。

「木下さん」

「え、日高君・・・今日は、弥生じゃないのね」

「え、あ・・・」

「ふふふ、名前で呼んでくれてもいいわよぉ」

もう、弥生ったら、何言ってるのよ。

「え、ん・・・それより、この間の・・・」

「ダメよ。日高君には、晴香がいるでしょ」

こーゆー事だけ、必要以上に気が廻るんだから・・・。

「そ、そうじゃなくて・・・この間、彼氏と別れたって言ってたの、あの子でしょう。

どうして・・・」

「なーんだ、興味は、そっちの方か・・・日高君もそんなことに興味があるんだ」

「そ、そんなわけじゃないけど・・・」

「私が口を滑らしたのが悪いんだけどさ・・・」

少し考えるような素振を見せた後、弥生が口を開いた。

「他に好きな子が出来た・・・って言われたみたい・・・」

「そ、そんな・・・」

「本当の所はわからないけど・・・４年も続いていたのに・・・」

「・・・」

「晴香には、まだ言わないでよ。ショック受けちゃうと思うから。絶対よ」

「うん・・・」




ちーは、いつも、元樹君を見ていた。

互いに相手のことを思っていれば、うまくいくと思っていたのに・・・

私と孝もいつか別れが来るのかしら・・・

・・・

このままの状態で？・・・まさか・・・

元に戻れるのかしら・・・そんなことが・・・

・・・

でも・・・わからない

冷静に・・・冷静になって、落ち着いて・・・

同じ失敗はダメ。

１歩離れて、冷静に、客観的に見るのよ。



はっ・・・夢？

夢の中で、自分に何かを言い聞かせていた・・・

何を？・・・でも、確かに何かを・・・

私、疲れてるのかな・・・






孝と庭へ出て、話をしていた。

そんなに広いという訳ではないけど、思い出が詰まった庭・・・

「へえ、晴香って、紫陽花が好きなの」

「そーねえ・・・梅雨の・・・雨の中でも力強く咲いてるところが、かな・・・」

・・・そんな風になりたい・・・のかな

「これはね・・・６月には、白い花が咲くのよ。花が、房みたいになって・・・」

「ふ〜ん、６月かぁ・・・６月といえば、ジューンブライドだね」

「・・・」

先日の事を思い出してしまった。

「なんで、女の子って、ジューンブライドに憧れるんだろう・・・６月って・・・梅雨に入って、

雨も、いっぱい降るのに・・・不思議だなあ・・・晴香も、憧れる？」

「え、あ、私は・・・」

今は、男の子・・・そんなこと語る資格は・・・

「そ、そー言えば、水都さんのお手伝いした時の・・・１月の花嫁さんも綺麗だったよね」

そうだ・・・こーなったのも自分のせいかもしれないんだ。

「は、晴香は・・・」

「孝・・・・・・やっぱり、少し距離をおきたい」

「はい？」

孝・・・ごめん

「私、帰る」



番外編（１−１２）　終了




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