「ち、ちょっと、待って、晴香」

やっぱり、ダメ?

孝は、私が好きになる前から、私の事を好きだって聞いた。

勝算はあると思ったのに・・・何故か力が抜けたって感じ・・・

この際、力尽くで押し切って・・・

それは、ダメ、孝との関係を壊してしまいそう。

コンマ数秒、躊躇した後、優しく訊ねてみることにした。

「孝、どーしたの?」

「あ、あのね。晴香に出会えて、とっても良かった」

「え?」

意外なことを、孝は言い始めた。

「今も、晴香が好きだって言ってくれて、とっても嬉しい」

「う、うん」

「こんな特別な関係も、晴香とだから、とっても幸せ」

こんな特別の関係って・・・入れ替わったことを指してるの?

「え?体が入れ替わったままでも、構わないってこと?」

「うん。晴香は嫌?」

「私は・・・」

実際には、迷っているって言った方が正しいかも。

「男になって、晴香を守りたいって思ったこともあったけど・・・今は、一緒に

居られるだけで幸せだと思える」

「え・・・」

「だって、心は、好きな人の体と一緒にいられるし、これって、究極の恋人同士って思えない?

晴香は、どう思う?」

「うん・・・孝の言うとーりかもしれない」

「既に、私達って特別な関係だよね。他の誰も真似が出来ない関係だよね」

「うん・・・きっと、誰も、真似の出来ない・・・ふたりだけの関係。こんな関係、誰にも・・・

別に、焦ることない・・・のかも」

「うん」

私の言葉に孝が頷く。

確かに孝の言うとおりだ。

でも・・・人の心なんて変りやすい・・・それに、他の男達が、狙っている。

先を越されたらと思うと焦らない訳はない。

体が入れ替わったままでも、構わないのなら・・・今でも、問題はないってことだし・・・

あ、でも、優位な立場に立っていれば、このままでも、大丈夫ってことかも。

孝・・・ずっと私の方を向かせておくよ。だから、今は、焦らない。

決心の気持ちをこめて、孝を、優しくしっかりと抱きしめた。

孝が少しポーッとしている。

「どうしたの?孝」

「もったいないこと・・・あ、べ、別に、なんでもないよ」

「???」

孝が訳の分からないことを口走っている。

今の孝なら、私の胸の内、聞いてくれるかもしれない。

「あのね・・・孝、聞いて貰えるかな?」

・・・

「水都神社の神様?」

晴香が頷く。

「何故?」

「だって・・・孝や水都さん達は、私達が皆、同じクラスになるように祈ったでしょう?

だから、同じクラスになったってことでしょう?」

「同じクラスになったから、晴香の責任なの?」

「う・・・ん、同じクラスになったって言うことは、神様が、願いを叶えてくれたって言うこと。

私が、このままを望んだから・・・その願いを叶えてくれたって言うことになるでしょう?」

「でも、晴香だって、進路希望出したでしょう?」

「う・・・ん、でも、孝は、理系って書かなかったでしょう?」

「ああ、それは、文系もいいかなって思ったから・・・別に理系って書いたのに、故意に

文系にされたってことじゃないよ」

「孝が、そう書こうとした時点で、神様の意思が働いてるってことじゃない?」

「え〜〜、よく分からないな」

「それに、文系って、3クラスでしょ。だから、4人が同じクラスになる確率は・・・」

「でも、0(ゼロ)じゃないでしょう?」

「別々のクラスになるより、確率が小さいって事よ」

「それでも、有り得ない事じゃないでしょう」

「う〜ん、それはそうだけど・・・」

「単に、偶然かもしれないでしょう?」

「でも、その可能性は、充分にあるって言うことでしょう」

「そんなに、単純なの?」

「え?」

「だって、こーゆーことでしょう・・・つまり、ふたりのどちらかが、元に戻りたいって

願ったら、元に戻れる・・・」

「あっ」

そうか、元に戻れるようにお願いすれば、済むってことか。

あ、でも・・・このままの状態を願った訳じゃなくって・・・孝をお嫁さんに・・・って

願ったんだ。

と、言うことは・・・孝をお嫁さんにするまでこのまま?

水都さん・・・お願いは、1年に1個だって言ってなかった?

「孝、先にお願いしたことって、後からお願いしたことより優先されるのかな?」

「え?・・・あ、そうだとは、思うけど・・・」

「それじゃあ、お願いの取り消しなんていうお願い、聞いてもらえると思う?」

「へ?」

「な、なんでもない。私、変な事、言ってるね」

ま、まずい・・・ホントのお願いがバレちゃう。

「私は、神様とかじゃなく、霊的なものじゃないかと思うんだけど・・・」

「え、霊・・・あの“うらめしや〜”とかの?」

「は、る、か」

「あ、ごめん・・・そういう可能性もある訳ね・・・」

孝は、入れ替わった責任は、私にないと言いたいみたい。

でも・・・“私の想いを叶えて”が叶ったので、元に戻った。“孝をお嫁さんに”を

叶える為、また入れ替わったって考える方が簡単だけど・・・

そうでなかった場合・・・もし、孝をお嫁さんに出来なった時って・・・どーなるんだろ?

霊的な方面からも検証しなければってことかな?

どっちにしろ、孝の言葉で、精神的には楽になったけど・・・解決しそうにない。



「孝、最近・・・どうしてた?」

晴香、気にしててくれたのかな?

「あ、うん・・・お母さんがね、色々と・・・」

「ふ〜ん、やっぱり、お母さんか・・・」

何かやってると思ったけど・・・やっぱり。。

「あの、色々と心配してくれたんだよ」

「孝・・・ごめんね」

今回は、私の不安な心からこんなことになってしまったんだ。

「あ、晴香が悪い訳じゃ・・・それより、晴香は、どうしてたの?」

「私?・・・いつも通りだよ」

「ふ〜ん、変った事とかなかったの?」

変った事?・・・変った事って・・・

「え〜・・・あ、そうだ・・・パン齧ってたら、隣の・・・」

「え?」

「ううん、なんでもない」

コレは、言わない方が良い。孝を不安にさせそうだ。

何かで、誤魔化さないと・・・。

「晴香、毎日パンなの?」

「あ、うん。購買でパン買って、放課後、コースケ君達とバスケやって、帰ってから、

カップラーメン食べてる。そんな毎日」

「毎日?」

「うん、殆ど毎日・・・あ、この間ね、カップラーメン作ったんだけど・・・最初硬くってさ、

あ、時間が早かったみたいなんだ。それでね、しばらくそのままにしてたら、2個分位になってた。

これって、得したと思う?」

「え」

これで、誤魔化せたかな?

「晴香・・・お弁当作ったら、また、食べて貰えるかな?」

「え・・・うん、喜んで」

思わぬ方向へ行っちゃったけど・・・ラッキーだったかも。

「あ・・・お弁当で思い出したけど・・・孝は知ってる?」

「何を?」

「あの・・・屋上への扉の鍵のこと」

「あ・・・うん、知ってる」

あ、やっぱり、知ってたか・・・

「そう・・・残念だけど・・・」

「他の皆にもあの景色見せてあげたいね。アレ観れば、悩みなんか吹き飛ぶのに・・・」

「孝、それよ!それ!」

「え、それって?」

「孝の副会長としての最初の仕事・・・学校側と交渉して、屋上を生徒に開放してもらうの」

「そんなこと出来るの?」

「うん。学校側はきっと、安全とか管理の問題出してくると思うの。金網とか所々壊れてたし

修理とかして貰って、生徒会で安全に使用するためのルール作るの」

「何とかなるかもしれないね」

「うん、頑張ろう」




話し込んでいるうちに、7時近くになっていた。

夕方には戻るって言っていた母さんも遅れているのだろうか?

孝と下へ降りていく。

玄関で、バッタリ、帰って来た母さんと逢ってしまった。

「お、お邪魔してます」

孝が丁寧にお辞儀して挨拶している。

「あら、こんにちわ」

「あのぉ、お台所、使わせて頂きました」

「あら、孝君、お昼作って貰ったの?」

「う、うん・・・白石さんに・・・ちょっとね」

「ごめんなさい、白石さん。あ・・・孝君、それで、元気そうなんだ」

「え?」

孝が驚いている。

「母さん、白石さん、送ってくるから」

慌てて外へ出ると、孝も直ぐに出て来た。


孝は、明るいから大丈夫って言ったが、送ることを納得させた。

孝は、私が自転車を押している横を歩いている。

何故だか、嬉しそうに横を歩いているだけだ。

きっと、母さんの言葉に喜んでいるんだ。これは、ちょっと、悔しい気がする。



家の前まで送ると孝がお礼を言った。

「送ってくれて有難う、晴香。寄ってく?」

首を横に振って、寄って行かない事を伝える。

「送るのは、当然のことだよ・・・孝は、とても大切だから・・・でも、孝は、私が孝を好きに

なる前から、私の事、好きだったでしょう?」

「え・・・ど、どうして、それを・・・」

孝は、凄く驚いているようだ・・・なんて正直なのだろう。いくらでも、誤魔化せただろうに。

「良かった・・・恋って、先に惚れた方の負けよね」

「う」

「正直な孝・・・大好きだよ。じゃあ、またね」

思わず、笑みが零れてしまう。

よし、これで、私の優位はまだ続きそうだ・・・。




家に帰ると母さんが言った。

「最近、元気がなかったのは、白石さんが来なかったからなのね」

う、これは、私をからかっているんだ。

「そんなんじゃないよ。それより、お腹すいた」

「あ、もう少し、待ってね」

「うん・・・部屋へ、行ってるから」

からかわれない様、部屋へ逃げる事にする。



部屋へ戻り、椅子に座る。

はじめて、本の山の形が違うことに気がついた。

母さんが?・・・否、違うようだ。他には、変った様子がない。

と、言うことは・・・孝が?

さーっ

音を立てて、血の気が引いていく。



番外編(1−17) 終了




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番外編(1−17)
孝司と晴香シリーズ