「コージ、遊びに来たぞ」

翌日、コースケ君、ユーキ君、トール君が遊びに来た。

突然だった。

「今日は」

「おばさん、お邪魔しま〜す」

３人は、有無を言わさず、部屋へ上がっていってしまった。


う〜ん・・・男の子って、これだから・・・

まあ、駄菓子の１袋とＰＥＴボトルの１本もあれば充分だし、楽と言えば楽なんだけど・・・



部屋へ行くと、彼らは銘銘自分の場所を確保していた。

「ユーキに話しは、聞いたぞ。困ってるんだろ」

「えっ、何に？」

コースケ君の言葉に戸惑い聞き返した。

「おい、コージ・・・力が抜けるような事、言わないでくれよな」

「バスケのことだよ。ユーキから聞いたんだ」

トール君が横から答える。

「コージ・・・俺達も、参加するからな」

彼らは、コップと駄菓子の袋を奪い合いながら、口々に言った。

あ、失礼・・・そう言いながら、コップを受け取った・・・かな？

「あ、有難う・・・実は、どうやってメンバーを集めようか困っていたんだ」

「水臭いな」

「そうすると・・・後、一人か」

ユーキ君が呟いた。

「うん・・・一人は、心当たりがあるんだ」

「へえ・・・じゃあ、人数的にはＯＫだな」

「５人ギリギリって言うのは、きつくないか？」

「体力的なら任せとけ」

「チームワークもバッチリだしな」

「ああ」

こんな時には、友達ってありがたいなあ・・・と思っていたら、素っ頓狂な声が聞こえた。

「あれぇ〜？コージ・・・こんなところに置いといてもいいのか？」

「え？」

コースケ君は、例の本を指差していた。

「あ、それは・・・」

「コージって、意外と大胆」

「そ、そんな・・・」

それは、コースケ君から借りた本と言い掛けたのだけれど・・・コースケ君はそれを制して続けた。

「そうじゃなくて・・・親とか、白石さんとかに見られたらって考えないのかってこと」

「そ、それは・・・」

「俺なんか、雫に見つかったらボロクソだぞ。人を獣みたいに・・・」

「『トールのバカ！スケベ！ホントに男ってエッチなんだから・・・』位は言いそうだな」

コースケ君が平野さんの口真似をする。

「その通りなんだけど・・・コースケが言うな」

うっ・・・孝が、もし、こんな本見てたら・・・私も、絶対、言うと思う・・・。

「ユーキはどうなんだよ」

「俺は・・・でも、花梨も・・・水着の写真が載っている本を見ていた位でも、睨むからな・・・」

「無言でか？・・・それも、プレッシャーだな・・・」

今の孝だったら・・・『わあ〜、晴香のスケベ』位言うかな？

と、言う事は、孝・・・やっぱり、気付かなかったのかしら？だとしたら、安心できるんだけど・・・

「コージ」

「え？」

「と、言う訳だ。兎に角、隠せ」

「あ、あの・・・ど、何処へ？」

「ど、何処って・・・あ〜あ、この部屋、綺麗過ぎるんだよ」

「そ、そうだな・・・いつの間にか、ユーキの部屋より片付いているもんな」

皆が部屋を見廻す。

「それで、落ち着かないのか・・・」

「それは、お前だけだろ」

「そう言われてみれば・・・花梨の部屋より、片付いているかもな・・・」

「何！ユーキ、花梨ちゃんの部屋へ入ったことあるのか？」

トール君が驚いているようだ。

「ああ・・・この間、コージと・・・」

「コージも一緒に？・・・ホントか？」

「う、うん・・・で、でも、花梨ちゃん部屋の方が綺麗だったよ」

「コージ・・・まさか、白石さんの部屋へも・・・」

「え、あ・・・普通だよ。ここと同じ様な感じだけど・・・」

「そーなのか・・・」

訳が分からない。

「ど、どうしたの？」

「俺・・・雫の部屋に入れて貰った事がない・・・」

「え？」

「トール・・・それはだな・・・よっぽど部屋が汚いか、トールを信じてないか、だ」

コースケ君が断言する。

「平野さんの部屋が汚いって事はないよな」

「そーすると・・・」

「俺・・・信じられてないのか？」

「トール・・・平野さんの部屋へ入りたいって言ったのか？」

「ま、まさか。そんなこと言えないよ・・・」

ふ〜ん・・・そんな事に興味があるのか・・・

私がここへはじめて来た時は・・・孝は、私をこの部屋へ引っ張って来たんだっけ・・・

あの時は、事情が事情だけに、何も考えていなかったかもしれないけれど・・・そうだ

私も、何も考えずに孝を部屋へ連れて行ったんだ・・・自分の部屋に立つ自分でない自分・・・

あの時初めて自分の姿を客観的に見たけど、鏡で見ていたのと、全然違ってた。

どう説明すればいいのか分からないけど・・・中身というか精神状態のせいなのかもしれないけど

・・・外から見た自分は、何かが違って見えた。

あの時の孝、おどおどしていて・・・とっても、可笑しかった。

「おい、コージ・・・何、にやけてるんだ？」

「え？」

思い出し笑いをしていたみたいだ。

「これなんだって聞いてるんだけど」

コースケ君は、手に『人生は甘くない』と書かれたＣＤを持っていた。

いつの間にか話題は変っていたようだ。

「ああ、それ・・・ゲームだって」

「ゲーム？」

昨日、孝が持ってきたのを思い出した。

『裕香お姉さんの知り合いが作ったゲームだって。まだ最初の方しか出来ていないけど、晴香に貸して

あげるって言ってた。なんでも、人生の厳しさが分かるゲームだとか・・・晴香、終わったら感想

聞かせて欲しいって言ってたよ』

とか言っていた。

「ＰＣ用か？」

「そうらしいけど・・・」

「コージ、やってみてもいいか？」

「うん」

コースケ君がＰＣを操作し、ゲームを始めた。

「おっ、ＲＰＧじゃないか・・・俺、得意なんだ」

画面を見ていると、何処にでもあるゲームのようだ。

しばらくプレイしていたコースケ君が呟く。

「なんか・・・ここの村人・・・全然、情報くれないな・・・」

その後も、コースケ君は、ブツブツ文句を言いながら、ＰＣを操作している。

「ふ〜ん・・・村人と親しくならないと、情報をくれないのか・・・」

少し、ゲームが分かってきたようだ。

「おっ、アイテム“勇者の剣”見〜っけ」

何かアイテムを見つけたようだ。コースケ君の肩越しに画面に見入る。

「な、何だ、これ？」

画面には、文字が表示されていた。

『勇者は窃盗を働いたので、村人にボコボコにされ、警察に捕まりました。ゲームオーバー』

ユーキ君とトール君は、黙って顔を見合わせるだけだった。

二度目は、お金を使い果たし、勇者は餓死してしまったようだ。

「そ、そーか、村人の信頼を得なきゃ、アルバイトにも雇って貰えないのか・・・」

三度目は、パーティが結成出来ず、旅にも出発出来ず、時間切れになったみたいだった。

「くそーっ・・・なんで、仲間になってくれないんだ」

私は、このゲームを裕香の知り合いが作ったという事にかなり納得していた。

「コージ、このゲーム貸してくれないか？」

コースケ君が真剣な顔で言った。

「うん、構わないよ。後で、感想さえ聞かせてくれれば・・・」

「サンキュ、コージ」

コースケ君も変ってる。こんなゲームに夢中になるなんて。

こーゆーのも有りかもしれないけれど、ゲームの中まで苦労するのは・・・ちょっと・・・

実際の話、ゲームをせずに済んだ事はラッキー以外のなにものでもなかった。




月曜日。

朝、教室の掃除を終えて席に着く。

孝が手伝ってくれたから、今日は早目に終えてしまった。

今日、放課後、交流会の報告がある。

報告する事は、まとめてあるから特にする事はない。

時間つぶしに小説でも・・・鞄から小説を取り出そうとしたら、クラスメートの一人が、

孝を呼びに来たのが見えた。

面会らしい。時々あることなので気にも留めていなかったが、今回は、鞄から、本を取り出そうと

していた体勢からか、孝が頷くのと表情が曇るのが見えてしまった。

孝は、黙って、すっと立ち上がり、廊下へ出て行く。

何故か・・・気になる。

ちょっと、間をおいて、廊下を覗き見ることにした。

クラスメートに・・・勿論、孝にも、気づかれないように立ち上がり、廊下の様子を覗き見る。

廊下には、孝の姿が見えない。慌てて廊下に出ると、男子の後について、階段のほうへ折れる孝の後姿が

目に入った。

どうしようか迷ったけれど、後をつけてみる事にする。



見失わないように、気付かれないように後をつけるが・・・他の学生に見られたら、言い訳のしようが無い。

朝早くで良かったと思いながら・・・体育館の裏手まで来てしまった。

ここは、木が多い以外、使われなくなった焼却炉があるだけで、他には何もない。

気づかれないように木陰に隠れて様子を伺う。

あの３年生・・・見た顔だけど・・・確か運動部の・・・

少し顔を出して二人を見ていると、会話が風に乗って聞こえてきた。

「ごめんなさいっ！」

「・・・俺・・・まだ何も言ってないけど・・・」

「こんな所へ連れて来てクラブへの勧誘でもないでしょう」

「そりゃそうか・・・用件は分かっているってことだ」

男子学生は、頭をかきながら言った。

「はい・・・ですから、ごめんなさいっ」

「でも、君は俺の事を知らない・・・名前すら・・・知ってから断ったっていいんじゃないか？」

「いいえ・・・相手に自分のことを知って貰ったら更にって思っちゃいます。最後には、

絶対、独占したくなりますから・・・私もそうですから・・・」

「なるほど・・・噂通りにホントに一途なんだな。日高って奴が羨ましいよ」

「・・・」

「じゃ・・・名無しのままで退場する事にしよう・・・ん・・・ナイト様もついているようだし」

「え？」

孝がキョロキョロ周りを確認している。

慌てて、木陰に身を隠した。

二人がこの場を去るまで息を殺していた。

今見たことは忘れよう。孝が何か言うまでは知らないことにしておこう。



教室へ戻ると、孝が席に居た。

「晴香、何処へ行っていたの？」

「あ、ちょっと・・・新しいチョークを貰いに・・・」

「え？・・・もう無かった？」

「あ、あるのに気付いて、途中で引き返してきたんだ」

「変な晴香」

「それより、孝。水都さんにバスケの監督、頼めると思う？」

「え、水都さんに？」

「うん」

「やってくれるとは思うけど・・・」

「孝からも頼んでくれる？」

「良いけど・・・なんで？」

「監督は必要だし、水都さんなら頼りになると思うでしょう」

「それは、そうだけど・・・」

「じゃ、宜しく」

「う、うん・・・」

孝、なんで、自分にやらせてくれないの？って顔してる。

だって、東校へ行ったら、知り合いがいっぱい居るから・・・

孝は、バレーの練習でも、していてくれた方が安心できる。




中庭で孝とお昼を食べた。勿論、孝が作ってきたお弁当なのだが・・・


考えてみると、孝が学校の様子を描写した事がない事に気がついた。

やむを得ず、私が説明する事にする。

校門を入ると正面玄関が見える。生徒用の昇降口は、その右手側にある。

この棟の１Ｆに保健室、事務室等があり、２Ｆには科学室、美術室、職員室、会議室、そうして、

校長先生の部屋もあったりする。３Ｆには音楽室、家庭科室、図書室等の特別教室がある。

渡り廊下を進むと一般教室のある次の棟へつながっている。１Ｆが１年生の、２Ｆが２年生の、

３Ｆが３年生の教室となっている。

更に渡り廊下を進むと体育館と続く。１Ｆは生徒会室他、各クラブハウスがあり、２Ｆが体育館の

フロアへとなっている。

元へ戻ってしまうが、生徒用の昇降口を更に右手方向へ行くと食堂がある。

ここには購買もあり、私も、この間までここでパンを買ったりしていた。

お昼は、お弁当を持ってきている生徒の一部を除いて、殆どが食堂へ行ってしまっている。


今、私達がいる中庭は、一般教室の棟と体育館との間にある。

大きな木もたくさん植えてあり、ベンチも置いてある。東側の渡り廊下から生徒会室へ行く時等、

この中庭をよく横切っていた。


孝が色々と質問をしてくる。

お弁当の出来栄えについてではない。この間の私の行動について・・・みたいだ。

自分のことを知って欲しくなるじゃなくて、相手のことを知りたくなるの間違いじゃなかったの？

・・・なんてことは口に出来ない。

質問には、孝の一途さに敬意を表するつもりで、正直に答えたつもり・・・

でも、孝があの本に気付いていたのは大誤算。うろたえてしまって・・・最後には、校長先生が・・・

ああ、もう無茶苦茶。


放課後の報告会。

「先週の金曜日に行われた東校との文化部交流会について報告します。概略については僕の方から

説明しますが、クラブの代表として同行された方々にもお集まり頂いていますので、簡単に感想を

頂きたいと思います。それでは、説明を始めます。東校の視聴覚室で・・・」

何とか、報告会は済ませたが、どうも、スッキリしない。

昼間のことを引き摺っているんだろうか？

と、思っていたら、孝に中庭へ連れて来られた。

ここで、少しでも私らしくしようと思ったのに、校長先生が現れて・・・ああ、もう考えたくない。

今日の運勢は最悪だったに違いない。

でも・・・一緒に、駅に向かって歩いている孝を・・・笑顔の孝を見ていたら、如何でも良くなってきた。


『孝、今、幸せ？』って訊いてみたい気がする。








番外編（１−１８）　終了




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