ああ〜っ、いけない、忘れてた。

ホワイトデー・・・忘れてたなんて言ったら、孝が、またブーたれる・・・

ま、まずいな・・・お返しを・・・買わないと。

ええっと、コンビニ、コンビニ・・・


ああ、あれね・・・

えっ、な、何、これ・・・なんで、こんなに高いのよ。

信じられない・・・

何故、皆、こんな高いものを買うの?

隣のサラリーマン風の男が、幾つか、かごに入れている。

・・・テキトウなんだ。

男って、経済観念がないか・・・お金持ちばかり・・・

孝が買ってたバレンタインのチョコだって・・・そんなにしなかったはず・・・


確か・・・孝が、花梨ちゃんと・・・スーパーの100円コーナーで・・・

そうだ、スーパーの100円コーナーへ行けばいいんだ。


・・・お母さんは・・・義理だって言ってたから・・・まあ、いいか

孝と裕香の分・・・ね

ほら、これこれ、色々なのが入ってて、この値段・・・裕香は、絶対、これ。

孝だって、色々な味が楽しめ方が、喜ぶよね。

中味だって・・・確実にこっちが多いし・・・



呼び鈴を鳴らすと、孝が子犬のよに飛び出してきた。

「あれ?孝、お母さんは?」

「うん、晴香が来るって言ったら、買い物に行ったよ」

「へえ・・・いないんだ」

「うん。晴香が、キャンディー持って来てくれるはずだから、お返しに美味しいものでも

作ろうって・・・夕飯、食べてってね。私もお手伝いするから」

「え゛・・・いつ帰って来るって?」

そんな話は、予定にない・・・だって、貰った時、一応って言ったぞ。一応って。

「ん、3時ぐらいには、戻るって言ってたけど、なにか、用事あった?」

「別に、用事はないけど・・・1時間くらいか・・・」

どうする・・・今から、スーパーへ走るか・・・

同じキャンディーが3袋あったって・・・仕方ないし、恰好つけたって・・・

孝の反応を見ながら決めよう・・・

「あ、実は・・・そこまで期待されているとは思っていなかったから・・・」

スーパーの袋からキャンディーを取り出す・・・

「こっちの方が、色々入ってるし、中味だって・・・今から、コンビニへ走ろうかな」

・・・やっぱり、びっくりした様だったけど・・・あれ?

「何が、可笑しいのっ」

「あ、べ、別に、その・・・晴香の言うこともわかるし・・・でも、お母さんの分くらいは

・・・あ、そうだ・・・晴香、ちょっと、待っててね」

「え」


二階の部屋へ行ったと思ったら、綺麗な小箱を持って、階段を下りてきた。


「これ・・・水都さんと原田さんから貰ったの・・・綺麗な紙とか、紐とか集めるのが

趣味なんだって」

私も小学校の頃、色々集めたことあったな。

「へえ・・・あ、これ可愛い」

何枚かあった内の1枚を手に取る・・・お雛様?が描かれている可愛い紙。


「じゃあ、これに、キャンディー包んで・・・紐は・・・この金色のでいいかな・・・」

「う、うん」

「こうやって、縛って・・・厚めの透明なフィルムを箱になるように切って・・・」

「う、うん」

「折り曲げて・・・箱にして・・・キャンディーの包みを入れて、テープで留めれば

・・・はい、出来上がり」

「孝、すごい・・・売ってるのみたい」

なんて、器用なの・・・どうしてだか、孝の指が、白く、細く見える。

自分の手って、丸っこかった様な気がするけど・・・

「お母さんには、これを小さな紙袋に入れて渡せばいいよね」

「う、うん・・・孝って、頼りになる・・・」

ホントにそう思う。

「え、そ、そうかな・・・」

孝が照れてる・・・可愛い・・・


「ただいまー」

わあぁ、お母さん・・・早すぎる・・・周りをかたづけなきゃ・・・

と、思ったら、孝が、今、作った包みを紙袋に入れて、私に手渡してきた。

それから、慌てて、周囲のゴミをかき集め始めた。

自分はここを片付けるから、お母さんに持って行けってことかな?


「お、お母さん、待ってたのよ・・・はい、この間のお返しね」

部屋の戸口まで駆け寄って、お母さんに包みを渡した。

「あら、ありがと、晴香。気が利くようになったのね」

「ま、まあね」

お母さんが、袋から、包みを出して、眺めてる。

「へええ・・・晴香もすっかり男の子ねえ・・・これ、いくらしたの?千円くらい?

・・・100円の板チョコが千円か・・・ふ〜ん、10倍か・・・お父さんにも期待

出来るかな」

いつの間にか、孝が目を丸くして後ろに立っていた

100円の板チョコで、そんなに期待されるのって、思ってる顔だな。これは。

まあ、今なら、分からなくもないけど・・・




「ただいまー」

裕香が帰ってきたようだ。

「お帰り、裕香。早かったわね」

「これから、どこかへ行こうって言ってたけど、面倒臭くって、お返しだけ取って来た・・・

あれー、お母さんも、お返し貰ったんだ・・・」

「裕香も?」

「義理でもいいから、くれって言うから100円の板チョコ渡したら・・・これ」

裕香お姉さんも、100円の板チョコですかあ・・・

お姉さん、鞄から、包み取り出してる・・・

「中に3個しか入ってないのよ・・・コンビニで見てきたら、千円だって・・・

お母さんのは、5個も入ってるんだ・・・私のより、高そう・・・

これなら、100円ショップの方が楽しめるのに・・・・」

裕香の言葉を聞いて、孝が、チラッと、こっちのほうを・・・見た

また、何か、思ってるな・・・。

「裕香・・・お姉さん・・・これ・・・」

裕香に、キャンディーの袋を渡す。

裕香がいいって、言ってるんだもの・・・今がタイミングよね

「そう、これよ、これ・・・色々入っててお得・・・さすが、日高君」

「どう?孝、裕香の好みってこんなものよ」

孝にそっと、耳打ちする。

「晴香はどんなの貰ったの」

「え、私?・・・」

孝が私の顔を見ている。

そうだ、孝にはまだ渡していないんだ・・・

って言うか、お母さんので、袋開けちゃったし、こ、困ったことになった。

「あ、まだ、あげてないんです・・・秘密です」

げっ・・・孝の顔・・・期待に満ちてる・・・ど、どうしよう・・・

「あ、部屋行かない?そこで渡すから・・・」

孝の袖を引っ張り、耳打ちする。

「え、う、うん、いいけど・・・」





「晴香、何くれるの?」

失敗しちゃったかなあ。そんなに期待に満ちた顔されると、困る・・・

「え〜、期待しないでよ」

さっきのキャンディーの袋を取り出す・・・

「へっ、それって、さっき、お母さんの・・・」

「孝、口あけて」

・・・口をあけたところへ、キャンディーを放り込む。これは、レモン味かな・・・

「はい、食べさせてあげましたぁ」

「・・・晴香・・・ひどい・・・」

「だって、お母さんのと兼用なんて言えなくて・・・」

え〜っと・・・私もひとつ・・・これ、コーヒー味?

「ふん・・・孝・・・これ・・・おいしい・・・じゃない・・・孝・・・そんなに・・・怒らない・・・でよ」

やっぱり、機嫌直らないか・・・

「孝は・・・何が・・・欲しかったの」

・・・何か、考えているようだけど・・・

???何、赤い顔してるの・・・どーゆー結論に至ったんだろう?

「何、赤い顔してるの?・・・100円の板チョコでここまで期待されるとは思っていなかったからね」

「う〜〜、私は、ちゃんと加工しましたっ」

思ったとおり、そー来たか・・・

「孝はね・・・でも、材料は同じでしょう・・・そこで、孝には特別に・・・」

「な、何?」

「特別に、”お願い券”を発行することにしました」

「お願い券?」

「1回だけ、お願いを聞いてあげるの」

「なんか、それって、幼稚園の子が作る肩たたき券とか、お使い券とかに似てない?」

「あたり〜・・・でもね、お願い、仕事手伝って・・・とか、お願い、勉強教えて・・・とか、何でも

使えるんだよ」

・・・ふむ、目をクルクルさせちゃって・・・ちょっと、気に入ったみたいね・・・孝って、意外と単純・・・

「孝、機嫌直ったみたいね・・・どんなお願いする?」

「う、うん、ちょっと、考えさせて」

「はい、よ〜く考えてね。1度限りだからね」

「う、うん」

こんなに、簡単にノッて来るなんて、これ、何回か、使えるかも。

「じゃあ、下へ行きましょうか」




廊下で、ばったり、大野木さんと会ってしまった。

「この間の・・・あれは、私と付き合いたいって意味なのでしょう」

ええっ?

「いいわ、友達になってあげる・・・」

いつになく・・・特上の笑顔で・・・離れていく大野木さん・・・

どうして、こんなことに?




「お〜い、コージ」

「ん?」

「おまえ、白石さんと、うまくいってるのか?」

今日は、ちょっと、日差しが暖かくて、久しぶりに屋上へ来てみた。

中原君が言っている意味が良く分からない。

まさか、さっきの・・・見られたって事ないよね

「ど、どうして?」

「最近、2年の先輩のところへ良く行ってるみたいだって・・・ちょっと、がっしりした

感じの先輩だって・・・コージとは、正反対の感じの・・・」

「え・・・」

誰、それ・・・

「白石さん・・・人気あるからなあ」

そ、それは、言えてる・・・で、でも、孝は、私しか・・・

「コージ、俺、お前が・・・彼女を他の男にとられるのを見るの、嫌だからな」

「コ、コースケ・・・」

「コージ、白石さんをからかい過ぎたんじゃないか・・・」

「そ、そんなことは・・・」

「白石さん・・・コージしか見てなかったって感じだったのに・・・」

「・・・」

「俺がこんなこと言うのも変なんだけどさ・・・白石さんと大野木さんを比べてるってことないよな」

えっ、そんな風に見えてるの・・・

「でないと、また、俺と同じ一人身になっちまうぞ」

そう言って、照れくさそうに向こうを向いてしまった。

コースケ・・・心配?・・・してくれてるの?




「孝、お願い決まった?」

孝に問いかけてみる。あれから、何日か、経ったのに、何も言わないんだもの。

「まだだよ」

「う〜ん、失敗したかな・・・なんか、嫌な予感がする」

「なんとでも言ってなさい・・・これは、切り札なんだから・・・」

げっ、マジ?

「うわ〜あ、やっぱり・・・変なこと言うんじゃなかった」

「もう、遅いよ」

「うう・・・」

やっぱり失敗だった・・・孝の性格を把握していたつもりなのに・・・

頭を抱えるふりをしながら、孝のほうを覗き見る。

「ところで・・・どうしたの?」

「あ、孝、なんか疲れてるみたいだからどうしたのかなと思って」

「別に・・・」

「そうかな・・・休み時間は静かにしてるし、欠伸もしてるみたいだし

・・・風邪でもひいたの?」

まさか、お願い事考えてて、眠れないって訳ないだろうし・・・

「え、違うけど・・・」

「じゃあ、陽気のせい?」

当たり障りなく、探りを入れるって難しい・・・

「ああ、別に、悪いとこがなければ・・・時々、フラっと居なくなったりするから・・・」

「え、そうかな?そんなことないと思うけど」

「そ、そう?」

「うん」

これは、一筋なわではいかないかも・・・孝、絶対、何か隠してる。

「晴香・・・晴香は、誕生日はどうしてた?」

何、話題を変えようしてるの?

「誕生日って?」

「ほら、木下さんみたいに、友達呼んだりとか・・・」

「ああ、あれは、本当に雛祭りも兼ねてたんだよ」

「え、そうだったの?」

頷く。

「じゃあ、晴香の誕生日は?」

「普通よ。きわめて、普通」

ああ、また変な顔して・・・とんでもないこと考えてるな。

「そんなことしてないわよ」

「はい?」

「今、ケーキに蝋燭立ててって、想像してたでしょう」

「う」

やっぱり図星か・・・こーゆーのは、読めるんだけど・・・

「普通だって、言ってるでしょう・・・しいて言えば、『おめでとう』って言葉と

料理がちょっと、豪勢になるくらいよ・・・孝のところは、ケーキに蝋燭だったかしら」

「う、違う。あれは、クリスマスケーキ。”Merry X'Mas”って書いてあったでしょう

”Happy Birthday"とは書いてないって」

「あ、なるほど・・・」

「それに、1日違うでしょう」

「それも、そうか・・・」

あ、いけない・・・また、孝をからかうようなこと言っちゃった。

こーゆー展開になっちゃうのって、孝のせいだと思うけど・・・

「そんなことより、晴香、ちゃんと家へ来てよ。・・・御馳走作って、待ってるから」

「何言ってるの。主役はそっちじゃない」

「いいえ、主役は晴香です」

「だから・・・」

「いいえ、体より心が大事なんです」

「はい、はい。分かりました。孝、一度言い始めると・・・ホントに頑固なんだから」

あああ、またまた、変な顔・・・また、とんでもないこと考えてる。

「違う」

「えっ」

「頑固なのは、孝の方・・・孝の考えてること、最近良く判るんだから」

でも・・・誕生日に招待してくれるとなると・・・

「そうなると・・・なんか、用意しないと・・・お願い券じゃ、ダメだろうし・・・」

ん、孝の不審そーな顔、今の、き、聞こえちゃったかな?

「あ、き、聞こえた?ははは・・・冗談だって。孝、そんな怖い顔しないで」

まずい、まずい・・・ミイラ取りがミイラ・・・

「じゃ、孝、後でね・・・」

退散、退散・・・




孝ったら、昇降口で待ってて・・・いつまで、待たせるの?

ま、まさか・・・コースケの言っていた・・・あっ、来た。

「孝、遅いっ」

「ごめん。ちょっと、用事が出来て・・・」

「最近、毎日じゃない・・・何してるの?」

「う、うん、ちょっとね・・・で、でも、理想的な男の子だったら・・・」

「待たせるにも限度があるでしょう。それに、孝相手に、理想を演じても・・・」

あ・・・つい・・・ごめん、孝・・・ホントは、こんなこと言うつもりじゃあ・・・

「それで、誰と何してるの?」

「はい?」

やっぱり・・・孝、顔色変わった・・・何か、あるんだ。

「晴香、電車の時間」

「えっ」

孝が、手を引っ張って、駅に向かって駆け出す。

逃げたなあ・・・





いつもの様に呼び鈴を鳴らす・・・

「お邪魔しまーす。孝、ケーキ買ってきたからね」

「あ、ありがとう」

嬉しそうな、孝の顔・・・惜しげなく、そんな顔見せるんだから・・・

私にだから・・・いいけど・・・他の男の子にそんな顔見せたら、大変なことになるんだから

・・・分かってる?

「晴香、ちょっと、部屋へ来て」

「え」

・・・

「どうぞ」

「うん」

孝に促されるまま、テーブルの前に座った・・・孝が、紙袋を出してくる。

「晴香、これ、プレゼント」

ふ〜ん、プレゼントかあ・・・用意はしてると思ったけど・・・何かな?

え、こ、これ、ベストじゃ・・・いつの間にこんなものまで出来るようになったの?

孝ったら、理想の女の子に向かって、ドンドン先に行っちゃうような気がする・・・

「へ〜え、ベストか・・・こんなものまで出来るようになったんだ」

あ、ちょっと、声が上ずっちゃたかな・・・孝に、気づかれたかな・・・

「これだったら、もうしばらく着ていても変じゃないでしょう。ちょっと、着てみて」

「あ、うん」

よ、よかった。気づかなかったみたい。

セーターを脱いで、着替える。

うん、ぴったりだね。良かったぁ。

「KH・・・孝 日高か・・・胸のところにイニシャルが入っているんだ・・・」

「へへへ・・・実は、ちょっと、違うんだ」

「え?」

「よ〜〜く、見てね」

「え・・・ん?」

あれ?同じような色の毛糸で・・・なんか、文字が書いてある・・・

「な、なんだ・・・KとHの間に&が入っている・・・孝&晴香?」

「同じような色探すのに苦労したんだよ」

「こんな、恥ずかしいものを着ろって・・・」

「そんなこと言わないでさあ」

「孝なら着るの?」

まさか、自分が着れない物を、人に着ろなんて、言わないでしょうね。

「う・・・でも、1週間、夜中も頑張ったんだよ。分からない所は手芸部に聞きに行ったりして」

「あ、コースケの言っていた男の人って・・・手芸部の・・・」

思い出した。プリント配りの時・・・ん?あ、しまった・・・慌てて口を押さえるが・・・

孝が、急にニッコリする・・・見抜かれた?

「晴香、絶対、着てくれるよね」

「う・・・」

わ、私の負け?・・・


「はるか〜、電話よ」

裕香の孝を呼ぶ声がする。

孝は、下へ降りていったけど・・・・このベスト・・・やっぱり、着ることになるんだろうな。

はあ〜っ・・・こ、こうなれば、孝にも何か・・・・と言っても、私にはこんな器用なこと、

出来ないし・・・

私も、お願い券、欲しい・・・この&をとりたいって・・・

でも、これって、孝の気持ちよね・・・ホントは、もっと濃い色の毛糸、使いたかったんだろうな。

きっと、私が嫌がるから・・・よしっ

心を決めて、今着てきたセーターを紙袋のほうへ・・



「晴香・・・水都さんが来るって」

「え?」

「良くわかんないけど・・・晴香にも、話があるみたい」

ええ〜っ・・・決心が鈍る様な事言うなあ・・・

孝が袋にセーターをしまったのに、気がついたみたい・・・

「あ、晴香、着てくれるの?」

「う・・・あ、あたりまえじゃない・・・折角、孝が作ってくれたんだから」

「ホント、ありがと、晴香」

だ、誰も気がつかないはず・・・こんなの・・・よ〜〜〜く、見なきゃね



「「おじゃましま〜す」」

水都さんと原田さんが、やってきた。

えっ、結婚式手伝ってくれたら、温泉にご招待?って話

・・・そんなことを言っていた様な気もするけど・・・

「ちゃんとした保護者がいればなあ・・・」


「は・る・か」

裕香の声・・・こんな話し方する時は、何か企んでいる時だ。

「なーに?裕香お姉ちゃん」

「わ・た・し」

「お姉ちゃんが保護者を?」

「そうよ」

やっぱり・・・

「何か、御不満でも」

「そんなことはないけど・・・」

「私を連れて行けば、交通費もタダだよ」

「え、タダ・・・で、でも、部屋が・・・」

「実は、部屋が2つで、ひとつは、晴香と私達が、もうひとつは、日高さん達に

使って貰うつもりでいたんです」

そうか、今は・・・現状、ベストな方法って言うと・・・

「あ、俺、行かないから・・・」

孝が、泣きそうな顔して・・・こっちを見て、きっぱりと言う。

「ひ、日高君が行かないなら私も行かない」

「で、でも・・・」

「日高君と晴香のお手伝いのお礼なんだよ。ふたりが行かないという訳には・・・」

・・・原田さんを含めて、3人に対するお礼って事かもしれないけど・・・でも・・・

「で、でも・・・」

私、ほとんど手伝っていないんだよ。他のふたりほど・・・

「お願い券、行使っ」

孝が叫ぶ。

「「「えっ、お願い券?」」」

皆が叫ぶ。

「な、なんでもないよ」

ああ、び、びっくりした・・・孝ったら、なにもこんな事で使わなくっても・・・

もっと、自分の事に使えば・・・



お母さんが部屋から出てきたみたい・・・

「もう、私はレポーターや記者じゃないんだからね・・・あら、いらっしゃい・・・皆揃ってるのね」

ん、孝がまた何か思ってる・・・どうして、表情がそこまで素直なんだ・・・

「どうかしたんですか?」

水都さんが、お母さんに尋ねている。

・・・

「レポートの件は、こちらの方からお願いしたいわ。後は、晴香達の件ね」

「そうなんです・・・」

「出来れば・・・そう、晴香達と一緒じゃだめかしら?日高君と同じ部屋で構わないんだけど」

「ほ、ホントですかぁ」

水都さんが、声を上げる。

「私が、晴香と日高君を引き受けるわ・・・日高君は、息子みたいなものだから」

って・・・後ろから抱きしめられた。

「「あ〜〜」」

孝と裕香が叫ぶ・・・まあ、いいけどね



「えっ、今日、晴香さんの誕生日だったんですか?」

水都さんと、原田さんが顔を見合わせてる。

「晴香さん、何も言ってくれないから・・・」

「晴香、一生懸命何かやってたから、日高君か、誰かの誕生日かと思ってた」

「へえ〜、何かを一生懸命にねえ・・・」

お母さんが、こうのほうをじっと見つめている。

・・・このベストのことに気がついたみたい・・・でも・・・気づかないはず・・・

しっかり、胸のところで、腕を組んでいるんだから・・・

「でも、皆で温泉にいけるようになってよかったよね」

孝が慌てて、取繕っている。

「そう言えば、温泉てどんなとこ?」

バレたら、大変だ・・・話題は変えないと。

・・・孝も、恥ずかしいなら、作らなければいいのに・・・

原田さんが、じ〜っとこっちを見ていた・・・まさか、あの場所から分かるわけない。

でも、なんか、不安。あの視線。



番外編(1−3) 終了




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番外編(1−3)
孝司と晴香シリーズ