ふ〜ん・・・温泉か・・・

母さんに話したら、白石さんのお母さんも一緒なのであれば・・・ってことで

ＯＫしてくれたんだけど、母さんが・・・

『でもね・・・くれぐれも、温泉で泳ぐようなことはしないでね』って

思わず、目が点に・・・

孝、そんな子供みたいなことしてたの？

孝なら・・・やりそう。

広い・・・お風呂で・・・

「・・・」

んんっ、いいかも。

男の子なら、問題ないよね。うん。

なんか、楽しみになってきた。

・・・

あっ、孝・・・女の子になったら、そんなことしない・・・よね。

ク、クギ刺しとかなくっちゃ・・・



貰った成績表を見ながら・・・思う。な、なんで？・・・どうして？

また、孝に負けちゃった。

「どうしたの？晴香」

「うん・・・今回も、孝に負けちゃった」

「でも、たった、１点差じゃない」

「でも、孝に、勉強教えてたのは、私のほうなんだよ」

「そ、それは・・・晴香の脳が優秀だからじゃない」

「そうは、言っても・・・」

「でも、だんだん、差が縮まって来てるんだよ」

「う、うん」

「次は、晴香に負けちゃう気がする」

「・・・なんか、孝に言われても、慰めにならないっていうか・・・」

「まあ、いいじゃない・・・そ、それよりも、晴香、何着て行く？」

「ん？旅行のこと」

「うん」

水都さんと着て行く服の話をしていたらしい。

女の子って云うのは大変なんだよって話していたはずが・・・危うく、墓穴を掘りそうになった。

言い訳しつつ、話を戻すことにする。

「私は、まだ決めてないけど・・・」

「じゃあ、あれ・・・あのベスト着ていかない？」

「はい？」

べ、ベストって・・・この間の？

「まさか、孝、この間の・・・」

「うん・・・ダメかな？」

「ダメって・・・水都さんとか、原田さんも一緒なんだよ」

「だって、晴香、学校に着て来ないし・・・」

そりゃあ、そうよ・・・

「い、家では、ちゃんと、着てるよ」

自分の部屋だけだけど・・・

「ホ、ホント？」

「う、うん」

「でも・・・晴香が、着ているところ見たいなあ」

孝、あきらめそうにないぁ・・・

「孝とふたりのときだけ見せてあげる」

「え〜〜、せっかく編んだのにぃ」

うっ・・・その気持ち分からなくもないけど・・・

「ねっ、晴香、お願い」

「わ、分かったわよ」

この言葉を聞いた孝の笑顔・・・ちょっと、いいなぁ

この顔を見るためなら、何でもＯＫしてしまいそう・・・



孝が、席に戻った後、コースケが話しかけてくる。

「白石さんに負けたのか？」

「うん。１点差」

「どひぇ〜、コージ、お前、頭のどの辺ぶつけたんだ・・・俺も試してみようかな」

「何、言っているんだ・・・普段からの積み重ねが・・・」

「おい。それって、以前、俺が言った台詞じゃないか」

「え？そうだった？」

「ほら、みろ。以前のこと、すっかり、忘れてるところがある。やっぱり、頭ぶつけたんだろ」

「うっ・・・そ、そうだなあ・・・駅の階段で滑り落ちたことはあったけど・・・・」

「え・・・駅の階段かぁ？・・・俺も落ちてみようかな・・・」

「・・・中原、地道に勉強したらどうだ？・・・階段から落ちると痛いぞ」

「！！」

いつの間に・・・先生が後ろに立っていた。

「先生・・・やっぱり、そうですか・・・痛いのは嫌だから、可愛い魔法使いの女の子が現れて、

パパッっと、魔法でもかけてくれないかな・・・と思ってた所だったんです」

「ほぉ〜、魔法使いの女の子ね」

「いえ、可愛い魔法使いの女の子です」

「な、中原・・・それよりも、俺の科目が最低じゃないか・・・」

「すいません。先生の科目まで、手、廻らなかったんです」

「手が廻らなかったって・・・」

「先生、なんとかなりませんか」

「なんとか？」

「先生の魔法でパパッっと・・・」

「あ〜、もういい・・・中原は、可愛い魔法使いの女の子でも捜してろ」

先生が教壇の方へ歩いて行く。

コースケが振り返ってウインクする。

な・・・コースケって、こんな奴？・・・

孝のほうを見るとクスクス笑っている・・・

「よ〜し、それじゃあ・・・」

教壇に戻った先生が話しを始める。




「孝、ちょっと、待っててね。トイレ、行って来る」

「・・・」

あ〜あ、また、あんな顔してる。黙っていなくなったら、すご〜く、不安そうな顔するくせに・・・


・・・


教室へ戻ろうと思ったら、大野木さんに声を掛けられた。

「日高、休み中にどこかへ行こうよ」

「えっ・・・あ、あの、旅行へ行く予定に、なっているんだ」

「へえ・・・まさか・・・親と一緒？」

「そ、そうだけど」

嘘・・・じゃない・・・よね。

「ふ〜ん・・・それなら、他の友達誘うからいい・・・」

「・・・」

でも、前以って、誘いをかけてくるなんて・・・どうしたんだろう？

いつも、いきなりだから・・・

離れて行こうとした大野木さんが振り返る。

「女の子に興味ないの？日高」

「え？」

「あ・・・な、なんでもない」

大野木さんが慌てて否定し、背中を向けた。

小さくなって行くその後姿からは、失言したって想いが伝わってくる。

興味がないわけじゃない・・・元々、女だし、人間としてならね。

孝は・・・どうなんだろう・・・

肉体的に、精神的に、異性の条件を満たしてるから、私を好きだって言ってるのかも・・・

否、孝はそんな人間じゃない・・・と否定してみても・・・

やっぱり、孝の体を・・・人質？にとってるから・・・

時々、こんな思いが頭の隅を過ぎる・・・

あっ、いけない、孝を待たせているんだっけ・・・




迎えに来るより早めに出て待っていよう・・・と思っていたら・・・孝たちも早く着いた様だ。

へえ、孝は、コンサートの時の衣装なんだ・・・裕香はＧパンかあ。

母さん達が長い挨拶を始めた・・・

「中で待ってようよ」

孝が、私を促す。

「うん」

シートに座った後、孝が話しかけてくる。

「晴香、似合ってるよ」

やっぱり、嬉しそうね。

逆の立場だったら・・・私が編んだベストを孝が着・・・恥ずかしいけどなあ。

あ、レベルが、違うか。

でも、孝なら、どんなのでも着てくれるって気がする・・・

「ん、まあね・・・孝も今の季節にちょうどいいよ」

「うん。有難う」

「あ、それより」

「え？」

そうそう、クギを刺しとかなくっちゃ・・・

「お風呂で、泳いだりしないでよ」

「え？」

「だから、女の子が・・・」

「女の子でなくったって、他人の迷惑になることはやっちゃいけないんだよ」

「えっ・・・それは、そうなんだけど・・・」

「ん・・・晴香、まさか・・・」

「え、そんなこと、考えてないわよ・・・」

危ない危ない・・・孝が、時々、鋭いこと、忘れてた。

でも・・・孝って、良い子過ぎない？・・・苦しくないのかしら？

「どうしたの？晴香」

「え、あ、やっと、出発しそうね」

母さん達の、長い長い挨拶も終わったようだ。


お天気もいいし・・・

「春・・・よね」

「どーしたの？晴香」

「四季をわけたら、どうなるんだっけ・・・」

「え、そ、それは・・・あれっ？」

孝が、首を捻っているうちに、水都さんの家の前。

原田さんの姿も見える。

孝達はお揃いの服にしたわけだ。



「ふ〜ん、やっぱり、当然のように日高君の横に座ってるね」

「え」

水都さんの言葉に孝が情けない顔になる。

「あはは・・・晴香、情けない顔。冗談だって。・・・でも、私の隣にも来てよ」

孝って・・・正直。



小さなパーキングエリアで休息。

タレントか、何かと間違われたようだったけど・・・



休憩の後、ジャンケンで席決めをすることになる。

私と原田さん。孝と水都さんの組合せ。

自動販売機で、お茶を買って、車に乗り込んだ。

隣に座ったのはいいけれど、どう話し掛ければいいのか、迷っていた。

原田さんもそうみたい・・・

前の席では、早くもおしゃべりが始まったみたいだし・・・

この子って、男子に一番人気あるんだっけ。

そんなことを思っていたら、原田さんの方から先に話し掛けてきた。

「日高さんって、他の男子と何処か違っていますよね」

「そ、そうかな」

一瞬、ドキリ・・・原田さんて、鋭いところがあるって、孝が言ってたっけ。

「他の男子とは違うような・・・」

「そ、そうかな」

「ええ、そうです」

原田さんて、見た目と違って、言い切り口調で、ちょっと、怖いかも・・・

「最初は、体育祭であんな目立つことをする人だから、どんな人なんだろうって、考えていました」

そう言われれば、孝は・・・どちらかと言えば、目立たないほうだった。

「晴香さんの雰囲気が柔らかくなったって感じられて、どうしてかなって思ってたんです。

そうしたら、晴香さんに恋人が出来たって・・・晴香さんを恋人にするような人だから・・・

とっても、怖い人なのかと思ってました」

白石晴香のイメージって、そーゆーイメージなの？

「でも、違ってました。とっても、優しいんですね・・・それ、晴香さんの我侭でしょう？」

ベストを指差してる？慌てて胸を押さえる。

「あ、き、気づいてた？」

「ええ、私、視力は良い方なんです」

原田さんの笑顔・・・

「ははは・・・」

笑って誤魔化すしかない。

「それに、気分悪くなった晴香さんを抱いて、保健室へ連れて行ったり」

「えっ、そんなことも、知ってるの？」

「はい。偶然でしたけど・・・あ、誰にも喋っていませんから」

汗っ、皆、授業時間中だと思って、油断してた。

「晴香さんも普通の女子と違うようなところもあって・・・」

「へええ・・・」

「あの雰囲気は・・・どこかで・・・」

なんか、静かになっちゃったけど・・・

前の席も静かだ。ふたり、顔を寄せ合って、内緒話？

原田さんは、考え事？

・・・色が白くて、睫毛が長くて・・・黒い髪に赤いリボンが似合ってる。

男の子だったら、無条件で好きになっちゃうんだろうなあ・・・


「はい、晴香、お菓子」

いきなり、孝が後ろを向いた。

「あ〜やにも・・・ね」

「え、あ、有難うございます」

「ねえ、あーや、次、取ってよ」

「え？」

水都さんが振り向いて、手を差し出す。

綾取り？・・・前の席、静かになったと思ってたら、こんなことをしてたんだ。

「あ、日高さん、出来ますか？」

「ああ、小学校の時、裕香・・・あ、近所のお姉さんが、教えてくれて・・・」

手際よく取った後、孝のほうへ両手を差し出す。

「じゃあ、次、孝ね」

孝が器用にこなす。

「あーや、代わりに取ってよ」

水都さんが、ＰＥＴボトルのお茶のフタを廻しながら、答える。

頷きながら、原田さんが手を伸ばして、孝の手から、毛糸をすくう。

今度は私の番・・・差し出された原田さんの手から取った後、孝の方を見ると・・・

孝も、前を見て座り・・・お茶を飲み始めたようだ。

ちょっと、ど、どうしろって、言うのよ。これ。

「あ、私が・・・」

原田さんが手を伸ばしてくる。

「あ、あれ」

あ、ちょっと、取り損ねたみたい。

「う・・・悔しい。あ、あの、もう一回いいですか」

「え、いいけど」

「え、本当に」

「うん」

「有難うございます」

原田さんが毛糸で準備を始めた。

やってもらえないと思ったのかな？・・・でも、裕香と熱中してた頃思い出される。

あ、孝も、簡単そうにやっていたけど・・・母さんと一緒にやってたのかな・・・

・・・

ふふふ・・・綾取りでは負けません。不器用な私でも、これだけは。

原田さん、とっても、悔しそうだった。


車が止まった。目的地に着いたようだ。

へえ、ここか・・・



番外編（１−４）　終了




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